刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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美濃支部基地


鎖された君の銀の庭4

 

結論から言えば、小鳥の躯は本丸から出ても幼児化したままだった。そして一旦医療部でそのことを伏せて健康診断を行っている間に姫鶴の概念拘束を済ませておくことになった。小鳥の付き添いは小さい子の気配を感じて駆けつけてきた毛利が買って出た。

小鳥が少し不安そうにしたので、姫鶴は自分の髪紐を解いて小鳥のものと交換した。

「おれのだから、後でちゃんと帰してよ」

「うん」

毛利は、あっこれ自分に言ってるな、と思った。ちなみに姫鶴の付き添いは小豆である。適材適所。

小鳥の健康診断自体は、さほど異常もなく進んだ。まあ小鳥は中身も幼児というわけではないので本人がトラブルを起こすことはそうそうない。毛利より小さいので、毛利が付き添いをしていても彼の性格を知っていれば小さい子だもんな…となる。そうして検査結果を待っていた時、

「新婚の人妻の気配がする!」

「ちょっ、包丁、ストップ」

その場がざわついた。その場にいたのは小鳥以外は男審神者と中学生くらいの審神者、一見人妻に当てはまらない人間ばかりだったからである。同伴男士もたまたま短刀と脇差のみだった。安牌がない。包丁の主は騒がしくしてすみません、と近くにいた男審神者に頭を下げる。

「人妻はそっちじゃなくてあっちだぞ、主」

包丁が指さしたのは小鳥である。人を指さしちゃいけませんと窘めようとして固まる包丁の主。他の審神者もざわつく。まあ毛利より小さい幼女が人妻と言われたらそうなる。

テンパった毛利が「僕じゃないです!」と叫ぶ。

あの…と他の審神者の五虎退(極)が進み出る。

「その方の髪飾り、姫鶴さんのもの、ですよね…?」

「?うん。姫鶴と交換したの。後でちゃんと返してって」

つまり旦那は姫鶴…となる周囲(あってる)。

「姫鶴って姫鶴一文字だよね…?」

「エッ知らないけどアウトでは」

「包丁の人妻認定ってどうなってんの?」

「それは個体によるところあるから…」

ちなみに行政手続き上でいうと小鳥は届け出をしていないので未婚である。婚姻届けを出せば通る。

「姫鶴さんもロリコンなんですかね?」

()ってなんだ、も、って」

風評被害が広まりそうな気配があるが、ある意味否定できない。彼に関しては小鳥をこの姿に作り変えたという実績がある。しかも求婚は作り変えた後だ。

「…ええと」

「姫鶴は私の事そういう目で見てないと思うよ。かあいいとはよく言われるけど」

好きだと言われたわけではないのだ。かあいいものは好き、みたいなことは言っていたかもしれないが。

「…あなたはそれでいいんですか?」

「私も別に姫鶴のこと恋愛的な意味で好きなわけじゃないし」

お互い様じゃないかな、と小鳥は首を傾げる。別れた時のことを思い出して毛利はしょっぱい顔をする。

「…ううん、そうですかね…」

恋愛感情でないとしても、重い執着を向けられていることだけは確かである。毛利の表情から審神者たちは面倒くさい気配を感じ取った。そういうのが身を守るのである。

 

 

 

「包丁の人妻判定に引っかかっちゃったかー」

包丁と毛利の判定に本人が両方とも該当するのはシンプルにヤバい。法律的な意味で。まあ小鳥は合法かもしれないが。実年齢的には大人なので。

「そりゃ、おれの嫁なんだから他の奴から見たら人妻になるでしょ」

「それはそうなんだけどね…」

本刃はけろっとしているが、多分同位体から風評被害で抗議が来る。長義は頭痛がするという顔をした。あまり存在を広めたくなかったのだが。

「ごえいよういんがひつようかな」

「元々必要だったけれどね…小鳥ちゃんは色々、特殊条件が重なってるし」

正直なところ、皆、現世に来れば小鳥は元の姿に戻るだろうと思っていたのだ。自分が何処の誰かもわからなくなっていたわけではないし。けれど、小鳥の姿は姫鶴に作り変えられたもので安定してしまっている。技術部や一部の権力者などに知られれば研究材料にでもされかねない。実質的に若返りからの不老になるかもしれないのだ。それを望む人間は少なくないだろう。流石に幼児ではなく青年期から壮年期くらいを望むだろうけど。

