前任♂は罷免されて一応生きてる。監査が入った
初期刀江雪
江雪に言われて渋々着ぐるみはやめた小鳥 江雪は出陣せずずっと近侍してた
出陣から帰ってきた白刃隊の隊長である鶴丸が、思いつめた様子で上着を脱ぐ。
「…主、鯰尾と五虎退が負傷した。手入れをしてほしい」
「手入れをするのはいいがお前何でそこで脱ぐんだ。というか、お前も何か怪我してないか?顔色悪いし」
「え…前の主は…伽を、手入れの条件に、命じられて、それで…」
鶴丸の言葉に首をひねった後、江雪に囁かれて小鳥は眉をしかめる。
「私とお前の前の主を一緒にするな。僕はお前たちに処女を捧げるつもりはない」
「…夜伽を命じられていたのは、あなただけですか?鶴丸国永」
「…いや、他にも見目のいいやつが何人か…和泉守とか、光忠とか、一期一振とかもだな…」
小鳥は頭を押さえ、溜息をついた。
「今日のこれ以降の出陣遠征は取りやめるよう伝えてくれ。色々と確認したい」
「…完全に放任した僕にも問題はあるだろうが…負傷して手入れもしてないものはどれだけいる?」
微妙な反応をする刀剣たちに肩をすくめ、小鳥は小さく溜息をつく。
「負傷者は全員この後手入れに行くこと。手伝い札の使用は各々の判断に任せるが、就寝する前に全員体調を整えておけ。それから、以降の出陣遠征に対して指針を設けることにする」
一息で言い切った後、小鳥はぐるりと刀剣たちを見回す。
「江雪、今更だが書記頼む」
「…わかりました」
江雪はペンをとってホワイトボードの前に立つ。
「1、出陣遠征を行う業務時間は朝八時から夕方五時までとする。業務時間内の出発と帰還を心がけ、何らかの理由でそうできない場所へ向かう場合は事前に相談すること」
「2、五日に一度、非番の日を設ける。四日働いたら一日丸々休日として自由に過ごしてよい、ということだ。非番は全員一斉ではなく、何人かごと、順番に交代で取る。基本的に私が順番を決めるが、当人たちの間で納得できれば交換しても良い。一応、配慮はしよう」
「3、疲労状態、負傷状態での出陣遠征を禁じる。負傷したものは速やかに手入れを受けろ。疲れている時はきちんと休憩を取れ」
戸惑っている様子の刀剣たちを見て小鳥は肩をすくめ、江雪に視線を向ける。
「出陣とかに関してはこんなところか?」
「そうですね…ひとまずは、これでよいかと…」
「それから…そうだな、朝食と夕食は皆揃って取るように心がけることにしよう。業務連絡なんかをするにもその方が便利だろうし」
「「えっ」」
思わずというように光忠と一期が声を上げた。
「どうした。何か不都合が?」
「…それは、僕たちも食事を取る、ということかい?」
「取らないのか?死ななくとも嗜好品として取ることはできるんだろう。…まあ、人数がいる分調理が大変なのか?」
「(そういうことでは、ないのでしょうね…)」
江雪は僅かに憐れむような視線を向けた。
「張り切って作らせてもらうよ」
「そうか」
小鳥は少し考えて言う。
「とりあえず、今の所はこんなところか。何か質問要望などはあるか」
刀剣たちは互いに顔を見合わせたりなんかはするが、小鳥に何か言おうとする者はいない。
「私に直接言いづらいなら、後で江雪を介して言ってくれてもいい。特にないようなら、これで解散とする」
「…主は、私と手を繋ぐこともできないのですから…夜伽など、するわけがないでしょう…」
「…単純に、好みの問題ってことは…」
「・・・」
「…いや、何でもない」
江雪に睨みつけられ、和泉守は目をそらした。
「あなたたちの前の主と…私の主では…考え方も、価値観も…それに、性別も年齢も体格も異なるのでしょう。…慣れぬ内は行動前に確認をしていただけると、助かります…」
「…そうだね、拙いことして機嫌を損ねたくないしね…」
「主は温厚な方ですので、ちょっとした失敗に腹を立てたりはしませんよ…そうではなく、認識の食い違いで、不都合が起こることを避けたいのです…今回のことも、主は、あなた方が自分たちの体調を自分たちで気遣うことができないと判断した結果の指示変更ですし…主は、あなた方に資材よりも各々の体調を気にかけて欲しいと考えているのです」
江雪はすっと目を細める。
「食事も、自分たちのついでに主と私の分も作っていただいたのだと、主は思っていましたから」
「・・・」
「そういえばあんたら、執務室にこもって何してたんだ?」
「…前任の後始末と書類仕事ですよ…その辺りは集中して一気に終わらせよう、とのことでしたが…そうもいかないようですね」
