刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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就任前に一回実家に帰った 


小鳥の巣11

 

 

「ただいまー」

「お邪魔する」

久しぶり(二か月ちょっとぶりということになるんだっけ)に帰る我が家は特に変わりなく、飼い猫の警戒心の強い方に誰だこいつって顔をされたくらいだった。警戒心のない方は初対面相手で媚を売るからわからん。

「虎太郎くん、俺だよー」

いや、別にいいんだけど。

「くーちゃんもただいまー」

よしよし、お前は相変わらず野生というものが皆無だな。そして小さい。軽い。やっぱりこれ以上育たないのか。

「雛鳥は、猫が好きなのか?」

「寧ろ猫を愛さない人間っているの?」

いや、いるから猫の虐待事件とかあるんだろうけども。

「…ふふ、そうだな」

何故頭なでなでする。ぼけてみただけなのですが。ですが?」

「うにゃにゃ」

「私も猫は嫌いではないよ」

なら、とくるみを差し出してみるが、俺の頭から手が移動しない。

「俺は猫じゃないぞ」

「そうだな」

「くーちゃんは噛みつかないぞ。…たぶん」

少なくとも、本気噛みはしない…多分。猫ってなんか撫でてて突然噛みついてくることとかあるからな…。

「多分」

「俺はくーちゃんじゃないから、くーちゃんがどう思うかはわからない」

「そうだな」

「さんちゃん」

「はは。雛鳥が愛らしかったのでな」

山鳥毛のツボが正直わからない。まあ、好みは人それぞれだしな。山鳥毛は人じゃなくて刀だけど。

 

 

 

「何か事件に巻き込まれていたらしいって話だったけれど、大丈夫だったの?」

「うーん、俺は特に怪我とかはしなかったよ。実質軟禁状態だっただけで」

「そう?あなたが無事なら、それは良かったけれど…」

「うん、無事だよー」

処女は喪ったが。いや、私も年齢的には立派な大人なので、まあ、うん…自己責任、というか。別に結婚願望も出産願望もないしなー。

「ところで、そちらの方は?」

「これは自己紹介が遅れたな、御母堂。私は山鳥毛。彼女と契約を結んでいる刀剣で…まあ、実質的な初期刀だ」

「ざっくりいうと、仕事のバディみたいなものかなー。やさしいヒトだよ」

何か二つ名が親鳥になったらしいが。

「そう…お母さんちょっと、突然こんな大きな義息子ができるんじゃないかってびっくりしちゃった」

「流石に今のところそんな話にはなってないかな…」

ねぇ、と山鳥毛を見たら、激しく動揺した様子だった。大丈夫かお前。

「…私としては、それならそれで構わないが」

別に責任取ろうとしてくれなくて良いのだが?

「いや。私は刀としても古臭い方だからな。雛鳥の相手には年を取りすぎているだろう」

まず種族の差に言及するべきでは?いや、別にいいんだけど。

「どんな方が相手でも、お母さんはあーちゃんが幸せになれそうならいいと思うのよ?家族会議にはなるかもしれないけど」

さんちゃん、見た目が堅気じゃないもんね…。でもそもそも俺、無性愛者だから彼に対する恋情とかはないわけだよ。話を飛躍させないでほしい。

「…まあ、仮に私が結婚することになる日が来るとしたら、事後報告じゃなくてちゃんと連絡入れるから…」

まあ、そういう予定はないんだけど。

 

 

 

