刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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青嵐先輩の本丸についてから


一度だけ唱えられる魔法の呪文2

 

 

 

 

小鳥は、肉体的なダメージは見た目程ではなかった。内側から、呪術で治療を施した形跡もあった。栄養状態もそこまで悪くなかったし、筋肉も動きに支障がある程に落ちていたりはしない。つまり、傷さえ完治させて、身なりを整えれば、ちょっとひ弱そうな儚げ美人にしかならない。

精神的、呪術的には結構深刻だったが。

「・・・」

「あ、目が覚めたんだね、小鳥さん」

「………誰でしたっけ」

「…君が審神者をするにあたって指導をした青嵐だよ」

「……ああ、僕にちかちゃんと会わせてくれた先輩ですか。残念ながら、僕は死に損ないましたよ」

何とも思っていない顔で、小鳥は言う。

「殺したいなら殺せばいいのに、甚振るばかりで死ぬような傷は避けるんです。何もかも中途半端で、俺は多分己の果たすべき役目を碌に果たせなかった」

淡々と小鳥は続ける。

「彼らの怒りを鎮めるための生贄にも、しっかり手綱を取れる主にも、なれなかった。上が私に何を期待していたのかは知りませんが」

「生贄、って…俺は君を殺すために指導についたわけじゃないんだが」

「そうなんですか?彼に会わせてくれたのは、てっきり心残りをなくして逝ってこい、ということかと」

「そんな外道な思惑はないよ?!後輩へのせめての激励とよく頑張ったねのご褒美みたいな意味合いだよ?!」

「…君は、己が死ぬべきだったとでも?」

「別に死にたいとも死ぬべきとも思わない。ただ、痛いのは嫌いだから、中途半端に甚振られて、痛みが続くのが鬱陶しかった」

「・・・」

小鳥の瞳は少し異常なくらいに澄んでいる。そして、青嵐も歌仙もその瞳に映していない。青嵐には、呪詛と守護、呪いと祝福が複雑に絡み合って小鳥の魂を閉じ込める檻のようになっているのも見て取れた。ざっくり言うと、かなり厄介な状態である。本人に自覚がなさそうなのが特に。

「…とにかく、君は死ぬ必要はない」

「そうですか」

大して興味のなさそうな返答に青嵐は先行きの不安を感じた。

 

 

 

「手入れが終わったのだが、小鳥の様子はどうだ、主」

「…なんというか、肉体的には問題ないし、意識もちゃんとしてるんだが…厄介だな」

「…まあ、自閉しているようだったしな」

宗近は少し難しい顔をする。

「いらぬのであれば俺がもらう、とは言ってきたが…俺のことも見んのはなぁ」

「…そういえば、今回は上手く進んだからいいとして、お前何小鳥さん(余所の審神者)にちょっかいかけてるんだよ」

「無碍に散らせるのは惜しいと思ってな。まあ、念のための保険というやつだ」

「・・・」

「焼き餅か?主」

「茶化すな」

青嵐は眉根を寄せる。

「小鳥さん以外に変なちょっかいを出してる人とかいないよな?」

「変なちょっかいとは人聞きの悪い。ただ、少し縁を結んだだけではないか」

 

 

「君が小鳥か。なかなかの美人だな」

鶴丸の言葉に小鳥は反応しない。歌仙が苦笑する。

「…全くの無反応ってのは少し酷くないか」

「どうも彼女は自分に話しかけるものなどいないと思っているみたいでね」

「自分のことだと思っていない、と?」

「まあ、そういうことだね」

鶴丸は小鳥の目の前で手を振ってみる。その視線も特に反応は見られなかった。

「…目が見えてないとか、耳が聞こえてないとかってことはないんだよな?」

「話しかけられているのが自分だと思えばちゃんと会話してくれるよ。…視力はどうかわからないが」

「…鶴丸国永」

「ん?何だ?」

「俺は盲ではない」

そう言った小鳥の瞳は澄んでいるが鶴丸を映しているわけではない。

「…俺はそっちじゃないが」

小鳥は鶴丸のいる方に視線を向ける。しかし、目は合わない。小鳥は少しの間そのままじーっと何かを見た後、興味を失ったように視線を戻した。

「…なんというか、若干自信をなくすな」

「うーん、三日月殿なら興味を持ってくれるだろうか」

「――いや、俺もそう変わらんぞ」

「三日月殿」

「お、もういいのか、じーさん」

「うむ、問題ない。…さて、小鳥や。今日まで助けを求めなかったことに対する申し開きは何ぞあるか?」

宗近は小鳥に己の方を向かせる。小鳥はじーっと宗近を見上げる。その瞳が彼を捉えているかどうか、定かではない。暫くの沈黙の後、小鳥が口を開く。

「俺は、本当に困った時に使えと言われた一度きりの呪文を唱えただけだ」

「…まあ、一度とは言ったが」

「そろそろ死ぬかと思ったが、そうでもなかった」

宗近は僅かに表情を歪める。

「命を粗末にするものではないぞ」

「そうだぞ、命あっての物種とも言うだろう」

「鶯丸のようなことを言う」

「言うに決まっておろう」

「そうか」

特に何とも思っていなさそうな、適当な返事に宗近は眉をしかめた。

「ところで小鳥、お前はあの本丸の刀剣に一体何をして何をされていたのだ」

「…よく覚えていない」

 

 

 

 

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