少なくとも、非番内番出陣遠征を誰が担当するかの指示を出す必要がある。
「こんのすけ、この本丸の刀剣の誰と誰が仲良いのかってわかるか?比較的、ってことでもいいんだが」
「刀剣男士の交友関係でございますか?…それは私の管轄外でございますね」
「そうか…じゃあ、とりあえず刀派ごとを目安にするか…五日サイクルだから、非番になるのは…大体六人ずつくらいか?わかりやすいように掲示物も作らなきゃなぁ。どういう形にしたらわかりやすいだろうな。…非番内番表として掲示板を作るか。五日を基本単位として…ああ、内番も六人だから両方とも同じペースで全員回せるな、今のところは。後で調整はいるかもしれないが。今日がどれかわかるようなマーカーと、簡単に動かせるよう名札マグネットを二つ用意して…出陣遠征は非番でも内番でもないものに…隊長だけ任命して丸投げしよう。流石にまだそこまで俺じゃ判断できん。こんのすけ、暫定案決め手伝ってくれ」
「わかりました」
「掲示板設置するのは何処がいいだろうな…見やすい位置がいいだろうし、広間の近くの大きめの廊下でいいか。高さは俺が動かしやすいくらいにさせてもらおう。短刀は多少使いにくいものもいるかもしれないが、そのへんはまあ踏み台か他のものに手伝ってもらうかしてもらうしかないかな。近くにメッセージボードも置いておこう。活用してくれるかはわからないが」
一人でどんどん決めて小鳥はスタスタと歩いていく。デバイスをいじりながらだが、前は一応見ているようだ。
「名札マグネットは各人で色と形を変えてわかりやすいようにしておこう。確か、こんのすけが簡単にこの本丸の刀剣についてまとめてくれたレポートがあったな。それを参考に決めるか。気に入らないようだったら作り直せばいいし」
あんまり凝ったのは作れないが、と呟き、足を止める。目的地にたどり着いていた。まず、情報構造体で掲示板を作る。仕切りが五つ、二段に分けられており、上段は更に三つに分かれている。少し考え、左右に空白が付け加えられる。右はそのまま、左に各欄の割り振りを記入する。上段は内番、下段は非番だ。掲示板上部に太陽を模ったスライド式のマーカーを設置する。そして、掲示板の右に先程の会議で使ったホワイトボードより少し小さめのホワイトボードと、五色のペン、クリーナーを設置した。
「掲示板はこんなところか。次は名札だな。こんのすけ、名簿のチェック頼む」
「わかりました」
小鳥はレポートに目を通しながらマグネットを作成していく。作成したものは上段に一つ、下段に一つ、と仮に設置しておく。全体的に可愛らしい雰囲気になっている。
半分程作ったところで、じっと己を伺っている視線に小鳥は振り返る。
「どうした?」
「え、えっと、主君は何をしていらっしゃるんですか?」
「今日言ったことが見て分かりやすくなるよう掲示物を作っている」
例えば、と小鳥は秋田の名が書かれたピンク色のチューリップの形をしたマグネットを手に取る。
「これに君の名が書いてあるだろう」
「はい」
「これが、例えば此処に置いてあったとする」
上段一番左、馬番の位置に置く。
「これは明日が一日目になるから、明日、君が馬当番を任される、という意味になる」
ついで、下段から同じように秋田のマグネットを取り、下段の左から二番目の枠に置く。
「もう一つが此処にあるから、明後日君は一日休みで自由に過ごしてもよい、という意味になる。…わかるか?」
「…なんとなく」
「まあ、まだ仮置きだから、実際そういう日程になるかはわからないが」
真剣に掲示板を見ている秋田に小鳥は微笑した。
「一応、後でちゃんと解説するつもりだが、それまでに他の子が聞きに来たら代わりに説明してやってくれるか?」
「はい、頑張ります」
「頼んだよ」
ぽんぽん、と頭を撫で、小鳥はマグネットの作成に戻る。秋田は少し嬉しそうにはにかんだ。
時折少し悩むように手を止めながら、小鳥は作業を進めていく。
「――秋田の、と、主さん?」
「あ、鯰尾兄さん」
「これ、一体何ですか?」
「内番非番表だ」
「えっとですね、これは…」
秋田が鯰尾に拙いながらも説明する。
「ってことは、例えばこう、入れ替えたら俺は明日馬当番で、三日後に秋田が畑当番、ってことですね」
「下の名札を上に持ってきたり、上の名札を下に持ってきたりは禁止だが…まあ、そういうことだな」
小鳥はそう言ってマグネットを戻す。ちなみに鯰尾のは黒い鯰型である。
「でも、非番って何すればいいんです?」