「おれが小鳥に手出しさせるのを許すとでも思ってるわけ?」

「何事も完璧というのは困難でしょう。絶対はありません」

「・・・」

面白くはないが、姫鶴も理解しないではない。三百六十五日、四六時中警戒し続けるのは不可能だ。姫鶴一振りでは守り切れないかもしれない。見目通りの身体能力しかない小鳥が自衛できる範囲などたかが知れている。

「とりあえず一部隊分集めようか。同じ本丸から複数引っ張ってきた方が連携も取れるかな」

「おなじほんまるにいたからといって、かならずしもれんけいできるともかぎらないけれどね」

「多少なりとも、気心の知れてる相手の方が連携は取れると思いますよ」

「…一文字の刀は送ってこなくていいからね」

「その辺は実はもう希望者が来てるんだよね。情報網どうなってるの」

「うげ…」

通常の姫鶴も一文字派の刀とは距離を置きたがるが、彼は猶更だろう。ほぼ確で煩くなる。

「山鳥毛殿とかどう?」

「わかって言ってるよね?」

まあある意味一番姫鶴が嫌がるのは則宗かもしれないが。

「室内戦のできるものを入れた方がよくありませんか?」

「それは俺の独断で猫殺しくんを入れておいたからどうにかなるだろう」

「…メンバー決定前に候補者をおれと小鳥で面接させて」

姫鶴が苦虫を噛み潰したような顔で言った。長義たちは顔を見合わせる。

「当然、正式決定前の顔合わせや試用期間はあるけど…多分そういうことじゃないよね?」

「うちの本丸、妖怪がいくらか住んでるんだよね。元は妖横町にいたやつら」

「招き入れたのか?」

「ちょっと取引してね」

「庇を貸して母屋を取られた状態じゃないだろうね、それ」

姫鶴は肩をすくめる。

「無駄に広いし、おれたちが使わないところはまあいいかなって」

「家主が招き入れた以上、無理に追い出そうとするのは悪手か…きっちり交渉できる者を出した方がマシかな…」

「でしたら博多のがいいんじゃないでしょうか。妖怪などが平気なタイプであれば対価交渉などもばっちりやってくれるかと」

「ああ、それはそうぞうにかたくないね」

「…それなら、怪異耐性のあるものを探すより小鳥ちゃんに未顕現の刀を顕現してもらった方が早いかな。励起能力に問題がないかチェックする必要もあることだし」

刀剣男士は顕現した主の影響を受けることが多い。小鳥はそんな本丸で平気で過ごしていたのだから、妖怪などが平気な人間なのだろう。

ちなみにその小鳥がどうしているのかといえば、歩き回って疲れてしまったのか、姫鶴の膝で転寝している。とても安心している様子だ。姫鶴のことを信頼していることがうかがえる。

「ええ…」

「あなたがその子の精神に干渉したことが原因だからね?」

励起試験に合格して審神者として正式に採用されているのだから、元々は正しく刀剣男士を顕現する力を持った審神者だったはずだ。だが、こうして何か変調を起こしている以上、亜種顕現する状態になっている可能性もある。通常より小さい肉体で顕現するとか。

「なんにせよ、いせきするかたなも、あやかしにかじょうはんのうしないものでないといけないね」

トラブルになっては困るので。怖がるものだと本刃がストレスだろうし、妖殺すべしタイプでもやたら殺されたら困る。一応現状はうまく同居できているようなので。ちょっかいをかけられなければ害のないものは放置するタイプあたりがベターだろうか。

 

 

 

