政府勤めの山鳥毛(二つ名ではない)軍刃 多分内務部 合理主義な個体
「…で、子猫がダウンして私が呼ばれたわけか」
「南泉一文字にとって、枠外の山鳥毛と対峙することは精神的なストレスが大きかったようです」
「術師の子も負担が大きいから交代してもらったしね…」
しかし、該当本丸に送りこまれていた審神者は保護したし、そこの山鳥毛も封印ないし、概念拘束に成功した。本丸は解体処分になる。
「俺も骨喰と交代させてもらいます。…って言うか寧ろ、山姥切さんはバトンタッチしないで大丈夫なんですか?」
「問題ないよ。次が大本命のはずだしね」
「荒御魂らしいが、経緯はわかっているのか?」
「いや…データの改竄か、何らかの不正があったのだろうが…データ上、いるのは山鳥毛ではなく、大包平ということになっている」
「枠外個体は本来の分霊から霊基が変化していることも多いので、現在外から霊力照合を行ってもエラーが出るだけだと思われます」
「私を大包平殿と誤魔化すのは無理があると思うが…」
「霊力規模と刀種は同じだろう」
「…一文字は古備前縁だから、全くの無関係でもない…にゃ」
「これも外れで本当に大包平殿がいる可能性もある。まあ、そうすると例の本丸の手がかりが全くなくなって困るんだけど…」
「その場合、凍結本丸の監査行脚が始まるわけだな」
「それは流石に避けたい、かな…」
「…凍結本丸とは思えない清浄な空気だな」
「生物の気配が…小さいものばかりだな」
「少なくとも、複数の刀剣が活動している気配はないね」
「…このような場で大規模な術式を確実に成功できる自信がないのですが…完全にアウェーというか」
術師が眉尻を下げる。
「それは、場を支配している者の合意を得られれば逆に力添えがあるということじゃないかな?」
「本丸での術の行使はそれが己にできて当然と信じることも大事なのだろう。もっと前向きに考えろ」
「…ところで、"この場を支配している者"だが」
「「「・・・」」」
素直に考えるのであれば。荒御魂として神格の高まっている山鳥毛の可能性が高い。しかし、それにしては…元が祟りのものに掌握されているにしては、空気に濁りがない。清浄にすぎる。だから、また別の何かがいる、という可能性もある。
「結論を出す前に探索をしないとね」
「お客さま?」
「えっ」
いつの間にか、屋敷の玄関から少女が覗いている。式らしい小人の姿もある。
「…お前が小鳥か?」
「…うん。俺の号は小鳥だよ」
小鳥はより警戒するように扉に隠れる。目元だけがじーっと長義たちを見ている。
「…そういえば、弟くん、姉は人見知りだって言ってたな…」
「雛鳥、下がっていなさい」
「あ、さんちゃん」
この本丸の山鳥毛が、しっかりと戦装束をまとって前に立つ。
「山姥切長義ということは、監査の方か。何をしに来た?」
「…監査部としては、適切な運営が行われていない本丸があるとなれば、是正の必要があるからね。君もわかっているとは思うけれど」
「・・・」
きゅっと眉根を寄せる山鳥毛を見て、長義は肩をすくめてみせる。骨喰が横から言う。
「俺たちは積極的に争いたいわけではない。お前が枠外個体なら概念拘束を受けて二つ名持ちになってもらいたいが、折ろうという気はない」
「…私は、今更己が折れることを恐れはしない」
「あ、さんちゃんはまたそういうこと言う!!」
「雛鳥、少し黙っていてくれ」
「やだ!」
「雛鳥」
小鳥は山鳥毛の腰にしがみついた。
「さんちゃんは、やさしいヒトだよ。自分を粗末にしないで。これは、煽りとかじゃないからね!」
「雛鳥…」
山鳥毛は己の口元を手で押さえる。政府勤めの方の山鳥毛がぽつりと言う。
「あいつの二つ名は、親鳥でいいのではないかな」
「親鳥」
「親鳥」
「誰が親鳥だ」
「お前だよ」
政府の山鳥毛がふたりに近づいて、小鳥をひょいと抱き上げる。
「ぴ」
「っ、小鳥」
「術師くん、拘束術式を手早く。そこの親鳥が変な暴走をしない内に」
「あっはい」
「お前、私の雛鳥を泣かせたらその首飛ばすからな」
「術式に巻き込まれないように離れていてもらうだけだ。そもそも私たちはこの子を保護することはあっても危害を加えることはない」
「…さんちゃんも虐めたらだめっ」
「苛めるのではなくて、現在不安定になっている霊基を枠内に引き戻して安定させる術式だ。簡単に言うと、祟りに元、という冠詞を付けて、刀剣男士に引き戻すための術式だよ」
「…さんちゃん、苦しくなったりしない?」
「今のままの方が苦しいだろうね」
「…わかった」
「(!突然反発力が…ってことは、此処の支配者ってあの子?!)」
「術師くん、集中!」
「あっはい」
「…なんかさんちゃんのにおいが違う」
「におい」
「小鳥ちゃんは相手の霊力を嗅覚でとらえるタイプかな?」
「それで、これからどうするかだが」
「どうするもこうするも…」
「しいて親鳥を雛鳥から引き離しはしない。…だが、この本丸…過去に何があった?」
「…報告書なら提出するが、雛鳥に聞かせるには陰惨に過ぎる」
「うーん、長くなるならば、当事者に直接まとめてもらった方がいいかな…」
「小鳥が希望するのであれば、監査部の方で採用することもできるが」
「?」
小鳥はきょとんと首を傾げる。
「黒派閥から保護された審神者は契約中の刀剣の数が少ないほど軍に不信感を持つ可能性が高い。生命の危険なども影響はするが」
「んー…嘘を吐かれたのは腹が立つけど、さんちゃんに出会ったのは幸運だったと思うよ」
「嘘、とは」
「俺、審神者の仕事は本丸でこんのすけが教えてくれるって言われてきたんだよ」
「…審神者の配属は本来、支部での集中講習か、養成所で学んでからなんだよね…」
「…呪術講習なら、試験の後にあったけど…三時間くらいのやつ」
「…え、こわっ」
「よく生きてたな…」
「自己観測が得意なんだね…?」
「きちんとした師を付けてやった方がいいんじゃないか」
「待て、私も三時間ぽっちというのは初耳だと思うんだが」
「言ってなかったっけ?」
「…此処に来る前に一通り教えてもらって、使えるのは治癒と強化とビームくらい、と言っていなかったか」
「うん」
「…いや、怪異のことを知らなかった時点で片手落ちなのは明白だったな…。…浄化についてもわかっていなかったし」