「…うっわ」

久しぶりに会う姉に対する反応がそれって酷くないか弟よ。

「…。…まあ、あーちゃんならなんだかんだどうにかなるか…」

「何が」

「あーちゃんは多分知らないままでいいよ」

「…雛鳥の兄か?」

「いや、弟。っていうか、末の弟」

にょきにょき伸びて二人とも俺より背が高いんだがな、我が弟どもは。なんだ、身長は父に似たということか、ずるいぞ。

「弟」

「弟」

「どうも、姉がお世話になっているようで」

「…私も少々雛鳥には世話をかけた身だ。お互い様というやつだな。…ところで、弟が老け顔なのか雛鳥が極端な童顔なのか、どちらかな」

「純粋にさんちゃんに何歳だと思われてたの俺」

「…。…14,5?」

「俺も成人してるんだけど」

「まあ、それぐらいから全然背が伸びてないけど…」

成長期などなかった。

「…ロリコンじゃないよね?」

「そういうことではないと思うよ?」

気に入られているのも幼女扱いされてるのも否定はしないが。あまつさえその上で喰われたが。ロリだから喰われたのではなく、ロリだけど喰われたというべきな気がする。いや、そもそも私はロリではないんだけどね?もしかしたら、付喪神的には百歳未満はロリ、とかなのかもしれないが。知らんけど。

「…私も幼子に無体を働いてはいけないとは思っている」

「(ガチ惚れだ…)…後でおみやさんにでも行ってきたら?折角だし」

何が折角なのかさっぱりなのだが。しかし、んー…おみやさんか。そういえば初詣行かなかったな…まあ、ここ数年ずっと行ってないんだけど。夜中に外出るの寒いし。日中に態々行くほどの何があるわけでもないし。

んー…まあ、久しぶりに顔を出すのも悪くないか。何をするわけでもないけど。そもそも俺、あそこの祭神も知らねーんだよな…。

 

 

 

 

 

「俺のあーちゃんに何してくれたがってんじゃ貴様ァ!!」

「っ」

激高した様子で襲い掛かってきた荒御魂に、山鳥毛は鞘払いしない本体で迎えうつ。抜いていないのは、現世の外出許可を取るにあたって、すぐ抜けない状態にする必要があったからである。

「己の罪状はわかってるよなァ?付喪神ィ!!」

「ぐっ…それをお前に咎められる覚えはない!」

久しぶりだなー、とふらふらーっと何処かに行きかけていた小鳥が異変に気付いて駆けてくる。

「さんちゃん、何事?!」

「小鳥、来るな!」

「えっ」

反射的に足を止めて、小鳥は勢い余って転げた。

「うぇっぷ」

「ああ、あーちゃんはそそっかしいなぁ。怪我はしてない?服が汚れてしまったね」

青年の形をしたものが、小鳥が転げてついた砂ぼこりを払う。小鳥は反射的にその手を振り払い、そして、自分の行動に困惑した顔をした。

「…あれ」

「久しぶりだってのにつれないなぁ、あーちゃんは。君が元気なのは知っていたけれど、寂しくはあったんだよ?」

「小鳥、そいつから離れろ!」

「そいつ、って…?」

きょとん、と首を傾げた小鳥が辺りを見回し、

「…ぁ」

青年を捉えて目を見開いた。

「…やっと、我を()たな、我の愛しい子」

「あ…や…」

小鳥は怯えた様子で躯を震わせ、しかし、その目は釘付けにされたように青年を見ている。

「どうした?そんなに震えて。寒いのか?まだ空気は寒いものな。おいで、俺のところに来たら、もう寒さも感じなくていいからね」

小鳥は片手で頭を押さえ、僅かに後ずさる。

「、…」

「あーちゃん、頭が痛いのか?さっき転げた時に打ったのかな。見せてみなさい」

「小鳥っ…」

「っふぇ、さんちゃ…」

「…そうか。あーちゃんの様子がおかしいのはやっぱり貴様が原因か、付喪神っ…」

「ぐっ…」

「人間の醜さ、救いようのなさはもう理解しただろう?あーちゃんの真心を受け取るに足る人間なんていないし、尽くす価値のあるものもない。現世への心残りになるようなものなんて、あーちゃんには家族ぐらいのものなはずだろう?」

「っ…」

小鳥は怯えた様子で口をはくはくさせながらじりじりと後ずさっている。

「人間を見限ったら、僕のところに自分で来てくれるって約束したから、ずぅっと待っていたのに。なかなか来てくれないと思ったら…浮気なんて酷いよ、あーちゃん。こいつを壊したら、今度こそ我のところに来てくれるよね?」

