やることがないと言っても何もしないでぼーっとしているのは苦手なので、とりあえず掃除をすることにした。暇潰しの道具になるものもほぼないし。ちなみに入ってはいけないところはそもそもは入れなくなっているらしい。合理的。
簡単には帰れないって知ってたら、積んでた本とかゲームとか持ってきたんだが。
騙し討ちに近いやり方をされたのはむかつくが、どうやら正規ルートではなさそうな仕事に回されたこと自体は然程気にしていない。自分に本当に審神者が務まるのかわからないし、元々一般人なんだから軽視されても何の不思議もない。初期刀もいないわけだし。
「…そういえばアレ誰だったんだろ」
励起試験で失敗したわけではない、はず。喚んだものがよくなかったらしく、還すように言われただけで。
「…やさしそうなヒトだったんだけどなぁ」
いや、ヒトというか刀剣のはずだが。また会う事はあるだろうか?そうしたら聞いてみたいこととかあるのだが。そもそもどんなヒトなのかも知りたいのだけど。
「んーまあ今は関係ないか」
小鳥は本丸の式たちと協力して
掃除は悪いことではない。場を清める手段の一つでもあるからだ。七星剣が祟りである以上、この場は完全に清められているとは言えない。小鳥にそういう意識があるかはわからないが…少なくとも、人視点では祟りは鎮められるべきだし、七星剣がこのままあり続けることは避けるべきことだ。
「…先に約束を違えたのはあちらだが」
祟りに堕ちたとして、それで本質まで変化するとは限らない。彼の場合は寧ろ厳格化した。己も他者も、約束、法、決められたルールを破ることを許さない。善良な人間を害すことは彼の役目ではない。だからある意味ではここは安全な場所であるともいえる。彼のお眼鏡にかない、善良であり続けることができるのであれば。
「善き者ならば助けるのもおれの役目の内ではある。…善き人間が今の世に存在しているのかわかったものではないが」
七星剣は元々人間と距離を置きがちではあるが、人間が嫌いという訳ではない。ただ、彼はあまりにもこれまでの対人運がなかった。
内部の時間が流れていないので、当然本丸は常に夜のままである。時計も動かない。時間の流れがないと聞いた時点で設定した、心拍を基準にした疑似時間計だけが時間の経過を知る術となっている。視界の端に表示したそれの針が下を指して、まあまあの時間を掃除に費やしていたと気付いた。一度休憩というか、食事をとるべきだろうか。たしか、多少古めかしいがキッチンはあったはず。
「七星剣さんって、ごはんたべる?」
『必要ない』
「式の子たちは?…ご飯は食べない?おやつならいる?」
まあ僕の調理スキルなんてありもので食べられるものが作れる程度でしかないのだが。食事に対する執着が薄いのもあって、味はまあ可もなく不可もなく。でもなんか、一人だけで食べるのってやらしいじゃん。
「…いや、別に料理が得意というわけではない」
材料と道具がないとどうにもならないしなー。一人暮らししてもまあ困らないくらいではあると思うけど。まあご飯が美味しく食べられれば大体OKってのもあるが。嫌いなメニューという訳でないなら毎日ワンパターンの粗食でも平気なタイプ。当然美味しい方がベターだけど。
「手伝ってくれるの?ありがとう」
式の子たちは掃除も手伝ってくれていた。どういう存在かはよくわからないが、機械でも生物でもなさそうな感じはある。いやマジなんなんだろ…小人?まあ正体は何であれ助けてくれるのはありがたいし、今は深く考えないことにしておく。世の中には知らない方が良いこともあるというし。
キッチンに移動して食材と道具をチェックする。何が作れっかなー、これ。自分で食べるだけだし、最悪適当に味付けして火を通せばおかずにはなりそう。ただ、炊飯器が見当たらないので鍋でご飯を炊く必要がある。…やれるかなー…中学校以来とかでは?正直記憶に怪しい。
ネットへのアクセスは…できないっぽいな。レシピ本は…流石に鍋で炊く方法が載ってるようなのは…あ、あった。ふむ…土鍋。まあこれでやってみようか。とりあえず分量通りで。
「…ちゃんと食べられるものになるといいな…」
失敗しても何とかリカバリーできる範囲ならいい。美味しくないご飯は悲しいので。まあレシピを守れば余程大丈夫だと思いたい。調理スキルはあんまり振ってないのでDEX代用になるけど。…足は遅いけど不器用ってわけじゃないから…。