刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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それでも空は何処までも高く4

 

 

神気の影響で彼女の瞳は雲生の本来の色である空色に染まった。神気酔いで鈍くなった頭で、それでも永遠は拒んで首を振る。何度も犯され、絶頂も覚えたが、心は屈していない。反動のように、雲生の髪は雨雲のように鈍い色に染まり、瞳は夕焼け色に変化していた。明らかに刀剣男士の枠を外れている。

「小鳥、小鳥、…お願いです。私を…ひとりに、しないでください…」

「うん、しょ…こわい…たすけ、て…」

ふたりして泣きながらキスをする。お互いある意味錯乱状態だった。確かなものは互いの熱だけ。縋るように相手を抱きしめる。

「なんか、へん、なの…からだが、おかしくなっちゃう…」

「傍にいれば、守って差し上げられますから…私の手の届くところにいてください…小鳥…あなたまでいなくなってしまったら、私は…」

「こわい…たすけて、うんしょう…」

「小鳥」

彼は彼女の目元に口付けた。抱き合っていたら少しだけ落ち着いた。くすんくすんと鼻を鳴らす彼女を慰めるように彼は背を撫でる。

「小鳥、好きです。…あなたは、私をどう思っていますか?…嫌いになってしまわれましたか?」

「…嫌いじゃ、ない…でも…雲生と同じ好きじゃ、ないと思う…」

「小鳥」

「雲生とキスしたり、抱き合ったりするのは、嫌じゃない、けど…恋心じゃ、ないと思う」

「性行為をしてもいいのに?」

「恋心がなくてもセックスはできるよ」

そうでなければセックスワーカーは存在できないので当然ではある。

「…やらしいこと考えてるひとといっしょにお風呂入りたくないし、トイレにもついてこないでほしい」

「うっ…」

それに関しては寧ろ許容していた今までがおかしいくらいなのだが。

「物理的に四六時中いっしょは、ちょっときつい。俺もたまには一人になりたい時があるっていうか…」

「ですが傍にいないとあなたに何かあった時に気付けないかもしれません」

「…本丸の中なら大丈夫じゃない?」

「大丈夫ではありません。だって主はっ…見習いに陥れられ、本丸を乗っ取られたのです…!」

「…よこしまなことを考えるものが同じ建物の中にいたから、ってことでしょう?今、この本丸に意思を持って動く者は俺と君しかいないじゃない」

「・・・」

「何がそんなに心配なの?」

「…怖いんです。あなたを喪うことが。己の役目を仕損じることが」

彼は縋るように彼女をぎゅうと抱きしめる。

「私は主を見失って…喪ってしまいました。再びそのような失態を犯してしまわない自信がありません…あの時だって、気を抜いたつもりはなかったのです」

「でも、俺は君とは契約してない…迷子なんでしょう」

まあ本丸を稼働させるために管理者登録をしたのでシステム上彼女は正式なこの本丸の審神者ということになるのだが。

「本来なら、雲生は僕に対する責任とかない…管轄外になるんじゃない」

「それは…」

「勝手に全責任背負われても困るんだけど。僕別にひとりで何もできない赤ん坊ってわけじゃないし」

「…小鳥」

「雲生は俺のこと舐めすぎだと思うの」

雲生は赤面して、恥ずかしげに言う。

「…赤子扱いしているわけではありません。小鳥が愛らしいから、ずっと傍で見ていたいんです。…好いているから、損ないたくないと思うのです」

「俺は別に可愛くないと思うんだけど…」

「小鳥はとても可愛いですよ。少なくとも私はそう思います」

彼はそう言って彼女に口付ける。その瞳には再び情欲の色が灯っていた。

「私が好ましく思うのですから、他の方にもそう思われないはずがありません」

「ええ…」

「他の刀に横から攫われるかもしれません」

「…何にしても俺の意思を無視して好き勝手する相手とか願い下げだけど」

オリハルコンメンタルすぎるが如何せん腕力などがないので自分の意志を押し通せないタイプ。相手によっては沼る。今とか。

「雲生は何がしたくてこうしてるの」

「私は、小鳥から見て不可解なのですか?」

「僕にずっと貼りついてたら自分のこと何もできないでしょ」

「…でも、あなたの無事を確かめられないと何も手につかないのです」

「それはだいぶ、メンタルがおかしくなってると思うよ」

「…そうですね。あなたは私の主ではないのに…いえ、主だったとしても、これでは、出陣出来ませんから。刀剣男士として、正常ではない状態でしょう」

彼は彼女を離すつもりが一切なさそうだった。彼女は割と疲れてきているのでほぼされるがままだが。

「…ちなみに、契約上で"主の代わり"にしなかったのは何故?」

「……小鳥を此処に留めるべきでないと思っていました。かといって…私ひとり、この本丸を離れることになっても小鳥についていこう、とまでは踏み切れなかったのです」

一応本丸内で顕現の解けた刀剣は見つけて、比較的綺麗にした、手入れ部屋の近くの部屋に移動させてある。資材が全て手入れするには足りないので手入れはしていないのだが。

「何故俺は此処に留まったらダメなの?」

「何故?それは……主が死んだ後にこの本丸に来た人間は、みな、死んでしまっていて…」

「死んだ?何で?」

