刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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彼女の瞳は浄玻璃鏡6

 

 

 

青柊が大瑠璃の無事な姿を見て胸をなでおろす。

「良かった、大瑠璃さん、無事だったんですね」

「しいて言えばお腹は空いていますが、それくらいですね。青柊さんこそ…無事…ですか?」

「幸か不幸か、骨は折れてませんから」

青柊は腕を三角巾で吊っていた。

「自分よりヤバい目にあった人が多数いるんですが、聞きたいですか?」

「…聞きたくないですねー」

簡単に言えば、愛し子に危害を加えた罪で天罰を喰らっているのである。本部そのものが何処か慌ただしい雰囲気に包まれているのも、大体その所為だ。

「まあともかく、今度こそ大瑠璃さんを新しい本丸に案内できます。…いや、お腹空いてるなら、先に食堂に寄る?」

「そうですね…今回ばかりは流石に、何か食べた方が良さそうです」

「主さま、あの本丸にいた間、絶食状態でしたので、まずは胃をびっくりさせないものにした方がいいかと。そういうの、わかりませんか、青柊殿」

「絶食!?…あ、ヨモツヘグイ案件ですか。なら浄化部の検査も受けてもらった方が…?」

「いえ、単純に食べられるものが本丸内になくって…結界の外に出るのも危険そうでしたし」

「うどんとかでいいんじゃないか?消化にいいんだろ?」

「いえ、うどんはよく噛んで食べないと結局ダメなやつですので、刺激物でないものをよく噛んで食べるんで大丈夫です」

 

 

 

「はぐー、お稲荷寿司、生き返ります!」

「(もきゅもきゅ)」

「圧倒的勝利…!」

「(カウンセリングが必要だろうか…)」

昼の繁忙期を少し過ぎた時間帯であり、食堂はそこそこ空いている。しろのすけは管狐用のランチョンマットを敷いてもらって稲荷寿司を食べていて、大瑠璃はお子様ランチを頂いている。太刀は付き合い程度の軽食なのかサンドイッチ、青柊はコーヒーである。

会話はない。

「…あ、その内、例の本丸について大瑠璃さんに聴取が入ると思います」

「…まあ、そう来るよなぁ」

「…何かやばいことやりました?」

「主の浄化で堕ちてた刀剣が折れただけだ。俺たちは無罪を主張するぜ」

「私も起動後のことは記録しておりますが、どのような経緯でお二人が有害判定したのかは直接見ていないので…」

「見るからにダメなやつでしたよね?」

「穢れは大分酷かったですが…」

「そういえば主、穢れをまとっていたとはいえ、あの本丸の鶴丸国永を容赦なくぶっ飛ばしてただろ、一片の躊躇もなく」

「…そんなこともありましたね」

「あの時の反応について問いただすのを忘れていたんだが」

「と、言われましても…」

「主、同位体を同一存在として認識できない(・・・・)タイプじゃないか?」

「…?」

きょとん、と大瑠璃は小首を傾げた。

「俺たち刀剣男士は、本霊から分かたれた欠片みたいなもんだから同一の刀剣が複数の場所に降りることも当然しているんだぞ。…対刃演習なんかに行くとわかりやすいんだが」

「…?はい」

「…話がかみ合ってない気配がする」

「まあ主さまは何を言い聞かせられてるのかわかってませんよねぇ」

なんだかんだで、大瑠璃は三つの本丸の刀剣を見たことになるわけである。当然、同位体も見ている。とはいえ、一つ目の本丸はブラック被害にあっているもの、二つ目はのびのびしすぎて亜種と言われたりしているもの、三つ目は堕ちたものだった。異なる存在に見えてもおかしくないともいえるが…。

「堕ちていたといっても、面相が変わるほどの影響はまだ出てなかった。けど主は"同系統の顔"、と言っただろう。言っては何だが、あいつと俺は同じ顔だったはずだぞ」

「ああ…ええと、まあ、同じ顔とは…あなたの顔だとは、認識しませんでしたね」

「いや、それが悪いということではないんだがな。他のやつと間違われるよりはずっといい。…俺が何の遠慮もなく同じ顔したやつがぶっ飛ばされたのがショックだっただけで。間違った判断じゃないのもわかるんだけどな」

 

 

 

 

本丸に移動してすぐ、大瑠璃は佩いていた太刀を外し、抜いた。

「カカカカカ!拙僧は山伏国広と申す!日々、これ修行である!」

桜をまとい顕現した偉丈夫に大瑠璃は一瞬目を丸くしたが、すぐににっこりと笑って彼の手を取った。

「多分知っているでしょうけど、審神者・大瑠璃です。よろしくお願いします」

「うむ。拙僧は主殿に降ろされてより後、その腰に佩かれていた間のことはきっちり記憶している。…青柊殿、鶴丸殿、主殿の窮地に尽力していただき、感謝する」

頭を下げた山伏に青柊が慌てる。

「いや、自分はあなたに頭を下げられるほどの働きはできていないので…しいて言えば、事前にしろのすけを渡せたのは早期解決に有効な手だったかもしれないですけど」

「カカカ。拙僧の感謝しているのはそのことだけではないのだが、まあ、あまり語るのも無粋。拙僧が感謝しているということだけ受け取ってもらえば結構。主殿がこれからもああした類の者に絡まれぬとは言い切れん故な」

