刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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満月庭If 雲生√ ヤンデレタイプのんしょくんのんしょさに


それでも空は何処までも高く1

 

 

「もしかして、君が"刀剣男士"ってやつ?」

少女のそんな無垢な問いかけで、ふっと彼の瞳の焦点が合う。目の前にいるのが、人間であることに気付いて、目線を合わせるように膝を折った。

「あなたは…迷子、ですか?」

「んー…そう、かも?鍛刀が禁じられてるから、引継ぎってことになって本丸に送られてきたんだけど、こんのすけ?ってのにどうしたらいいか教えてもらえるって聞いたけどいないんだ。だから探してるんだけど」

「引継ぎ、ですか」

「審神者のいない本丸でそこの刀剣男士と協力してやってく、ってことらしいけど、詳しいことは行けばわかるから、ってあんまり教えてもらえなかった。…もしかして、誤配送されてる?」

「そうですね…この本丸の審神者は…」

彼は頭痛に頭を押さえた。この状況に至るまでのことを思い出そうとすると、頭が痛む。呼吸が浅くなる。少女は驚いて、少しためらった後、心配そうに彼の頭や背を撫でた。

「だ、大丈夫?どっか怪我してるの?」

「…いえ、私は…負傷をしては、いません…」

優しく撫でられて、そのぬくもりが宿ったように苦しみが少し和らいだ。彼は少女を安心させるようにどうにか微笑んでみせる。

「心配してくれてありがとうございます。でも、まずはあなたのあるべきところを探さなくては」

「あるべきところ…」

少女は不安そうにする。何も知らずに送られてヒントも何もないところを探すと言われても途方に暮れてしまうのもまあ当然ではある。

「大丈夫、私の役目は審神者が道を見失わぬように管制すること。あなたのことも導いてみせましょう」

「ん…」

そうして(誰ともすれ違わぬことを不思議に思いつつ)転移門まで来た所で、彼は初めて狼狽えた。

「転移装置の操作が上位権限でロックされている…?出陣遠征すらできないだなんて、一体何が…?」

何故こうなっているのか思い出そうとしても、やはり頭がズキリと痛むばかりでよくわからない。

「…主に質問を…。…主?主は何処に?もしかして私が何か失態を?!」

少女は彼に呼びかけようとして名を聞いていなかったことに気付いて呼びかけに迷う。

「あ、あの、えっと…カンセイさん?おち、落ち着いてください」

ぬくもりが、再び彼を引き戻す。この小さな生き物を助けてやらねばならないと。

「…すみません、取り乱しました。私の名はカンセイではなく、雲生といいます」

「僕は小鳥だよ」

「小鳥さんですね」

彼は少女の手を取って固い表情で本丸を見る。

「…執務室に行ってみましょう。この本丸で何が起こっているのか、調べなければなりません」

「ん…」

少女は少し心細そうにしている。

本丸内には他者の姿がない。荒れている部屋も多い。まるで廃墟のようだが、彼の知っている場所の面影はある。審神者どころか刀剣男士や式神の姿もない。執務室にも誰もいなかった。メインコンピューターを起動してみれば、管理者登録を求められた。この本丸に審神者(管理者)は不在だという。

「これは、一体…っ」

断片的な記録が頭痛と共にフラッシュバックする。

「う…主…」

「…(赴任先として渡されたIDと一致してる。誤配ではない?そもそも渡されたIDが違ってたならアレだけど)」

触れる手のぬくもりが彼を引き留める。彼は浅い息をして、縋るように少女を抱きしめた。

「主がいらっしゃらないっ…私が、何か、失態をしてしまったのでしょうか…?私が何か、見落としてしまったから…主が、本丸(ここ)からいなくなって…」

「うんしょ」

「主が、死んでしまった?」

「うんしょうさん、苦しいから緩めて」

「っ、あ、すみません…」

非力な人間の少女に刀剣男士を力で振り払えるわけがない。彼が腕の力を緩めると、少女は大きく息を吐いた。

「一体、此処で何があったの?」

「…わかり、ません。私は、ただ…そう、あれは…本丸の地下室…」

「此処って地下室もあるの?」

「現世に実際に存在する建築物を模して作られているのです。もっとも、完全に一致しているわけではありませんが」

「見に行く?」

「…はい。おそらく、その必要があるのでしょう」

地下の入り口は奥まった廊下にあった。出入りを制限するように錠前が付いていたようだが、鍵は開いている。

「…なんか、あんまりよくない感じがする」

「ここは…倉庫、として使われている、はずだったのですが」

しかし見に行かずに終わらせるというわけにもいかず、狭い階段を降りる。暗いのでライトで足元を照らす。設置されているはずの明かりはつかない。二階分地下があるらしかった。B1には確かに、保存食やワインなどが貯蔵されていた形跡がある。多少は残っているが、ある程度誰かが食べてしまっているようだ。

B2はB1よりも狭かった。部屋は二つきり。その内一つには、人一人寝かせられる大きさの装置が置かれていた。今は稼働していない。

「………そうだ。主は、ここで…私が異変にすぐ気付くことができなかったから」

「うんしょうさん?」

「申し訳ありません、主…私は、あなたを助けられなかった…」

彼は装置の前に崩れ落ちた。少女はおろおろして周囲を調べる。装置の形としては回復用ポットに近い。しかし、医療機器ではなさそうだった。血がべったりついている。幸か不幸か、死体があるわけではない。何事かあった痕跡があるだけだ。

