刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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運営再開して少し経ってから ドロップの短刀と脇差が何振りか顕現されている


鎖された君の銀の庭6

 

 

「そういえば包丁に聞いたんだけど、当世の人間は結婚を約束した相手に指輪を贈るんだってね」

「え、うん。…えっ?」

思わず二度見した小鳥に姫鶴は憮然とした顔で言う。

「お前がそういう形式を大事にするなら、買ってやってもいいけど」

「…いや、私、指輪って使い慣れないからなー」

とこぼして姫鶴の背後で南泉が腕で×を作っているのに気づき「…もらえたら嬉しいけど」と付け加えた。

「なら今から買いに行こ。妖んとこより人間の店のがいいかな」

まあそんな感じで二人で万屋街に婚約指輪を買いに行くことになったわけである。買うものが買うものなので他の同行者もなく、ある意味デートのようなものでもあった。

審神者関係者しか原則利用できない万屋街であっても一定の需要はあるのか、貴金属店もいくつかあった。その内一つに入り、姫鶴は、

「嫁に送る指輪が欲しいんだけど」

と店員に言い放った。

「婚約指輪です」

と小鳥が付け加える。

「は、はい。姫鶴一文字様と、婚約者様の指輪ということでよろしいでしょうか?指輪のサイズはお分かりですか?」

「知らないけど…まあ、あるやつで入るのにすればいいでしょ」

「…あっ、お連れ様の指輪でしたか」

「そうだけど、だから何」

小鳥は苦笑する。今の小鳥は小学生くらいの見目なので姫鶴の婚約相手だとすぐ思われなくても不思議はない。何なら婚約者の妹とかだと思われたのだろう。

「(髪飾り、おそろいなんだけどな)」

出かける前に姫鶴が手ずから結んだものである。しょぼんとした小鳥の様子を見てハッとしたのか、店員が仕切り直しをする。

「将来を約束する指輪でございますね、デザインの希望はお決まりですか?」

微妙にまだ勘違いされてるなー、と小鳥は思ったが、別に誤解を解く必要はないかとスルーすることにした。

「私は姫鶴の色の奴がいいかなぁ」

「だったらおれも小鳥の色のやつがいい」

「それはエンゲージリングの色味ではなくなるのでは」

小鳥は髪も瞳も日本人の標準を外れない暗色である。

「左薬指に嵌めてればいいんでしょ」

「…せやな」

 

 

 

ああでもないこうでもないと迷って、最終的に小鳥はプラチナにコランダム、姫鶴はいぶし銀にスモーキークォーツの色違い同デザインのものにした。姫鶴は普通に丁度サイズがあったが、小鳥は一番小さいサイズにした。

「…すっぽ抜けそうだね」

姫鶴は石に口付け、小鳥の薬指に指輪をはめて眉根を寄せた。流石に小学生サイズは想定されていないらしく合わないようだ。短刀男士が結婚する事例自体はあるので、そういうサイズもありそうなところだが、やはり多くはないので特注になるのだろう。あるいはピンキーリング想定のものを流用するとか?

「んー、あ、鎖に通してペンダントとかにするよ」

それなら落とさないだろうし。

「…結婚指輪はちゃんとオーダーメイドにしよ」

「?」

まあなんにせよ一旦丸く収まったわけである。

 

 

 

「最悪…」

完全に小鳥と逸れたことがわかり姫鶴は毒づいた。婚約しているとはいえ、清い関係なので、例えば人混みの中でも迷いなく辿れるほどの強靭な縁ではない。或いは正式に契約を結んでいる刀剣であれば辿れたかもしれないが。

そこまで考えて姫鶴は舌打ちした。嫁の行方を探すのに他の男を頼りたくない。一応、こういう時の為に予備の髪紐を結んでやったり指輪に霊力を込めたりしているのだ。自分自身の霊力はある程度辿りやすくなる。