金属の軋む音に、小鳥の涙が決壊する。

「やだぁっ…!さんちゃんに、酷いことしないでっ…」

「さんちゃん、さんちゃん、ってアイツのことばっか呼んで…何で俺のことは呼んでくれないの、あーちゃん。ねぇ、君は俺のものになってくれるはずだろう?」

「っ…。…ならないっ…俺には、永遠はいらないっ…」

「――何で?ずぅっと僕と一緒に遊ぼうって約束したよね?我と一緒に、ずぅっと、楽しいことだけしようって、決めたよね?」

「…終わりがないのは、いつか苦痛になるから」

震えながら、小鳥は、手に当たった木の枝を掴んだ。

「破綻の明らかな快楽は、いらない。俺はもう目の前の快楽しか見えない五歳児じゃないから」

「…?その手は何?あーちゃん」

「俺は、自殺しない。あなたとの約束が果たされる日は来ない。だって、その約束は、"俺が人に絶望して自ら命を絶った時"に有効になるものだから」

「…あーちゃんは、人間、嫌いだよね?」

「嫌いだよ。でも、人の作り出すものは、好きだ。だから、人の世にも価値はあると思う。積極的に関わろうとまでは思わないけど」

「………あーちゃんには、自分の意志で我のところに来てほしかったのだが。…もはや、約束が意味を成さないというなら、仕方がないな?」

「っ…」

「我の愛しい子。せめて苦しまないように殺してあげような」

「っ、私の小鳥に」

「ぽっと出の付喪神風情が、俺のあーちゃんに所有格付けて呼ぶんじゃねぇよ」

「ぐっ…」

「…だ…さん、ちゃ…たすけ…」

小鳥の手が、木の枝をぐっと握りしめた時、目くらましのように、鋭い光が弾けた。

「なっ?!」

「――助けを求めたな、我が主よ」

それまでなかった存在がそこに降り立っていた。ひらりと花弁を舞わせて、偉丈夫が小鳥に迫っていた青年の胸倉を掴み上げる。小鳥の手に、いつの間にか"あの日"降ろしたのと同じ剣が握られていた。

まつろわぬ神(アマツミカボシ)の名を継ぐ者。こうしてこの手でお前を殺…否、殺すわけにはいかないんだったな。活動不能に追い込むことができるようになる√が現れるとは、俺も思わなかったぞ」

「っ、何、を…」

「なに、こちらの話だ。…主、私の本体を貸してくれ」

「こ、れ…?」

「ああ。…"我が刃は主の敵を討ち滅ぼす牙にして、安寧を守る翼なり。――その身に刻め、我が名は神の剣、天叢雲(アマノムラクモ)!!"」

「ぐがああああっ?!」

霊核を貫かれ、青年は絶叫をあげる。

「っ…」

「憂うな、主」

剣を引き抜き、偉丈夫は言う。

「こいつは一度貫いたくらいで滅びるような生易しいものではない。百年もすれば蘇る」

「…あの頃は、本当に、友達として好きだったんだ」

「だからアレもお前に執着するのだ。アレも、性根はどうあれ神の端くれ。己を慕うものを愛おしむ性質は持っている」

偉丈夫は小鳥の前で膝を折って、その額に口付ける。

「ぷぇ」

「我が主。私はいつもお前を見守っている。お前が呼べば、いつでも駆けつけよう。――依代刀がなくとも」

深い緑色の瞳を細め、偉丈夫は微笑んだ。そして一拍して、躯がエーテルへと解け始める。

「っと、流石に依代がこれじゃここが限界か。…筑前の坊、軍の人間どもに伝言を頼むぞ。内容は…わかるな?」

「…御大の仰せのままに」

「ではな、主。次は直接私の名を呼ぶといい」

そう言い残し、偉丈夫は姿を消した。消し炭のようになった木の枝が地面に転がる。小鳥は木の枝の残骸を見た後、山鳥毛に視線を向けた。山鳥毛は衣装の埃を払い、小鳥に歩み寄る。

