刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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別視点


隊長は人の話を聞かない9

 

小鳥はすっかり怯えた様子で、信じられないものを見る目で俺を見ている。…普通に刀を突きつけた時より怯えられるというのは釈然としないものがあるが、ある意味、俺たちがしたこととそう変わらないんだよな。俺たちは厚意に敵意を返した。今更それをなかったことにはできない。

「前の審神者と小鳥は違うだろう。少なくとも童貞処女で身持ちも固いぞ」

「何故そこを主張する?!」

「俺にも和泉守にも手は出さなかっただろう」

「誰が出すか!」

小鳥はガシガシと頭を掻いた。

「愛も恋もない相手に手をだすってどんな色狂いの痴女だ。そもそも神と交わると人間性が色々やばくなるって先輩言ってたぞ、自殺志願者か!大体俺そういうことがしたいと思った覚えは一度もないぞ、何でその気がある前提なんだ」

「えっ、ないんですか」

「ねぇよ」

「だって小鳥さん、成人してるんでしょう」

「世の中には性欲を持たないタイプの人間もいるんだぜ、少年」

…寧ろ、小鳥の場合はそれ以前の問題なんじゃないかって気もするが。箱入りみたいだし。

「色気も感じないしな」

「いや、俺が思うに小鳥は着飾れば十分美人に見えると思うぜ?」

「大きなお世話だ」

素材自体は悪くないと思うのだ。着こなしとセンスが野暮ったいし、姿勢も口調も態度も悪いから、そんな印象はないが。

「着飾らせるんだったら、あたしに任せなよ」

「おお、そりゃあいいな」

「何もよくないよ?!」

 

 

「主様をいじめないでください!」

五虎退と子虎たちが割って入る。…俺はいじめてたつもりはないんだが。

「五虎退?!」

「主様をいじめたら、例え兄さんたちでも、僕が許しません」

「それは、例え私と敵対することになっても、か?」

「主様は、前の主様とは全然違って、怖くないし、優しくていい人です。それなのに、何で皆して主様をいじめるんですか」

いつも他の兄弟の後ろに隠れて泣いていた五虎退が、一期一振に対して反駁する。以前なら想像もつかなかった光景だ。その相手が一期一振だってのが、特に。

「…そんな風に、兄弟と争わなくていい」

小鳥は少し困ったような顔をして五虎退に言う。五虎退はそれに憤慨した。

「主様は僕が守ります。だって、僕だって、藤四郎の守刀だから」

「僕は、まだ君たちと契約を結んでいない。守らなきゃならない理由はない」

そう、小鳥は誰とも契約を結んでいない。誰の名も呼んでいない。本丸は既に主が書き換えられているため、霊力が流れているが…刀剣たちは誰も、繋がりを得ていない。手入れの時に一定の霊力を受け取っているし、本丸内の霊力は豊富なので現状は問題ないが。

「僕は五虎退です。謙信公のお土産です。…虎は退けてないですけど、主様は守れます」

「五虎退っ」

「…僕は、お前の名を呼ぶわけにはいかないよ」

小鳥は困ったように微笑う。

「明々後日までかその次の日までかはわからないが、そんな短い間しか名乗れない主であれば潔く忘れてしまった方がいいだろう。気にかけてくれるのは嬉しいけれど」

その場にいた刀剣が、皆沈黙する。そのセリフは、事実上彼女が俺たちをどう見ているか、宣言されたにも等しかった。どうも、五虎退だけは扱いが別のようだが…まあ、五虎退はどう考えても小鳥に敵意を向けたことはないだろうから、素直に好意的に接してる相手と判断されたんだろう。

彼女は、俺たちが彼女を殺すことを総意として選ぶと見做している。

「そんなことないです。僕はずっと主様と一緒にいたいし…短い間だとしても、名前を呼んでほしいです」

「考えを変えるつもりがないなら多数決になるだろうし、そうでなくとも声の大きい者の意向が通りやすいものだ」

彼女の言う声の大きい者とは、一期一振や、三日月なんかのことだろう。確かに、態度を決めずに様子見している者が、彼らに自分から対抗するかといえば、そんなことはないだろう。

