ふたりはいつものように妖横町に買い出しに来て、買い物の途中に休憩の為、茶屋に立ち寄った。縁台に並んで団子と茶を楽しんでいると、「おや」と声がかかった。
「余所の本丸の山鳥毛か。珍しいこともあるものだ」
「…鶯丸に山姥切長義か」
「俺とも面識があるんだね」
山鳥毛は肩をすくめた。小鳥はきょとんと小首を傾げる。
「お前の契約している審神者か?」
「…だったら何だというんだ」
「いや、ただの確認だ。お嬢さんは俺のことは知っているかな?」
「?…ううん。俺、山鳥毛以外の刀剣男士?は、知らないから…」
「…小鳥」
「なに?さんちゃん」
「…成程」
「俺は山姥切長義という。君の名は?」
「俺の号は小鳥だよ」
「小鳥ちゃん」
「ほう、山鳥毛に小鳥と呼ばれているということか?」
「ううん、山鳥毛はどっちかっていうと雛鳥って呼ぶよ」
「……雛鳥よ」
小鳥は口の前で指でバッテンを作って首を傾げてみせた。
「初対面の相手の
山鳥毛の言葉で鶯丸は、はははと笑ってみせる。
「聞いて拙いことは聞いていないと思うが。それに、此処での出会いは一期一会だろう」
「・・・」
山鳥毛が眉根を寄せたのを見て、小鳥は彼の上着の端をぎゅっと掴んだ。彼は小鳥に視線を落とし、よしよしと頭を撫でる。
「…成程雛鳥」
「鶯丸殿」
「ははは」
「…山鳥毛殿、"介入"は必要じゃないのかな」
「…。…私の雛鳥に害ある介入であれば不要だ」
「…成程」
「主、妖横町で珍しいものを見たから一応報告しておくぞ」
「ん、何だ?」
「余所の本丸の荒御魂な山鳥毛と、他の刀剣との契約を結んでいない審神者だ。審神者の方はそもそも他の刀剣と面識がないらしい」
「…それは珍しいものというか、ブラック案件では?」
「一応、俺の方で監査部に通報しておいたけれどね。…特定できるかどうかは五分五分くらいかな。あの子の就任時期が特定できれば早かっただろうけど…」
「そんなあからさまに拙かったのか。…いや、荒御魂だもんな…」
「まあ、うん…。…事案というか…」
「事案」
「…雛鳥認識で慈しんでいるようだったけれど、手籠めにした形跡もあってね…」
「…それは事案だわ。うちの一文字には内緒にしとかねば」
「荒御魂だというなら、生贄として差し出されて"受け取った"結果、少し治まった、という可能性もあるのでは?」
「あー、エンキドとシャムハトみたいなやつ…」
「それは知りませんが。下手に引き離そうとするのは逆効果では?」
「それはね…小鳥ちゃん…審神者の子の方も山鳥毛に懐いている様子だったしね…」
「――私がどうかしたか?」
「あっ」
「山鳥毛殿」
「余所の本丸のお前に妖横町で会った、とそれだけの話だ」
「本当にただそれだけで済む話なら、小鳥が私を見てそんな顔をすることはないと思うが。その山鳥毛は何をやらかしたんだ?」
「…事案、的な?」
「事案?」
「…雛鳥の小鳥ちゃんを手籠めにしてる可能性があるというか」
「…。小鳥、急用ができたので私は出かけてくる」
「待って待って待って。その山鳥毛、荒御魂らしいし、小鳥ちゃんに懐かれてるらしいから!」
「荒御魂に手籠めにされて懐いているとしても、それはストックホルム症候群というやつだろう。同位体として切腹をさせねばならない」
「そうかもしれないけど何処の本丸か知らないでしょ待って」
「・・・」
「一応、俺の方で監査部に連絡はしてあるから」
「…山鳥毛的には切腹案件なんだ…?」
「そういうことは己で正しく判断できる年になってからきちんと合意を得てするべきだろう。無知な雛鳥に手を出すのも、無理強いするのも、卑劣な行為だ」
「んー…まあ、あの山鳥毛は雛鳥と認識しているようだったが、あの子が実際幼子かどうかは微妙なところだな。主より年下なのは確かだが」
「最低でもローティーン…もしかしたら、成人してるかな、というくらいには見えたかな。精神的に幼児退行してるのかも、って気もしたけど」
「今の子は、経験はともかく知識の面ではそれくらいで充分知ってる子もいるからなー。義務教育中に授業もあるはずだし」
「・・・」
「今はそうなんだね?」
「自衛には正しい知識が必要だろう?特に女の子は肉体的なリスクが大きいし」
「うん、まあ、自衛は大切だ」
「審神者が純潔を保っているくらいの方が都合がいいしな。水子を抱えているようなものでは怪異を呼び込みかねない」
「それは極端な例じゃないかな…俺だって結婚願望はあったし…」
「審神者の婚姻関係はトラブルになることが多いからね…相手が審神者であれ、それ以外であれ」
「それ以外って枠が広すぎんだろ」
「問題を大別すると大体そんなところになるからね」
「…あー」
碧凪さんちの鶯丸と長義 たぶん四十代男性