刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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ブラックの生贄にされれた小鳥ちゃんと監査部の長義くん(神斬)(社畜) 罪業派生的な


オキザリス、或いは黒い足跡1

 

 

山姥切長義は(地雷を踏まない限り)、大体の相手に紳士に振舞う刀剣男士である。人当たりがよく、親切で、勤勉だが、無暗に他者を甘やかしはしない。ある意味で、皆に一線を引いているということでもあるが、物事を公平に見ている。

とはいえ、それは一般論であるので、全ての山姥切長義に過不足なく当てはまるとも限らない。彼らにも個体差はある。そして例外もある。神斬の二つ名を持つその山姥切長義の場合は、簡潔に言えば社畜で殺戮マシーンだった。

「…監査部でも稀に見る社畜だったのにねぇ」

「む、俺の顔に何かついているか、博愛の」

「いいや?ちゃんと返り血と穢れを落としてからオフィスに戻ってくるなんて初歩的なこと、できて当たり前だけど…誰かさんは最近まで出来ていなかったな、と」

「ぐっ。…討伐が立て込んでいたからね。寸暇も惜しかったんだよ」

「それは君が他に回せばいい仕事まで積極的に持って行っていたからだろう」

揶揄うように言う彼も、神斬が何故こうなったかはとうに知っている。というか、知っているから揶揄っているのだが。

「その顔を止めろ、博愛の。俺だって、自分がどう見えているかはわかっている」

「ふふふっ。小鳥ちゃんは丁度、忘愛殿と食堂に行ったところだよ。一足遅かったね」

「・・・」

眉をしかめた神斬を、博愛の二つ名を持つ山姥切長義は愉快そうに見た。

「…丁度ってのは」

「一刻前だね」

「…支部の食堂なら、その内戻ってくるかな」

呟いて、神斬は自分のデスクにどかりと腰かけた。

「…っていうか、君のオフィスは此処じゃないだろう。何でいるんだ」

「って言っても、俺は自分のデスクにいなくても仕事できるからね。君とは別の意味で」

「つまり暇なのか」

うんざりした顔をしながら、神斬はデスクワークのための端末を起動した。待つ間に少しでも終わらせておこうと思ったらしい。

「いや、連絡待ち。あんまり出歩くわけにもいかないから、ついていかないで残ってたんだよね」

現在二振りがいるオフィスは、監査部黒本丸対策課の七班と八班が合同で使っている場所である。一つの班は三名から六名ほどで構成される。神斬は八班の班長で、七班と八班はほぼ刀剣のみ、それも二つ名持ちばかりで構成されている班であり、普通の人間や刀剣の手には負えないものの相手を請け負っている。ちなみに博愛は総務課の所属である。