小鳥が目を覚ました時には励起試験の準備は整っていた。

「んと、つまり、顕現したらいいの?」

「ああ。できるかい?」

「たぶん…」

用意されていたのは、博多藤四郎と山姥切国広である。国広は短刀サイズ亜種顕現ケースの確認のために用意された。元々短刀の博多では変化が分からないかもしれないので。

小鳥がまず手に取ったのは、短刀の方だった。こわごわ見回して、鯉口を切る。途端に誉桜が舞った。

「俺の名前は博多藤四郎!博多で見出された博多の藤四郎たい。短刀ばってん、男らしか!」

どうやら励起能力に問題は無さそうだと長義たちが思った時、

「ふぎゃー!可愛いー!!」

「えっ」

「毛利センサーに引っかかったということは…通常より小柄に顕現されているのか…」

通常、博多は毛利より背が高いので小さい子に入らないのだ。

「…えっと」

「確認のため、そちらの打刀も顕現してみてくれるかい?」

「うん…」

長義に促され、小鳥は打刀を手に取った。深呼吸。そして、鯉口を切る。誉桜が舞い上がった。

「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」

今度は亜種顕現であることが明白だった。国広もまた短刀サイズで顕現している。とはいえ、本体にまでは変化は及んでいないようだ。

「…惜しいですね。もうあと少し小さければ小さい子だったのですが…」

「随分可愛らしい姿で顕現したじゃないか、偽物くん」

「写しは偽物では…って、山姥切?!」

長義は笑いながら国広を端末で撮影している。

「…うーん、マジかぁ」

「おや、やっとじぶんがやったことがわかったかい?」

「いや、問題があるのはおれじゃなくて小鳥でしょ。おれ別に恒久的に変えようと思って弄ってないし」

などと口では言っているが、多少の罪悪感は生じている。姫鶴はそこまで影響を出すつもりはなかったので。まだ法則はわからないが、場合によっては小鳥の顕現する刀剣、皆、短刀サイズである。それは流石に支障があることは想像に難くない。

「あの…これはつまり、私の励起能力に問題がある、ってことに、なります?」

「…。それは偽物くんがこの状態で問題なく戦えるかによる、かな?戦闘に支障がないなら、亜種顕現というだけになるから。というわけで、問題なく戦えるか見てあげるからついておいで、偽物くん」

「博多のは戦闘の支障まではないでしょうしね、多分」

「抱き着いて撫でまわすのは止めてほしか。料金取るばい」

「それは逆に言えば、料金を払えば撫でまわしていいということでは?」

「そうはならんと」

ある意味どっちもどっちである。

「たてつづけのけんげんで、つかれていないかい小鳥ちゃん。すこしきゅうけいにしようか」

「えと、たぶん、大丈夫…?じゃ、ないかな…」

「小鳥の面倒はおれが見るから、あつきはやんなくていい」

「…何か複雑な状況ったい?」

「まあ…複雑といえば複雑ですね…」

三角関係とかそういうアレではないが、小鳥を取り巻く環境が複雑なのは事実である。大体黒派閥と姫鶴のせい。

「えーとね、私、姫鶴のお嫁さんなんだけど、契約してる刀剣がいないんだ」

つまりロリコン?という顔をする博多に小鳥は苦笑する。

「あ、お嫁さんっていっても、恋仲とかはちょっと違うんだけどね。僕は恋愛感情ないし」

「…仮に小鳥が他の男を好きになったとしても、それでおれが手放すことはないけどね。ていうか、絶対別れないから」

「いやー、そもそもまずありえん仮定なので…」

小鳥は苦笑しているが、わりとやべーことを言われている。完全にやべー執着を向けられている。それを小鳥が理解しているかは怪しいが。

「…鈍感」

「?」

 

 

 

亜種顕現ではあるが、戦闘には問題ないという判定が出た。いきなり出陣ではなく一度手合わせなどしておいた方がいいらしいが。

「ところで、報告書を書いてて思い出したんだけど、小鳥ちゃんは何で鍛刀禁止令が出てるか自分で判ってるの?励起試験で何かあった?」

長義の問いに小鳥はううんと首を傾げる。

「さあ…。…あ、でも、初期刀がないのは、試験で降ろしたヒトが、えと、誰かはわからないんですけど、試験官の人たちに直ちに還すように言われたからです。合格はもらえましたけど」

「…。これは、あれかな?見ないふりしてた御大のご加護関連かな?」

「いとしごのよびかけにかみがこたえないわけがないからねぇ」

「…いっそ、お呼びした方が良いのでは?小鳥様の守り手としてそれ以上はないでしょうし。能力に問題があるわけでないなら鍛刀できるに越したことはないでしょう」

「毛利のは主人の亜種顕現刀が増えてほしいだけばい?」

まあ間違ったことは言ってないのだ。リスクの話が出てないだけで。

「小鳥様は試験の時に降ろした方にどのような印象を抱きましたか?」

「?…優しそうなヒトだなーって思ったよ」

刀剣たちは目を見合わせる。

「…小鳥ちゃんだけは絶対安全なやつだね」

「ほかにがいがないとはいいきれないけど…というか、姫鶴があぶないようなきはしないではないけど…小鳥ちゃんはだいじょうぶだろうね」

「…待て、実際共に暮らすことになるのは主の刀である俺たちだぞ」

同居相手が妖と上位神格ではかなり意味合いが変わってくる。

「おれから小鳥を獲ろうとするやつとか論外なんだけど」

「御大がどう考えてるかは本刃に聞いてみないとわからないし…」

 

