刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

160 / 193
初期刀が白山の√


白のワルツ

 

 

初期刀として白山吉光を降ろすなどという前代未聞の事態に、周囲は騒然となった。しかも、先天性特異個体に該当しそうなレベルの浄化の力が強い個体である。

もっとも、当人たちは全く気にしていなかったが。

「白山吉光。吉光の手による剣、です。よろしくお願いいたします」

「あ、こちらこそ…」

戸惑いはあれど、契約の縁は確かに結ばれた。その時点で少女は審神者になったも同然なのである。刀剣男士と契約した人間を一般人にしておくわけにはいかないのだから。

 

 

 

白山吉光は現在、刀剣男士として唯一顕現が確認されている剣である。間合いは短刀に近く、銃刀装も装備可能でありつつ、盾兵なんかも装備できる。何より特異なのは、自らの精神力(疲労)と引き換えに他の刀剣の生存を回復することが可能な、癒しの力を持つことである。これが剣に共通の能力なのか、白山個刃の能力なのかは今のところ不明。また、通信機だという白い狐を連れている。

まあともかく、白山は珍しい刀剣男士である。顕現できていない審神者もそこそこいるし、顕現済みでも乱舞レベルが上がり切っていないのが普通だろう。そもそも恒常的には入手できない。

つまり、初期刀が白山なんてのは目立つどころの騒ぎじゃないわけである。そちらの知識の一切ない少女に理解を求めるのも酷な話だが。

「いやだからって人の初期刀紛失したりします?完全に盗難被害じゃないですか」

初期刀用の依代は試験の時点では態と一部処理を省かれており、長時間の顕現ができないようになっている。その処理と並行して審神者は最低限の研修を受けることになるわけだが、少女はその時に政府付きの審神者になることを打診されていた。少女もまあ、接客業的なものじゃないなら…と引き受けることにしたわけだが、その矢先にこれである。

「良からぬことを考える輩が絶えなくて、本当申し訳ないとしか言いようがないよ。とはいえ…顕現せず習合でもされたら打つ手がないが、顕現されたら解決すると思うよ。他ならぬ白山吉光だしね」

首を傾げる少女に長義は微笑して言う。

「彼は自前の通信機があるからね」

 

 

 

「人の子、号は決まりましたか?」

「え、あ、白鴉です」

「そうですか。では白鴉、あなたに託した分霊が見つかりました。大方の予想通り、ある審神者の本丸です」

通称・本霊アバターとも言われる、本霊と直接繋がった個体の白山が少女に言い放った。少女は反射的に立ち上がる。それを制すように白山は言う。

「救出は監査部の者が行います。これに乗じて本丸自体の監査も行いますので。つきましては、霊力照合の為の霊力紋の提出を行ってください」

「何で自分で迎えに行っちゃ駄目なんですか」

「あなたには現在、わたくしの分霊以外の護衛刀となるべき刀剣がいないからです。か弱い人の子を丸腰で出陣させられません」

「むぅ」

事実である。白鴉が契約しているのは今のところ白山一振のみだ。それも仮契約に近いものである。初期刀と正式契約を結ぶまでは他の刀剣との追加契約もできない。仮契約だけならできなくもないが。