「初っ端から不吉なことを言うな、君…」

「二度あることは三度ある、という。主殿が他の人間の運命を致命的な方向に変えてしまうことはこれからも起ころう。…確か、西洋の概念ではファムファタル、と言ったか」

「それは流石に言葉の使い方が間違ってる気がしますけど…」

と大瑠璃はいうが、二度あることは、の方は否定しなかった。

「いや…まあ、うん。まあ、それは置いておこう。初期刀殿が顕現したことだし、これで俺も主に正式に名乗れるな」

白い太刀は大瑠璃の手を取って軽く口付ける。

「鶴丸国永だ。二つ名は"誘惑"。…末永く頼むぜ?主」

「末永くかどうかはともかく、よろしくお願いします、鶴丸さん。ところで、その二つ名とやら、どういうシステムなんです?変更の可否は?」

「二つ名は制約系の術式に関係する概念拘束の一種なので、過去に一度定められた二つ名を後から変更した例自体は幾つかありますけど…そう手軽に変えられるものではないですよ?」

「概念拘束…成程。じゃあ、これを書き変えればいいんですね」

大瑠璃は鶴丸の頬に手を添えて額のあたりを見る。

「えっ」

「え」

「ん?」

「カカカ。主殿、術式の書き変えは相手の了解を得て行うべきではないかな」

「でも、鶴丸さん、今の自分の二つ名は好きではないでしょう?」

「え、あ、まあ…そうだな」

「その意味するものを変えずに表現だけ変えれば、書き変えの影響は最小限で済むでしょう?えーと…」

すっと、大瑠璃の表情から人間味が抜ける。

「…西洋の宗教において曰く、神は乗り越えられぬ試練は与えない、という。この試練とは、人を堕落へと踏み出させる誘惑のことである」

それはまるで神託を告げる巫女のように常の彼女とは異質な雰囲気をまとっていた。

「故に、"試練"、と」

術式が書き変えられ、ふっと大瑠璃の様子も元に戻る。

「…えっと、問題なく書き変えができましたか?」

「…ああ、二つ名"誘惑"改め"試練"の鶴丸国永だ。…いや、これはまた、内実の判りづらい二つ名になったもんだ」

「カカカ。だが、ある意味で主殿に侍るに相応しいとも言えよう。…その試練に屈したものは破滅するのであろうからな」

すっと、山伏が目を細めた。鶴丸は肩をすくめてみせる。

「成程、試練(ファムファタル)の主従というわけだ」

青柊がヤベェもんが錬成されてしまった、という顔をしている。

「ファムファタルは女性名詞なので、男性の場合はオムファタルですよ」

「はっはっは」

「…いや、笑い事じゃないですよ?」

青柊はあわあわと端末を取り出す。

「二つ名が変更されたということは、変更申請と能力解析によるデータベースの更新をしておかないと後々面倒なことにですね…」

「お役所仕事というやつですね」

「言ったらなんですけど、問題児認定されてましたからねこの鶴丸国永」

「人聞きが悪い、俺は望んでブラック行脚してたわけじゃないぜ。誘惑に弱い人間が大体ブラックを作るようなやつなんだ」

「間違ったことは言ってないんでしょうけど、そういう話は通用しません。あなたが自分の能力を垂れ流しにしていたのも原因の一つなんですから」

「ちっ」

「能力解析に関しては私がやっておきますので、青柊殿は二つ名変更申請の方をお願いいたします。…事後ですけど」

「事後なんだよなあ…」

しろのすけと青柊が溜息を吐いた。

「それでは、初期刀の顕現も終わったことですし、ちゅうとりあると参りましょう、主さま」

「…じゃあ、自分は本部に戻りますね。何かあったら連絡してください」

「わかりました」

「機会があれば早めに契約相手を見つけておくことをおすすめするぞ、青柊殿」

「えっ……がんばります」

山伏の言葉に何か思うところがあったのか、青柊は少し血の気の引いた顔をした。

 

 

 

 




乗り越えられない試練は与えないので出力は退がったが、負けた場合にアレ

ヒント:彼女は根本的に人間不信 

二つ名ではないが亜種かもしれない山伏 予知持ち 大体大瑠璃の霊力を大量に取り込んでいた所為 後に二つ名持ちにされる可能性はある 天眼とか
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