解せぬ。
「ぬしさまはどこもかしこも小さくございますなぁ」
「まだ10もいかぬくらいか。このように年端もいかぬものを一人で寄越すとは、人間どもは何を考えておるのやら」
寧ろお前らが何考えてるのかの方が俺は理解できんぞ。お前らすごい俺に敵意向けてたよな?あまつさえ殺す気あったよな?何なの。何がしたいの。俺はどう反応したらいいの。安心したところでグサッとやる感じなの?
「おいおい、いくら巫女だからって変なことすんなよ。お前らだけのものじゃないんだからな」
何、俺所有物扱いなの?承知した覚えは…あー…アレも入るの?わからん。
「さて。私は野生ゆえ、保証は出来ませぬな」
「変なこととは何だ?鶴よ」
うわあ、危険人物だ(棒読み)。
歌仙さんも歳を重ねてる刀剣は危ないって言ってたもんな。鶯丸って人は例外って言ってたけど。
「そりゃあ、日が沈んだとはいえ、子供の前で口にするのは憚られるようなことだよ。巫女が巫女じゃなくなることとかな」
R18かR-18Gってことですか、なにそれこわい。え、流石にペド趣味はない、よね?
「はっはっはっ。俺も流石に裳着も済ませておらぬ子供に無体はせぬ」
…それ確か12歳前後くらいじゃなかったっけ?平安貴族こわい。
当時の平均寿命的には妥当かもしれないけど、現代じゃ犯罪ですから、それ。
というか、裳着が終わってる年だったら何かされてたの?こわい。
「ああ、ぬしさま。初めては勿論私をお望みになりますよね?」
ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない。
「いや、巫女の身を貫くのは俺の太刀だろう」
「お前らそれ完全にせくはらだからな」
本当にな!っていうか、ペドなの?
「…そろそろ、おやすみの時間だと思うんですが」
「おねむでございますか?ぬしさま。ではこの小狐めが添い寝をいたしましょう」
いえ、そういうのは結構です。
「怖い夢を見たわけでもないのに添い寝などいりません」
そりゃあ、一人の部屋で寝るという経験は乏しいし苦手だが(基本妹弟と雑魚寝している)別に無理ってことはない…はず。慣れない寝具だけど。そもそも知らん人が傍にいる状態で安眠できるかっての。
「ぬしさまが恐ろしい夢など見ぬよう、私が傍に侍るのでございます」
「…俺はお前らが傍にいる方が悪い夢を見そうな気がするんだが」
「俺の何が悪いというのだ鶴よ」
「惚けんなよ祟り神未遂。今からでも"堕ち"ないとは言い切れない状態だろうが」
「まあ、それも気の持ちようというやつだ。余程のことがなければならん」
余程のことって何だ。
「お前も俺が共に居る方が良いだろう?」
「私はひとりで平気です。添い寝はいりません」
っていうか、寝相がだな、わからんのだよな。昔はそれこそ、妹弟を乗り越えて部屋の端から端まで移動するレベルだったけど、最近は精々夏に掛布団蹴飛ばしたり服がめくれたりする程度だし。寝相悪かったらまあ、ベッドから落ちるだろうという気はする。
「だが、共にいる方がいいだろう?」
Yesしか認めない気かこのじじい。
「家族でもない男の人と同じ布団に寝るのはよくないと思います」
「俺はお前の刀だが?」
「刀を抱えて寝る習慣はありません」
というか、所有格…付けていいものやら。この人の名前は知ってるけど、"この人"から聞いたわけじゃないし。
「私がぬしさまを抱えるのであれば問題ございませんね」
問題しかねぇよ。
「引き際を濁すのは美しくないぜ?こんだけ断られてるんだから諦めろって」
そうそう、俺も終いにはキレるぞ?
