刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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オキザリスとかと似たような設定 黒本丸から保護された小鳥と情報部の一文字則宗(二つ名:睦月)


Feeded Love1

 

 

情報部分析課のオフィスで、則宗は朝尊に今回の顛末を報告した。

「…というわけで、この子は僕が預かろう」

「構わないけれど…僕が言うのもなんだけど、大丈夫かい?」

「うはは。知っての通り、僕も顕現して年を重ねた身だ。まあ何とかなるさ」

則宗は腕の中の少女に視線を落とす。少女は身じろぎもせず、ただじっとしていた。

「うーん、君が人の子を預かるとなると、一文字派の刀たちが目を剥きそうだねぇ」

「しかも号が小鳥だからなぁ。僕の小鳥、なんて言ったら山鳥毛がギョッとするかもなぁ。うははは。…いや、念のため号は変更申請を出すか。そうだな…碧鳥、なんてのはどうだ?」

少女と目が合って、則宗はにこりと笑ってみせる。少女は不思議そうに目を瞬いた。

「僕のことは則宗と呼んでくれ。睦月でもいいぞ。僕の二つ名だ」

「…何故?」

「それは何に対する問いだ?…まあ、お前さんの守刀を務めようってのは、僕の私情みたいなもんさ。分かってもらえるように説明するってのはちょいと難しい」

「私情」

「ああそうだとも。僕の…個人的な感傷みたいなものだ」

「…俺は、役立たずの小鳥だが」

「誰しも活躍できる舞台ってもんはある。お前さんはちょっとばかし、出番を間違えただけさ。あんな環境で生き残っただけでも大したものだよ」

横で聞いている朝尊の方がハラハラした顔をしている。本霊アバターだからか、情に厚いのだ。

「…俺の役目は、死ぬことだったのでは?」

則宗の表情が凍り、朝尊が「死ぬのが役目の子はいません!!」と叫んだ。丁度近くを通ろうとしていた肥前がびくっとして振り返った。

「…朝尊の言う通り、死ぬことが役目の審神者なんてのはいないし、お前さんが死んだ方が良かったなんてことは一切ない。…悲しいことを言ってくれるなよ、人の子。お前さんを助けた僕が、お前さんに生きてほしくないと思っているとでも思うのか?」

「…そう、だね?」

少女は僅かに首を傾げる。そして不思議そうに則宗の頬に手を触れた。

「あなたは、とても優しいヒトなんだね」

「うーん、まあ今はそういうことでもいいがな…」

心を閉ざすまでに傷つけられた人の子がそう容易く他者の愛を信じられるわけもないのだろう。則宗は苦笑する。

「ともかく、まずはふたりとも治療が必要かな?医療部に行ってきたらどうかな」

「それもそうだな。すまないが、戻ってきたらすぐ諸々手続きできるよう、書類を頼む」

「詰草くんに頼んでおくよ」

 

 

 

 

一文字則宗(二つ名:睦月)は情報部伝承課に所属する刀剣男士である。一度監査官として本丸に赴き、異動し、諸事情により政府に戻ってきた、所謂出戻り組でもある。まあ二つ名持ちは元本丸所属が多いのだが。

人間や審神者に悪感情を抱いているわけではないけれど、暫くは本丸に所属するつもりはないと、政府に所属することを選んだ刀である。そんな刀が黒本丸から保護された審神者を預かることになって、事情を知る刀はざわついた。とはいえ、事情を知るということは彼の刃柄を知っているということでもあるので、何か思うところでもあったんだろう、と気にかけるに留まった。

穏やかでなかったのは局員を務める人間の一部である。高い神格や実力を持ちながらも、人の子に対して気さくに振舞う彼は、割と人気があった。特定の人間と直接の契約を結んでいない、いわばフリーの状態でもあったから、その相手に自分が選ばれることができたら、と夢見る人間もいくらかいたのだ。

それが突然現れた人間と契約を結んだとなればどんな人間かと気にするのも当然の話だし、心を閉ざして周囲の声に碌に反応しない少女となれば、ヘイトが向くのも無理からぬ話だった。あんな無礼な人間より余程自分の方が彼の隣に相応しい、と。

