刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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しばらく後


隊長は人の話を聞かない10

 

 

「で、君は何時鍛刀するんだい?」

鶴丸の問いに小鳥は首を傾げ、少し考えた後、ああ、と手を打った。

「僕の初期刀になるはずだった刀剣のことか」

「そう、そいつだ」

「何の話だ?」

和泉守が眉根を寄せる。

「こいつの初期刀…一番最初に喚んだ刀はうちにいないやつなんだよ。…いや、あれから顕現したやつの中にもいないんだよな?」

「ああ。多分同じ刀派ってのもいないと思う」

「ふぅん…本当、何処のどいつなんだろうな」

「まあ、ものは試し、ってことで今から鍛刀してみるか。来るとも限らないが、今は資材にも余裕があるみたいだし」

「そうこなくっちゃな」

「執務はいいのかよ」

「ちょっと休憩だ」

小鳥は立ち上がる。

「しょうがねぇなあ…俺もついていくぜ。近侍だからな」

和泉守も立ち上がった。

 

 

「資材の量は…よくわからないからALL350でいいか」

「適当だな…」

「刀種もわからないのか?」

「何処に分類されるのかわからないからな。少なくとも長物や短刀ではないと思うんだが」

表示は3:00となった。

「うーん…判断がつかないな。少なくとも短い刀じゃないのは確かだが」

「手伝い札を使うか」

「え」

「物は使う為にあるものだ」

小鳥は鍛刀の式神に札を渡す。そして、程なくして鍛刀が完了し、出来たものが小鳥に差し出される。それを見て鶴丸が固まり、和泉守は不思議そうな顔をした。

「あ、なんかこれだった気がする。…えーと、どうすればいいかな?鞘がないし…」

そう言って小鳥は不思議そうにその()を持ってじっくりと見る。振り回しているに近いその手つきに、鶴丸が慌てた。

「おいおい、あんまり手荒に扱うもんじゃないぜ」

「手荒にしてるつもりはないけど。それに、優しそうなお兄さんだったからちょっとくらい大丈夫だよ、多分」

「優しそう」

鶴丸は信じられないという顔をした。小鳥は首を傾げ、閃いた、という顔をした。

「あの時と同じようにすればいいのかな。…叶うことなら、僕に力を貸してください」

ぱんっ、と柏手を打った瞬間、その場の空気が変わる。一瞬にして、上級の神霊の神域程に場が清められ、剣から神力が溢れた。

ひらり、と花弁が舞う。

「我が名は天叢雲剣。草薙剣、と言った方が通りがいいか?…まあ、よろしく頼む」

その場に降り立ったのは、長い金髪をポニーテールにした深緑の瞳の青年だった。軍服を思わせる意匠の白い洋服に白と紫のマントを羽織っている。吊り気味の目を細め、青年は小鳥に微笑みかけた。

「俺は小鳥。よろしく。…えーと、何て呼べばいい?叢雲?草薙?それともいっそツルギ?」

「何でも好きなように。お前の呼びやすいものでいい。様々に呼ばれるには慣れている」

「うーん…じゃあ、アマノって呼ぶ。そういえばツルギは今剣がいるし」

「そこで何故そちらへいった」

思わず突っ込んだ鶴丸に小鳥は平然と「かぶらなさそうだから」と返した。

「天羽々斬が来たりしたらかぶるぞ」

「んー、俺多分これでもう鍛刀はしないから、来ないんじゃない。アマノは多分分類外でしょ?政府も顕現を想定してないみたいだし、ドロップはしないでしょ」

「…まあ、私もあいつとは仲が良いとは言えないから、来ない方がいいな」

「…まあ、伝説的に仲良くはならなさそうだよね」

羽々斬はスサノオが八岐大蛇を倒した時の剣で、叢雲剣は大蛇の尾から出たものと言われている。羽々斬の刃が欠けたことをきっかけに見つけたとも言う。

「此処を案内してくれるか?小鳥」

「うん、わかった」

「――小鳥様、何やら突然本丸内に大きな神力が」

こんのすけがアマノを見て絶句する。

「あ、こんのすけ」

「な」

「な?」

「何てもの喚んでくださってやがるんですか小鳥様?!」

「そんな言い方しなくてもいいじゃん。そりゃ、鍛刀禁止令破ったのは悪かったかもしれないけどさ」

「その神剣は、人を祟った逸話もあるのですよ?!万が一のことがあったら」

「さっきから聞いてりゃあ随分な言いようだな?式神ごときが」

「っ…」

「しかも、何だ?そりゃあ一体何を心配しての言葉だ?俺が気に入らんやつの声に応えるとでも?それとも、俺の可愛い小鳥に何か危害を加えようって了見か。小鳥に俺を呼ぶことを禁じた上で危険なところに放り込んでくれやがったようだしな?お望みなら政府全体祟ってやろうか?」