そしてきっと、全て終わってから、後悔するのだ。

「だったら、俺も五虎退につくから少しは勝負になるよな?」

「鶴丸さん」

「俺は鶴丸国永だ。さっきも言ったが、俺は小鳥とちゃんと契約を結びたいと思っている。"主にするのは君がいい"」

「…僕もつく」

「鳴狐?!」

「(五虎退たちがこれだけ懐いているなら)信用できると思うし」

「ですが鳴狐」

鳴狐はお供の狐を肩から降ろす。

「僕は鳴狐。鎌倉の、粟田口の打刀」

「…やめてくれ」

小鳥が泣きそうな顔をする。

「君たちを争わせるだけの価値は私にはない。だから…兄弟や友人と争うようなことを言わないでくれ」

「兄弟・友人だろうと、立場が変われば争うこともあるのは世の習いだ。君が気にすることはない」

そんなことはよくあることだ。快いものではないが、仕方ない。

「…こんなことになる前に、さっさと俺を殺せば良かったんだ。心が既に決まっているなら、さっさと行動に移すべきだった」

「――それは流石に聞き捨てならねぇな」

 

 

和泉守は小鳥に歩み寄り、襟元を掴んで立ち上がらせる。

「何で、てめーに敵意を持ってる奴のことを優先して、好意的な奴のことを蔑ろにするんだ。少なくとも、此処に四口、てめーを主と呼んでいいと思ってる刀剣がいるんだぞ」

「俺なんかが主でいいなら、他のやつのところでもやっていける。でも、俺は、"俺"を見もせずに嫌ってる奴のことまでどうにか出来るほど人間ができてないから」

例えば、五虎退たちが勝って、正しく小鳥と契約を結んだとして。その時、一期一振たちはどうする?刀解する?不満を抱きつつ契約する?どちらにしても遺恨やしこりが残るだろう。刀剣は、新しく降ろしなおせるとしても、

まあ、それを言ったら、今更小鳥を殺すことになれば五虎退たちの方に遺恨が残ることにもなりかねないのだが。

「お前たちが俺に非がないと言うなら」

小鳥は歪んだ笑みを浮かべる。

「非がない相手に敵意を向けてくる相手と、俺はうまくやっていける気はしないよ」

その言葉に、和泉守は泣きそうな、酷く何かを後悔している顔をした。

「…あの時の俺は、気が立っていて、余裕がなかった」

「ああ。傷ついて精神的に追い詰められていたんだろうな。だから俺は手入れを優先した」

「傷が治っても、すぐには落ち着いてあんたの行動の真意を考えられなくて、邪推した」

「出会って数時間の相手を簡単に信じられたらそっちの方が心配になるけどね、俺は。…君が仲間思いの優しい子なのはわかるよ。他の子たちも、"そう"なんだろうね」

淡々と、小鳥は言う。

「そんな優しい子たちに、精神的に追い詰めて思いつめさせるようなことをした前の審神者に大きな非があるんだろう。…何やら、よろしくないこともしていたみたいだしね」

小鳥は目を細めた。

「でも、私はその審神者とは面識も縁もゆかりもない、見知らぬ他人なんだよ。他人の八つ当たりの敵意にじっと耐えなきゃならない理由があるかな。…もしそれがなくなったとして、二度とそれがぶり返さないって信じられるかな」

「…あんたは、一時の気の迷いも流してはくれないのか」

「人は、変わる気になれば己を変えられる。でも、その根本は簡単には変えられない。…眠る前の己と目が覚めた己が同一でないかもしれないんだ、いつの己と同じでも、違っても、おかしくはないだろう」