「・・・」

そうして辿ろうとして、完全に眉根を寄せて凶悪な顔になった。同一空間に存在しない、あるいは霊力を遮断されている。姫鶴と逸れて、小鳥が自主的にそんなことをするはずがない。つまり、

「…おれの嫁を匂引(かどわか)そうなんて、いい度胸じゃん」

一応概念拘束を受けて枠内に戻ったとはいえ、姫鶴は一度祟刀になった神寄り個体だ。気に入らないものを祟ることは普通にありうる。まあ一定の縁がなければならないのだが。

「小鳥がかあいいから狙われたってより、おれの嫁だから、って可能性のが高いよね…」

監査部の刀と話した時の事を思い出し、頭をかく。

「…気に入らないが、連絡位はしておくか。後が面倒だし」

他の人間ともめた場合、監査や政府の介入の有無で流れが変わるというのもままある話である。相手にもよるが。敵方に政府がつくというケースもありえないことではない。小鳥と、ひいては姫鶴の素性を理解していてのことであるなら、少なくともそういう情報を得られる人間が首謀者であるのだろうし。

「…まあ、あの山姥切とかなら、おれの味方にはならなくても小鳥の敵にはならないか」

というより、小鳥が御大の愛し子だと理解できる刀剣が小鳥に危害を加えるということはまずありえない。御大の祟りはガチでヤバいので。

どう動くのがいいか、と考えた丁度その時、南泉から端末にメッセが飛んできた。

『誘拐犯から姫鶴の兄貴を指定の場所に向かわせろってきた』

『どこ』

『万屋街のラ・ピエールってカフェ。多分そこから更に移動することになる』

『わかったすぐいく』

送られてきた住所をチェックして、姫鶴はすぐ移動を開始した。冷静かと言われればそんなことは一切ない。というか、己のものに手を出された神が心中穏やかであるわけがない。基本的に和解の道があるかすら危うい。一度祟りになった者であるので、通常個体よりそのハードルが低い。

 

 

 

そうして、指定の場所で合流した人間に連れてこられたのは現世のとある屋敷だった。小鳥が猿轡を噛まされ、足のつかない椅子に縄で縛りつけられているのを見て姫鶴は眉根を寄せた。

「…で。何が目的なわけ?」

「お前は人間を若返らせ、不老不死にすることが可能なのだろう?」

老人の言葉に姫鶴は深く溜息をついた。

「大体わかった。で、アンタを若返らせたらいいわけ?」

姫鶴は嘲るように笑う。

「別に、誰にでもできるわけじゃないし、失敗しても文句言わないならいいけど」

「わざと失敗しないのならな」

「ああ。意図的に失敗なんてしない。すぐ終わらせるさ。…といっても、本丸…虚数空間じゃなきゃできないんだけど」

「すぐに繋ぐとも」

眉尻を下げて自分を見ている小鳥に、姫鶴はにこりと微笑してみせた。本刃は安心させようという意図のことだったが、小鳥はますます不安そうな顔になった。

本丸に移動する。どうやら老人の親族の本丸らしい。どちらかというと黒寄りのようだと姫鶴は感じた。白ければ小鳥の扱いに異を唱えないわけがない。

「おれの能力は夢を介在するものだから、眠る必要があるんだけど」

そして本丸の一室に敷かれた布団で老人が眠り、その枕元に座った姫鶴が目を閉じる。いくらか経って、老人の姿がぼやけブレ始めた。慌てたお付きの人間が小鳥の猿轡を外して説明を求めた。

「…姫鶴は、夢を通じて相手の意識に干渉できるから、自己認識の姿を書き換えてるの。それで、元々の自分の姿を忘れるほどにその姿が己のものだと思えれば、虚数空間(ほんまる)を出てもそのままの姿になるから」

小鳥は、姫鶴がこれを見せしめにしようとしていることを察していた。意図的に失敗させたりしないとは言っていたが、それは姫鶴自身にどうにかできる部分では、という話だろう。ただ成功させるための力添えもしないだけで。

