刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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泥濘寄りの展開


軋んだ封印2

 

 

 

商店街を興味深そうにきょろきょろ見ている小鳥を見て、鬼丸は迷子への危惧を強めた。これはちょっと目を離すとすぐ逸れるやつである。やはり一人では帰ってこられなくなるタイプなのではないか。

とはいえ、買い物自体は然程大きな問題もなく終わった。

「何かまだ買うものがあるのか?」

「…ないと思うけど…」

「では帰るか」

「うん」

鬼丸は少し悩んで、小鳥の手首を掴んだ。小鳥はきょとんと鬼丸を見上げる。

「はぐれたら面倒だからな」

「うん…」

細い手首だった。短刀たちとあまり変わらないだろうと鬼丸は思う。

そろそろ商店街を出る、というところで山姥切長義と目が合った。

「(契約を結んでいない転神個体の鬼丸国綱に手を掴まれている年若い審神者…)…事案?」

「何が事案だ」

「事案?」

「だって君、その子と契約関係にあるわけじゃないだろう。迷子を送り届けようとしているわけでもあるまいし」

「…所属する本丸は同じだ」

「本当かい?」

「?うん。なんか、本丸の地下に封印されて、た?」

「…ああ」

「…思ったのと別の意味で事案な気がする…何でまた、封印を解いてまで未契約刀と妖横町に?」

「買い出しだよ。式の子たちに頼まれて。刀剣の付き添いがないと外出できないって、本丸に刀がいないし、俺、初期刀いないし、鍛刀禁じられてるし」

「…妖横町でないとならない買い物、かい?」

「?食料の備蓄が底をつきそう、って」

「…万屋街や通販へのアクセスは」

「本丸って通販できないんじゃないの?」

長義は思い切り溜息をついた。

「本丸が凍結されているようだね…となると…君、号は?」

「俺は小「尋ねる前に、お前が名乗るべきだろう」

名乗ろうとした小鳥の口を鬼丸が塞いだ。長義は肩をすくめる。

「俺は監査部保安課哨戒班所属、山姥切長義。二つ名は裁伐。山姥切で構わないよ」

「俺は小鳥だよ」

「…監査部か」

鬼丸が目を細める。小鳥は小首を傾げる。長義は小鳥に手のひら大の機械を差し出した。

「お守りみたいなものだと思って、持っていてくれるかい?正規のルートで対処したいから」

「対処?」

「簡単に言うと、小鳥ちゃんがそこの鬼丸殿の封じられてた本丸に送りこまれたというのは怪訝しい。というか、初期刀なしで本丸に送られるのも怪訝しい。…審神者になった経緯は?拉致とかじゃないかな」

「んーと…四日前?採用試験、試しに受けたら、なんか受かっちゃったんだ。…まあ、なんか行けばわかる、こんのすけに聞け、って言われたのにいないし、わからないし、おかしいなー、とは思ってたけど」

「四日前?支部は」

「美濃だよ」

「…確かに、美濃支部の採用試験は今月は四日前だったな。ということは、試験そのものは正規のものか。…最終試験はどのような結果になったのかな」

「ん、うん…長い金髪に深い緑色の目の、やさしそーなお兄さんが来てくれたんだけど、試験官さんたちが大慌てで、即刻還ってもらいなさいって言うから、ごめんなさい、還ってくれますか、ってして、還ってもらったの」

「…心当たりがないな。誰だ?」

鬼丸が問う。長義は眉を歪める。

「お話しできなかったから、誰かはわかんない。んー…あ、そうだ」

小鳥は呪術で、一振の剣を創り出す。

「こんな感じの剣?だったよ」

「愛し子謹製のレプリカとか、依代刀じゃなくても形代には十分なんだよね!!」

「ふぇ」

「…明らかに御大じゃないか」

「降ろされて人の子が大わらわになるような相手って言ったらそりゃあ、御大方に決まっているだろう。というか、小鳥ちゃんにしっかり御大のご加護が付いているじゃないか」

「ご加護?」

小鳥はきょとんと首を傾げる。

「…君が喚んだ剣は、由緒正しい神剣なんだよ、十中八九」

「そうなの?…んー、刀にも剣にも、特に縁はなかったはずだけどな」

「御大が何処で君を見初めたのかはわからないけれどね…うぅん…今の段階では、何も宿っていないだろうけど、時間の問題だろうな…御大は他者に見られるのを嫌う剣だからな…」

「んー…とりあえず、これはしまっておいた方がいい、のかな」

「そうだね…いざという時の切り札になるかもしれないしね…」

長義の言葉に、小鳥は不思議そうな顔をした。

「…御大を降ろせるような能力(ポテンシャル)があるなら、小鳥ちゃん自身で出来るかな」

「?」

「本丸に戻ったら、そこの鬼丸殿に概念拘束をかけて、刀剣男士に引き戻せないか試してみてくれないかな。二つ名は、まあ…うん、術師が適切なものを見出すべきだろう、ここは」

「鬼丸さんは刀剣男士じゃないの?」

「俺の見た感じ、彼は転神…神格の強調され過ぎた状態だ。刀剣男士とは、刀であり、神であり、妖でもある。どの側面にしても、強調され過ぎていては、健全な状態とは言えないかな」

「ふぅん…」

「…そうだな。おれは、おれを顕現させた審神者に、神と祀られていた。今は、刀剣男士という枠組みから外れた存在にもなっているだろう」

「なんか、いっぱい注連縄とかお札みたいなのが貼ってあったけど」

「あいつは鬼を恐れたからな。なら、おれに斬らせればいいものを、おれがいなくなっては困る、ときた」

「そして最終的に本丸は全滅した、と」

「そのようだな」

「…?」

小鳥はよくわからない、とばかりにきょとんと首を傾げた。

「まあそのあたりの事情は今はいいかな。とにかく、枠外個体は普通の人の子の手に負えるものではないから、何らかの手段で無力化を試みる、ということになっている。概念拘束をした後なら、相応に実力のある審神者に預けられたり、政府の管理下に入ったりする場合もあるけどね」

「…おれは鬼を斬る以外のことに興味はない」

鬼丸国綱(きみ)は大体そう言うんだよね…」

溜息を吐き、長義は頭を振った。

「だが、多少なりとも、小鳥ちゃんを気にかけてあげるつもりはあるんだろう?」

「…買い出しに付き合ったのは、こいつ一人でお使いに出したら帰ってこられないだろうから、というだけだ」

「でも、契約を結んでいるわけでもない子供一人、どうなろうと君に関わりないだろう?」

「む…」

長義の言うことは間違いではない。刀剣男士にせよ、神にせよ、興味のないものに対しては何処までも無関心になれるものだ。己の気にかけるもの以外が破滅しようと、気にもかけない、ということもそう珍しいことではない。

長義とて、審神者や軍の人間、監査部の職員などの己の気にかけるべき人の子の枠に入っている人間以外がどうなったとて、己には関わりのないこと、と然程気にしないだろう。

鬼丸にとって、小鳥は無条件に気にかける対象ではない。己の封印を解いた、という借りはあれど、それだけだ。主ではないし、契約も結んでいない。しいて言えば、本丸を介して霊力の経路(パス)が繋がっているが、それだけだ。小鳥の存在は鬼丸に対して何の強制力も拘束力も持たない。状況的に、彼が見捨てれば遠からず小鳥は死ぬ可能性が高いが。

「鬼丸さんはやさしいヒトだよ」

「へぇ。じゃあ多分、大丈夫だね?」

「うん」

「・・・」

 

 

 

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