刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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満月庭If 姫鶴一文字√
のっとりブラック化した本丸(壊滅後の姿)


鎖された君の銀の庭1

 

 

配属先の本丸には、誰もいなかった。

正確に言うと、前任だか何かの残した式は何体かいたが、意思疎通はできるが会話ができない。結構な広さがある場所で、動くのは自分一人という状況である。なんか式たち曰く一振りだけ残ってるのがいるらしいが。

かつて執務室として使われていた部屋でメインコンピューターで管理者登録の更新もした。家具が趣味じゃないのでそのまま使うつもりはない。その辺整えるのは後回しだが。まず生活拠点を確保する必要があるので。管理者書き換えて霊力が循環するようになったらインフラは動くようになった。謎技術。まあそもそも本丸って現世とは別の謎空間にあるらしいし…。

「そういえばこんのすけって何処にいるんだろ」

管理者登録が済んだらこんのすけって管狐が次するべきこととかを指示してくれるって話だったんだけど。

ともかくどうしたらわからないので、手近なところから掃除していくことにした。住居なら綺麗にして悪いということもあるまい。

 

 

 

屋根の上から街を見下ろす。赤い瓦屋根を飛び移って、駆ける。翼もなく風を切る。地上で騒がしく黒と白がぶつかっている。もっと遠くへ。

「ふぅん。今度のはこんな感じなんだ」

銀色が脈絡なく立っている。電柱かな。屋根を蹴って飛び越える。もっと高く、長く。空を飛ぶ。風を切る。躯が宙に浮く。

「鳥になりたい子なのかな?」

風を受けてコートが膨らんで落下速度を落とす。宙を蹴って、進む。石造りの塔。鉄骨の足場。とんで、とんで、のぼっていく。暗い世界。暗いけれど視界に不自由はない。上へ、上へ、とんでのぼっていく。もっと上へ。

「脈絡がないな。まあ、自覚がないならそんなものか」

とんで、とんで、上へのぼっていく。

 

 

 

変な夢を見た気がする。覚えていないけれど。悪い夢ではなかったような。

ともかく、今日も掃除である。本丸内の調査も一応兼ねている。圧倒的情報不足。何があるかもよくわかってないので。

そしてできればこの本丸に残っている一振りとやらも見つけたい。背が高いヒトだといい。高いところに俺は手が届かないので。棚の上とかよくわからない。天井の電灯とか…。

「まあ、できることからやるしかないもんね…」

生成術式が問題なく使えるようになったのは幸いだが、これで食物は作れない。霞を食っているような状態になりかねないらしい。まあ、生成で食糧問題がどうにかなったら永久機関がアレするから仕方ないね…。

それはそれとして、まあ、掃除である。昨日は水回りと寝る部屋だけなんとか確保したので、今日はその周りから片付けていくことにした。人手も俺一人しかないし。式の子によると、少なくともこの本丸は一時期は百を超える人数が生活していたらしい。それがどうなってこんな半廃墟みたいなことになったかはわからないが。まあ、それだけ住環境が一度拡張されているので、大食堂やら大浴場やらがあったり、それとは別に小さめのキッチンや風呂やシャワー室なんかも幾つかあったりするわけである。現在使うのはとりあえず僕一人なので、その小さなキッチンやら風呂やらを確保したわけだ。

なんというか、生活痕は色んなところにある。今使ってる感じではないけど。いや、まあ、実際大部分は使われてないんだろう。人一人生活するのに必要なスペースってそんなに広くない。刀剣男士の場合どうなるのかわからないが、大差はないんだろう、多分。

 

 

 

ガラスを隔てた向こう側で、雨が降っている。ざあざあ雨音がする。雨に濡れるのは好きじゃないが、雨音は嫌いじゃない。

「うわ、何この土砂降り。うげぇ…」

雨の中に何か銀色が見えた。何かわからないけど。どうもしないけど。

雨が降っている。ざあざあ、雨が降っている。

「全身びしょぬれだ、最悪…」

雨の音がする。水のにおいがする。雨の、においがする。冷えたにおいがする。

「…これは、今日も自覚がないやつだな。鈍い子なのかな」

雨がざあざあ降っている。

 