なんとか一人になり、灯りを消してベッドに潜り込む。
落ち着かない、が、疲れているので眠れるだろう。そういうものだ。
ペンギンの形にした大きなぬいぐるみを抱き枕がわりに抱える。形に大して意味はない。
目が覚めるとベッドの下だった。これはひどい。
落ちただけではすまなかったようだ。
しかし、どうしたものか…壁につけて落ちないようにするか、布団に変えるか。…壁につけてもダメだったら布団に変えるか。万年床にはできなさそうだから面倒くさい。
「…くちゅっ」
しかし、そういえばベッドの下は流石に掃除してなかったな。朝風呂とやらをした方がいいかな、埃的な意味で。少なくともシャワーを浴びるくらいは。
「おや、ぬしさま、そのようなところにおられましたか」
…朝から元気そうだな、お前は。
「…ベッドで寝る習慣はなかったのです」
「だからといってそのようなところで眠られなくても」
「いえ、寝相が悪くて落ちたようだというだけであって、最初から此処で寝ていたわけではないです」
「では、頭など打っておられませぬか?何処か痛いところは?」
あったらその時点で起きてるんじゃないかな。
「大丈夫です」
「ぬしさまの大丈夫は信用なりませぬ。私めに確かめさせてくださいませ」
「うむ、怪我等ないようでございますね。よろしゅうございました」
「…シャワーを浴びてきます…くしっ」
「先程からくしゃみをされているようですが、まさか風邪でも引かれたのですか?」
「いえ、アレルギー体質で、
後、猫のフケってのも出たことあるけど実家は猫を三匹飼っている。うん、何の問題もないな。
シャワーを浴びてきたら何か人が増えててプロレスしてた。
「ああ、ぬしさま、聞いてください、へし切めが、私をいじめるのでございます」
「へし切ではなく長谷部だ。…主、あなたに害を成す狐は俺が成敗してさしあげましょう」
「よくわかりませんが朝から元気ですねあなたたちは」
触ると痛そうだな。放置…したらダメなんだろうな。朝から面倒な。ご飯食べないで頭使うとガス欠になるんだけどな。嫌だなあ。
「……朝ごはん「朝餉は私と共に取りましょう、ぬしさま」
「主に馴れ馴れしすぎるぞ狐!」
…ああ、うん。流れはなんとなく把握した。どっちにも悪意がないっぽい(多分)のが更に面倒くさいな。そして狐がやたらと距離が近いのは同意する。
「こんなに幼いぬしさまが一人で親元から離されることになったのですよ?心細い思いをしているに違いありませぬ。私が安心させて差し上げなければ」
「主は幼いとはいえ女性だぞ、それをべたべたとくっつくのは、いかがなものか」
いやあ、現在の肉体的にはともかく、一応俺成人済みだからなあ。っていうか、見知らぬ人にベタベタされても安心はしないなあ。
…下手に大人だって主張するとR-18かR-18Gになりそうだから言わないけどさあ。
「…君たち、何やってるの?」
あ、眼帯さんいいところに。
「子鳥ちゃんはもう起きてたんだね。朝ごはんは食べられるかい?」
「朝は抜いたらダメです」
昼と夜は抜いても問題ないが。
「そうだね。あ、髪の毛はちゃんと乾かさないきゃダメだよ」
などと言いつつタオルドライしてくれるのは流石に世話焼きスキル高すぎじゃないすかね。
「「光忠…!」」
「えっ、何?」
あ、これもアウトですか、そうですか。
朝ごはんは食べたので、今日は執務室をいじろう。…いや、その前にベッドだけ移動させとこうかな。他の家具の配置もいじらないといけないし。
「♪~」
んん、どう配置したらいいかな。クローゼット一個どかす?使わないし。まあそもそも私室で何するかって話な気もするけど。多分、寝るだけかな。書き物とかは執務室だろうし。
…うん。これでいいか、とりあえず。さて、執務室。
「…何をされているのでしょうか」
何でそんなお通夜状態なの?
「ぬしさま゙ぁ…捨てないでくださいぃぃぃ…!」
そもそも拾った覚えがないんだが。
「主、俺は、あなたのお役に立てませんか…?」
うん、何でそんな話になった?