「うんしょうさん、どうしたの?」

少女の触れる手の温度に彼は涙に濡れた目を向ける。この小さな命を守らなければならない、と。

「…あなたは、私が守ります。次は、絶対に見逃したりしません」

「ありがとう…?」

少女は困惑して小首を傾げる。彼は確かめるように少女を抱きしめた。か弱い人間の、小さな命。彼の主ではないが、守るべき善良な人間だ。少女は戸惑いながら遠慮がちに彼を抱きしめかえす。

「これ、何の機械なの?」

「…霊力抽出用の装置です。普通は本丸で使われるものではないのですが…不逞の輩が自らの足りぬ霊力を補うために、これで主を…」

「良くないものなの?」

「…はい。…いえ、使い方にもよると言えますが…」

「…一回、外に出よう」

「そうですね…装置が自ら襲ってくるわけではありませんが、気持ちの良い場所ではありません」

地上まで戻ってきてふたりで並んで縁側に座る。

「結局、ここで何が起こったの?」

「…不逞の輩に、本丸を乗っ取られたのです。本来の主ではない人間が好き勝手横暴に振舞い、考え無しの出陣で折れた仲間もおり…無理に霊力を奪われた主も命を落としました。私は主の死で大変に取り乱し…その後のことは覚えていません。あれから何かしらはあったのでしょうが…」

最後に記憶している姿より本丸が荒れているので、相応の時間が経過しているだろう。というか、彼は祟りと化していた可能性が高い。自覚症状はないが。

「上位権限で門がロックされていたのも…この本丸が凍結扱いになっている可能性が高いでしょう。そうするとあなたが此処にいるのはおかしいのですが…」

というか、人のいる本丸を凍結状態にするのはおかしいので、ロックされてた時点でおかしいのはわかっていたのだが。

「…渡されたIDは確かに此処のIDだったよ。それ自体が間違っていたのでなければ」

「凍結されている本丸を内側から解放することはできません。あまり良い気分にならないかもしれませんが、事態が変化するまで此処で過ごしていただくしかありませんから、本丸の管理権限を小鳥さんが取得してください」

「わかった」

執務室に移動してメインコンピューターで管理権限を更新した。少女の霊力が本丸に巡り始める。それだけで本丸の空気が少し晴れた。

「そういえば、この本丸ってうんしょうさん以外の刀剣男士っていないのかな?」

「絶対いないとは言い切れませんが、此処まで反応がないことからして、いても顕現が解けてしまっているのでしょう。資材のことも考えると…顕現は試みない方が良いかもしれません」

「そうなの?」

「少なくとも肉体がなければ痛みや空腹などは感じません」

少女は、それは本当に大丈夫なのか?という顔をした。問題がないわけではない。優先順位の問題だ。凍結されているのなら外部から危険が入ってくる可能性は限りなく低い。だから、戦闘が起こるとすればそれは内ゲバになる。どうなったかわからない不届き者への憎悪が少女に向かないとも限らない。顕現した刀が少女の味方になるかはわからないのだ。不確実なことを試みるのは、その必要が出てからでいい。

「一先ずは生活空間を確保しましょう」

「うん」

 

水回りと寝室に使える部屋を確保した。食料はとりあえず保存食を使って間に合わせる。彼は常に少女の動向を把握できるように立ち回ることにした。目を離している間に何かあったらと思うと恐ろしい。少女はそんな彼を戸惑った目で見ている。

「そういえば…小鳥さんは初期刀を連れていないのですね」

「ん、んー…採用試験の時、降ろした子は、試験官の人に言われて還ってもらったから…」

「引継ぎといえども、一振りも契約を結んでいない状態で本丸へ向かわせるのはあまり褒められた行いとは言えません。刀剣男士は基本的に審神者に危害を加えることを望まないとはいえ、人間に危害を加えることを躊躇わない個体もいますから」

「そうなの?」

「虐げられ、人間不信になった者などですが」

「…うんしょうさんは」

「私は、あなたに危害を加えるつもりはありません。善良な人の子を守るために私たちはいるのですから」

「そうなんだ…」

彼は少女を抱き寄せる。腕の中にすっぽり収まるぬくもりに心が落ち着く。その異常さに本刃は気付かない。自覚がないから穏やかになっているから。それが代償行為なんだと。

少女は何故そうなっているのかわからないまでも大人しくされるがままになっている。腕力は全く敵わないし、変な刺激をして仲が決裂したりする方が怖い。なんとなく正常でなさそうなのは察していた。何かパーソナルスペースが死んでるし。

「小鳥さんは何故審神者になろうと思ったのですか?」

「なんとなく。思い立って試験を受けたらあっさり採用されちゃっただけ。こんなことになるとは思ってなかったし…なんなら受かるとも思ってなかった。霊力とかよくわからなかったし」

「それだけ才能があったのですね」

「そうなのかなあ…」

少女は半信半疑というかよくわかっていない顔をしている。

「…ところで、うんしょうさんは何故僕を抱えているの?」

「本丸空間では観測が正常に行われないと意味消失の危険があります。…最初からなかったことになる、というのがニュアンスとして近いでしょうか。流石に目の前にいて消えるということは余程起こらないはずですが…」

契約を結んだ相手がいれば、契約を通じて相手の存在を感じ取ることができるのでリスクが大幅に下がる。意味消失は自我の消失を伴うため、余程短期間で突然取り返しのつかないところまで進行することはないものだが、他者のいない状況では発生しやすくなる。この本丸がふたりきりだというなら、そのリスクはそれなりにあった。

 

 

 

 




んしょくん審神者の世話を焼きたがるタイプかていうと微妙に違う気する するかしないかでいえばするけど
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