 

 

三日目だから音を上げるには早いかもしれないが、普通にしんどい。単純に範囲が広すぎる。

「これはいっそ、床はルンバでもフロアごとに放流しちゃった方がいいかなぁ…」

掃除ロボで対応できるものとできないものがあるのは確かだが、まあ床掃除ぐらいはなんとか。一度綺麗にしてもそれを維持するために定期的な掃除が必要だし…。

「――るんばって何?」

「ロボット掃除機。充電式で自動で床掃除してくれるやつ。まあ日常で普通に出るレベルのゴミや汚れより酷いのは荷が重いけど。…って」

声のした方に振り返ると、見知らぬ青年が立っていた。全体的に銀色。それなりの長身。髪も長い。なんか浮世離れしてる感じがする。後、不思議な既視感がある。

「え、あ、えっと…僕は審神者の小鳥です。あなたは?」

「んー、まあいいか。おれは姫鶴一文字。知ってる?」

「うーん、なんか聞いたことあるような…あ、何か磨上げようとしたらお姫様が出てきて磨上げないでほしいって頼まれたから止めた刀…だっけ?」

「…まあ、大体合ってるかな。その姫鶴」

「ってことは、姫鶴さんって呼べばいいのかな」

「好きにすれば?ああでも姫呼びは嫌かな」

逸話からして、姫鶴さんは嫌なことは嫌とはっきり言うタイプなんだろう。いや、その方が助かるけど。

「ところで、何故突然、僕の前に出てくる気になったんです?今日気付いた、ってわけじゃないでしょう?」

「ん。お前、かなり鈍そうだから、自力じゃ気付かないだろうと思って。それはそれで面白いかもしれないけど」

「…何にですか?」

「おれが折れたりしたらまた別だけど、お前、此処から出らんないよ。死ぬまでこの本丸に閉じ込められてるの。気が狂ったり、生きてるのが辛くなったりしたら殺してやるけど」

「…何故?」

「審神者がいないと本丸は動かないし、刀剣は顕現が解ける。まあ、お前は電池扱いされてるってこと。お前が初めてってわけじゃないけどね」

「…ああ、成程」

不審だとは思ってたけど、そうか。騙されていたのか。閉じ込められると知っていたら、積みゲーとか色々、持ってきたのに。

「驚かないんだ?」

「何か変だなあ、とは思ってたので。…ってことは、こんのすけもいないのかなぁ…」

とはいえ、やることが変わるかといえば、そうでもないか。とりあえず生活拠点は整えなきゃだし。

「姫鶴さんって、お掃除は手伝ってくれます?」

 

 

 

道を歩いていた。家の近くの、田舎道。道なりにいけば海がある。海のにおいがする。

「今日はこんな感じか。…海が近いのかな」

銀色が立っていた。姫鶴一文字。夢告げの太刀。

「ん、こっち見たね。おれのことわかる?」

「姫鶴一文字」

「あたり。頭は悪くないんだね、お前」

そう言ってにんまりと笑う。姫鶴は目線を合わせるようにしゃがみこんだ。

「少し相手したげる。おいで」

「ん」

ひょいと抱えられて目線がとても高くなる。こんな高さからこの道を見たことはなかった。

「なに、落としたりはしないよ」

「…高いところは怖い」

「あんな夢見ておいて…?」

「高いところから落ちたら死んじゃうから…」

痛いのは嫌だなあ、と思う。死にたいわけでもないし。死んじゃったらしょうがないけど。

「落としたりしないってば」

 

 

 