「…不甲斐ない佩刀ですまない。怪我はないか?」

「うん…多分大丈夫…」

と返した後、小鳥は苦笑いを浮かべた。

「…さんちゃん、なんかおれ、腰が抜けちゃったみたいで…手を借りていい?」

本人はそう思っているようだが、おそらく、無茶な降神による急激な霊力消費による虚脱症状だろうと思われた。というか、一般的な人間なら一発で干上がっている。

「ああ。私も幸いにして行動に支障のある負傷はない。雛鳥は私が抱えていこう」

「いや、そこまででもないかな…」

 

 

 

「…ごめん、まさかそんなことになるとは…」

「いや、うん…俺もこうなるとは…何か、色々ごめんね」

「別に。あーちゃんがそんな感じなの、今更だし」

「あっは」

 

 

 

「…というわけで、小鳥の鍛刀を禁じても、一時的な降神という形でなら降りてこられるから、御大の降臨を阻むには至らない。禁止令を解け、との御大の仰せだ」

「色んな意味でふたりともよく無事だったね…」

何かが違っていれば、小鳥は死んでいただろうし、山鳥毛は折られていただろう。こうして無事戻ってこられたのは、いくつもの要因が良い方向に重なった結果だ。それを幸運と呼べるかはわからないが。

「それについては、私も、よく生きて還れたものだと思っている」

あの荒御魂は本気で山鳥毛を折ろうとしていたし、御大も状況が違えば折っていただろう。それは当然のことだから彼の疑問はない。御大がいつ小鳥に目をかけるようになったかはわからないが、まあ幼い頃から見守っていた子供を穢されれば殺意が湧きもするだろう。そもそも神はよく嫉妬するものだともいう。

「ともかく、うん…俺の判断でどうにかできることじゃないから、とりあえず報告書は上げておくよ…」

「すまないな」

「いや。俺もまあ、御大が本丸に降りてこられると居心地悪いだろうなぁ、とは思うけれど、それだけよく"声の通る"子なら、鍛刀を制限するのも勿体ないとは思っていたんだ」

降ろした審神者の影響を受けやすいという懸念事項はあるものの、戦力を整える上で鍛刀は基本にして重要な要素だ。そもそも鍛刀以外の依代の入手に制限がある刀剣もいくつかある。鍛刀出来ない刀剣もあるが、鍛刀でしか手に入らない刀剣もある。

鍛刀制限とは、実はかなり重いハンデなのである。

「そもそも、小鳥ちゃんの鍛刀を禁じたのも上にとっては苦肉の策だったろうし、案外これ幸い、とあっさり撤回されるかもね。…御大のように規格外のものが来るのは困るけれど、通常降りる可能性のある範囲内であれば、強い刀剣が降りてくることは上にとっても歓迎したいことだろうし」

戦況は未だ良くなっているとはけして言えない状態にある。各本丸の戦力は強化されるに越したことはないし、士気は高い方が良い。

「…無理矢理刀剣を余所に譲渡させられたりしなければ良いのだがな」

「基本的に、本丸が解体される時か、その刀剣が本丸にいることで問題が起こる場合でなければ、刀剣男士の移籍はないんだが。それに、監査部の目が届くところで不正は行わせないよ」

「だと、いいのだが」

 

 

 

「小鳥さんには、守刀が必要そうですね」

「必要ない審神者の方が稀ではあるがな」

「守刀?」

「読んで字のごとくですよ。小鳥さん、良いものと悪いものの区別が付かないみたいですし」

「そうかな…?」

「ついてたら荒御魂に本気で懐いたりしませんよ。媚を売るつもりとか一切なかったからこそ、執着されるんでしょうし」

「鍛刀できると一番いいと思うんだが、こればっかりはな。あるいは、本丸に移りたいやつを紹介するのも一つの手か」

「まあ要するに縁ですよね」

「はあ…」

「短刀には俺たちの兄弟も多いんですけど、個性が強いやつも多いんですよねー」

 

 

 

 

 




型月で言う宝具の真名解放あるいは単に霊力の活性 その場のノリ
見鬼の封印が解けるやつ 泥濘寄りの展開ってことになるのか 流石にこんなことになるとは思ってなかった

次話から別題かな
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