小鳥の主張は混沌としている。ただ、誰も信じていないのだということはわかった。

「主様…」

「…ごめんね、僕も八つ当たりだ」

小鳥は困ったように微笑う。

「俺は他人に嫌われるのには慣れているけど、友達がいないから友好的な関係がどんなもので、どうやって作るものなのかわからないんだ」

妹弟との付き合い方は、それなりにわかるんだけど、と小鳥は付け加えた。

「…それだけじゃ、ないんじゃないか?」

鶴丸の問いに小鳥は無機質な瞳を返す。

「君の、先程の反応は尋常じゃなかった。何か…」

「それを聞いて、どうするんだ?…僕は別に、慰めも同情も求めていない」

「君のことをちゃんと知りたいんだ」

「…。…敢えて言うなら、そうだな…私は、友達だと思っていたんだ」

端的すぎて事情はわからない。だが、何かあったのだろうことはわかった。そして、それはきっと…裏切りとか、そういう言葉で呼ばれるものなのだろう。

「俺の過去なんてどうでもいいよ。君たちには関係のないことだ。…俺にも、もう関係のないことだ」

小鳥はそう言って、僅かに迷子になった子供のような、寂しそうな目をした。和泉守が手を緩め、代わりに小鳥の頭を自分の胸に押し付けるようにして抱き寄せる。

「優しいのは俺じゃなくてあんただろ」

「人間は優しくなくても優しくできる。義務感とか責任感みたいなものとか、外面とか、目上の人間に頼まれたりとか。…あと、俺は特に優しくした覚えはないんだが」

「俺たちのことを第一に考えて動いてくれてたのは、優しさじゃないのかい?」

「別に特に言及する程のことはしてないと思うが」

「退屈だって言ってたら仕事を切り上げて相手してくれただろ」

「手入れの時、よく頑張ったな、って頭を撫でてくれました。それに、虎君を探すのを手伝ってくれましたし、折り紙も教えてもらいました。それから、疑問に思ったことを聞いたら、ちゃんと説明してくれました」

「そもそも、俺たちに選択の余地を与えたのは優しさなんじゃないのか。別にそれであんたに都合がいいわけじゃないんだろ。…死にたくて来たわけじゃないんだから」

「それは、別にわざわざ言う程の優しくしたことじゃないだろう。俺はただ、そうするべきだと思ったことをしただけだ」

「ったく、本当面倒くさいな、あんたは。やらない善よりやる偽善なんだろ?逆に、あんたがそうされたら、それを優しさだと思わないのかよ」

「………思う、かもしれない」

それ見たことか、という顔をする和泉守に、小鳥はぼそりと返す。

「…選択の余地というのが、俺の出した三択だというなら、それは別に優しさではないがな」

淡々と、小鳥は言う。

「だって、俺に従えと、そう言った方がお前たちは気が楽だっただろう。従うにしても、逆らうにしても」

"命じられたから"。そういう大義名分を小鳥は与えなかった。あくまでも、己の意思で選ばせようとした。

「あれは俺の我儘だよ。俺は選びたくなかったから」

「だが、俺たちもそこですぐ選ばなかった」

だから余計に話がこじれたことは否めない。まあ、元々色々と話が面倒なことになっていたことも確かなのだが。

 

 

 

