刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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翌日、万屋街 除鬼は交遊が広い
鍛刀解禁されてない刀は局の表の部署にはいない


オキザリス、或いは黒い足跡2

 

 

まあ、色々あって、八班の面々と小鳥で万屋街の回転寿司に行くことになった。除鬼が小鳥と手を繋いで、ついいでに滅鬼が斬妖がふらふらどこかに行かないように捕まえている。

「正直、俺は回転寿司って初めてなんだよね」

存在は知っていたけど、と除鬼が付け加える。混雑する時間を避けたのは、メル友の勧めによるらしい。

「俺は以前行ったことがある。なかなか面白いが、席順が重要だぞ、あそこは」

「…ああ、皿を自分たちで取るんだっけ」

万屋街にあるそれも、現世のそれと然程変わりないというか、現世のものをもして作られたというか。多少、体格の良い刀剣への備えでゆったりめに作られているが、それくらいである。

「そもそも七名って一つの(テーブル)に案内してくれるのか?」

「五分五分なんじゃないか」

なにしろ、小柄な人間である小鳥と、子供の姿の断神が含まれている。皆太刀だったら、4・3くらいで分けられる可能性が高いが。

 

分割はされなかった。奥から、小鳥、除鬼、怪斬、滅鬼、向かいに断神、神斬、斬妖だ。収容人数ぎりぎりという雰囲気がある。

「鉄火巻きだっけ?」

「わさびぬきがいい」

「ああ。…もっとも、わさび入りを選ばなければ基本は抜きみたいだけれどね」

「おれは中トロが食べたいなー」

「まずは玉子だな」

「君は自分で注文しろ」

「断神サン、あの烏賊を取ってください」

「ん、これ?」

「ありがとうございマス」

「俺はマグロが喰いたいな」

他のテーブルもそれなりに埋まっているので、店自体も騒がしい。混雑まではしていないが、それなりに賑わっている。だから、彼らが煩くても悪目立ちはしない。

「注文したのは別に届くようになってるんだ」

レーンが二つあり、下は普通に常時回転しているが、上は注文した品がテーブルの前で止まるようになっている。

「味噌汁や丼もの、デザートなんかもあるんだね」

「とりあえず気になるものは片っ端から頼めばいいんじゃないか」

「刀剣男士の皆が皆、君のような大食いだと思わないでくれ」

「わざわざ寿司屋にきて、カレー食べるやつとかいるの?」

「いるからあるのではありマセンか?」

「そりゃ、そーかもしれないけど」

「今、注文(うえの)レーン通っていったの、カレーじゃなかったか?」

主に神斬と除鬼が注文と上レーンからの回収をしている。下レーンは断神も取っている。

「…鉄火巻きばっかりそんな大量にはいらない」

五皿ほど目の前に並べられた小鳥が僅かに眉根を寄せた。そして下のレーンに丁度流れてきていた甘エビを取る。

「そうかい?」

「なら俺に一皿くれ」

怪斬が一皿受け取る。

「あまり多人数で利用するには向かないね、ここは」

「それは班長が世話焼きだからそう思うんだと思うよ」

焼肉なんかもそうだが、他のメンバーの世話を焼いてしまうと自分の食事が疎かになってしまう料理というのがある。回転寿司もわりとそういう類である。

 

 

 

割り勘か経費で払うか一度もめ、とりあえず経費にした。

午後からいくつか任務は入っているものの、多少時間はあるので、少し万屋街をぶらぶらしていこうということになった。相変わらず除鬼が小鳥の手を引いている。

「…除鬼ってあんな、人の世話焼きたがる刀だっけ?」

「んー…俺はそういうイメージはないな」

「huhuhu…除鬼サンは審神者の手に負えないと見なされマシタが、関係性の構築を失敗したわけではありマセンからね…」

「…あー、そっか。除鬼って、先天的特異個体なんだっけ」

八班に関して言えば、後は神斬も後天的とはいえ事情が異なるが、除鬼以外の男士は元々本丸産の後天的特異個体である。つまり、本丸や審神者に色々と思うところがある。だが、除鬼は監査部で色々と見てはいるが、審神者に悪感情は殆どない。ただ、こちらの方が生まれもった力を活かせるというだけである。

