家事は大体式がやっているが、本丸内の掃除(浄化)は都合、二人でやっている
完全に祟刀でなくなるには拘束術式が必要だけど浄化でどうにかなるレベルでは浄化しきった
「雛鳥よ、はぐれぬよう気を付けてくれ」
「気を付けろと言われても、俺こういうところ初めてだし…あ、手、繋ぐ?」
「そうだな。繋いだ方が安全だろう」
小鳥が差し出した手を、山鳥毛は躊躇いなく握った。寧ろ、小鳥の方が戸惑うぐらいである。山鳥毛は買い物メモを確認して、さて、と呟いた。
「とりあえず食材から調達するか」
「食材以外もいるんだ?」
「石鹸や油なんかが必要らしい。後は、畑に植える種なんかだな」
「畑」
「何を植えるかの指定はないから、雛鳥の好きなものにするか。何が食べたい?」
「んー…とうもろこし…?」
「とうもろこしか。背の高い野菜だから植える位置を考えないとならないな」
「というか、種って此処で調達して大丈夫なの?なんか得体の知れないものが生えてきたりしない?」
「まあ…妙なものに手を出さなければ大丈夫だろう。現世では今流通していない品種の可能性はあるが」
「…品種改良前の古代種とか出る可能性あるんだ…?」
「買う側の目利きの腕の見せ所だな」
「さんちゃん目利きできるの?」
「とうもろこしはわからないな」
などと話しながら、まず足を止めたのは魚屋の前だった。海鮮が並べられている中にちらほら正体不明の切り身なんかが混ざっている。
「…なんかすごい色の切り身がある」
「しっ…店主、そちらのサンマとアジを六尾包んでくれるか?」
狐面の店主はおそらく妖なのだろう。山鳥毛とぽつりぽつり言葉を交わし、古銭と引き換えに大きな植物の葉に包んだ魚を差し出した。山鳥毛は受け取ったそれを買い物袋にしまった。
「雛鳥は何か欲しいものはあるかな?」
「んー…特にはないかな」
「そうか。では次に行こう」
物珍しそうにきょろきょろと町を見ている小鳥に山鳥毛はくすり、と笑い、手を繋いでいて正解だったな、と胸の中で呟いた。これは間違いなく、ちょっと目を離すとはぐれるやつである。流石に手を繋いでいるなら、はぐれないだろう。今日は妖横町もそこまで盛況しているというわけではない。特に何もない日なのだろう。
「雛鳥よ、足元には気を付けるのだぞ」
「え、あ、別に大丈夫だも」
ん、と言おうとした丁度その時、足元が滑って小鳥は体勢を崩す。山鳥毛はそれを抱きとめて、溜息をついてみせた。
「言った傍から転んでいるようだが」
「ごめん…」
何が起こったかわからない、というように小鳥は目を白黒させている。
「立てるか?雛鳥」
「大丈夫」
小鳥は不思議そうに足元を見るが何があるわけでもない普通の地面である。
「土の地面って何もなくても滑るの?」
「全く滑らないということはないだろうな」
「ふぅん…」
小鳥は地面の感触を確かめるように足を動かす。山鳥毛は苦笑のような表情を浮かべた。
「…雛鳥は見鬼の才がないのだったか」
「?」
「いや。雛鳥よ、疲れたのならそこの茶屋にでも寄るか?」
「茶屋?」
「雛鳥には馴染みがないか。茶や酒、それにちょっとした甘味なんかを出す店だ」
「甘味」
小鳥の目が輝いたのを見て、山鳥毛は小鳥を茶屋へ促す。
「茶と団子を二人前いただけるか」
茶屋の娘に注文と支払いを済ませ、山鳥毛は小鳥を促して茶屋の前の縁台に腰かける。小鳥は物珍しそうに台の側の傘を見上げた。
注文の品はほどなくして届いた。いあただきます、と手を合わせて団子に口を付けた小鳥が頬を緩ませるのを見て、山鳥毛も目元を緩める。
「腰物の方とお稚児かな?」
「この方は私の小鳥だ」
山鳥毛が鯉口を切る素振りを見せると、妖は一歩引いた。
「これは失礼をば」
「・・・」
「そう睨まずとも良いでしょう」
山鳥毛が刀から手を離さないので妖は小鳥に諫めてくれるよう頼もうとしたが、殺気を向けられて押し黙った。
山鳥毛が刀に手をかけているのに気づいた小鳥が首を傾げる。
「さんちゃん…?」
「気にするな。羽虫がいただけだ」
「?」
きょとんとした小鳥に微笑を返し、山鳥毛は居合抜きに一閃した。
「悪縁、断つべし」
「ふぇ」
小鳥はきょとんとする。山鳥毛の斬ったものが見えていないのだ。刀を鞘に納め、山鳥毛は小鳥の頭をぽんぽんと撫でた。
「追加の団子を頼むか?」
「いや、十分だけど」
「そういえば今更なんだけど、式の子たちって妖横町に行けないの?付き添いじゃなくて単独の買い出しで」
「来ること自体は可能だろうが、買ったものを運ぶのがひと手間だからな。配達も余程信用のおけるものでなければ避けるべきだろう」
「あー…」
本丸内の式は皆、小人サイズ、大きくても幼児程度である。四次元収納を使うにしても、一度手に取らねばならないのが難しい。
「それに、彼らは己の職能に特化しているからな。交渉事はあまり向かないのではないか。妖にナメられるかもしれないしな」
「成程…」
まあ式にも色々あるので、一概には言えないのだが。神格持ちの式神とか。