刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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オキザリスの地蔵ver 情報部の二つ名持ってないタイプの地蔵


君の鼓動の音がする

 

地藏行平という刀剣男士は、今のところ唯一、二振りの刀を持って顕現する刀剣男士である。扱いとしては打刀だが、太刀も持って顕現している。二刀流で戦うわけでもなく、太刀を抜くことは基本的にない。当然のように佩いているというだけの話だ。

「だが、そなたの守りは務められよう」

地蔵が少女の腰に己の太刀を佩かせてやると、少女は不思議そうにそれを見て、触れた。

「守り…お守り?」

「そのような理解で構わない。吾は守刀というには大きいが、今は小鳥の守刀となっている」

廻り合わせのようなものである。守刀契約は仮契約にすぎない。少女に守刀が必要だと判断されたので、ひとまず少女を保護してきた彼が務めることになったにすぎない。より向いている相手が見つかるなどすればそちらに任せることになるだろうと彼は考えている。

「守刀」

「そなたを守ることも役目の内ということだ」

「…必要あるの?」

「少なくとも、そなたはあの場所に戻りたいとは思っておらぬだろう?」

「…うん」

少女は黒本丸で虐げられていた。一切まともな扱いを受けておらず、審神者として当然持っているべき知識さえ不完全だ。あの場所に戻すことは全くもって人道的な扱いではない。ただ、厄介なのはその黒本丸の刀剣たちは少女のことを気に入っているらしく、己の懐に戻そうとしているらしいということである。故に不用意に(ゲート)をくぐらせれば攫われかねない。かといって審神者を辞めるというのも難しい。平均以上の力を持っていると思われる彼女は歴史修正主義者に襲われかねない。結局は審神者としての教育をきちんとさせて本丸でか政府でかはともかく審神者を続けさせる以外に選択肢はないのだった。

「もちろん、そなたに望む先があるのであれば、吾は手を貸そう」

「…ないよ」

「…そうか」

少女は自我の存在が疑わしくなるほどにされるがままになっている。黒本丸で受けた虐待によって心を閉ざしてしまったのだろう、と考えられている。本人が碌な証言を行わないので推測することしかできない。

「留まりたいと思うのも、それはそれで一つの望みと言えるが」

「違うけど」

「ではどういう意味だ?」

「…役目を果たせない小鳥に価値はあるの?」

「…役目を果たせるに越したことはない。だが、役目を果たせねば価値がない、というわけではない」

彼の返答に少女がどう思ったのか、その表情から読み取ることはできなかった。そもそも、価値を問うた時点で少女は何の感情も浮かべていなかった。淡々と、声にも色がなかった。内容からしてけして良い感情ではないのだろうが。

「小鳥の望むことは、本当に何もないのか?」

地蔵の問いに、少女は僅かに目を伏せた。

「………かえりたい」

「それは…」

もちろん、黒本丸ではない。少女の帰る場所はそこではない。だが、簡単に是ということもできなかった。この少女が何処の誰なのか、守りが不十分な状態で不特定多数に知られれば、関係者に危険が迫るかもしれないから。

「…知ってる」

少女は雨だれのように言葉を零して、口をつぐんだ。彼は慰めの言葉を口にしようとして、それはかえって悪いと口を閉じた。そして代わりに少女の肩を抱いた。少女の小柄さ、躯の軽さを彼は知っている。彼が刀剣男士であるといっても、抱えて運ぶのに何の苦労もしなかった。幼い子供だというわけではないのだろうけれど。本丸という異空間での時間は少女から何かを奪ってしまったのかもしれなかった。

「小鳥が自他を守るだけの力を持てば、問題はない。審神者は、現世での縁を全て断ち切らねばならない役目というわけではない」

「ちがう?」

「敵を退けるだけの力をもった刀剣を揃えるか、審神者自身が敵を退けるだけの力を持つか」

「・・・」

もっとも、戦う力を持つ審神者はそうそういない。守るための力、あるいは浄化や補助といった術式が多い。まあ呪術以外の力を使うものもいるが。

「そなた自身が戦う力を得ることは、守刀として勧められることではないが」

しかし、少女の経歴を思えば、すぐに本丸をもって運営しろというのも無茶だろう。刀剣に対してトラウマを持っていてしかるべき、あの本丸にいなかった刀剣が平気であれば僥倖というレベルだ。今となっては現在顕現可能な刀剣の内半数も顕現していない本丸であるとはいえ、初期から力を貸していた刀剣はそれだけ顕現もしやすい。避けて通ることは難しい。

とはいえ、少女が政府で働いている刀剣のいずれに対しても大きな反応を見せたことはないのだが。いっそ不自然なほどに何の反応もない。何にも誰にも反応しない。置物のように無反応だ。一応助け出してくれた相手だからか、彼にだけは頼るようなそぶりを見せるが。

「本来であれば、審神者としての力を磨いていく内にそれに見合った刀剣が集まっているものでもある」

今となっては言っても詮のないことである。少女が一般的な審神者と同じように新規の本丸に着任していれば、それなりの本丸が出来上がっていただろうが…そうはならなかった。少女は主を亡くした本丸に送りこまれ、うまく関係を構築できずにただ搾取されていた。霊力は使うほどに強まるものと一般的に見られている。元がどうであれ、今の少女は刀剣の数十振りを平然と維持するだけの霊力を持っている。まっとうな刀剣との縁を結べていなかっただけで。

「そなたの責ではないが」

 

 

 

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