「小鳥ちゃんも、ずっと此処に置いておくわけにはいかないし」

「…そりゃあね」

神斬が物憂げに溜息を吐いた時、オフィスの扉が開いた。

「ただいまー。…おお、神斬くんだ」

「ただいま戻りました」

髭切と、小柄な人間の少女である。二人を見て博愛はひらひらと手を振る。

「おかえり、忘愛殿、小鳥ちゃん」

「ただいま、博愛くん」

「ただいま」

忘愛の二つ名を持つ髭切は、小鳥と呼ばれた少女をひょいと抱き上げて自分のデスクに向かう。少女はされるがままになっている。忘愛は自分の席に座って少女を膝に座らせた。

「えーと、何処まで話したっけ?」

「しゃれこうべがケタケタ笑ったから、殺そーってなって一閃したってとこ」

「ああ、そうだったね。うんうん。あれは典型的な…伝統的な?骨の怪異だったねー」

「…いや、小鳥ちゃんに何の話をしてるんだ君は!?」

思わず突っ込んだ神斬に忘愛は「以前受けた怪異退治任務の話かなー」とこともなげに答えた。

「ほら、まずは何かしらこの子が興味を持てることを探してあげることが必要だってカウンセラーの子も言ってたじゃない」

「だからって怪異退治の話はないだろう、色んな意味で!」

神斬の叫びに忘愛はそうかなあ、と小首を傾げた。

「ちなみに小鳥ちゃんは忘愛殿の話についてどう思ってる?」

「(忘愛が)楽しそうだなーって」

「ふむ…」

「俺は機密保持の観点からも苦言を呈しているんだけれどね?」

「あはは。僕だって、話していい事と悪い事の区別くらいつくよ」

「髭切はうっかり拙いことをぽろっと口にしてしまう刀剣ランキングワースト3に入っているだろう」

「あはは」

同位体の傾向であって彼個刃の話ではないとはいえ、絶対ないとは自分でも言えないらしい。

「でも、小鳥ちゃん多分、忘愛殿の任務に特に興味をもってはいないと思うよ」

「そう?」

「うん」

「そっかー」

忘愛が頭を撫でると、少女はくすぐったそうにした。

「ううん、最近の人の子は難しいねぇ」

「…小鳥ちゃんをそのくくりで論じるのはどうなんだ」

もっとも、最近の人の子が忘愛の怪異退治任務の顛末を喜んで聞くかといえば、そこに疑問符は付けざるをえないが。そもそも人の子は怪異譚を好むのと好まないのは両極といっていいのではないだろうか。少なくともどんな相手にもうける話ではない。

「人の子に受ける話といったらやっぱり、歴代の主の話とかじゃないのかい。小鳥ちゃんが興味を持つかはともかく」

「いや、そういうのも聞いてくれる子と聞いてくれない子がいるから。鉄板は万屋街のカフェの新メニューとかだよ、神斬の」

 

 

小鳥と呼ばれる少女は、ある黒本丸から神斬が保護した人間である。一応、審神者ということにはなっていたが、審神者としての教育はまともに受けていない。黒派閥の役人に祟刀への生贄として何も知らずに黒本丸に送られた一般人だ。そして、その本丸の刀剣男士に虐待されて心を閉ざしてしまっている。

と、まあ、それだけなら他の黒被害審神者などと同じで、保護された後は医療施設に入院したりカウンセリングを受けたりするだけだ。監査部預かりにはなるかもしれないが、物理的に神斬たちの手元で保護するということにはならない。そうなっているのには、勿論理由がある。

まず第一に、小鳥は彼女を虐げていた刀剣たちに酷く執着されている。神斬たちでさえ、一息に滅ぼしきることのできなかった相手が、一般的な人間や刀剣の手に負えるわけがない。寧ろ、本体を折っても堕ちた霊だけで悪さをしかねない。

第二に、彼女には資質の高さに反して自衛能力が全くない。呪術の知識も偏っている。審神者としての知識もない。軍部や政府での後ろ盾はないし、そもそも己から動こうという意思が希薄だ。命じられれば死地へ向かい殺されることを抗わないほど従順に何もしない。再び拉致され黒本丸にでも連れていかれる危険がある。

第三に、そしてこれが監査部が彼女の扱いに慎重になっている理由であるのだが…小鳥はとある"今の技術では刀剣男士という器で顕現させられない神剣"から加護を与えられている愛し子なのである。実は彼女が救出されたのも、その神剣がとある刀の本霊に要請して、それが巡り巡って神斬の任務となった形である。御大の愛し子がこれ以上虐げられることになれば、監査部その他黒くない派閥の人間も危うい。

小鳥が現状をどう捉えているかは定かではない。一つ確かなのは、黒本丸に送られた経験が、彼女の心に深い爪痕(トラウマ)を残しているということである。

そもそもにおいて、堕ちて狂った刀剣たちであったから、彼女への虐待という形で表現されただけで、かの本丸の刀剣たちは小鳥を憎く疎く思って接したわけではない。あるいは最初はそうだったのかもしれないが、神斬が救出に行った時には、刀剣たちは小鳥を虐げながら愛を囁いていた。何の反応も示さない小鳥に苛立ち折檻しつつも、死なぬよう世話してやっていた。

最初は既に心を壊されてしまった、手遅れな状態なのかと思ったくらい、何にも無反応だった。後に、己の意思は必要とされていないと看做して心を閉ざしているのだと知れた(神斬や職員のSAN値が削れた)。小鳥は尋ねられたことに簡潔に答えることしかしない。何も思っていないだけなのか、自分の意志や意見など求められていないと思っているからなのかは不明だが、表情もほとんど動かない。己の意思を表に出さない。