多分、時間をかけて少しずつ変化させられたのも、小鳥がこの状態で安定している要因だろうと小鳥は思っている。水から茹でたら蛙が逃げずに茹でられてしまうようなもの。まあ小鳥はどれぐらい時間をかけて変化させられたのか全く自覚にないのだが。なんか気付いたらいつの間にかそうなってた。

「自己観測できないと危ないけど、自己像が強固だと描き替えられたときにどうなんだろうなぁ…」

ちなみに小鳥の自己認識はかなり特殊なのでかなりの例外条項になる。

説明の間に、老人の姿はおよそ二十代後半から三十代くらいであろう青年の姿に変化していった。まあここまでは自己データ書き換えでも再現可能な事象である。問題はそれが本丸を出ても維持されるかと、精神に異常をきたしていないか。

変化が止まり、少しして姫鶴が目を開く。

「…おれのできることはやったよ。だからおれの嫁を返してくれる?」

「まだご当主の施術が成功したかわからない」

「アンタたち、おれが何なのか理解してないでしょ。従わないなら殺すだけだけど」

付き人が小鳥の頭に銃を突き付ける。

「その子に危害を加えたら後悔するどころじゃすまないけど?」

「黙れ、道具風情が人間に逆らおうとするな」

腹を立てたようだが付き人の銃口の先は変わらない。

「姫鶴…」

「大丈夫。お前が助けを求める時、応えがないほど神って非情じゃないから」

「たすけ、なんて…」

その時、眠っていた元老人が目を覚ました。

「私は…」

「ご当主様、お加減はいかがでしょうか」

「私は…何か夢を…」

自分の腕を見て動きを止め、ついで部屋に置かれた鏡を見て目を見開いた。確かめるように自分の顔に触れる。

「お、おお…」

「ご当主様?」

「私は、私は…今年は、西暦何年だ?」

付き人は返答するが、男は頭をかきむしる。異変を感じ取った付き人が男に歩み寄る。

「私は…俺は、これは、本当に私の躯か?」

「はい、変化しましたがご当主様です」

「これは私の顔ではない!」

男が絶叫している間に姫鶴は小鳥を抱き上げていた。

「どんな姿にしたらいいかって要望は、最大限叶えてやったはずだけど?」

それで余計に違和感を起こしてるんじゃないかなー、と小鳥は思う。アイデアロール失敗し続けた成れの果てである身で言えたことではないが。

「じゃ、おれたちは帰るから」

騒ぎで混乱する場を放置して姫鶴は動き出す。付き合う必要性を感じない。どちらにせよ小鳥の前であまり荒事はしない方が良いかなとも思う。少なくとも小鳥が争いを好まない性質なのは確かだ。

「怪我はしてない?」

「たぶん…」

ちなみに小鳥はまだ縛られたままである。

「まあ多分御大が把握してるんだろうけど…おれもやだし」

「…?」

ゲートを政府に繋げる。緊急コードである。

「刀剣男士じゃ戦場にしか繋げないようにしてあるって黒じゃん」

「僕が操作したらいい?」

「そもそも部外者からは受け付けないようになってることが多いからお前の操作は受け付けないと思う。大人しくしてて」

「…はーい」

とはいえ、完全に刀剣の操作を受け付けないようにはできないはずなので、部隊長章とかアンカーが許可証代わりになるはずである。

 

 

この本丸の刀剣に何か言ったところで、碌に助けにならないだろうなー、と思ったので、姫鶴は審神者の執務室に向かっていた。本丸の登録番号を探して外から繋げさせた方が早い。