そういうわけで道中、遭遇した鶴丸国永と「俺の主になってくれないか!」「今それどころじゃないんで」というようなやり取りをしつつ、監査部に辿り着いたわけである。

「おや。これは盛大な迷子かな?」

「迷子じゃない。俺はこの子の刀になるって決めたんだ」

「承諾した覚えがないんですが…」

「ははは。当世ではそういうのはストーカーというらしいぞ?」

「ちーがーうー」

ついてきた鶴丸を揶揄う鶯丸を余所に、大包平が少女に問う。

「それで、お前はどのような用件で監査部に来たんだ?ストーカーについての相談であれば警備課を紹介しよう」

「いえ、盗難された刀剣との霊力照合のための霊力紋を提出するように言われてきました」

「そうか…となると総務課か情報課あたりか?」

「2班が派遣されるらしいアレか?白山吉光からの通報で発覚したとかいう」

「それ、僕の白山くんです」

「ほう」

「…他の契約刀がいないんで、直接迎えに行けないし、ついでに変なのに絡まれた時の為に監査に繋ぎを作っとけって班長と教官が」

拗ねたように言う少女に鶯丸は目を細める。

「なるほどな」

「…まあ、"誘惑"に絡まれている時点で平穏に暮らせるタイプではなさそうだな」

「僕、医療部なんですけど???」

ちなみに浄化課なので基本的に怪我の治療などの医療行為はしない。医療免許持ってないし。

「医療部…基本出禁にされてるんだよな、俺…」

「まあ、一歩間違えると大惨事になるからな」

「そもそもお前は確か術師預かりになっていたはずだろう。…霊力汚染で定期的に宿替えになるが」

「ああ。今日が異動の日だ。そうしたらこの子とばったり会ってな。これはもう運命だろうと」

「僕は何も運命感じてないですね」

「これだけ誘惑に塩対応な人間も珍しいな(笑)」

「ある意味本当に相性が良いのかもしれんな…」

これだけ執着を見せておいて、鶴丸が一切異能を使っていないとは考えられない。寧ろ、使ってなお塩なので余計執着されているくらいだろう。特異個体そういうとこある。

「そもそも、僕まだ初期刀との正式契約が完了してないんですよ」

 

 

本来であれば降りないはずの刀剣が降りてきたとなれば、当然ながら原因調査が行われる。今回の場合は、白山が本霊アバターを本部に置いている刀剣だったので、そちらへの聞き取りとなった。その結果は、

「ええ。人の子の元に我が分霊を送りました。それが何か?」

という反応だった。

「先日まで大阪城への(みち)も開いていましたからね」

とも言っていた。ともかく、何らかの事故とかではなく、本霊が意図して降ろしたものらしい。

「ところで。わたくしの分霊を降ろした人の子は、浄化特化型の霊力の持ち主ではないかという話になっているようですね。本人の同意が得られれば、医療部の方に勧誘したいのですが」

 

 

本来であれば、審神者候補生の教育は教務課の仕事なのだが、というか、養成所に入るのが一般的なのだが、かの少女はあまりにも悪目立ちしてしまったので、教官とのマンツーマンになった。候補生の事情によっては稀にあることである。

彼女の場合は、歴史修正主義者だけでなく黒派閥も警戒する必要もあるということで、人間の術師ではなく刀剣男士…山姥切長義が教官を務めることになった。務めびととしてのしがらみはあれど、特定の主を持たない政府刀は罪のない人の子を虐げることを良しとしない。

「…本当に非術師家系の出身なのかい、君」

「霊感とかないし、呪術とか架空の存在だと思ってましたよ僕は。完全なる一般人です」

本人はそう言うが、少女が呪術を使えるようになるまで然程時間はかからなかった。霊力そのものも全くの一般人にしては多い。まあ使えると言っても術式が発動できる、というレベルの話なのだが…。

「それだけ霊力があるなら、あっても良さそうなものだけれどね、霊感。…それとも、自覚がないだけかな」

少なくとも、浄化特化型なら力の弱い浮遊霊なんかは近づけないだろう。浄化されてしまうので。

「そうですか?」

自分の霊力に未だいまいち実感がないらしい少女が首を傾げる。

 

 

 

 