「アマノ、無差別テロはよくないと思う。政府の人だって悪い人ばっかじゃないと思うし」

「相手を選んでやってたら祟りじゃないだろう?そもそも私は興味のない人間は区別がつかない」

「じゃあ気軽に祟らないでよ。とばっちり受ける人が可哀想じゃん」

「…お前がそう言うなら、今のところはやめておこう。…何かあれば容赦はしないが」

「俺の可愛い小鳥に危害を加えてくれちゃった奴らには、報復してやらないとな?」

「っ…」

「仲間内で物騒なことしないの。大体、終わったこと今更蒸し返すとか、かっこ悪い」

「お前は見ているしかできなかった私がどれだけやきもきしたと思っているのだ。私が傍にいたら、お前に不安を抱かせたりはしなかった」

「なんか別の意味で不安になりそうな気がする」

「・・・」

不満そうな顔をしたアマノに苦笑し、小鳥は僅かに首を傾げる。

「ところであんた一体何をどう見てたの」

「それは言えん」

「何で」

「私はまぞではないからな」

小鳥が不審なものを見る目でアマノを見る。アマノは苦笑いのような表情を浮かべて小鳥の頭を撫でた。

「まあ、妙なことはしていない」

 

 

 

「お前が山姥切国広か」

「…俺に、何の用だ」

「いや何、お前には少し言いたいことがあってな」

「…何だ」

「姿を見られたくないのであれば見たもの全て祟ればいいだろう。俺はそうした。お前は何故そうしない?」

「なっ…」

「霊刀としての信仰があり、本体の所在もはっきりしているのだろう?不可能ではないはずだが」

「そんなこと、できるわけがないだろう」

「何故だ。嫌なことは拒否すればいいし、気に入らん扱いには抗い報復すればいいだろう。力とはその為にあるものだろう?ただあるだけで行使されぬ力に何の意味がある」

「…俺は、周りのやつを傷つけてまで姿を隠そうとまでは、思っていない」

「なら、何故姿を隠す。俺は…まあ、実際隠し俗世から隔離したのは人間だが…祟ったのはそいつらが気に入らなかったからだが」

「…俺は、山姥切の写しだ。どうしても、本科と比べられる」

「それがどうした。俺など何度も形代が作られたぞ。そして、形代も"俺"だ。お前たちと違って、まっとうに作り手の伝は残っておらんからな」

「…神代の神剣の作り手なんて、残っていても神だろう」

「形代も俺として扱われた故、俺はその区別がつけられない。だが、お前はそうではないだろう。きちんと区別が付いている。ついているから同一視されることを不快に思う。それで?比べられたくないから姿を隠す?アホかお前は」

「なっ」

「隠すから余計に推測して好き勝手言われるのだ。それは逆に詮索してくださいと言っているようなものだぞ。隠したいことは隠していることを悟らせない、存在さえ悟らせない程に隠さねば意味がないのだ」

「…だから祟れと」

「姿を見せたくないのであれば、己を振るうことを許した相手以外は全て殺してしまえばよかろう」

「それは流石に話が極端すぎるだろう」

「この身は敵を屠るためのものだ。であれば、人を殺すことは何らおかしいことではない」

「そういう問題じゃないと思うんだが…」

 

 

 

「切国とアマノって変な組み合わせだね?」

「なに、少しでもお前の心配をなくそうと思ってな」

「?!」

「あはは、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。…変なことしてそうだけど」

「…主」

切国はおそるおそる布を脱いで顔を晒す。

「あんたは、俺が姿を隠すことを、どう思っている?」

「…別に咎めようという気はないが、ある意味妬ましい」

「えっ」

「俺も着ぐるみ着て容姿を隠していたいんだが、そうするとすこぶる評判が悪いっつーか、隠すなって抗議されるからな。…あっちの方が便利だし見た目も可愛いのに」

小鳥はどうやら本気でそう思って言っているようだった。切国はその着ぐるみとやらを見たことがない、が。

「コミュ障の気持ちならわかるし、嫌なことを強制する気はないから、他に迷惑がかからないなら好きにすればいいと思う。…まあ、ある程度衛生は気をつけてほしいとも思うが」

「…そうか」

「っていうか、切国から布と卑屈を取ったらただの王子様系イケメンだよね」

「…ただのイケメン」

「お前、綺麗って言われるの嫌がるけど、外見に関してはそれと布ぐらいしか特筆事項はないと思うし。切国の金髪は綺麗な色だと思うけど面白い髪型してるわけでもないし」

「俺の髪も綺麗だろう」

「うん、アマノは髪の毛すごく長いよな。鬱陶しそう」

「そう、鬱陶しいわけでもないんだが」

「・・・」

切国は何か考えるような沈黙の後、布を完全に脱いだ。

「ん、どうした切国」

「あんたは、本科のことを知らないから、俺と比べることはできないと言った」

「ああ、言ったな」

「…だが、俺はこの本丸にとって、少なくとも"二口目"以降の山姥切国広だ。今此処にいる俺じゃない"俺"を知ってる奴もそれなりにいて…比べられているような気がする。だから」