一旦の掃除を終えたフロアにはルンバを放流していくことにした。マーキングも兼ねて。本丸広すぎて管理できないのでは感あるけど。まずはやってみないとだし。

「…ん?姫鶴さん、どうかした?」

「小鳥は小さいな、って」

「むぐっ…人が気にしてることを…」

「かあいくていいじゃん」

「僕、己に可愛さは求めてないので…」

大きいのは大きいので苦労もあるらしいが、平均より小さいのは不都合があるものなのだ。ちなみにここのキッチンは場所によって作業台の高さとかが違うようなので、使いやすい高さのところを綺麗にして使っている。選べるなら態々不便なところにする必要ないし…。

「小さいものは割と好きだよ?」

「…それはどうも?」

同居相手なのだから、好意的であることに越したことはないだろう。少なくとも、嫌われて邪険にされるよりはいい。悪い(ひと)じゃなさそうだし…。

 

 

 

大きな窓から日の光が差し込んでいて、日向ぼっこに丁度いい。暖かくて、眩しい。ぽかぽかそて気持ちいい。

「お前のとこはいつも静かだね」

銀色、姫鶴一文字。

「それに人間がいない」

僕より大きいもの。たぶん危険ではないもの。伸びてきた手が頭を撫でる。

「お前の自己認識ってどうなってるの?まあ、気が狂うことも意味消失を起こすこともないなら、ある意味それでいいのかもしれないけど」

「俺は俺」

俺が俺以外の何かになることなどないのだから、どうあれ俺は俺だ。

「ふぅん…?だったら、もっとかあいいものにならない?」

大きな手が俺の躯をなぞる。

「支障が出たらおれが世話焼いてあげるし」

「かあいいものとは何だ?」

「小さいもの。素直で純粋なもの。子供とか、小動物とか。まあ鳥でもいいけど」

こいつは神なんだなあ、と思う。多分、好かれ過ぎるとよくない。いや、どちらでも同じか。

 

 

 

一通り、本丸内の掃除は終わった…と、思う。隠し部屋とかがないならだけど。ふたりしかいないから、そこそこ時間がかかった。多分、一か月くらい?ちょっと曖昧だ。まあ元々俺は時間感覚がちょっと駄目な感じなのだが。

姫鶴ともそれなりに打ち解けたと思う。仲良しかっていうとわからない。何かいつのまにか寝室が一緒になってたけど。まあそういうこともあるだろう。寝る時一人きりって苦手だしまあいいかな、って。何かされるわけじゃないし。

「小鳥、暇してるの?」

「まあ忙しくはないかな」

基本的に、物事に締め切りがないようなものだから。本丸の中で何が起こることもないし。

「暇ならおれの相手しなよ」

「っていっても、したいことがあるわけでもないでしょ」

一振り(ひとり)じゃないのにぼーっとしてんのやなんだけど」

「そう言われても」

元々俺は他人と過ごすということがあまり得意ではない。一人遊びの方が得意というか。

「あ、ゲームやろ、ゲーム。押し入れにしまってあったやつ」

「まあいいけど…」

そういえば、そこそこレトロなゲーム機とかが一式、押し入れの奥にしまわれてたり、なんやかんや先住民の私物らしきものが幾らか残ってたんだっけ。あんまり気楽に使っていいのかわからないけど…。

 

 

 

プラネタリウムの椅子に寝転がっていた。

「何あのでかいの」

姫鶴一文字が隣の椅子にいる。

「プラネタリウムの映写機」

「プラネタリウム…ああ、星を見るやつね」

あたりが暗くなって、星空になる。アナウンスが星空の解説をする。北天の星座。北極星の見つけ方。星座にまつわる神話。

「星に興味があるんだね、お前」

「んー、神話とか、面白いから。星座は全然そう見えないけど」

でもまあ、見上げれば有名な星座くらいはわかる。オリオンの三つ星に、柄杓。クマと狩人。目立って光っている星。

「ふぅん。…こんなに喋れても自覚ないもんな、こいつ」

「姫鶴は何でいるの?」

「そりゃあ、お前が面白いから、かな」

娯楽扱いされているらしい。

 

 

 

 

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