己を虐げていた刀剣の同位体に怯えたりもしない。己を救出した神斬たちには多少(視線を向ける程度の)反応をするが、基本的には号を呼ばれるなどして明確に反応を求められなければどんな干渉にも反応しない。生理的欲求を感じているかすら不明。何もなければ、座ってぼーっとしている(ように見える)。視覚聴覚嗅覚その他感覚器に異常があるわけではないらしく、検査に異常はないが、嗅覚刺激以外は完全に無反応(ただし霊力などを嗅覚で感じ取っている節がある)。

まあ要するに、人形のように自発行動のない、被保護審神者だったのである。今は多少なりとも神斬たちの呼びかけなどに反応するようになったが。

「そもそも、小鳥ちゃんが嫌がる素振りを見せないからって、膝に座らせて猫かわいがりするのもどうかと思うんだが」

幼い少女にしか見えないが、彼女は一応成人した妙齢の女性であるらしい。それらしい姿は今のところ見せたことはないが。

彼女の場合、抵抗しても無駄だと無力感を刻みつけられているようで、嫌でも反応を示さない。嫌がるそぶりを見せないからといって、嫌だと思っていないのかはわからないのである。

「何か、問題があったかな」

「女の子にあまりべたべた触れるものではないだろう」

「んー、でもほら、人の子は人肌で安心するって言うじゃない?」

「…かの本丸の刀剣が彼女にしたと思われる虐待の内容をわかっていて言ってるかい」

監禁、暴力、強姦、拷問に近いこともされていたかもしれない。肉体的には、現代の医療技術と呪術治療で痕も残さず治療できたが、精神の傷はおいそれと癒せるものではないのである。

「うーん、でも僕別に下心とかないし。それこそ、幼子にするように猫かわいがりしたいだけだよ」

「それはそれでどうなんだ」

「忘愛殿に迂遠な言い方しても無駄だよ、神斬の。彼、他者(ひと)の話聞かないから」

 

 

「ただいま帰還した。…っと、どういう状況だ?」

「歓輝殿。特に何があった、というわけでもないのだけど…」

博愛が苦笑する。

「歓輝の、入ってすぐのところで立ち止まるな。後がつかえる」

「む、すまない」

歓輝と呼ばれた大包平が一歩ずれると、鶯丸と大般若長光と小竜景光が入ってきた。

「ただいまー。あ、班長の方が先に戻ってたか」

「うちの班の刀が一振も残っていないと思ったら、除鬼殿…」

「あはは。だって俺が出た時は錆捕くんと足立くんもいたし、忘愛殿が自分が留守番するから大丈夫だって言うから」

「そういう神斬くんだって、斬妖くんと二振りで任務じゃなかったのかい?」

「斬妖君は任務で昂りすぎた、ってトレーニングルームに発散しに行ってるんだよ」

「あー、例の発作か」

発作といっても、深刻なものではない。ただ、(いとけな)い少女に見せるのは憚られるだけである。千子村正にありがちなアレだ。

「小鳥ちゃん」

名を呼ばれ、小鳥は歩み寄ってきた鶯丸を見上げる。鶯丸は小鳥を忘愛の膝から降ろし、仮に彼女のスペースとなっている神斬のデスクの隣のデスクに連れていって座らせた。

「土産だ」

「おみやげ?」

包みを渡され、小鳥は言葉を繰り返して首を傾げる。小竜もそちらの方に寄ってきて、目線を合わせるように膝を折る。

「小鳥ちゃんが何を好きか、俺たちはまだよくわからないから、気に入らなかったら捨て置いてくれていいよ。色々参考になるし」

きょとんとして、包みを見て、二振りの顔を見比べて、小鳥は包みを開けた。中身は30㎝ほどの高さのある鹿のぬいぐるみだった。それを見て動きを止め、じっとぬいぐるみを見た後、ぬいぐるみと鶯丸を見比べ、小鳥は僅かに戸惑った顔をした。