色々と面倒なことになってきたので、一旦仕切りなおしがかかった。

「正直、もうさっさと話をまとめてしまった方がいいんじゃないか」

幸か不幸か、今本丸内に所属する刀剣は全て揃っている。

「でも、それって…」

「全員が小鳥につくなら何も起こらない。そうだろう?」

しかし、そうでないことは皆知っている。

「…そもそも、何故あなたたちはその人間を受け入れようと思えるのです」

「俺は自分に見る目があると思ってるからな。前の審神者がどうとかはひとまず置いておいて、小鳥という人間は悪い奴じゃないと思った。それだけだ」

「そもそも俺たちは刀の付喪神(とうけんだんし)だ。人間全部を拒絶しようってのが妙な話だろう。お前だって前の…刀として扱われてた時の主は嫌いじゃなかっただろう?」

「それは…」

一期一振は僅かに目を伏せた。

「一兄も、主様に頭を撫でてもらったら、主様が優しい人だってわかると思います!」

「えっ」

五虎退の主張に狼狽えたのは寧ろ小鳥だった。

「僕、主様がよく頑張った、って撫でてくれて、すごく安心したんです。この人は、大丈夫だって、そう思いました」

「…いや、その、アレは、もののはずみというか、本当はあんなことするつもりはなかったというか、なんというか」

「僕は、嬉しかったです。また、褒める時には撫でてください」

「……ああ」

「おお、それなら俺たちもそうしてくれ」

「は?!」

「すきんしっぷ…」

「俺も撫でていいんだぜ?」

「あ、じゃあ俺も撫でてみてほしいでーす」

「お前ら絶対面白がってるだろ?!そんな気軽に俺よりでかいやつが撫でられるかっ」

小鳥はぎゅっと握った手を胸元で押さえる。

「…大体、私なんかが触るのは、嫌じゃ、ないのか」

「僕は主様に触ってもらうの好きですよ」

「…何か既視感をたまに感じると思ってたけど、小鳥さんって山姥切さんと似てるところありますよね」

「…ああ、折角整った顔してるのに自分の顔を隠そうとするし、何か卑屈でネガティブなところがあるな。…他のやつへのコンプレックス、ってのとは違いそうだが」

鯰尾と鶴丸がうんうん、と納得したように頷いている。

「…なんだかよくわからないが不本意な納得をされた気がする…」

「…確かに、必ずしも悪い方ではないのかもしれませんな」

「…それ多分自分より焦ってる人見ると冷静になるのと同じことだと思うんだよね。だって、あの子アタシらより人間不信酷いだろ」

「そう…かもしれません」

「まあ、試しに俺の頭撫でてみてくださいよ、小鳥さん」

「いきなり口実も何もなくぶっ込んできたなお前?!突然の無茶ぶりはやめろ」

「何が無茶なんです?ほら、外見年齢的には俺はあなたより年下でしょう。未成年ですし」

「実年齢は俺よりはるかに年上だろうが」

「顕現してからは何年も経ってませんよ」

「古株のやつでも精々5年ぐらいらしいからなぁ」

小鳥は反論に詰まる。

「俺のことも今日までよく頑張った、って褒めてください」

「………。…ああ、よく頑張ったな」

小さくため息をついて小鳥は鯰尾の頭を撫でる。

「なんかすごいぞんざいな扱いをされた気がする…」

「だって俺お前が本当に頑張ったかどうか知らねぇもん。…いや、頑張ったは頑張ってんだろうけど」

「…しかし、君は本当に霊力の制御が苦手なんだな」

「へ?」

「今、鯰尾を撫でた時、鯰尾に霊力が注がれてただろ」

「…そんなことをした覚えはないんだが」

「ああ、それは割と素直に気持ちよかったです。しょうがねぇなあ、って思われてる感じがしたんであんまり楽しめなかったですけど」

「(…めっちゃバレてる)」

「つまり、五虎退の時は本当に気遣ってるのが伝わったから安心したってわけか。ってことは、小鳥が本当に労うつもりで撫でたらそれが伝わるってことだな」

「無茶を言うな」

「…そういやあ、こいつの霊力はかなり質がいいんだよな」

ぼそりと和泉守が呟く。

「手入れされてすぐは、全く害意を失ってた」

鳴狐が頷く。

「…確かに、あの時だけは、人間に対するわだかまりも忘れていたような気がする」

「アタシはあの時点でこの子が主でも別にいいかな、って思ってたかなー」

「…そういえば、あの時は手入れを受けた後に攻撃した者はいなかったな」

「小鳥殿が小狐丸様を手入れして倒れたので色々有耶無耶になりましたが…もし、そうなっていなかったら、皆契約を結びなおすことに否やを言わなかったかもしれませんね」

 

 

「俺は別に小鳥についてもいい、って気がしてるぞ」

同田貫がそう言って小鳥を真っ直ぐ見る。

「無茶な采配はしなさそうだしな。…俺は自分の本分を果たせりゃそれでいい」

「そりゃあわかりやすいな」

小鳥は肩をすくめる。

「しっかし…結論を出すのは一週間経ってから、じゃなかったのか?」

「こいつが己は殺されるもんだと決めてかかってて遠慮しすぎてるもんだから、ちょいと意識を変えてほしくてな」

「…真っ先に殺そうとしてた俺の言えることじゃねぇだろうが…そこまで信用ねぇか、俺たちは」

「正直、一週間ってのが死ぬための心の準備をしとけってことかと。…まあ、一応、此処に来る時点で死ぬ覚悟はしてきてたんだが」

「…マジか」

「マジだが」

「…一応、引き継ぎとしてやってきたやつを追い返したことはあっても殺したことはないんだが」

「先輩が、俺に審神者になろうと思った原因の刀剣に会わせてくれたから、これで心置きなく死んでこいって意味かと思って」

「審神者になろうと思った原因?」

「三条の青い太刀と、話してみたかったんだ。どんな人か、興味が湧いてて。…予想通り半分、予想外半分、で、なんというか、先輩のところの打刀が年嵩の刀は一筋縄じゃいかない相手だって言うのに納得したな」

うんうん、と小鳥は頷いた。

「…三条の青い太刀、って三日月か。君も厄介なのに惚れたもんだな」

「勝手に惚れたことにするな。俺はあの人がどんな声の人なのかってのと、物腰柔らかそうだけど何故かドS臭がしたから実際どういう話し方でどんな性格の人なのかってのが気になっただけだ。後、俺はマゾじゃないからサドの相手は遠慮したい」