流石に直接則宗に言うものはいなかった(いたら冷たい目で見られていただろう)が、則宗のいないところで陰口を言うものはあった。まあ少女は直接名を呼ばれて声をかけられるなどしない限り己に関係あることと認識しないので、陰口だけならある種平和だったのだが。

 

 

 

ある意味で少女は心神喪失(COCの発狂で言うところの昏迷)にも近い状態である。自発行動に乏しく、他者の指示に逆らわない。則宗に手を引かれず何処かへ向かうことはないし、そもそも、常に自分の内側に籠ってぼうっとしている(ように見える)。

だから、少し油断していたのかもしれなかった。

「待たせたな、碧、鳥…?」

別部署での手続きが必要になり、待合スペースで待っているよう伝えたはずの少女の姿がなくなったことに則宗は混乱した。少女が自分で姿を消したということは考えづらい。必然的に誰かに連れ出されたことになる。

「睦月の御前、どうしたんです…にゃ?」

「南泉、碧鳥を見なかったか?」

「今日はまだ顔を合わせてない…にゃ。っていうか、御前、契約結んでんだからパスを辿ったらわかるんじゃ…ないですか、にゃ」

南泉に言われ、則宗は目を丸くして、息を吐いた。

「…僕も大分取り乱していたようだ。ありがとな、南泉」

「ウ、ウス」

則宗はパスに感覚を集中し、辺りを見回した。霊力を辿って探査範囲を広げていく。

「…そこか」

脳内で施設の内部地図と照らし合わせて、人気のない一角であることに眉をしかめつつ、則宗はそちらに向かって走り出した。ただならない様子だったからか、南泉と、丁度通りかかった長義の一振りもそれを追った。

 

 

 

 

「――もしも、睦月が泣いてしまったら、慰めてあげてね」

少女はそう言って、手にした短刀を躊躇いなく自分の首に押し当てた。刃は容易く少女の薄い皮膚を破り赤い血が噴き出す。

「碧鳥!!」

部屋に飛び込んだ則宗がそれ以上斬らせないよう少女の手を掴んで止める。

「え、どういう状況?」

「あいつは僕が取り押さえる、猫殺し君は碧鳥ちゃんの応急手当を!」

「っ、御前、救急セット、にゃ!」

少し遅れて入ってきた南泉と長義もそれぞれに駆け寄っていく。長義は政府職員らしき人間をその場で床に取り押さえて拘束した。南泉は則宗にたった今開封した救急セットを差し出す。則宗は少女の首の傷を止血しつつ短刀を離させた。

「碧鳥、我が主。僕が泣くことを憂いてくれるなら、お前さんが死を選ばないでくれ」

「…睦月?」

少女は不思議そうに血に濡れた手で則宗の目元を撫でる。

「泣いてるの?」

「…僕は、碧鳥が死んだら悲しいと、言っただろう」

「うん…」

刀の切れ味とナノマシンの作用でほどなくして出血は止まった。

 

 

 

 

 

医療部で本格的に治療を受け、傷は綺麗に塞がった。

件の職員は、歴史修正主義者側のスパイで、少女にヘイトを向けていた数人の局員を焚きつけて今回の事件を起こしたらしい。他の人間には則宗との契約を切らせて、黒本丸の引継ぎに送り込む計画だと伝えていたが、実際には黒本丸から回収された短刀(小夜左文字だった)による自害を迫っていた。

少女はそれが己の役目なのか、と一切の抵抗をしなかった。則宗たちが駆けつけるのが遅ければ本当に死んでいただろう。だから、事件後に則宗が過保護になったのも当然の話だった。少女はそれにも一切の抵抗をしていない。

見知らぬ人間にそれが役目だと言われたから、というだけの理由で、抵抗なく躊躇いもなく死ねてしまうことに、その己の生への執着の無さに、則宗は恐怖さえ感じた。別に自ずから死にたいわけではないらしいが、彼が悲しむことを察しても手を止める理由にならなかったのだ。まだ一月に満たない程度の付き合いとはいえ、ショックだった。

「とはいっても、まあ限度はあるよね」

「髭切か」

「そんな常に気を張っていると、いくら刀剣男士とはいえ、お前の方が倒れてしまうよ。僕たちだって疲弊するんだからね」

「…だが、この子を守れるのは僕だけだ」

少女の契約している刀剣は則宗一振りだけだ、というだけではない。少女には己を守ろうというつもりがない。悪意に抗う意思を持っていない。助けを求めることもない。目を離したら死ぬのだとわかってしまった。

