刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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彼女の瞳は浄玻璃鏡2

 

 

 

研修先の本丸に行くために転移門(ゲート)に向かっていた見習いを引き留めるものがあった。

「きみ!」

手を掴んで止められ、彼女は訝しげな顔で振り向く。真っ白い刀が熱っぽい笑みを浮かべていた。

「俺の主にならないか?」

「嫌です」

反射のような即答に、刀はますます笑みを深くする。

「つれないな…少しくらい考えてくれたっていいだろう?君は他の俺と契約していないわけだし」

「そもそも自分はまだ正式な審神者ではないので、契約してるわけがないです。あと、突然現れた不審者を部下にする理由もないです」

「俺は実力のあるレア刀だぜ?強くて美しくて自慢になる。契約して損はない」

「はあ…」

「なあお嬢さん、なんなら正式契約は君が正式に審神者になってから、今は仮契約ということでもいい。俺は君の刀、君のものになりたいんだ。初太刀だと猶更いい」

「初太刀は無理です。私の初期刀になったこの子は太刀らしいので」

「…この子」

「何か問題が?」

「ああ、いや…まあ、誰をどう呼ぼうと君の自由だな、うん…。…初太刀はともかく、俺は君の太刀になりたいんだ。…どうしてもダメかい?」

「しつこいです。そもそも私に声をかける意味が分かりません。喜んで主になってくれる方なら他にいくらでもいるでしょう。"強くて美しくて自慢になる"んですから」

見習いは眉根を寄せた。

 

白い刀は神妙な顔をしてみせる。

「俺は、俺を請い求めるような人間を主にしたくない。いや、粗雑に扱われたいわけではないが、お飾りにされるのは嫌なんだ。刀として重用してくれる主のものになりたい。その主が高潔で俺たちの愛すべき人間であるなら猶更いい」

見習いはよくわからない、という顔をした。刀がさらに言いすがろうとした時、彼の頭にチョップが落とされる。

「こら、鶴さん、幼気な少女にちょっかいをかけないの」

「光坊、自分の打撃を考えろ。怪我したらどうするんだ」

「その手加減はちゃんとしているよ」

黒いスーツをまとって、職員証を首からかけた刀が白い刀の横からひょこんと頭を出した。

「…君、大丈夫かい?彼に何か変なことされてない?術を掛けられたりとか」

「多分…?」

見習いは少し困ったような顔をした。

「誤解を招くようなことを言わないでくれるか、光坊。俺は真摯に彼女を口説き落とそうとしていただけだ。主としてな」

「いえ、ですから、私は未だ見習いの身ですし、突然現れた不審者を部下にするとか普通に嫌なのですが」

「…うわー、全く一欠片もこの鶴さんに惹かれない女の子なんて、僕、初めて見たかも…」

黒い刀の反応に、見習いは訝しげな顔をした。

「全く脈無しっぽいし、諦めた方がいいんじゃない?見習いってことなら、いつ正式に審神者になるかわからないし、ならない可能性もあるし」

「嫌だ。俺は主にするならこの子がいい」

「…そもそも、顕現している刀剣男士は既に主を持っているものなんじゃないんですか?」

「そこはまあ、色々特殊な事情があってな。霊力の充電池みたいなもんをもらってるだけで、今俺には契約している審神者はいないんだ。ちなみに、この身を降ろした審神者は、あー、死んでるんだっけ?」

「僕に聞かれても困るよ、鶴さん。…けど、まあ、そうだね…少なくとも、審神者をできる状態ではないだろうね…」

「面倒事の気配がするのでやはり関わりたくないのですが」

「――あ、いた、見習いちゃん!」

監査官が息を切らして肩を落とした。見習いが引き留められたことにしばらく気付かなかったらしい。ちなみに割と新人の類である。問題なければ見習いの担当官になることになっている。

「館内なのに誘拐されたかと…。…厄介なのに絡まれてる?!」

「厄介なの、とは随分な言い草だな」

睨む白い刀から監査官は目をそらして合わせないようにする。

「この見習いの子は、少々事情持ちなので、勘弁してあげてくれませんか、"誘惑"の鶴丸国永殿」

「何だ?厄介なのに目を付けられでもしてるのか?だったら戦力はあるに越したことはないだろう?俺が守ってやるよ」

「戦力になっても、信用のおけるかわからない方を傍に置くのは、ちょっと」

「審神者側の同意が得られないので却下、ということで」

監査官は黒い刀とアイコンタクトする。黒い刀は頷いた。

「ほら鶴さん、予定通り術師さんのところに行くよ。約束の時間に遅刻したらかっこ悪いよね」

「いててっ、光坊、少し手加減してくれ、君練度カンストしてるんだろう」

黒い刀に引きずられていく白い刀を見送って監査官はため息をついた。

「ゲートで鉢合わせないよう、少し時間を置いていきましょう。というか…彼と目、合わせなかったんだね?君はいつも相手の目を見て話すみたいなのに」

「目、ですか?…お月様みたいな金色の目をしていましたよね」

「…ん?」

「?」

「…目、合わせた?」

「何か拙いんですか?」

「拙いというか…あー、浄化特化なんだっけ…そりゃ、目を付けられるはずだ…」

首を傾げた見習いに、監査官は肩をすくめてみせる。

「あの個体は、魅了能力を持ってて…まあ、能力封印措置は受けてるはずだけど、それでも目を合わせれば暗示をかけられる可能性はあるから…」

「はあ、そうなんですか」

見習いはよくわかっていない顔をしている。まあそもそも彼女はまだ刀剣男士に関する知識に乏しい。その特異性がピンとこないのだろう。

「あんだけ猛アピールしてたからには、本刃も多分言ってただろうけど、彼、自分の能力に引っかからない主を求めてるんだよ。なおかつ、刀として適切に使ってくれる相手ね」

「…あー」

見習いは少し納得したという顔をした。

「…刃員が少ない内はお飾りにはできませんしね…」

「…言ってはなんですけど」

「なんでしょう」

「彼、君の刀剣として引き取ることになる可能性ありますよ、あの様子だと」

「えぇ…」

「まあ、正式に引き取るのはいずれにせよ見習いちゃんが正式に審神者になれてからのことになるだろうけど…二つ名持ちは扱いが難しいから…問題がないのであれば、刀剣の意思が優先されがちというか」

「彼の希望が通る可能性がある、と」

「まあ、彼がしつこく駄々をこねた場合だね…」

 

 

 

 




術師(赤猫先輩)
夕鶴くんを引き取ることになっていたので見習い受け入れが弟子に回された
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