黒本丸から救出された白山は、少女と顔を合わせるなり顕現を解いた。少女は当然のように白山の本体を手に取って再顕現すると、何事もなかったかのように白山を抱きしめる。

「無事で良かった~」

「はい。白山吉光、ただいま主様の元に帰還しました。主様こそ、ご無事でしたか」

「僕は特に何も。…いや、まあ、何かちょっとストーカーみたいなのができましたけど」

「ストーカー」

「だから俺はストーカーじゃないって言ってるだろう」

「でも付きまとい案件ではありますし」

「ぐっ…」

口をへの字に曲げた鶴丸に、白山は不審者を見る目を向ける。

「わたくしの主様に、何かございますか」

「…俺はその子に俺の主になってほしいんだ」

「…わたくし以外に主様の護衛刀を増やすとなれば、脇差か打刀、あるいは短刀が適当かと。主様は戦闘職ではなくて、後方支援部署ですから」

「うぐぐ…まあ、俺は医療部には適性がないし、基本出禁くらってるんだが」

室内戦闘においては刀身は短めの方が有利になる。長いと狭いところでは動きにくい。まあ状況にもよるのだが…。

「わたくしはあまり戦闘向きの刀剣ではありませんから、他の護衛刀を増やすことまでは否定しませんが」

「護衛…必要ですか…」

「人間は簡単に死んでしまうものなのでしょう。わたくしの癒しの力もあくまで刀剣を直すものであって、主様を癒すことはできません」

「うーん…」

少女はよくわかっていない顔をする。まあ、実際に命の危険を感じたことのない人間ならそんなものだろう。

「話に一区切りついたところで、改めて事情聴取させてもらっていい?白山吉光。多分そこまで時間はかからないだろうし」

「まだ主様との正式契約が完了していません。…主様、わたくしに号を教えていただけますか。それと、わたくしに二つ名を付けてください」

「僕は白鴉だよ。二つ名…んー、狐白でどう?」

「受領いたします。わたくしは白鴉の初期刀、白山吉光。二つ名を狐白です」

「よろしくね」

「はい、よろしくお願いいたします」

しれっと概念拘束術式を成立させる主従を見て、監査部の加州は面食らった顔をした。まあこの白山は先天性特異個体なので必要なことではあったのだが。

「…励起試験で白山を降ろすだけのことはある、ってことかー」

「しかも"誘惑"にも目を付けられている」

「大型新人が入ってきたもんだ。…白山吉光、いい?そっちの子は引き続き此処で待ってもらってていいから」

「…わかりました。主様、行ってまいります」

「うん、いってらっしゃい、白山くん」

 

 

白山と無事再会できたことで、少女も少し気持ちが落ち着いたらしく、ぴりついた雰囲気はなくなった。まあそもそも、本来そんなに好戦的なタイプでもないのだ。自分のものに手を出されるのが地雷なだけで。

「初期刀との契約もできたことだし、俺との契約も前向きに考えてくれないか?」

「そう言われても…」

少女としては、特に他のよく知らない刀剣と契約を結ぶ理由はない。政府職員として働く場合、契約を結べる刀剣の数は多くても一部隊分(それも戦闘部署で一班丸ごとという場合)と聞いている。大体は一振りか二振りらしい。

「そもそも何故契約を結びたいかがわからないと言いますか」

少女は己は普通の人間だと思っている。だから突然迫ってきた鶴丸など不審者以外の何者でもない。

「きみは多分、俺と契約を結んで日常を共にしても気が狂ったりしなさそうだから、だな」

「なにそれこわい」

少女は助けを求めるように同席していた刀剣に視線を向ける。

「そもそもお前が自分の能力を完全に制御できるようになればいいだけの話だがな」

「相性はあるにしても、ほぼ全敗らしいな。かといって政府刀になって接触人数が増えるのも危険、と」

「封印具重ね付けしても完全に封じられないというのは、厄介だよな。封印措置にならないのが不思議なくらいだ」

「まあ一応本刃は瘴気や穢れは出してないからねぇ」

ちなみに彼らが此処にいるのは半分くらい鶴丸を警戒してのことである。新人の人の子?可愛いねぇ、みたいなのもある。まあオフィス待機指示が出てるらしいのだが。

「僕一般人なんですけど」

「一般人は白山吉光を初期刀にしないと思うぞ」

「別に意図したものではないので…」

そもそも彼女は元々刀剣にさほど詳しくない。名前を聞いてもいまいちピンとこないのが大半である。知らないものは意図のしようがない。

「というか、何故駄目なんだ?自分で言うのもなんだが、俺は割と引く手あまたの刀剣だぞ」

「その引く手のところに行けばいいのでは…」

「俺を欲しがるやつのところに行く気はない」

少女はこいつ面倒くせえなという顔をした。大体合ってる。

「僕は平穏に暮らしたいんですよね…」

「それは無理だろう」

 