「面倒くさすぎ。本当、最悪…」

「なんか私の所為でごめんね…」

「悪いのはお前じゃなくて、さっきのジジイとか取り巻きとか此処の審神者。お前を狙ってきたのもおれに対する人質だったし…」

姫鶴は奥歯を噛む。

「相手の弱点を突くのは当然の戦法ではあるけど、同じ陣営の相手にやることじゃないんだよね」

あんまり姫鶴に言えたことでもない気もするが。

行き先が決まったとて、他者の本丸ですんなりたどり着けるわけがない。本丸の防衛上、何処に何があるか初見でも容易くわかってしまっては問題がある。この本丸と姫鶴たちの本丸では建物のタイプも違う。ただ、防衛という観点で、重要な部屋を何処に置くべきかの見当ならいくつか付けられた。

「…本来なら、審神者の居場所の近くにある程度刀剣が待機するようにするべきではあるけど…」

黒本丸くさいので、そのセオリーは守っているかどうか。少なくとも、刀剣に不満を持たれていると思えば近くには置くまい。ただ、あからさまに人に対する敵意を募らせている刀剣は見かけなかった。どちらかというと、顕現してあまり日が経っていないような…。

「…まあ、ここがどんな本丸か調べるのはおれの仕事じゃないからいいか。お前も何か気付いたこととかある?」

「なんもわかんない」

阿呆みたいな返事だが、小鳥は姫鶴に姫抱きで抱え込まれているし、未だに拘束が外されていないので仕方ない。ちょっと首を見回せるかな、くらい。しがみついたりもちょっと厳しい。

何度かこの本丸の刀剣とすれ違ったが、見咎められることも、誰何(すいか)もなかった。セキュリティガバすぎるのでは。

「…あのね姫鶴」

「何」

「この縄解いてもらって僕も一緒に探索した方がいいかなって思うんだけど」

「めんどい。刀抜くにも支障ありそうだし、ここ」

縄は簡単に解ける縛り方はされていない。解くより切った方が早いだろう。小鳥は縄抜けは習得していない。

「心配しなくてもお前は怪我させないし、おれもしないから」

「そうかもしれないけど…」

小鳥は姫鶴の実力を理解しているかというとそれは怪しいのだが、十把一絡げではないことはわかっている。でなければ封印などされるわけないのだし。

「じゃあ何」

「何というか、絵面が悪い」

「…。…まあ、安全確保できたらね」

嫁を抱きかかえて何が悪いと言いたいところだが、その嫁が拘束された幼女になってるところがアウト。本人たちは何もやましいところはないのだが。

暫く歩き回って、何とかそれっぽい部屋を発見した。へし切長谷部が一振りで書類仕事をしている。ちなみにこの本丸の審神者は一応、例の件に立ち会っていた。部屋の隅に立っていただけだったが。