「お、おう…」

「――どえす、とは何だ?」

「ぴゃっ」

背後から三日月に声をかけられ、小鳥は反射的に同田貫の後ろに逃げた。

「と、突然話しかけるなよ三日月」

「何やら、俺の話をしていたようだったからな」

「…どえすというのは、平たく言えば、いじめるのが上手いいじめっ子のことだ。ただの性格が悪いいじめっ子ではなく、飴と鞭の使い方が上手かったりして不思議といじめられっ子に嫌われなかったりあまつさえ好かれてたりする者のことを指す。単純に加虐趣味のある人を指すこともあるが」

「ほう」

「…どえす」

「…あながち違わない気もする」

「俺は別に加虐趣味はないぞ」

同田貫は若干ジト目で、鶴丸は深刻そうな顔で三日月を見た。三日月はゆったりと微笑んでいる。小鳥は同田貫の後ろから警戒心たっぷりに三日月を見た。

「無駄に一週間とか言い出した時点で説得力がない」

「あなや」

「…そういえば、君はどういう立ち位置なんだ。…素直に小鳥を主として受け入れようという気はないんだろうが」

「(…敵意自体は、不思議と感じないが)」

「ああ。霊力の質だけは申し分なかったので、当初は心を壊して人形にでもしてやるのが一番良いかと考えていたのだがな。…まあ、鶴たちが気に入ってそのままで良いというのなら、それでも良いのではないか」

「なにそれこわい」

「…じーさんさらっと外道なこと言ったな」

「…それで一週間、か」

「地上に留まろうというのなっら、審神者を拒み続けることはできまい」

 

 

 

結局、誰も刀解を選ばず、小鳥も殺さず、契約を結びなおすことで話がまとまった。大半の刀剣は積極的な害意は持たない様子見中立派だったというのもあるが、数人の人間拒絶刀剣を説得することに成功したからである。

色々と、小鳥にとっては弊害も発生したが。

「…なんでこんな人口密度が上がったんだ」

「主と契約を結び直した以上、遠慮する必要もなくなったと判断いたしました」

「てめぇ、相手が主ならそれでいいのかよ…」

「長谷部殿は"社畜きゃら"らしいですしなぁ」

「働き者で片付けられないからなぁ、長谷部の旦那は」

「主命なら大体何でも聞くしなぁ」

「アレで当初から小鳥さんにつく気でいたってのが驚きですよねー。まあ、あの人審神者ガチ勢ですもんねー」

「忠犬というやつじゃな」

「…なんだか、僕だけ場違い、のような気がします」

「俺寧ろ五虎退ともう後一人か二人、くらいにしといてほしいんだけど。何この人口密度」

しかも8人中3人が太刀である。でかい。

ちなみに現在地は審神者の執務室になる。あまり広い部屋ではない。現に、五虎退は鶴丸の、小鳥は和泉守の膝の上に座ることになっている。特に小鳥は解せぬ、という顔をしている。