「過去の切国は絶対脱いでなかっただろう布を脱ごう、って?」

「俺が布を脱いでも、あんただけは山姥切とも、前の俺とも比べないんだろう?」

「まあ、どっちも知らんからな」

「俺は、あんたの刀でありたい」

真剣な顔でそういった切国に小鳥はきょとんとした顔をして、それから微笑した。

「はは、ありがとう。俺の何を気に入ってくれたんだか知らないが、そう言ってくれるのは嬉しいよ」

小鳥はそう言って切国の頭を撫でた。切国はくすぐったそうにはにかむ。アマノが面白くなさそうな顔をした。

「小鳥、"私"はお前だけの剣だぞ」

「…アマノにそれを言われるのは、恐れ多いっていうか、ちょっと重いかなぁ…ガチ神剣だし」

あはは、と小鳥は苦笑した。

「何か鶴丸たちとか、アマノを恐れてる感あるし」

「私の格はあいつらよりも上だからな」

「階級社会か…」

世知辛い、と小鳥は呟いた。

「…そもそも、姿を見た人間を祟り殺すような奴が何故刀剣男士として此処にいるんだ」

「そんなものは小鳥を気に入ったから以外に何の理由があると思うんだ」

「…それ以外に理由があったら恐ろしいな」

「…祟殺してるの?」

「お前に祟る気は毛頭ない」

「つまり他は祟るんだね…」

演習には絶対連れてけねーな、と小鳥は呟いた。

 

 

 

「軍に対する翻意あり、と判断してもよろしいでしょうか、小鳥様」

「別にそういう意図で鍛刀したわけじゃないんだが。単に好奇心からであって」

小鳥は僅かに眉尻を下げる。

「軍が何故あなたの鍛刀を禁止したと思っていらっしゃるのですか」

「そりゃ、鍛刀してあいつが来る可能性を危惧したからだろう?祟るタイプの神剣らしいし」

「可能性、どころではありません。あれは、必ず来ると皆様確信しておられました」

「え、マジで?」

「完全に獲物を狙う狼の眼だった、との証言もあります」

「そうかなぁ…」

「あの剣は、必ずあなたを隠すでしょう。防ぐ方法はありません。刀解しようとすれば逆上するでしょうし、あれを折れるものはそうありますまい。そもそも、そういう選択をするにはあなたは優しすぎるし、この本丸は不適切過ぎます」

「…俺が先に死んだ場合は?」

「その原因を祟って、魂は己の神域に持ち帰られるでしょうね」

「…うわあ」

「ですから、鍛刀を禁じたのですよ。審神者に相応しい能力と人格を持った方は貴重ですからね」

「それは、光栄と言っていいのか、そうじゃないのか…」

しかし、初期刀なしブラック引き継ぎである。

「…っていうか、何でそれで翻意ありってことになるの」

「…明らかに余剰戦力でしょう。…まあ、確実に来るとは思っていなかったことは加味してもよろしいかもしれませんが…(気づいていないのであれば、わざわざ話すことでもないでしょう)」

 

 

 

「主様、僕…御剣様はなんだか、怖いです」

「んー…まあ、あいつ、協調性とかないよな」

小鳥以外と仲良くする気がない、といってもいい。

「それもありますけど、なんというか、その…主様が、何処かに連れて行かれてしまうような気がして…」

「…あっは」

小鳥は乾いた笑みを浮かべた。大人しく隠されるつもりはないのだが、そういえば相手はこの本丸にいる誰よりも神格の高い、もしかすると束になっても敵わないかもしれない相手なのだった。

「…こんのすけも似たようなことを言っていたな」

「えっ」

「え?」

「…いえ、こんのすけは、そういうことに鋭いとは思わなくて…」

「いや、より正確には、初期刀として喚んだ時に立ち会ってた先輩方がアラート出してたらしいんだけどねー」

「そう、ですか…」

小鳥は事態の重大さを理解していないのだろう、と五虎退は思う。あの神剣がそう感じさせないようにしているというのもあるのだろうが。系統としては小狐丸が近いかもしれない。この本丸ではそこまででもないが、あの古刀は審神者ガチ勢だ。審神者に対してと他に対してで態度が全く違う。

「…五虎退?」

「主様、僕たちを置いて何処かへ行ってしまったら、嫌ですよ」

「…できる限りお前たちの主を続けていたいとは、思っているが」

小鳥は僅かに困ったような顔をした。

「人間は死ぬものだからなぁ」

「…主様は、気休めも言ってくださらないんですね」

「嘘がつけん性質でな。守れない約束はできないよ」

「無理なんですか」

「人間辞める気はないからな。出会った以上いつか別れが来ることは自然なことだ。だから、別れの時に、"別れることがこんなに悲しくなる相手に出会えて幸せだった"って言えるように、なりたいな」

「…そんなの、無理ですよ」

「どうだろうな。その時になってみなければわからないんじゃないか?」

「だって、主様がいなくなることを考えただけで、僕はすごく悲しくなって、胸がしくしく痛むんです。本当に主様がいなくなって、二度と会えなくなってしまったら、僕は…」

「・・・」

小鳥は黙って五虎退の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 




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