「…?何だ、お前達は」

「それ、この本丸のやつ?」

「…は?」

姫鶴は勝手に書類を覗き込む。

「ふぅん、了解っと」

姫鶴は端末からメッセを送る。そして適当にその辺に座った。

「これでま、何かきたら騒がしくなるでしょ」

門の近くに待つのに良さそうな場所とかなかったしー、と姫鶴は口を尖らせた。

「いいのかな…」

「そもそもおれらにちょっかいかけてきたアイツらが悪いの。おれは当然のことをしただけ」

「姫鶴がそう言うならそうかもしれないけど」

「けど何」

「主として不甲斐ないというか…」

「お前はそういうの気負わなくていいの。おれの嫁だし」

「因果関係が分からないなぁ…」

ぽつぽつ話していると長谷部が咳払いをする。

「お前達は何だ?主のご友人には見えないが…」

「あんたには関係ない」

「関係ないなら何故ここにいる」

「迷子が迎えに来てもらうなら、現在地の申告が必要でしょ」

「迷子…」

「騒がしくしてごめんなさい」

申し訳なさそうにしている小鳥withおれの嫁に謝らせたんだから文句ないよな?という顔の姫鶴

「…べつに、謝罪がほしかったわけではない」

「ならいいでしょ」

「よくない。お前たちが主に害を成したら困る」

「寧ろアンタの主がおれたちに害なんだけど」

「なんだと」

空気が最悪になったところで、遠く騒ぐ音が聞こえた。

「ん、迎えが来たかな?」

姫鶴は小鳥を抱えて立ち上がる。

「逃げる気か」

「付き合う必要性を感じないんだよね。それとも力づくで引き留めてみる?無理だろうけど」

この長谷部は練度が低い。顕現したてと大差ないかもしれないくらいだった。

「アンタの主に聞いたらわかることもあるかもね。それじゃーね」

小鳥が戸惑った顔をしているのを黙殺して、姫鶴はゲートへ向かう。

「…姫鶴?」

「お前は気にしなくていいから」

門が見えるところまで来たところで、玄関近くで人間たちがぎゃあぎゃあ騒いでいることに気付き、姫鶴はとても嫌そうな顔をした。そして政府職員の後方に苛立った様子で立っている長義を見つけて歩み寄る。

「ねえ、ここって今、政府に繋がってんの?」

「あなたは…って、張本刃が来たじゃないか」

「…あ、うちの切国のこといっぱい写真撮ってた山姥切さんだ」

「いっぱいいたよね、それ」

「怪我はないかい、小鳥ちゃん」

「たぶん」

「君のところの猫殺しくんから監査に通報があってね。…案の定、夢喰殿がやらかしたようだけど」

「やらかしたって言われるのは、心外。やれって言われたことやっただけだし」

「あなたからすればそうなのかもしれないけどね…」

長義は頭が痛いみたいな顔をした。

「まあそれはともかく、そこ通ったら政府?おれさっさと帰りたいんだけど」

「…開きっぱなしだからそうだね。でも、こちらとしては事情聴取やら諸々、用事があるのだけれど」

「めんどい」

長義は深いため息をついた。

「おそらく非があるのはあちらだろうけど、そういう問題でもないんだよね…」

「じゃ、そゆことだから」

姫鶴はそのままスタスタ歩いて門をくぐった。

「さて、事情聴取の時間だな」

「ていこうせず、おとなしくついてきてもらおうか」

政府の小豆と則宗がスタンバイしていた。

「おれは自分の嫁を助けに行っただけなんだけど???」

「それはそれ、これはこれ」

「他者の精神に干渉して自意識を弄るのは現世の法で言うところの傷害罪にあたる可能性があるんだな」

「くそなのでは」

「まあ証拠がなきゃ裁けんことでもあるが」

などと話していると、門から走り出てきたものがあった。あの老人だ。相変わらず錯乱した様子である。政府職員が連行していく。

「元の姿に戻ったんだし、無罪にならない?」

「ならない」

「まあ明確な罪に問うことは難しいかもしれないが…相手が審神者じゃない…時空保安局の職員でも、監査部関係でも、陸軍ですらない人間だってのもややこしいところでな。まあ軍規で裁くわけにもいかんわけさ」

「かといって、ああいうやからってこういうはなしがおもてざたになるの、いやだろう?」

「だが現実として名家のご当主様が発狂する事態になったわけだからなぁ。まあ何の落とし前もつけずには終われんだろうさ」

「あっちが勝手に自滅しただけなんだけど…」

姫鶴の認識がそうでもそうは問屋が卸さない、というやつ。

「まあそういうわけで、僕たちが君たちの"事情聴取"をするわけさ」

「…はいはい。めんど…」

 

 

 

監査部の方に連れていかれて、漸く小鳥を縛っていた縄が解かれた。姫鶴は小鳥と離れることを断固拒否したが、事情聴取はひとりで受けるものである。却下された。

「って言っても、何があったかって大体把握してるんでしょ」

「あなたという刀剣男士の異能と小鳥ちゃんのことを考えると、ある程度予想ができるところではあるけれど…物事の正確性は正しい情報を得られるかも関係してくるからね。予想だけで調書は作れないとも」