「そりゃあ、あんたがちゃんと近侍を決めないからだろう」

「近侍とか関係なく面白がってきてるだけっぽいのが若干名いるがな」

「だって小鳥さん体格が好みの人といると生理現象レベルでドキドキするんでしょう。どうなるか気になるじゃないですか」

「…いや、それを認識した時にドキドキするのであって別に常にドキドキするわけじゃないし…」

「ほー、ちなみにそれはどういう相手なんだ?」

「え?そりゃ、こう、並んで僕が斜め後ろに立って大体頭のてっぺんが肩くらいの身長差で、ちょっと見上げた時に頼れる感じの背中が」

立ち上がって手振りを加えて説明していた小鳥は、ハッとしたように言葉を止め、逃亡を謀る。

「何で逃げるんだよ」

腕を掴んでそれを止めた和泉守は小鳥が赤い顔をしていることに気付いた。

「そうそう、小鳥さんの身長だと多分太刀三人と長谷部さんは当てはまりそうですけど、照れなくても大丈夫ですって」

「もうやだぼくおうちかえるううう」

「そんなこと言わなくてもいいじゃないですか(笑)」

小鳥はぶんぶんと腕を振り回す。

「うわああ墓穴ほったあああ」

「あっ、主様、落ち着いてくださいっ」

「頼れる背中か…小鳥も女の子だし、かっこよく守られたらドキドキしちゃう感じか?」

「別にそういうんじゃないしドキドキするのは生理現象であって深い意味とか存在しないから気にしなくていいですいや本当に」

「そんな明らかに挙動不審になっておいて、気にするな、ってのは無理な話だろう」

「うっ…」

「小鳥さん真っ赤になってますけど、ドキドキしてるんですか?どうなんですか?」

「別の意味でな」

「私はぬしさまの好みに当てはまっているのではありませんか?」

小狐丸がとても良い笑顔でそんな事を言う。

「いっそころせ」

「殺さないって言ってるだろうが」

「僕を恥ずかしがらせて何が楽しいんだ。くそ、離せ。俺はもう穴を掘って埋まる」

「またあんたは滅茶苦茶なことを…」

「あわわわわ」

「小鳥殿は完全に冷静さを失っているようですが…」

「小鳥さんも難儀だよなぁ…」

「貧乏くじ引く人だね」

粟田口の三人が心配そうな視線を向ける。

「あまり主を困らせるな」

長谷部が刀に手をかける。

「今、片付けて差し上げますので、主は大人しくお待ちください」

「何をどう片付ける気だお前」

「主はどうぞ、俺を頼ってください」

「こんなにも不安になる俺に頼れはそうそうないと思うぜ俺は」

「つぅか、長谷部より俺の方が頼りになるだろ」

「積み重ねたフラグ的には俺じゃないか?」

「いじめっ子が何か言ってる」

「あああ主様は僕が守りますっ」

「…(きゅんっ)」

「これもう完全に五虎退の一人勝ちなんじゃ…」

「たーいしょ、あんた"しょたこん"じゃないよな?」

「いえすろりしょたのーたっち」

「つまり?」

「可愛いものが好きなのと、無闇にドキドキするのと、ムラムラするのはまた別の話だ。というか俺は無性愛者だから」

 

 

「…ちょっといじりすぎたか」

「主…」

「焦ってる小鳥さん、可愛かったですね」

「ズオ兄、そいつは流石に趣味が悪いぜ」

「目新しいものではありましたが、可愛いというのはどうでしょうか」

「…わかる」

「?!」

「…納得いかねぇ」

「女心はやはりようわからんのぅ」

 

 

 

「…えっと、主様」

「…悪い。ちょっと時間置いたら他のやつと交代してくれていいから」

「いえ、その…僕が近侍で、いいんですか?」

「信頼度単独トップよりも相応しいやつがいると?」

「え?!こ、光栄、です…」

「…いや、といっても何を頼むわけでもないから、暇をさせてすまないんだが」

手伝ってもらおうにも執務はまだ自分がこなすので手一杯だ、と小鳥は付け加えた。

「えっと、それじゃあ…僕は此処をお片付けして、お茶を淹れてきますね」

「…ん、助かる」

五虎退ははにかむように微笑った。

 

 

「主様、お茶が入りました」

呼びかけ、返事がないことに五虎退は首を傾げる。

「…主様?」

静かに歩み寄った五虎退は、小鳥が文机に突っ伏して眠ってしまっていることに気がついた。眼鏡が机の上に放り出されている。

「えっと、こういう時は…そうだ、掛布を、かけて差し上げないと」

お盆を机の上に置いて、五虎退は隣の審神者の私室に入る。部屋の中を見回し、椅子の背もたれに引っ掛けてあった薄手の毛布が丁度良さそうだと手に取って執務室に戻った。五虎退がそっと布を小鳥の肩にかけると、小さく身じろぎする。

「あ、もしかして、起こしてしまいましたか…?」

「ん…」

小鳥は机に頬をつけたまま五虎退を見てゆっくり目をしぱしぱした後、また目を閉じた。

「あの、眠るんなら、座ったままよりは畳に寝転がってしまう方が楽だと、思います」

「それは、流石にだらしない、かなぁ…」

「でも、体が痛くなって、しまいますよ?」

「布団じゃない時点で、どっちもどっち、かなぁ…」

どうやら、小鳥はそれ以上動く気がないようだった。五虎退は少し困った顔をしたが、そのままにしておくことにした。いくらも経たない内に、小鳥はまた小さく寝息をたて始める。

「…主様、お疲れだったんでしょうか」

 

 

 

 

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