「だったら、守りを増やせばいいじゃない」

「・・・」

「鍛刀顕現希望を出すのでも、政府預かりになっている刀から募るのでも、やりようはあるんだし。まあその子が自分から言うことはないだろうけど」

髭切の後ろから南泉が顔を出す。

「もしかしたら睦月の御前は嫌がるかもしれないっすけど、碧鳥のこと気にかけてて、契約してもいいって思ってるやつは何振りかいる…にゃ。俺も…碧鳥もあんたも、両方心配だし…にゃ」

「…南泉」

「まあ複数振りの刀と契約するとなると、いよいよ審神者として身の振り方を決めなきゃならなくなるんだけどね。本丸への再配属を希望するか、政府の方で働くのか」

「…この子はまだ精神的な療養が必要だ。前に配属されていた本丸の始末もついていないしな」

「碧鳥はどう思っているの?」

髭切の問いに、少女は一つ瞬いて言う。

「役目だというなら、できることはするが」

「前とは別の本丸に行くのか、審神者というか多分術者として政府で働くか、どっちの方がいい?どっちでもその一文字則宗は一緒にいてくれると思うけど」

「…聞かれても困る。できるか…どうすればいいのか?よくわからないし」

「そっかー」

まあ、少女は審神者としての知識すら乏しいのでその反応も当然なのかもしれない。

「俺としては、神秘部怪異課への配属をおすすめするかな。瘴気耐性があって浄化の出来る術師って貴重だし」

「うげ。何処の化物斬りだ…?」

「刃事課の博愛だよ。影追の猫殺しくん」

長義は連れてきた短刀…小夜左文字を前に出した。

「本刃の希望でね。碧鳥ちゃんに面会」

「お前さんは…」

「…先日、その子を殺しかけた刀だよ」

小夜の告白で則宗の表情が凍る。

「一切躊躇いがなかったから傷口も綺麗で跡も残らずに済んだって聞いてる。…僕は、恨みのない人間を殺したいわけじゃないから…正直、ほっとしたよ」

「君は黒本丸の刀だって話だったと思うけど」

「僕のいた本丸に来てすぐ殺されたことにしたかったみたいだね…実際は、ほとんどの刀は顕現が解けているんだけど」

小夜自身も霊力不足で顕現が解け、血を浴びたことで取り込んだ霊力で一時的に顕現している状態である。

「…本題は何だ?」

「僕は、その子と契約したい。…ダメであれば、刀解を選ぶよ」

「この小夜左文字はまだ政府に所属したわけではないから、守刀契約の予備枠で対応が可能だよ。瘴気汚染がないことも確認されている」

「・・・」

「碧鳥としては、どう?」

「僕はどちらでも構わない。何故、とは思うけど。…睦月が嫌ならしない」

「・・・」

「…あなたは、何も恨んでいないようだったから」

小夜は少女を真っ直ぐ見て淡々と言う。

「僕は、復讐の刀だから、恨みつらみならよくわかる。…だけど、あなたは自害させられるというのに何も恨んでいなかった。他の、何ものも。…だから、お節介かもしれないけど、あなたの代わりに怒るものが必要なんじゃないかって思ったんだ」

「ん-…」

少女はこてり、と首を傾げる。

「君も、優しいヒトなんだね」

「…前から思ってたんだけど」

長義が口を挟む。

「碧鳥ちゃんに必要なの、療養というより、他者との交流なんじゃないかな。だって碧鳥ちゃん、刀剣男士に恐怖心を持ってないし、自己主張しても意味ないって思ってるだけで自分の意志がないわけじゃないだろう?」

「うん。刀剣男士も色々だし、俺の意志は求められないから。丁度良いってだけでしょ。役目を果たせれば俺じゃなくても良い」

「まあ、それもある意味で真理だよね…」

世界にとって、組織にとって、代わりのいない人間というものはまずないし、それが正しい。一人に負担が集中しては健全とは言えない。

けれど、個々の関わりにおいては、代わりのない、かけがえのない相手というのは存在しない方が不自然なのだ。

「…僕は、碧鳥の意志をどうでも良いとは思っていないぞ」

「あまり意見を求められた覚えがない」

「…御前はわりとワンマンタイプだから…にゃ」

人の話をきかないというとまた違うのだが、まあ自分の意見を押し付けがちではあるかもしれない。それに反発的な反応が返ってくる前提で。自己主張ができる相手ならあまり問題ないのだが。

