睦月とは別の個体 普通に祟りになったやつ not妖刀、サイコパス個体 一応愛情深くはある
「可哀想に。何も知らずにこんなところに来たんだな」
金色はそう言って背後から小鳥を抱きしめた。冷たい指が首に触れて、小鳥の肩がびくんと揺れる。
「この本丸は、僕を幽閉するために凍結されている。何処にも行けない。…いやまあ、狭間だから妖横町には行けるが…見た所、お嬢さんには初期刀すらいないようだ。人の子が一人で迷い込めば、それこそ現世に還れなくなるからな、あそこは」
突然のことに困惑しながらも、小鳥は己を捕らえている者を見上げた。金色の髪を持った若い男のような
「…あなたは、誰?僕は、小鳥っていうんだけど」
「…。…うはははは。己の命の心配の前に、僕の名を知りたがるか。肝の据わった人の子だ。それとも、危機感がないのか?」
「いや、だって名前がわからないと不便だし。呼び名でもいいんだけど」
小鳥は軽く首を傾げる。金色は一拍置いて、小鳥の喉を指でなぞった。
「…僕は、一文字則宗という」
「一文字さん」
「一文字派の刀は他にもいる」
「この本丸には?」
「いないがな。この本丸にいる刀剣は、今は僕一振りだけだ」
小鳥は一つ瞬いて言う。
「則宗さん」
「何だ、小鳥」
「…血の臭いがする気がするんだけど…怪我、してる?」
その問いに、金色はにいと口角を吊り上げた。
「それを聞いて、どうするんだ?人の子。僕を折るか?」
「どう、って…怪我を放置するのはよくないし、手当とか、治療とか…」
「・・・」
小鳥の喉に添えられていた指が、上に滑って顎を掴んだ。
「…僕が、お前を害するとは思わないのか?人の子」
「え、うーん…だって、俺は痛いのも苦しいのも嫌だし…」
「人の子は、脆くか弱い。傷ついて弱って鈍っていなければ、万に一つも勝ち目はないだろう」
「んでも、俺、あんたと戦うために此処にいるわけじゃないし…」
小鳥はそう言って困ったような顔をした。金色は黙って小鳥の頬を撫でる。
「…則宗さん?」
「次に
「そんなこと言われても…」
「可哀想な雛鳥。僕を殺せぬ、殺さぬというなら、お前は死ぬまでこの箱庭から出られぬぞ」
「・・・」
小鳥はじいっと金色を見る。
「則宗さんは殺されたいの?」
「…殺されたい、というのは違うな。人の子を殺すのは本来僕の役目ではない。性根の腐ったようなのならともかく、善良な人の子が死ぬのはしのびない。…僕たちは、人の子を愛しているからな」
金色は小鳥の顔を指でなぞる。
「お前を殺したくはない、というのが正しいだろう」
「…俺もあんたを殺すのはやだな。殺しあい以外で本当に解決策ってないの?」
「僕みたいなのはともかく、人の子はこんな場所に閉じ込められていれば遅かれ早かれ気が狂うからな。…まあ、そうしたら殺してやるが」
「…つまり、此処から出ようとしないなら、殺し合う必要はないんだね」
「…。うははは。そうきたか。まあ、間違ってはいないな」
顔や頭を撫でまわされ、小鳥は嫌そうな顔をした。まあ、頭はともかく、顔を撫でるのは通常しない。今更ではあるが。
「…それで、則宗さんは怪我してる、んだよね?血の臭いがするの、ちゃんと処置とかしないで放っておいてるってこと?」
「刀剣男士は手入れを受けずに負傷が回復することはない。放置して悪化したり
「手入れ…しないの?」
「この本丸には資材がないからなぁ」
「資材」