「…あの子が短刀とあまり変わらない大きさだってのもあるんじゃないか?小竜景光は弟刀がいるだろう」

まあ、謙信景光は小豆長光とつるみがちなのだが。

「…怪斬から見たらあの子も短刀サイズのくくりかー」

最も背が低い断神が口を尖らせた。実際、小鳥の背は精々短刀の背の高い方程度なのだが。

「実際、小さいんじゃないか?小鳥ちゃんは」

「私も小さいと思いマスよ」

「班長はどう思う?」

「え?…まあ、小さいよね」

「・・・」

除鬼はショーウインドウに並んだぬいぐるみを指さして小鳥に問いかけている。小鳥は表情を変えぬまま、ぽつぽつと返答しているようだ。

「…班長は…というか、山姥切って、人の世話を焼きがちだよね」

「班長はあんまりそうでもなかった気がする…してたんだけどな…」

「班長も山姥切デスからね」

「神斬は小鳥ちゃんに会って変わったからな」

「何か言ったかい、君たち」

八班の刀は神斬が多少睨んだところで、ひるむような可愛げはない。

「班長も山姥切なんだなぁ、って」

「どういう意味だい、それは…」

眉をしかめた神斬を見て、断神はにやにや笑う。

 

 

その時、除鬼と小鳥に近づいた男があった。近侍であろうへし切長谷部を伴った男だ。

「刀剣の不正入手か?契約してない高練度のレア刀と一緒に居るってのは」

無言で鞘走りしかけた神斬を怪斬と断神が慌てて止める。

「神斬、街中だ」

「ちょっと、いつも班長が俺たちを止める側でしょ。フルスロットル過ぎない?」

小鳥は無反応。ショーウインドウのぬいぐるみをじっと見ている。除鬼はこいつ自分たちに言ってるのか?と僅かに眉をしかめている。そして、(割り込む立ち位置になった)男の後ろで殺気を放っている神斬を見て、目を丸くした。その殺気に、他の通行人(というか刀剣)も何事かと視線を向けている。

背後の殺気に気付かず、男は更に続ける。

「鍛刀できるようになったといっても小竜景光はまだ滅多に手に入らない刀だしな…身の丈に合わない刀を従えようとしても持て余すだけだぞ?」

「…生憎だが、俺は主を選ぶからな。アンタに言われるまでもなく、自分の認めた主にしか従わないよ。…少し失礼するよ、小鳥ちゃん」

除鬼はひょいと小鳥を抱き上げる。小鳥は名を呼ばれたことにきょとんと首を傾げ、除鬼を見上げた。

「あの猫さんがいいと思う」

「ああ、可愛いね」

「おめめの色が、神斬といっしょなの」

神斬からぶわっと誉桜が出た。一拍して我に返ったのか止まったが。あまりの判り易さに班員がぬるい視線を彼に向ける。無視された男が苛立った様子を見せた。

「お前の本丸を突き止めるのなんて簡単なんだからな?そうしたら」

「そうしたら、何だ?」

神斬に刀を突き付けられ、男の言葉が止まる。

「生憎だが、あの子は下衆の勘繰りを受けるような人間じゃない。うちで預かっている、元ブラック被害者だ。乗っ取りも、不正取引もしていない」

「班長、万屋街での抜刀は厳禁、でしょ?」

「往来の、監査官の前で余所の審神者を脅そうとしたんだ。監査令状の一つ二つ、出させるさ」

「そういうの職権乱用って言うんでしょ、俺知ってる」

「自分から仕事を増やすのか…」

男のへし切長谷部はいつの間にか斬妖が歩み寄って抑えている。

「うーん、これはワタシの管轄ではない気がしマスねぇ」

「斬妖の管轄がそうそう現れたら困るだろ」

八班は大体名前の通りである。神や妖怪に優位を取れるものばかりで構成されている。

「なっ…」

「班長、殺したら始末書ものだよ?」

「俺が、そんなへまをするとでも?」

除鬼と神斬のそのようなやり取りを見てようやく男の存在を認識したのか、小鳥が首を傾げる。

「神斬どうしたの?とつぜんお仕事?」

「小鳥ちゃんは気にしなくてもいいよ」

「ふーん」

小鳥はだったらあのぬいぐるみが気になるな、という顔をしている。

「班長、ちょっとそこの店に行ってきていいかい」

「…あまり遅くならないようにね」

「すぐ戻ってくるよ」

 