「うわ、めんど…」

しかしまあ、誤った内容を書かれたら困るのは姫鶴にもわかる。場合によっては冤罪をかけられかねない。

「まあ俺も個刃的には姫鶴殿が自分から接点もない相手にちょっかいを掛けに行ったとは思わないけれどね」

人柄を信用しているというよりは、姫鶴がそこまで他者に興味がないだろうと思っているというか。少なくとも好奇心で頻繁に出かけていくタイプとかではない。

「そもそもおれ小鳥以外の人間とか興味ないし」

あいつが誰かとか知らないし、などと姫鶴は言う。まあ想定の範囲内といえばそれはそう。寧ろ知っていたら驚いただろう。それぐらい関わりの無い相手だ。間接的には軍や政府に関わりのある人間ではあるが。

「おれは嫁を人質に取られて脅されたから仕方なく従っただけの善良な刀剣男士だしー?」

「嘘ではないだろうけどね…」

正直なところ、こんな面倒なことをするより、刀で斬った方が早いのだ、色々。接触は名家側で間違いない。その後はともかく。

「ていうか、おれと小鳥のこと、あの人間に流したの誰。小鳥がおれの嫁なのはともかく、おれの干渉であの姿になったのは別に開示してないよね」

「少なくとも公開情報としては出していないね」

データベースには記録されているが、誰でも自由にアクセスできるものではない。既に終わった現象だったらもう少し緩くていいかもしれないが、現在進行形なので。ただまあ、生年月日のデータ等を見れば異常には気付くかもしれない。明らかに年齢と見目が一致していないので。

「でも、完全に情報を規制するというのも難しいからね」

変に規制すると悪目立ちしかねないというのもある。

「細かい事実関係はこれから調査することになると思うけど、追加のちょっかいなどはかけないように、よろしく頼むよ」

「まああちらが何かしてこない限りは、だね」

「まあそうなるのもわかるけれどね…」

「反撃するなとか無理だから」

そもそも武器である。挑発されて抜刀しないのはアイデンティティに関わる。

「あなたたちみたいなものは大体やりすぎるのが問題なんだよね…」

「おれが何かわかってて喧嘩売るなら、そこまで織り込まなきゃ馬鹿でしょ」

「そこを考えられるやつは手を出さないんだよね…」

「それはそう」

触らぬ神に祟りなし、というやつ。余計なちょっかいなど出さないのが一番いいに決まっている。

 

 

 

大半の相手に誤解されているようだが、小鳥は姫鶴によって幼児化、"かあいい姿"に変えられたが、それは若返っているわけではない。本当に彼女が幼かった頃の姿ではない。幼い頃、彼女はずっと髪を短くしていた。ショートヘアでなくなったのは確か、中学生以降くらいだったか。自分がどんな顔をしていたか曖昧な小鳥が自分で指摘するのは難しいが、顔も多分違う。そもそも小鳥は自分の顔が嫌いで鏡を見るのも嫌だったので、今鏡を見ることが苦痛でないということは、その原因たるコンプレックスが何か手を加えられているのは間違いない。覚えてないが。

実のところ、自分がどんな顔をしているのか姫鶴の干渉を受ける前から自己認識が不明瞭だった節がある。だからこうなったとも言える。己の姿が変化してもそのまま受け入れる素地というか。ついでに言うなら、本丸、虚数空間内で姿を変えるだけなら、姫鶴みたいなことをしなくても自己データ書き換えができればやれる。本丸から出ても戻らないのが特殊なだけで。