「木炭、玉鋼、冷却水、砥石。刀剣を生み出すのに必要な材料だな」
「手に入らないってこと?」
「本丸が凍結されてるからな」
「・・・」
「今に始まった話じゃない。まあ、気にするな」
押し問答の末、手入れはできないにしても、手当をすることになった。といっても、負傷部分を綺麗にして、清潔な布を巻く程度のことなのだが。
改めて則宗と向き合って、小鳥は痛ましそうな顔をした。足やら腹やらにも切傷があるが、それ以上に目立つのは右目から頬にかけて大きく切り裂いている傷だ。それなりの深さもあるようで、右目は機能していないだろう。
「そんな顔をするな。潰れているのは片目だけだ。完全に視界を失っているわけじゃあない」
「そういう問題じゃないと思う…」
刀剣男士の躯に自然治癒力はない。だから、人の為の傷薬などは意味がない。負傷直後なら血止めなんかはいるかもしれないが、とうに出血は止まった傷だ。
おそるおそるといった様子で手当てをする小鳥に、則宗はくすぐったそうにくすくす笑った。
「他人の手当てなんてする機会、普通はそうそうないって。運動部ならテーピングとかあるかもしんないけど」
「いや、僕はお前の手際が悪くて笑っている、というわけではない」
則宗は小鳥の肩から腕をなぞる。
「お前はまさに小鳥だなぁ、と…いや、小鳥の号は声のよく通る人の子に付けられる号なんだったか」
「…?」
訝しげにする小鳥に、則宗はまた笑った。
「僕が恐ろしいのだろう?小鳥」
則宗の言葉に、小鳥は一拍置いて肩をすくめた。
「…まあ正直、こんな傷だらけなのに笑ってるし、背後から突然ホールドされるし、ベタベタ触ってくるし、意味分かんなくて怖いってのは否定しないけど」
「はは、そこかぁ」
「俺、人見知りする性質だから」
「そりゃ悪かったな」
軽口のように言って、則宗は小鳥の頭を撫でた。明らかに悪いと思っていない。
「…なんでそんなスキンシップ激しいの。視覚が欠けてる分どうのこうのってやつ?」
「うーん、まあそんな感じかもしれんな。それに、ほら、刀ってのは腰に下げて持ち歩いて、手に持って振るうもんだろう。人の子の体温が感じられるのは好きだぞ」
「…刀剣男士はスキンシップが好き、ってこと?」
「まあ大体のやつはそうなんじゃないか?」
そういうものなのかな、と小鳥は小首を傾げた。
なんとか手当てが終わり、則宗は戦装束から内番着に着替えた。
「さて。小鳥は何をどれくらい知ってるんだ?」
「そんな抽象的なこと言われてもわかんないし」
「んー、なら、そうだな…僕…刀剣男士についてはどの程度知っているんだ?」
「ん…刀の、やさしい神様なんだって聞いた。人のようにも見えるけど、人とは違うモノだって。後、見目と年齢は一切一致しないと考えた方がいいとか」
「…うーん、なんというか、だいぶ情報が偏ってそうだな。…まあ、こんなところに送られる時点で捨て駒扱いだからまともな教育を受けていなくともおかしくはないが」
祟りに堕ちた刀剣一振りしか残っていない凍結本丸に審神者を送りこむなんて真似、真っ当な人間ならしないのだ。しかも初期刀すら連れていない。死ねと言っているようなものである。小鳥が今無事なのは、色々な要因が重なって生まれた偶然のようなものだ。
「…まあ、俺、元々一般人だし。霊感とかないし。正直、本当に審神者が務まるのか半信半疑というか…」
