本丸の管理権限は早々に更新していたが、それ以上のシステムチェックはなかなか手を付けられていなかった。ひとまず生活拠点を確保することが急務だと小鳥は考えていたし、本丸は荒れていた。則宗が多少手を貸してくれるとはいえ、小鳥一人ではとても手が回らない。
とはいえ、一応見てみるだけでも見てみる必要はあった。時間感覚の欠如はメンタルに影響するし、人間は健康のためには日の光を浴びた方がいいのだ。それに明るいと眠れないわけではないけれど、夜は暗くないとやはりメンタルにくるところがある。
ともかく、生活する上で必要な場所があらかた綺麗になったところで小鳥は本丸のメインシステムをチェックすることにした。
「うーん…これは一筋縄じゃいかないやつだな…」
「小鳥はシステムなんかが弄れるのか?」
「いやー、基礎を齧ってるくらいだから下手に弄れないけど…まあ、時間をかければある程度読み解いたりはできるし、多少のエラーコンパイルくらいは…できるといいなあ」
小鳥は苦笑する。エラーが解析出来たとして、その対処ができるかはわからない。そもそも本丸のシステムなんて素人がどうにかできるもんでもない。
「とりあえずシステムスキャンからかな…」
普通の端末に対するようなコンピューターウイルスなんかは当然対策がされているはずだとは思うが、とりあえずわかりやすいところから手を付けようというわけである。小鳥は自分の端末に入っていたスキャンソフトをメインコンピューターに入れて起動する。ディスプレイと真面目な顔でにらめっこしている小鳥を則宗は暫く静かに見ていたが、いくらかして飽きたのか、小鳥を後ろから抱きしめる。
「則宗さん」
「つまらん」
「んなこと言われても…」
則宗は小鳥を腕の中に抱え込んで、胡坐をかいた膝の上に座らせた。そのことに小鳥は少し慌てる。
「え、ちょ、則宗さん足も負傷してるでしょ」
「なに、これくらいならどうということもない」
風呂に入るなどして包帯を巻きなおすことになった時には、毎度小鳥が巻いている。だから、すっかり則宗がどこを負傷しているかは覚えていた。
「そんなこと言われても」
「小鳥が多少触れたところで、傷口が開いたりはせん」
「でも触ると痛いでしょ」
渋い顔をする小鳥のつむじに則宗は口付ける。
「触れば、な」
「僕の方で触らないよう頑張れと申すか」
「ふふ」
楽しそうに自分にじゃれついてくる則宗に、小鳥は溜息をついた。そもそも実力行使に出られたら小鳥はどうやっても則宗には勝てない。試すまでもなく明白な事実だ。
「俺も流石んこんな重要プログラム片手間に弄れないんだけど」
「そうだな」
「…僕に構う以外の時間潰しをしたらいいじゃん」
「そんなつれないことを言わなくてもいいだろう。寂しくなってしまう」
「俺は可能な限り健康的な生活を送りたいんだよね…」
時間感覚が狂っていては、規則正しい生活も何もない。まあ、凍結本丸に軟禁されている状態で健康的な生活もなにもないと言われれば、それはそうなのだが。
「人の子は些細なきっかけで死にかねないからなぁ」
「そう言われると若干違う気がするけど…」
「♪~」
小鳥の口ずさむ歌を聞きながら、則宗は大人しくしていた。小鳥を抱きかかえたままではあったが。傷にさわらぬようにと小鳥が身を固くしているのが不満ではあったが、小鳥の性根を考えれば仕方のないことではある。手入れを受けたいと久方ぶりに思った。
小鳥の意識は半分以上ディスプレイに向かっている。則宗も流石にそのあたりは専門外ではあるが、あまり軽視してはいけないものであることは知っている。なにしろ、本丸は虚数空間にあり、そこは人間が平気で存在できる空間ではない。本丸という殻で保護してさえ、自己観測ができなければ長期滞在はできない場所である。本丸が損なわれることは則宗も御免こうむりたい。
どれだけ経ったのか、小鳥は目元を揉み解すような仕草をしながら溜息をついた。
「何かわかったのか?」
「何か色んなとこがnullになってるってことまでは。適切な値を投げてやったらエラーが解消されるかもしれないけど、あてずっぽうで入れたらバグるかもしれないし、マニュアルか何かないか探すべきかも…」
「そういうのはこんのすけの領分かもしれんなぁ」
「…この本丸にはいないっていう」
「ああ」
「…既にバグっているようなもんだし、トライ&エラーも一つの手か…?」
小鳥は難しい顔をしている。則宗はその皺を伸ばすように指でなぞった。
「小鳥、あまり深刻に考えるな。なに、最悪本丸がダメになれば、それはそれで政府の連中が異変に気付くかもしれんしな。うはは」
「それはそれで困ったことになりそうな感じもするけど…」
「まあ、政府の"どんな"連中が気付くか次第、ってところだな、その辺は」
「どんな連中…」
「わかってはいるだろうが、一枚岩とはいかないからな」
R18サイドに続く