「みんな心配してますよね…」

「お前さんはほとんど巻き込まれただけのようなものだから、そう落ち込む必要はないさ。連絡自体は済ませたしな」

「小鳥様は防犯対策をもう少しきちんとした方がいいかもしれませんね。ただでさえ小さい子は犯罪に巻き込まれやすいので…」

姫鶴と対応が違うのはいわゆる人徳の違いというやつ。まあ、小鳥が今回完全に被害者でしかないというのもあるが。

「うちの刀剣たちにも迷子札とか持たせておいた方がいいですかね…」

「そうですね…小鳥様の顕現した刀剣の大半が小さい子ですからね…」

外見からして明らかな亜種顕現である。変なちょっかいをかけられても何らおかしくない。

「実際、本丸外に出かけたことはないのかい?」

「買い物は大体通販で済ませていましたから…」

身体が小さいと物理的に大荷物を持つのが大変になったりする。まだ本丸が始動したところとも言える状況ではあるが、それでも現世で言えば大家族に分類される程度の頭数はあるのだ。

「…亜種顕現の刀が誘拐されたりする事案はいくらか報告されているから、備えておくに越したことはないだろうな」

しかも小鳥は自分で顕現すると全て亜種顕現になるタイプなので、通常顕現の刀に任せるという手はほぼ使えない。本丸内でいえば通常顕現の方が少数派になっていくことが現状確定している。

「見た目がちょっと違うだけで、能力(スペック)的には通常と変わらないはずなんですけど…」

「ポケモンでも色違いを欲しがったりするだろう?そういうやつさ」

「なるほど…」

 

 

 

「主、怪我はないか?」

「今日は災難だったとね」

本丸に戻ってきて刀剣たちに迎えられたところで、小鳥の目からぽろりと涙がこぼれた。

「こ、こわかった…」

そう口にして、堰を切ったように涙が流れだした。大粒の涙を流して泣く小鳥を見て刀剣たちがおろおろする。一番に行動したのは毛利だった。

「よく頑張られましたね、小鳥さま。ここは安全ですから、大丈夫ですよ」

子供をなだめるように、小鳥を抱きしめて背を撫でる。ハッとしたように他の刀剣たちも口々に言う。

「そうだ、主。俺たちが傍にいる」

「訴訟に持ち込むと?」

「落ち着けるようにお茶を淹れてきますね、主君」

「玄関で話しているのもアレですから、一度中に入りましょうか」

五虎退が小鳥の後ろで立ち尽くしていた姫鶴に声をかける。

「あの、姫鶴さんも、怖い顔してないで、中に入りましょう?」

「……。そうだね。監査の山姥切にもこれ以上の手出しはするなって釘刺されてるし」

姫鶴としては、小鳥を泣かせた咎で天罰を食らわせたい気持ちは満ち満ちているが、口約束でも言った以上は無視できない。あちらからまたちょっかいがかからない限りはスルーしないとならない。

「姫鶴さんも、主のお傍にいてください。その方がきっと、主様も安心できますから」

「うん…」

 

 

談話室的な部屋に集まって一息ついた。

「というわけで、出かける時用の迷子札とか、みんなにも作った方がいいのかなって」

「…確かに、主人の付き添いで政府に行った時とか、ちょくちょく視線を感じとったばい」

「"俺"はそう珍しい刀でもないはずなんだがな」

「残念ながら、主の顕現した刀剣はみんな亜種顕現になるから珍しいもの扱いは免れねぇ…にゃ」

そしてスペック的には通常個体と変わらないからこそ、亜種であることに戦力的なデメリットがほぼない。刀種が変わっているわけでもなく、ただ肉体が明らかに小柄なだけ(・・)なのである。

「人の欲ってのは時々度し難いものだから、にゃあ」

「そうですね…人の欲というのは恐ろしいものです」

「そうだね…人の欲は復讐を呼び込むことになることもある」

短刀たちが神妙な顔をする。長く人の傍にあれば、それなりに色々見ているものなのだ。

「ところで、防犯対策ってんなら、ブザーとかじゃないのか?」

「ブザーは使う前に動けなくされたりしたら意味がないから…」

「まあ威嚇用にはなるんじゃないか?大将は気付けなくても俺たちは気付けるかもしれないし」

 

 

 

 

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