「本丸で無事正気で存在してる時点で一定の素質はあるさ。霊力も、自己観測技能もない人間が狭間に入れば発狂やら意味消失やらも十分ありうるからな。だがまあ…成程、後ろ盾も何もないから、ってとこか」
霊力は遺伝するものであるので、術師はそういう家系であることが多い。審神者は必ずしも術師である必要はないし、本当に一般家庭出身の人間が就任することもあるが。そして、長く続く家ともなればしがらみなども出てくる。あるいはパワーゲームなども生じる。元より軍人であるのなら公権力とも無縁ではいられない。
「公務員とは…」
「大体の人間は権力に弱いからなぁ」
ともかく、則宗が小鳥に問いを投げ、その返答からおよそ推測されるところ、小鳥は正規ルートでの採用のはずなのに何故か非正規ルートでこの本丸に送りこまれたらしかった。何故。勿論、本人の希望ではない。希望とか以前に、審神者の役目、仕事自体理解しているか怪しい。きちんと講習を受けていないようだ。呪術の基礎だけ受けてきたようだが。
「うーん、お前さん、普通にブラック本丸に送られてたら死んでたんじゃないか?」
「俺、そんなヤバい状態なの」
「自分の身を守る術が全然身についてないからなぁ」
初期刀がない、知識もない、呪術にも然程明るくない、とないない尽くしである。ついでに言えば、小柄で非力で武術の心得もないから物理的にも弱い。
まあ、ワンチャン則宗のように害意を削がれてしまう可能性もあるが。
「まあもしもの話をしても意味はないな。小鳥が来たのは此処で、今は無事存在している」
則宗はまたひとしきり小鳥を撫でまわし、立ち上がった。
「則宗さん…?」
「人の子は食物を摂らなければ死んでしまうだろう?この本丸には碌なもんがなかったはずだし、何か調達してくるよ」
「え、はい…いってらっしゃい…?」
「…ふふ。ああ、いってくる」
妖横町を歩く則宗に妖怪が声をかける。
「大層なものをお持ちじゃないですかお兄さん」
「うん?ああ。良いだろう。人の子が僕にくれたんだ」
則宗は嬉しそうに包帯を撫でる。そこには、小鳥の少しでも痛みがマシになるようにという祈りと霊力が籠もっている。それは刀剣男士にあまり効果のあるものではないのだけれど、その心が何より嬉しかった。
「羨ましい。どうか、私にそれを少し譲ってはくれませんか。刀のあなたには、気休め以上の効果のないものでしょう?」
「断る。これは人の子が僕を気遣ってくれたものだ。お前にくれてやる理由はない」
則宗は明らかに機嫌を損ねた様子になる。しかし妖怪は食い下がった。
「先日、私の兄弟が酷い怪我を負いまして、痛みにうなされているのです。もちろん、きちんと恩返しはいたしますので…!」
「その怪我というのは審神者や刀剣に手を出した結果のものではないのか?であれば僕が手を出す理由はないな。同朋に悪さをしたものに仏心を出して良いことがあるとも思えん」
「…あなたは刀神の理を外れた祟りでは?ならば人間の肩をもつ必要はないでしょう」
「言っただろう。これは人の子が僕にくれたのだと。…ああ、愚かで、可哀想で…可愛い人の子だ。悪縁をくれてやるわけがないだろう。あれは、
なんとなくで応募したら採用されてしまった審神者だけど、配属初日からトラブルに巻き込まれた。…いや、正確には、採用直後から巻き込まれていたらしいトラブルが表面化した、という方が正しいんだろうか。特筆事項も大してないような一般人に態々嫌がらせするとか暇人か?