「そう、か…?」

「睦月がそれでいいのなら、それでも構わないけど」

嫌なことはされないだろうから。

「碧鳥」

「碧鳥ちゃんそんなに彼のこと優先してるのに何であの時は普通に自害を受け容れちゃったの?」

「悲しいのは一時だけのことだから。人間は死ぬものだし」

淡々と告げられた言葉に、刀剣たちは悲しそうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

最終的に小夜は少女と契約する方向で話がまとまった。また、少女が怪異課への配属に前向きな反応だったので、なら僕も転属して契約しよっかななどと髭切が言い出した。ついでに南泉も契約したいと言い出した。少女はどちらにも否やは言わないが、則宗は髭切に嫌そうな顔をした。

「…いやまあ、怪異課に行くんなら霊刀や怪異斬りと契約しとく方がいいのはわかるがな?」

「僕なら大抵のあれこれにも対応できるからね」

「…僕だって物理でどうにかできる範囲ならなんとかなる」

「あはは」

要するに嫉妬的なアレである。

「まあ僕は色々手続きとか必要だし、碧鳥が怪異課に行ってからかなー」

「…俺も手続き的にそうなるかにゃあ…」

髭切も南泉も特定の人間と契約を結んでいない政府刀である。しかも二つ名持ち。

「いや、二つ名持ちの正式契約は…まあ神秘部ならなんとかなるか」

そもそも少女は複数の刀を維持できる霊力を普通に持ち合わせている。だから、複数契約そのものは可能だ。だが、二つ名持ち、すなわち特異個体となると少し話が複雑になる。普通の審神者では手に負えないと見なされているものもいるからだ。別に皆が皆問題児というわけではないが、大体特異能力を備えているので。

「…僕も転属申請を出さなきゃならんしな」

同部署別課ならともかく、別部署に行くとなると、守刀契約を解消しなければならなくなる。則宗は契約を切るつもりは毛頭ない。そして少女の適性は情報部より神秘部なのである。

「…組織に所属するって、面倒なんだね」

「皆が皆好き勝手するとそれはそれで面倒なことになるからね」

 

少女は小夜よりは大きいとはいえ、だいぶ小柄な人間である。およそ、短刀の大きめの方から脇差くらいだろうか。太刀である則宗が抱き上げるとすっぽり腕の中に納まってしまう。何なら片腕で抱き上げられる。

「僕は、碧鳥に幸福でいてほしい」

「俺は不幸ではないよ」

「不幸ではないことと、幸福であることは違うだろう」

「うん」

「…お前さんは」

「監禁されていた時は不幸だったかもしれないけど、今は違うよ」

「・・・」

「睦月には、俺が不幸に見える?」

「…僕はお前さんに笑ってほしい。…いや、無理に笑わせるのでは意味がないがな」

少女はきょとりと則宗を見上げる。

「人の子は楽しい時、嬉しい時に笑うものだろう?」

「そうだね」

則宗は淡く微笑んでみせた。

「碧鳥が笑えるようになるように、僕にも何かできることがあれば、と思っていたんだがな…」

「…?愛想が悪いということか?」

「そういうことではなくてな…。…ん?もしや碧鳥の認識としては笑っていたつもりだったりしたのか?」

「笑うようなことがあれば笑っているんじゃないか?」

「僕は笑ったところを見た覚えがないんだよな…」

「表情筋が仕事をしていないのか」

少女はむにむにと自分の頬を触っている。

「…まあ、無理をするものでもない。気にしないでくれ」

「無理のつもりはないが」

「お前さんが笑えないわけではないことがわかっただけでも今は十分だ。…いや、ある意味、嬉しくても笑えないのは問題だがな?」

 

 

 




因果っつーかカルマ的に、前田だったら死んでた 彼女が自害に使うのは特殊な事情がなければ前田だから
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