「それは…っ…」

彼は頭を押さえる。

「雲生」

「あ、ああ…私は…私が、殺してしまっていたんですっ…私が、この手で…っ」

「・・・」

小鳥は静かに雲生の胸板に頭を預ける。

「雲生は、俺のことも殺すの?」

「…嫌です。あなたを殺したくない…」

「殺さなきゃならない理由でもあるの?」

「いいえ。私は…主の仇と、そうでない人間の区別がつけられなくなっていたのです。人間すべてを憎んではいません。…小鳥を殺す理由は、ありません」

「なら、殺さないんじゃない?」

「…正常な刀剣男士なら、主に命じられもせず罪のない人間を殺したりはしません。ですが、私は…」

憎悪のままに仇を討とうとしてやりすぎた、と言って正しいかすら定かではない。楽しんでいたわけではないのは確かだが、だから許されるという話でもない。一人二人どころではなく殺しているのだから。かといって政府が雲生をどう扱うかというと、何とも言えない。政府は安全策よりも戦力の確保を優先する傾向がある。

「雲生」

「小鳥…」

「何か中途半端だね」

「えっ…」

「本当に俺のこと余所にやるつもりだったら、セックスしたらだめだよね」

「…はい」

「ずっと一緒にいるなら、契約するべきでしょ。その方が筋が通るし。なんなら契約してない他人にずっと傍にいてって言うの変だよね」

「…はい、おっしゃる通りです。ただ、傍にいてほしいというのは本心であって、いい加減な気持ちで言ったつもりはありません」

「軽い口説き文句で言われても困るけど…」

内容がクソ重いので本心からの望みでなく言われたら逆に怖い。

「…ですが、小鳥も共にいるつもりでいてくれましたよね?」

「まあ…常識の範囲内なら…」

もしかして次のお出かけの時のことを話したことが最後のトリガーだったか?と小鳥は気付いた。やや目が泳ぐ。

「…ええ、わかっていたんです。本当は、小鳥を私から(・・・)逃がさなければならないのだと…。ですが、無理でした。あなたを見るたび愛おしくなって…損なわれることが怖くて。私の知らないところで危険な目に合わないか心配で…この本丸から出ていけば、他の刀剣に微笑むのだろうと思えば、妬ましくもなりました」

「…俺の何がそんなに気に入ったの」

小鳥の問いに答えず、雲生は深く口付けた。流れ込んだ神気で小鳥の目がとろんと蕩ける。

「確かに私が中途半端でした。どっちつかずなことをするくらいなら…隠してしまうべきでした。それが一番安全だと私は確信できる」

「――そこまでだ、雲生」

「趣味が悪いですね。山姥切長義の言っていた監査部の方たちですか?」

「濡れ場に踏み込むのは躊躇われたけれど、流石に神隠しは見過ごせないからね。それも、双方合意ではないなら尚更だ」

雲生も小鳥も情事の跡の残るしどけない格好だ。人前に出るような姿ではない。雲生は小鳥を隠すように抱え込む。

「小鳥は私と共にいると言ってくれました」

「神隠しの了承はしていないと思うが」

「堕ちてるやつにそーいう正論は通用しないって。ぶん殴ってでも止めるしかないっていうの?」

「折らずとも改心していただけると助かるのですが」

「血の気が多い」

対雲生を元から想定していたのか、監査部メンツは同位体と雲生に多少なりとも縁のある刀で構成されているようだ。それに枠外個体を想定していたなら術師も何処かにいるだろう。

「私の小鳥に、近づかないでください…!」

激しい拒絶と共に監査員たちの足元や目前などに穴が生じた。

「っ…管制ならぬ陥穽といったところですか…!」

「普段の精神安定度の高い刀ほど堕ちた時厄介だとは言うけど…!」

「これ、ちゃんと後で直せるやつ?無理っぽいなら本丸更地にするつもりでやっていい感じ?」

 

「…陥穽…?」

ぼんやりと小鳥が呟く。

「小鳥」

「…頭がくらくらする…」

「…眠っていてください、小鳥。あなたは傷つけさせませんから」

「しらない、声…俺は…家に帰りたい、と」

「っ…」

「ド直球で断られてるじゃん」

小鳥は意識が落ちそうなのを堪えるように眉根を寄せる。

「門が、動いた?」

「その格好で外に出るのは貞操が危ないのでやめてください!!」

「あなたの言えることではないでしょう」

そもそも情交の後始末をしていないというより途中で中断しているような状態である。ちょっと全年齢版で取り扱えない汚れとかある。漫画だったらR18回避不可能。

「じゃあ…お風呂入る…」

「それは…その、正しいですが、今はそう言う状況ではないといいますか…」

「雲生、だっこ。お風呂入れて」

「…くっ、ロジャー…っ!」

「えっ」

「あー…うん…仕方ない、かな…」

「彼女はどちらかといえば被害者ですからね…」

これで雲生が逃亡したりするかというと、多分そんなことはない。祟りに堕ちたからといってその刀剣の根本的な性質は変わらないことの方が多い。倫理観は吹っ飛ぶが真面目な刀は大体真面目なままだ。あと、長船の流れにある刀が好いた娘の可愛い我儘を叶えるくらいの甲斐性を見せないわけがない。場の空気は完全に壊れたが。

「てかあのふたりは恋人同士って認識でいいの?」

「どちらにしても責任は取らせますが」

「責任、ね…」

 

 

 

 

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