えーと…これはあれかな?よくわからないけど、何か落ち込んでるのかな?二人共よしよしってしてあげたらいいのかな?歌仙さんが刀はスキンシップが好きって言ってたし。
「いい子いい子」
「あっ、主っ…」
「ぬしさまぁっ…」
何この茶番。
しかし、執務室は…まあ、書き物机を俺の今の体格にあったものに変えるくらいで十分っぽいな。いつの間にか掃除されてるし。
「こんのすけ」
「引き継ぎ関連の書類でございます」
「…どっちゃり」
「短くても期限は一週間先ですので。記入が終われば私に渡していただければ提出いたします」
「そうですか」
「お手伝いいたします、主」
と、言われても、何をどう手伝ってもらえばいいかもわからんぞ俺は。
「これは、ぬしさまには難しいものではございませぬか?」
…馬鹿にされてるの?…いや、寧ろ子供扱いか。そりゃ、誰にも手伝ってもらわずに一人で書類書いたことはあんまりないけど、別に何とかなる…はず、多分。
「自分の仕事はちゃんと自分でやります」
「♪こっちむいてほい、こっちむいてほい、こっち向いてほしいの、こっちむいてほい」
「こっちむいてほい」
「?」
「私も見てくださいませ、ぬしさま」
「主の邪魔をするなら出て行け、狐」
「嫌です」
仲良いなお前ら。…えっと、何処まで読んだんだっけ?…ああ、此処だ。
「ぬしさまが冷たい…」
「邪魔しかしない者には当然の対応だ」
「♪もう、意地悪、意地悪、だいっきらい」
「「(びくっ)」」
「♪~」
…あれ、これ今の状態じゃ書けなくね?引き継ぎ時の刀剣の状態を書け、って…無理じゃん?名前知らないし。…後回しにしておこう。あるいは誰かに丸投げするとか。っていうか、ぶっちゃけんなもん覚えてねーよっていう。
「♪~」
資料ないと書けないぞこれ。っていうか全体的に何書きゃいいかわからないのが多すぎる。お役所仕事ってやつだな。実際なきゃ困るもんなんだろうか、これ。いや、書くけどさ。
「♪~」
とりあえずできるやつからさっさと終わらせて…量を減らしたい。
「♪~」
何を言ってるのかさっぱりわかんないぞこれ。つまり、どういうことなんです?うーん…。
「♪~」
目を通して分類するだけになってきてるぞこれ。ちゃんと全部提出できるんだろうか…手伝ってもらったとしても。
「♪~」
いや、出来なきゃ困るんだろうけどね。誰かが。俺も困るのかな?何かもう割とどうでもよくなってきた。考えるの面倒くさい。何か楽しいこと考えたい。
「♪~」
時間が空いたら本読みたいなあ。とりあえずデバイスで青空文庫漁るか。ドグラマグラとか。まあ、その辺深く考えるのは後として。
「♪~」
…もっとわかりやすく書けよくっそ。つまり、どういうことだ?何をどうしろと?っていうか、これ何の書類だ?
「♪~」
…さっぱりわからん。何だこれ。誰だよ、書類仕事なんて楽勝って言った奴。文系だけどダメっぽいぞ。文系とは何だったのか。
「――おいこれどういう状態だ?」
「俺に聞くな…」
「おーい、そこの三人、昼餉の時間だぜ?」
「…もうそんな時間ですか」
一応ちゃんと食べるべきだよな。頭使うのにもエネルギーはいるし。うん。
「こんのすけ、締切が短いのはどれですか?」
「緊急度が高いのは、本丸の正確な状態の報告書でございます。もっとも、これは定期的に書くものでもありますが」
「…。…わからないので代わりに書いてもらってもいいですか?」
「主命とあらば」
「レポートの方は代筆不可でございますよ子鳥様。審神者本人の主観からの文書が必要ですので」
そんな話聞いてないぞ。…あ、先輩の言ってた日誌のことかもしかして。面倒くさいなあ。
「私も何か手伝いましょうか?ぬしさま」
「…こちらの書類が全く意味がわからないのですが、わかりますか?」
「どれどれ…?………ぬしさま、これは焚付にしてしまいましょう。それでよろしゅうございます」
「えっ」
どういうことなの。それは内容を理解しての反応なの?それとも理解できないからなの?