 

他の通行人が呼んだ万屋街の警邏隊と、滅鬼の呼んだ監査部の人間が到着した時には、除鬼は小鳥の選んだ青い目の猫のぬいぐるみを購入して、ぬいぐるみを抱きしめる小鳥を抱えていた。

一行まるごと詰め所に連れていかれて、事情聴取になる。といっても、身分のはっきりしている八班の面々の聴取はすぐ終わったのだが。

「小鳥ちゃんは重い自閉状態の子だから、証言は取れないと思うけど…」

「こちらも規則ですので…」

本来は一人で受けるものだが、小鳥は神斬が傍について受けるということになった。

「ええと、それで…こちらの小鳥さんが紅嵐氏に恫喝された、ということですが…」

「…?」

小鳥はきょとん、と首を傾げる。

「紅嵐ってのは、あの時俺が刀を突き付けていた男だよ」

「…あー。あの、何か傍迷惑そうなおじさん」

「傍迷惑そうなおじさん」

「除鬼が、みんな留守にする時寂しくないように、ぬいぐるみ買ってくれるって、どれがいいかなーって見てた時に後ろで何か、誰かに煩く話しかけてたおじさんでしょ」

その話しかけていた相手は小鳥なのだが、やはりそういう認識はなかったようである。

「…自閉状態…」

「基本的に、名前を呼ばれない限り自分に話しかけているとは認識しないんだ」

神斬は小鳥の頭を撫でる。小鳥は目を細めた。

「つい最近まで黒本丸に幽閉されて虐待されていた子でね。己の意思を求められていないのなら、と心を閉ざして人形のようになっていたんだよ。今は多少、こうして自発反応もしてくれるようになったけれどね」

「神斬たちは物好きだね」

「俺たちの反応の方が普通なんだよ、小鳥ちゃん」

警邏隊の人間は泣きそうな顔をしている。

「…ええと、紅嵐氏がどのような話をしていたか、覚えていますか?」

「小鳥ちゃん、どう?」

「んー……刀剣の不正入手がどうとか、小竜景光は扱いにくい刀だとか、言ってた…かな?」

除鬼は優しい刀だけど、あの人の知ってる小竜はそうじゃないのかな、と小鳥は首を傾げた。

 

 

「御大の愛し子がブラックになるわけじゃないじゃん。百パー因縁付けられてるだけだって」

警邏隊の獅子王がそう言って小鳥の頭を撫でる。

「まあ実際そうなんだが…そう頭から決めつけるのもどうなんだ?」

「他の、人の子に甘い神ならともかく、あの(・・)御大だぞ?そう簡単に堕落したり狂ったりするような人間に加護を授けるわけがないだろ。っていうか、御大が認めてる時点でただものじゃないっていうか」

「…そう…だね…」

「で、お嬢ちゃんは何処の迷子だ?」

目線を合わせて問うた獅子王に小鳥はきょとんと首を傾げた。

「迷子?」

「…この子はうちで預かっている子だよ」

訝しげな顔をした獅子王に神斬は肩をすくめてみせる。

「俺がブラックから保護した。その黒本丸は未解体」

「…あー」

察した顔をした獅子王に、神斬は頷いてみせた。

「そりゃ、災難だったなー」

獅子王はまた小鳥の頭を撫でる。

「災難?」

「引継ぎを求められる本丸の中で、審神者に対してブラックな本丸になるケースは全体の三割くらいだって聞いたぞ。…まあ、黒派閥が斡旋すると九割がたブラックらしいが」

「くろはばつ、って?」

「審神者、刀剣、役人、いずれにしても、権力が絡んだり実利をもたらさないと判断した相手の基本的人権とか最低限の権利とかを無視しようとする輩のことだよ」

「…あー」

そして当然、小鳥をヤバい黒本丸に押し込めたのも黒派閥の人間である。

「まあともかく、俺たちはそろそろ帰りたいんだけど。完全オフの日ってわけでもないし」

 