「ありがとう…?」

「うーん、鹿より犬猫の方が良かったか?」

鶯丸はそう言って微笑み小鳥を撫で、自分のデスクに戻った。

「慈哭殿は年少者に甘いんだ」

「特に厳しくする理由がないなら、刀剣男士って人の子に甘いものじゃない?」

忘愛が混ぜっ返すようなことを言う。

「確かにそれは否めない…」

「まあ、人の子を見放したなら現世に留まる意味は無いし」

「堕ちてる連中は?」

「堕ちたモノは刀剣男士ではないものだろう?」

「そっかー」

「なーに闇の深い話をしてるんだ…にゃ」

「あ、おかえり、猫殺しくん」

「何でお前が迎え入れるんだ…にゃ。…はぁ。ただいま戻ったぜ。班長達も戻ってきてるみたいだ…にゃ」

「ただいま戻りましたー…」

「huhuhu、ワタシも発散してきマシた」

「足立、錆捕、おかえり。今から茶を淹れてやろう」

「おかえり、斬妖くん」

斬妖と足立(人間)は自分のデスクに向かう。錆捕は忘愛のところへ向かった。

「ほらよ。わざわざとってきてやったんだから、無駄にすんなよ…にゃ」

「ありがとう、錆捕くん。やっぱり、日ごろの備えは大事だよね」

忘愛は錆捕から受け取った手のひら大のものを袱紗に包んで懐にしまった。

「猫殺しくんと何処に行ってたんだい?足立くん」

「ヴぇっ、山姥切さん、やっぱり顔がいい」

博愛の問いに足立は明瞭な答えを返さない。

「博愛、足立を苛めるなよ」

慈哭が足立のデスクに茶の入った湯飲みを置いていく。注意はしても止めはしないらしい。

「で、歓輝のは何を難しい顔をしているんだ」

「別に難しい顔をしているつもりはないが」

歓輝も自分のデスクに向かい、不在のものを除けば、自分のデスクにいないのはそもそもこのオフィスにない博愛と、除鬼くらいになる。

「そういえば、小鳥ちゃんはご飯を食べたかい?」

「さっき食べたよ」

「そうか。…ちなみに、小鳥ちゃんは食べ物は何が好きだい」

小鳥はきょとんとして暫く考え込んだ後、「鉄火巻き」と答えた。

「鉄火巻き…じゃあ、明日は俺と万屋街の回転寿司にでも行こうか」

「除鬼殿」

「人の子と仲良くなるには、一緒に美味しいご飯を食べるのも有効だっておじいちゃんが言ってたし」

「その言い分は分からないではないけれどね…」

鍛刀が解禁されたとはいえ、小竜景光は顕現数の少ない刀剣である。端的に言うと、絡まれる可能性がある。

「班長も同行するかい?」

「そもそも、まさかふたりで行くつもりだったわけじゃないよね?」

「その時に暇してる刀を誘ったらいいかなって」

小鳥がきょとんとしていることに気付いた博愛が声をかける。

「どうかしたかい、小鳥ちゃん」

「……よろずやがい?って何?」

「おおっとぉ…」

 

「ただいま戻った。…って」

「戻ったぜ。…修羅場か?」

「ただいまー。なになに?喧嘩?」

「いえ、一時発狂デスね」

オフィスに帰還した山姥切国広、ソハヤノツルキ、蛍丸を千子村正が迎える。

「あー、山姥切って、意外とメンタルが繊細だよね」

「アイデアロールもなかなか外しマセンからね」

「精神分析が必要ということか」

「お前の精神分析は物理だろ、やめとけ」

「む…」

「まあ、うちの班で物理じゃない精神分析ができるの、班長くらいだよね。あと斬妖」

「huhuhu…残念ながら、先ほどファンブルしたところデス」

「自慢げに言えることじゃないからな、それ」

呆れた顔をした滅鬼の二つ名を持つソハヤノツルキに、怪斬の二つ名を持つ山姥切国広が肩をすくめる。

「とりあえず、落ち着くまで放っておくしかない、ということなのか?」

「どうでショウ。そろそろもう一度精神分析を試みても良いかもしれマセン」

 

 

 

 

 




慈哭、歓輝、神結、除鬼での外出、
錆捕と足立で野暮用、
怪斬、滅鬼、断神で任務、神斬と斬妖で任務に行ってた 
班で人の子を預かることについて知刃に相談しにいってた備州組
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