「書類を焚付になどされては困ります。大体この本丸の厨はガスコンロを使っているではありませんか」
竈もあったけどな…。
「そもそも、一体何故書類を焚付にしようなどと………申し訳ございません子鳥様、こちら関係のない書類が紛れ込んでしまっていたようでございます。他にこのような書類はございましたか?」
どういうことなの…。
「さっぱりわからなかった書類はこちらですけど」
「失礼いたします」
しゅばばばば、と書類をチェックして、こんのすけはその内数枚を残して取り除いた。
「こちらは確かに必要なものですので、記入をお願いいたします」
「わかりました」
しかし一体何だったんだ。
「主、こちらは一通り記入が終わりました」
「あ、ありがとうございます」
目を通させてもらおう。…ふむ。…これ全部覚えてたのか。記憶力がいいんだなあ、この人。俺には無理かもしれない。後、読めるけど書けない字ががが。
「何か、不都合がございましたか?」
「いえ、何も見ずに難しい漢字もかけるのはすごいな、と思っただけです」
鶯とか。確かデバイスの方に管理用アプリとかインストールされてるらしいんだけど、そもそも最初の設定ができてないっていう。
「主命を果たすのは当然のことですので」
…こじらせてるなあ。
「ぬしさま、私にも何か命じてくださいませ。へし切めよりも役に立って見せますので」
「へし切と呼ぶな」
面倒くさいなこいつら。あ、こんのすけ、終わってるのの提出は頼む。
「雛鳥や、八つ時だぞ。じじいと共に休憩せぬか?」
あ、何か完全に別方向に。…いや、そりゃあ鳥の子供は雛だけれども。…まあ、呼び名だから多少変わっても問題ないっちゃないんだが。
「美味しいところだけ掻っ攫っていこうったって、そうはさせませんからね」
「はっはっはっ。朝から張り付いておいて何をいっておるのやら」
仲良いなあお前ら。
「…確かに、一区切りはついていますし、休憩にしましょうか。適度な休憩を取る方が効率が良くなりますし」
「主の意のままに」
気分の切り替えって大切なんだよね、うん。
「雛鳥は桜餅は好きか?」
「食べたことがないのでわかりません」
そもそも一口に桜餅と言っても関東と関西で全然違うもんなんじゃなかったっけか。
「そうか、初めてか」
嬉しそうだなおい。
「どれ、じじいが食べさせてやろう。雛鳥、あーん、だ」
いえ、結構です。
「あーん、だ」
「…あーん」
何が楽しいんだか。俺は楽しくないぞ。…いや、桜餅に罪はないが。
「ぬしさま、お茶が入りましたよ」
「(もぐもぐごくん)それはありがとうござ」
喋ってる口の中に物を入れるんじゃない。
「どうだ、美味いであろう」
否定はしないが色々とどうかと思う。
「子供のようなことを…」
「はっはっはっ、何の話だ?狐」
目が笑ってないぞ、ジジイ。
あ、お茶美味しい。
「ぬしさま、庭の桜が見える場所まで移動しませぬか」
俺それよりまず手が洗いたい。
正直、適切な距離がわからない。
あっちから近づいて来るのはまあいいよ。…うん。受身でいいならそれは何とかなる。
で、近づいてこない方は…近づかない方がいいのか、俺から近づいてかなきゃならんのか…。…正直、没交渉でも俺は別に構わない。不都合が起こらないなら、それはそれで。
普通に考えて、誰とも問題なく仲良くとか無理ゲー。当たり障りなく無難に、っていうのならともかく。眼帯さんとかその辺上手そうだけど。
…で、俺はこの場合どうすればいいんです?