「何をしてもいいし、何もしなくてもいい。遊ぶなり、勉強するなり、休むなり、出かけるなり…自分のやりたいように過ごしてくれたらいいんだが…いきなり言われても難しいか」
「明日から五日分の当番割り振りを掲示したから、何かしら希望がある場合は今日明日中に変えておいてくれ」
「えっと…明日の非番が僕たち、高練度の太刀ばかりなのは、何か意味が有るのかい?」
「ん。すまないが、明日は、少し君たちに時間を取らせてもらいたくてな。君たちから他の子に教えてくれると助かるな、と。なんか面倒見良さそうだろう」
「教えるって、何を?」
小鳥は頭を押さえて、酷い頭痛がするような顔をした。
「…給金の使い方だ」
「給金?」
「詳しくは明日説明するが、前任が君たちに渡していなかったのが発掘されたから、渡す」
流石に横領はされていなかったが放置されていたからちゃんと最適化と手続きとか色々とやっとくこともあるだろうし…
ぶつぶつと呟いた後、小鳥は肩をすくめる。
「まあ、明日まとめて渡すが、お前たちが自分自身のために使っていいものだ。買い食いだの遊びだの欲しいものを買うだの、まあ、好きにしろ。各々で考えて管理してくれ。…あ、必需品とか本丸の方で管理するものはそっちの予算でどうにかするから、基本的には嗜好品とか個人的なものとかに使うこと」
別に無理に使わなくてもいいが。
「…大丈夫ですか?主」
「うー…せめて、一個ずつ順番に対処させてくれ…頭の中がごちゃごちゃになりそうだ…」
実のところ、小鳥は全員の顔と名前、その他の情報が一致しているとは言えない状態である。今いるものを覚えるまでは、と新たに目覚めさせたり、鍛刀したりもしていない。
「…江雪にも、苦労をかけていてすまない」
「…良いのです。争わずに済むのであれば…」
「…君は指針がわかりやすくぶれないなぁ」
小鳥は少し床でゴロゴロした後、起き上がった。
「…さて。こっちはもう、コピペでいいかなぁ。要望があれば個別に作り直すってことで。とりあえず利便性重視で」
「利便性…ですか」
「通帳はともかく、カードの方はなくすと面倒だから、落とさないように持ち歩けるようにして、残高を確認できるようにしておけばいいかな。決済のみに機能を絞って」
人によってはほぼスマホぐらいまで機能拡張してるらしいが、今の状況で活用してくれる気がしないし、そこまでする余裕が今の俺にはねぇ。つぅか、拘ってたら時間が足りないにも程がある。時間ができてから機能拡張するのはありだろうが。
「…ところで、私も明日の非番に入っているようでしたが…」
「正直、非番ってのは出陣遠征メンバーに入れない、という以上の制限をかけるつもりはないから、江雪の判断で好きにしてくれ」
「そう、ですか…」
「…あ、でもお前、少しは、せめて遠征だの演練だのに参加して練度あげる努力しろよ。弟に全然勝てない兄って、カッコ悪いと思うぞ」
「…私に、兄弟はいません…」
「はいはい、同刀派の刀、ね」
言葉を交わしながら、小鳥は通帳とカードの構造情報に手を加えていく。通帳は表面に持ち主の名前を表示。カードも同じく、そして残高表示とモードチェンジのタッチキーを設定する。モードチェンジ後の形はシンプルな金属製のバングルに設定。バングルの方にも同様のタッチキーを設定する。認証キーは神力に設定。接触認識。
「とりあえずこれで用が足りるかな?江雪、動作確認を頼む」
「わかりました」
江雪は受け取った通帳とカードをしげしげと見る。
「…何を、すれば良いのでしょう」
「通帳の方は残高と出入金記録の確認、カードの方は所有者の認証キーの設定と機能確認。認証キーは何かしら作動させれば勝手に設定されるようにしたから」
「ふむ…」
通帳には口座開設と共に幾らかのお金(多いのか少ないのかを江雪には判断できない)が入金されている。それ以外の記録はない。次に、カードに触れていると銀色のバングルに変化し適当に触っていると通帳にあった残高と同じ数字が表面に表示された。更に、元のカードに戻り、カードの方の残高表示も確認された。
「どうやら問題なさそうだな。なら、後はマクロに設定して全員分処理かけて大丈夫かな」
若干目が死んでいる。まあ、数が数である。
「とりあえず今緊急に片付けとく必要があるのはこれくらいか。俺もこれが終わったら休むから、江雪も適当に休んでいいぞ」
「…あまり、夜更かしをしてはいけませんよ」
「日付が変わるより前に寝るよ。寝坊したくないし」
「・・・」
江雪は、小鳥が寝つきも寝覚めも悪い事を知っている。二日三日傍にいれば確認できるそれだが、自覚があるのかないのか、本人はあまり気にした様子がない。