まあともかく、俺が配属されたのは、刀剣男士がひとりしかいない上に、
こんなことなら積みゲーと積読になってる本を持ちこみたかった。放置しちゃったのが結構溜まってた気がするんだよね…空き時間を潰すにはもってこいのはず。
…なんて茶番はともかく。此処で俺が何をできるかって言ったら、まあ…ん-…掃除くらいのもんじゃないか、と思われる。別に部屋が汚いのが我慢ならない性質ではないが、清潔であるに越したことはない。喘息持ちだし。
そういうわけで、唯一の刀剣男士である則宗さんも出かけてしまったし、適当に本丸内の掃除をすることにした。
「♪~」
とりあえず、使いそうな部屋から綺麗にしようと思うわけである。台所とか、寝泊まりできそうなところとか。あと水回り。どうあれ、暫くここで生活しなきゃならないわけだし。
則宗さんに遭遇する前、本丸内を軽く探索していたわけだが、酷く荒れていて血痕とかある部屋と、単純に埃とか積もってる感じの部屋とかあった。荒れてる部屋は後回しにして、普通に掃除したらいい感じの部屋を優先していこうと思う。俺一人でやれることには限りがあるしね。
「♪~」
則宗が本丸に戻ってきた時、小鳥は歌を口ずさみながら掃除をしていた。しばらく見ていると、いくつか歌い終わったところで則宗に気付いて、はにかんだ。
「あ、えっと、おかえりなさい…?」
「ああ、ただいま」
則宗は機嫌良さそうに小鳥の頭を撫でる。
「小鳥、甘味は好きか?茶屋で団子を買ってきたぞ」
「おだんご」
小鳥の反応を見て則宗はくすくすと笑った。
「おやつにしようじゃないか。まあ今が八つ時かはわかったもんじゃないが」
「そういえばここの空って…」
「ああ、本丸の疑似環境制御システムあたりにでもエラーが出てるらしくてな。日も出ないが夜にもならないんだ。それもまた人の子の精神の安寧に影響するらしくてなぁ」
本丸の空は仄白く、明るいとも暗いとも言い難い環境を作り出している。灯りのついた室内というのが、光度的には近いかもしれない。
時間感覚があやふやになるというか。そもそも人間の体内時計は24時間ではなく、陽光を浴びてリセットしないとズレていってしまうのだという。それに、時間の経過があやふやな時間が続けば、それがストレスになるということもあるだろう。
「それは時間感覚が馬鹿になりそうだね…」
まあ小鳥自身そこまで時間感覚が正確なタイプではない。正しい時間感覚はその内なくなるだろうし、なんなら既に危ういかもしれない。
ともかく、小鳥は掃除を中断しておやつにすることに同意した。
「じゃあ、お茶を淹れるね」
「まともな茶葉があるかわからんかったから、それも買ってきたぞ」
なんてことのない平和なやりとり。何処の本丸でも普通にされているような平穏な時間。だが、この本丸、この状況においてそれは異常だった。凍結された本丸で、祟りと化した刀剣が、契約を交わしたわけでもない人の子と穏やかに戯れている。
その異常性を指摘するものはいない。小鳥にはそれが異常だと気付けるような知識がない。則宗はその状況を好ましく思っている。祟りと化しても彼の根本が変わるわけではなく、善良な人の子に好んで危害を加えたいわけではなかった。
「美味しいか?小鳥」
「うん」
景趣も正常に機能していない。庭も荒れて悲惨な状態だ。けれどふたりは縁側に並んで腰かけておやつを摂っている。則宗がそう促した。小鳥は特に抵抗なくそれに従った。
小鳥に危機感がないと言っても詮無いことだろう。小鳥は平和に育ってきた一般人で、今のところ則宗が直接的に小鳥の命を脅かしたことはない。則宗の口ぶりから安全な存在でないことを察してはいても、具体的な危機として認識できていないのだ。無理もないことだが。
とはいえ、出会って数時間のわりに距離が近すぎるのでは…?くらいのことは多分思っている。まあ、契約している人間に対して距離が近いのは刀剣男士の常なので、経過時間より、契約の有無を気にするべきところである。もっとも、契約関係にないのでイレギュラーな近さになるのだが。しかも負の感情が表出しやすい祟りが、である。
普通に元監査官だと思われる 則宗の方もメンタルが疲弊してきている
視覚が欠けてる分、他の感覚が鋭い的な たぶん長期間中傷で活動して変な癖とかできてる
小鳥が完全に本丸から出ないで過ごすタイプの√