「あ、あの、その…」
虎が五匹、か。多くない?いや、別にいいんだが。
「あ、虎君たち、ダメですよぅっ」
…触っちゃいかんのかな。虎、触ってみたいんだけどなぁ。小さいし、猫とそう変わらなさそうではあるが。
「あ、あうう…」
…動くに動けん。蹴飛ばしそうだし。下手すると死ぬからな、それ。
「何やってんだ?」
それは俺が聞きたい。
「五虎退がお姫をいじめてる、ってわけじゃないんだよな、勿論」
「いじめられた覚えはありませんが」
対応に困っていただけで。
「あ、えっと、ごめんなさい…」
「何故謝られているのかがさっぱりわからないんですが」
卑屈キャラなの?そういうのは鬱陶しいからやめてほしいかな。
「えっと、虎君たちが迷惑を…」
「?」
危害を加えられたわけでもなし、何か問題があったか?
「気にしすぎだとよ」
「でも、えっと、前の主様は虎君たちが近づいたら怒ったし…」
ああ、それで俺も怒ると思ったのか。別に構わないんだが。…こんな可愛いのになあ。まあ、感じ方は人それぞれだし、猫嫌いとかだったのかもしれないしなあ。
「あの、怒らないん、ですか?」
「動物は好きです。理不尽に僕を嫌ったりしませんし」
どう接すればいいかもちゃんと決まってるし。触り方とか。好き嫌いを偽ったりしないし。何より、可愛い(重要)。
「お姫とあの人らは違うんだろ。そういえば、お姫は何でこんなところにいるんだ?」
…スルーしてたけど、何でお姫呼びなの?俺別に姫じゃないって言ったよね?
「…ずっと話しかけられていると疲れるので、少し一人になりたくて歩いていたら、迷子になりました」
まあ最悪、こんのすけを呼べばどうにかなるかな、と。本丸から出てはないわけだし。
「お姫さん…」
だって何か、私室に籠城しても押し入られそうだったんだもん。
「小狐丸たちがすごい顔で探してたぜ?」
すごい顔ってどんな顔だ。
「小狐丸さんたちが?主様、怒られない内に謝った方がいいですよ。あの人、怒るとすっごく怖いんです…」
「悪いことをしたわけじゃないのに謝らなきゃいけないんですか?」
「何も言わずにお姫が何処かに行ったりしたら心配するだろ」
「本丸の外に出たわけでもないのに大袈裟な」
というか、あの選択肢をはいかYesしか用意しないジジイが行き先告げても一人で行動させてくれない気がする。そもそも何処に行こうとしてたわけでもないし。
「お姫は危なっかしいから、一人にしとくのは心配なんだよ」
解せぬ。
「主様は簡単に殺されてしまいそうですし、また何時本丸が襲われないとも限りませんから…」
「それならそれで、誰かがいるところに逃げてくる位のことはできます」
多分。…足遅いけど、本丸に異常があればデバイス通じてすぐわかるはずだしな。
「ぬしさまが寝台から落ちぬよう、小狐めが抱きしめております」
あ、そういうのいらないです。ノーセンキュー。
「狐が嫌ならじじいが添い寝してやろうか?雛鳥や」
遠慮します。一人にしてください。
「ぬしさまは嫌とは言っておられません」
「昼は共におったのだから夜は俺に譲ってくれてもよかろう」
「二人きりであったわけではありませぬ」
うん、三人だったな。
同室で眠るまではともかく、同じ布団、同じベッドで寝るのは問題あると思うんだ。それに寝相悪いから蹴りつけるとか乗り越えるとかしそうな気もするけど。
「僕、寝相が悪いみたいなので一緒に寝ない方がいいと思うんですけど。それに、添い寝が必要な年でもありませんし」
「俺が、雛鳥と添い寝がしたいのだ」
さっぱり理解できんぞ…。
「私は、一時でも長くぬしさまのお側にいたいのでございます」
うん、鬱陶しい。
結局押し切られて川の字で寝た。
「…解せぬ」
何で俺じじいにがっちりホールドされてるんだ?腕枕もホールドも断ったし、寧ろ狐の方にベタベタされてたような気がするんだが。意味がわからんぞ。