 

 

なんとか解放されてオフィスに戻ってきた。

「あ、おかえりー」

「おや、おかえり、八班御一行と小鳥ちゃん。何かトラブルでもあったかい?」

「ただいま。…白々しいことを言うね、神結殿。三班が出たんだろう」

「ただいま戻りました」

七班でオフィスに戻っていたのは忘愛と神結の二振りだけだった。

「小鳥ちゃんに絡んできた素行の悪そうな審神者がいたから班長が脅したり警邏隊呼ばれて事情聴取になったりしてただけだよ」

「無視したら良かったのに。逆上して飛び掛かってきたところを押さえた方が、わかりやすくて楽だよ?」

「純粋に物言いが不愉快だった」

「いつもなら他のやつらを止める側の神斬が抜刀しちまったからな…」

「ありゃりゃ」

「それは…相当だな?」

「殺気立ってる神斬に気付かないあの男もあの男だがな」

怪斬が肩をすくめる。

「気付ける人間なら、そもそも喧嘩を売ることもないんじゃないか」

「除鬼サンと小鳥ちゃんにパスが繋がっていないことはわかっても、その意味するところはわからなかったようデスからねぇ」

ちなみにパスの有無くらいは分かる人は分かる。

 

「小鳥ちゃん、そのぬいぐるみはどうしたんだい?」

「お店で除鬼が買ってくれた」

「そっかー。名前はあるのかい?」

「名前?」

思ってもみなかった、という顔できょとんとした後、少し考えて小鳥は言う。

「キリくん」

「そっかー、キリくんかー」

忘愛の視線が神斬に向かう。若干挙動不審になっている。

「キリくんは小鳥ちゃんが選んだのかい?」

「うん」

硝子か、あるいは樹脂か、透き通った青い目をした、40㎝くらいの大きさの猫のぬいぐるみだ。青みの灰色のハチワレ模様をしている。小鳥はそれを両腕で抱え込むようにして抱いている。よほど気に入っているのだろう、と思われた。

「…うーん、こっちの班長がちょっと焼きもちというか、悔しがりそうだねえ」

小鳥は軽く首を傾げる。忘愛は、あははと微笑って小鳥の頭を撫でた。

 

班という形を取ってはいるが、一つの任務に班員フルメンバーで取り組むということは少ない。大体は二振りか三振り。場合によっては他班と協力したり、オペレーターを置いたりする場合もある。

八班は、小鳥を預かってからは、常に最低一振はオフィスに残るように仕事を割り振っている。小鳥を一人にできないし、任務先に連れて行くことはもっとできないからだ。

祟刀がどのような属性を持っているかは、実は一定しない。祟刀というのは、邪気を纏い人を祟る刀の総称に過ぎないからだ。祟り神に近いものも、穢れの塊のようなものや、呪物や怪異のようなものになるものもいる。

小鳥の幽閉されていた本丸の刀は狂っていた。酷い穢れと呪いが本丸に満ちていた。しかし、完全に神性を失ってはいなかった。だから、神斬の能力(スキル)も通るはずである。

とはいえ、今のところオフィスに拙いものがやってきたことはなく、護衛として戦うことになったことはない。子守みたいなものである。

「・・・」

今回居残りになったのは滅鬼である。他の五振りは任務に出て行った。実のところ、滅鬼は小鳥のことがあまり得意ではない。ついでにいうなら、忘愛のことも苦手だ。何を考えているのかよくわからない。

「…わからねぇ」

ぽつりとつぶやいた言葉を神結が聞きつけて歩みよる。

「どうした?あんたがそういう反応をするのは珍しいな」

「べつに、大したことじゃない。忘愛が小鳥ちゃんを気に入ってるらしいのが、何でかと思っただけだ」

「ああ。そりゃ、簡単なことだ。小鳥ちゃんが傍にいると、彼は己の能力(スキル)が封印されるからな」

 

 




警邏隊は通常鍛刀で入手できる刀のみ所属している 引退した審神者の刀剣とかも多い
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