 

 

白山の事情聴取が終わったが、鶴丸の方は話が平行線だったので、少女は教官である長義にヘルプを求めた。

「君は本当に話題に事欠かないね…」

「僕は日常を平穏に送りたいんですが…」

まあ言っても詮無いことである。そもそも政府職員に平穏な日常があるのかわからないが。

「とはいえ、だ。付きまといはいただけないな、鶴丸国永。この子は本丸付きにならないから護衛刀の選定は慎重にならないといけないし」

「護衛なら俺だって務められると思うが?」

「この子は医療部内定済みだ。あなたは出禁だろう」

何故ならこの鶴丸はいるだけで他者の精神に干渉するタイプなので。

「それは…出禁を撤回できればいいんだろう?」

「そう簡単に撤回されるわけがないだろう。勿論、不正は無しだよ」

言ってはなんだが、彼が出禁なのは患者を守るためである。問題を起こされては困る。

「正式に契約を結べば、何かあった時、やらかした刀剣だけでなく審神者も監督責任でペナルティをくらうことになる。その場しのぎじゃなく、きちんと対策できるようになっていてくれないとね」

「む…」

 

「…刃事課の鶴丸に相談するか…?」

「ちょ、それは流石に卑怯だろう」

「刃事課?だと何か違うんですか?」

「刃事課には彼の本霊アバターが所属しているんだ」

つまり保護者に言いつけるぞ的なアレ。

「このままでは話がまとまらなさそうなので、間に入ってもらうのも一つの手かもしれませんね」

 

内務部刃事課は元々政府刀の相談に乗ったりしている部署である。だから的外れな訪問ということもなかった。刃事課の鶴丸は苦笑したが。

「そうだな…一か月くらい猶予をもらって、能力制御訓練を受けるのはどうだ。それで合格水準までいけば契約、できなければ諦めるってことで」

「…彼は数十年単位でこの状態と聞いているが、一か月訓練したくらいでどうにかなるものなのか?」

「まあ本刃にやる気があれば不可能ではないんじゃないか。もっと早くそのやる気を出してくれって話にはなるが」

「ふむ…。君はどう思う?」

「正式契約を結べば僕が監督責任を負うことになるということ以外よくわかっていないので、あんまり…」

「俺はその案で構わないが、猶予期間中、仮契約を結ばせてほしい」

鶴丸の言葉に長義は嫌そうな顔をした。

とはいえ、突飛な要求とも言えない。供給される霊力が変化すれば霊力操作の感覚が変化することも珍しくはない。しかもこの少女は特化型である。特定の契約主を持たない刀剣の顕現維持に使われる霊力パックは供給元を特定させないよう調整された特徴のないものだ。かなりテイストが変わってくるだろう。

そうは言っても、仮契約を結ぶとなれば、自然と職員寮での同居が選択肢に入ってくるから長義が難色を示すのも尤もなのである。教官とはいえお前はこの子の何なんだって感じではあるが。

「心配なら何か護身用アイテムでもレンタルするか?いらぬ心配だとは思うが」

「そうだね…何もないよりはそっちの方がいいだろう」

少女はよくわかっていない顔をしている。

「この鶴丸国永は主様に危害を加える可能性があるのですか?」

「ゼロではないかな」

「人聞きの悪いことを言うな。俺は主に危害を加えたりはしないとも」

「お前はそう思ってこれまでも過ごしてきたんだろうがな…」

「人の子の精神に干渉するのは一般的に十分危害に該当しうるんだよね」

少女の場合、ある程度それをレジストできているようではある。過信はできないが。

 

 

 

 

 




政府刀全員二つ名もちってわけではないが、他部署まで評判が轟いてるようなのは大体二つ名もち
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。