「…眠いのであればまだ眠っておっても構わぬぞ、雛鳥よ」
別に言う程眠いわけじゃない。このままぼーっとしてたら二度寝するだろうことは確かだが。
「…寝苦しいです」
「そうか?夜中に目が覚めたりはしなかったではないか」
うんまあそれはそうなんだけど。
「ぬしさまは私の腕の中の方がようございますよね?」
どっちでも同じだと思う。…いや、力加減とかは違いそうかな…。
「やらんぞ」
「ぬしさまはあなたを望んでいるわけではありますまい」
仲良いなお前ら。
「何だか、主様は人の名前を口にしないですよね」
「そういえば、呼ばれたことがないね」
「…いや、こんのすけは呼んでただろ」
「…待て。それ以前に俺たちがお姫さんに自分の銘を名乗ったことがないんじゃないか?」
「…あっ」
「えっと、子鳥ちゃん」
「何でしょう」
「…僕の名前って、知ってる?」
「教えられないものは知りません」
「そ、そうだよね…」
何、やっと自分たちが名乗ってなかったことに気づいたの?えーっと…三日目?って遅いのかな、早いのかな。いや、速くはないか。
「先輩に、名乗られぬ名を呼んではいけないとも言われましたし」
呪術的な意味で。
「そうなんだ…。…僕は燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ。…って、やっぱりかっこつかないかなぁ」
「燭台切、光忠さん」
どう呼べばいいんだろ。んー…燭台切さんだと長いから光忠さん?
「気軽に光忠って呼んでくれていいよ」
アッハイ。
怒涛の自己紹介ラッシュがあったわけですが、正直覚えられる気がしない。というか、一度には無理。元々他人の名前を覚えるのは苦手だし、人数多いし。カラフルだし紛らわしいのは前田君と平野君くらいだから取り違えることはないと思うけど。
「私としたことが、迂闊でございました。ぬしさまに名乗るのを忘れるとは…忘れていなければ、親密度がぐぅんと上がっていたところでしょうに」
「ははは、俺はわざと名乗らなかったのだがな」
でも他の刀が名乗ったら名乗るんだな。
「何か忘れてる気はしてたんだよな…」
「てっきり、お前と馴れ合う気はないぞ、ということかと思いました」
というか、ジジイが態と名乗らなかったってのはそういうことだよな?
「ぬしさまの信頼度が最低値になっておられる?!」
「俺は別にそういうつもりだったわけじゃないがなぁ。そもそも、あの時ごたごたしたのが一番の原因だろ」
さてな。
「小狐さん」
「何でしょうぬしさま」
「鬱陶しいです」
「うっ…」
ひよこじゃないんだからそんなついて回らなくてもいいと思うんだけど。
「何がそんなに不安なんですか。もうちょっと落ち着いていただかないとこっちまで落ち着かなくなるんですが」
一応平安の頃の刀なんだし、歳を重ねたことによる落ち着きとかあってもいいと思うんだけど。…いや、小狐丸は実在が不確かな架空の刀疑惑持ちらしいけども。…って
「小狐さん?…おーい、小狐丸?」
「ぬしさまぁ…私めを捨てないでくださいぃぃぃ」
面倒くさいなあ、こいつ。
「別にそんなことは言ってませんが。話が飛躍しすぎです」
これも一種の躁鬱のようなものなんだろうか。わからん。
「主はやさしいのだな」
「どうかしましたか、鶯丸さん」
というか何故そうなった。
「狐は化かすものだ」
「はい」
「あまり甘やかすと調子に乗るぞ」
甘やかしたか?俺。まあ、きつくあたってはいないとは思うけれども。でもまあ、そういうのは主観も入ってくるからなあ。俺から見てそうじゃなくても他から見ればそう見えるのかもしれない。…価値観の相違ってのはよくあることだしなあ。
ちなみに歌のチョイスが的確にトラウマをえぐるアレだったのが幾つかの変な反応の原因