 

 

鍛刀は一旦置いておいて、今移籍を希望する刀がいないかの面談に移った。

「監督責任者連れてきてくれる?特に粟田口の」

「…姫鶴の兄貴の反応ももっともだが、多分一期一振でも手に負えねーやつなんだ…にゃ」

「まあ、この中から毛利と包丁は一振りずつ迎えてやるしかないだろうにゃ。本丸生活の写真が同位体ネットワークに流れるのも確定するが…にゃ」

小鳥が人妻属性の幼児なので毛利と包丁がそれを察知して集まってきていた。ついでにいえば野次馬というか亜種顕現の国広を見にきた他の長義やら姫鶴の様子を見に来た一文字や上杉縁の刀など関係ない刀も集まってきている。カオス。

「だって、博多のが小さい子になって、山姥切国広さんが小さい子ギリアウトになったということは、ですよ?あの薬研のや厚の、もっといえば鯰尾兄さんたちなんかも小さい子として顕現する可能性があるということじゃないですか。パライソですよパライソ」

まあ切国がアウトなのでそれより背の高い一期はアウトだろうたぶん。

「俺は見世物なんかじゃない…」

その国広は布団子と化している。

「国広くんをいじめたらダメですよ」

「いじめているわけじゃないんだよ?ちょっと珍しい姿をしているから気になるだけで」

「嫌がることをしたら駄目です」

「ンッカワイイ…」

「二つ名持ちは不可だよ。まあ影追くんは俺が通したけど」

「アンタのその南くん推しは何なの…」

「霊力紋が酷似してたから」

猫殺し君からの否も出てこないし合ってるでしょ。

「…否、俺を顕現した主は流石に幼児じゃなかったけどにゃ…」

「…?」

「……まあ、そこの自称ジジイとかが来るよりはマシだけどさ」

「そんな冷たいこと言わなくてもいいだろう。僕だって本丸に配属されたい気持ちが全くない訳じゃないんだぞ?まあ正規ルートで行くだろうがな」

「来なくていいんだけど」

姫鶴が本気で嫌そうな顔をした。

「このまま雑談ばかりしていても時間の無駄ばい。誰を迎えるのか、どうやって決めるつもりだったと?」

「…とりあえず、妖怪と対峙した時の反応かなー。ビビりと初手で斬りに行くやつ、感知できないやつはダメ」

「危ないもんね」

「出るのか?」

「いくらか住み着いてる」

「そこの姫鶴殿が招き入れたらしいんだよね…」

「使わないとこは別にいいかなって」

「よくないだろ」

まあともかく、それじゃあ難しいな、となったものがいくらかいた。

「外野からの意見だが、保護者役がいるんじゃないか?太刀か、打刀か」

「…一応言っておくが、俺は外見は子供に見えるかもしれないが、中身まで子供になっているわけではない。普通の山姥切国広と内面的には大差ない…はずだ」

「計測された打撃等の能力値は通常個体と変わらなかったしね」

まあ刀剣男士の能力値は肉体より本体に準拠していそうなので然程不思議はない。

「とうしゅはかわっていないしねぇ」

「だが、見た目が大人の奴がいるに越したことはないだろ。審神者も子供なんだしな」

「やっぱり見目が幼いと舐められるかな」

「どうしてもそういう者はいるな」

「刀剣であれば短刀男士という実例があるので、子供だからと侮ってはならないと思われるでしょうが、審神者は人間ですからね…」

審神者の下限年齢はおよそ五歳ぐらいということになっている。ただ、その辺の年齢の審神者は保護のため審神者にするという形をとったというケースが大半であり、実権は初期刀や後見人などが持っている場合が多い。常識的に考えても当然の措置ではあるのだが。

とはいえ、小鳥は実年齢は成人なのでそのケースには当てはまらないのだけれども。

 

 

 

 




本体サイズは変化しない 人間体のみの変化 縮小率は0.8 短刀は縮小率0.85~0.95 小鳥は124㎝ 振るうのに問題はないというか蛍丸と同じで腕力等は同位体と同等 切国は137㎝ 短刀はみなふぎゃり対象サイズになる。他は個体による
脇差が一番サイズ変化で割を食うやつでは?(一部短刀より小さくなる)
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