「…大丈夫ですか、小鳥様」
「…大丈夫に見えるか」
こんのすけは返答に困る。彼女はあまり顔色が良くないように見えるが、元から顔色があまり良くない、という人も偶にいる。…まあ、今回は十中八九昨夜のことが原因だろうが。
「お疲れならば、ごゆるりと休んでおられても良いのですよ、ぬしさま」
誰の所為だと思っているのだろうか、この駄狐は。
「…小狐丸」
「何でしょうぬしさま」
「オムライス食べたい」
「今すぐ作ってまいりますv」
厨に向かった小狐丸を見送り、こんのすけは言う。
「手慣れていらっしゃいますね」
「自爆技だがな。…やつがいない間に話を聞きたいところだが…残念ながら今はあまり頭が回りそうにない。俺のすべきことが決まっていたら、それだけ教えてくれるか?」
「急務となるのはこの本丸の浄化でございます」
「…そんな気はしてた」
「本丸内のスキャンを行った結果、呪詛の核と思われるものが二つ存在しました。それがどのようなものかまではわかりませんでしたが」
「二つ?」
「…私は解呪しましたので」
「…ということは、お前を捕らえていたようなものが後二つあるのか」
「残りの二つも式を核にしているとは限りませんが」
小狐丸が手ずからスプーンで口に運ぶオムライスを小鳥は死んだ目で食べていた。確かに自爆技である。どうやって見つけたのかは知らないが。
「お味はどうですか?ぬしさま」
「…美味しいよ」
「それはよろしゅうございます」
小狐丸はとても嬉しそうである。誉桜も舞っている。理由はまあ、聞くだけ野暮というやつだろう。
こんのすけは小鳥の肩に乗ってナビゲートしていた。
「…これは、馬に悪影響はないのかな」
「当然悪影響があるに決まってるじゃありませんか。…鍛錬所や手入れ部屋の式たちが無事なのが奇跡的というか、あなたからの清浄な霊力があるからこその僥倖なのですから、庇護のない馬たちは真っ先に影響を受けていてもおかしくないくらいですよ」
「…様子見に行って対処してやらないと拙いかな」
「ただの馬ではないとはいえ、半分生き物のようなものですからね」
小狐丸がその斜め後ろで面白くなさそうな顔をしている。
「・・・」
「…なんかすごく嫌な感じがする」
小鳥は眉根を寄せて呟き、頭に手をやる。
「ぬしさま、無理をなさることはありません。ぬしさまはか弱いのですから、穢れに触れて寝込みでもしてしまってはいけません」
「放っておいても解決しないものだろう、これは。なら、さっさとどうにかするべきだ」
しゃらん、と取り出した鈴を鳴らす。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、や」
しゃんしゃんと鈴を鳴らしながら小鳥が祝詞を唱えると、水面に広がる波紋のように浄化の力が広がっていく。それはよどみもなく、清らかで温かな霊力に相違ない。
「…あぁ、やはりあなたの
小狐丸が陶然とした瞳で呟く。
「ここちよい」
資材を収めた倉庫の裏に呪符と共に藁人形が九つ打ち付けられていた。
「・・・」
それを見て、小鳥は険しい顔をした。
「核となるのは真ん中のもの、周囲のものはその効果を高めるためのものと思われます」
「…とりあえずこれは全部外して燃やそう。火で浄化できないものはないって言うし」
頭痛がするとでもいうような顔をして小鳥は呟く。
「丑の刻参りか?古典的だな」
鈴を左手に持ち替え、躊躇いなく藁人形を引っペがして地面に放る。
「え、ちょっ、小鳥様?!」
「何だ?」
小鳥を蝕もうとした呪詛が、即座に浄化される。
「…いえ、何でもありません」
「?」
小鳥は疑問符を浮かべて藁人形を剥がして地面に放った。
「ぬしさまは度胸がありますな…」
「別にそんなことはないと思うが」
全ての藁人形と呪符を積み上げ、小鳥はそこに呪火を放つ。それは積み上げられた呪物だけを焼き尽くす。
「もう一つ、か」
「このまま向かうことはおすすめできません。念のため、一度禊をするべきかと」
「って言われても…裏山の滝にでも打たれてくればいいのか?」
「…ですかね」
本丸内は、邪気のない場所の方が少ないくらいだ。
「お供いたします、ぬしさま」
「…まあ、俺一人で行くわけにもいかないだろうからな。頼む、小狐丸」
「お任せくださいませ、ぬしさま」
「私も同行いたします」
「ああ」
何の躊躇いもなく、そのまま滝に突っ込んでいった小鳥に、こんのすけも流石に狼狽える。
「ちょっ、小鳥様?!」
「何だ」
「滝行とは、ただ滝に打たれれば良いというものではありませんよ?!」
「大丈夫だ、問題ない」
「問題ありますよ?!」
「手順とは利便性のためのものだ。今回は清浄な水で洗い流されれば用は足りる」
「…ぬしさまはそもそも煩悩も薄そうですしなぁ」
残りの一個は折れた刀で巫蠱