顕現させた審神者が刀剣男士の人格形成や所持する知識に影響を与えることになる。知識としてそれを小鳥は知っていたが、このような形で影響が出るとは思っていなかった。
「ねぇ主、これってどういう意味なの?夜這いOKってこと?」
「何でそうなった」
小鳥は特に意味のあってしたことではない。その場のノリみたいなものである。
「えっちぃのはよくないと思う」
「俺は主と合意の上でえっちぃこと、したいなー」
「しません」
割と本気の拒絶だった。清光は渋い顔をする。
「じゃあ、主を可愛くするのは?」
「何でじゃあなのかわからんが、まぁ、内容による」
「じゃあじゃあ、お揃いの爪紅付けようよ。まずは小さいところのお洒落から、ね?」
「…まあ、それくらいなら」
「…器用なもんだな」
ムラなく綺麗に塗られた爪紅に小鳥は感心した顔をする。へへっ。主も結構手、綺麗なんだし、こういうのやればいいのに」
「私はあまりお洒落は得意じゃないんだ。どうすればいいのかもよくわからないし」
「…確かに、服も無難な感じだよね」
「全部を完璧に、なんて無理な話だろう。力を抜くところも作らなきゃ」
「主、女の子なんだし、少しは気を使えばいいのに」
「ははは。私が着飾るより君たちがいる方が華があるだろうさ」
「そうかな…」
清光ははにかんだ後、言う。
「主は鶴丸さんと同じで黙って座ってたら儚い系美人なんだし、華がないってことはないと思うんだけどな」
「黙って座ってたら、ねぇ」
言いたいことはわかるような気もする。己が美人だとは思わないが、と小鳥は思う。
「江雪殿は小夜殿をどう思っていらっしゃるのですか?」
「…どう、とは?」
「兄弟なのにあまり話したりしていないでしょう」
「…兄弟、ですか」
江雪はすっと目を細めた。
「…確かに、私と小夜左文字は同じ刀匠に打たれた刀です。ですが、それが何だというのでしょう。共に過ごした記憶《おもいで》があるわけでもない、互いのことをよく知っているわけでもない。
江雪の言葉に一期は少なからずショックを受ける。彼は弟たちと仲がいい。弟たちを大切に思っているし、弟たちに慕われている。だから、左文字兄弟もそうだと思っていた。多少ひねくれてはいたが、宗三は小夜をよく気にかけていたから。江雪が小夜にあまり関わろうとしないのも、元は主が違うことからの遠慮のようなものだと思っていた。
だが、そういうことではないのだと、江雪は言った。
「…主の前で
「…私と弟たちのしていることがごっこ遊びだと?」
「私たちのしていることが人真似にすぎない内は、ごっこ遊びでしかないのでは?」
一期は僅かに眉根を寄せた。
「私たちの気持ちが、偽物だと?」
「さあ。偽物と言い切ることは、私にはできませんが。…しかし、だからといって主に聞いても困らせてしまうだけなのでしょうね」
「…小鳥殿は」
「主は、仲良くするのは良いことだとおっしゃっていますよ」
「・・・」
「小鳥さん」
「ん?どうした、小夜。私に何か用事か?」
「…少し、教えて欲しいことがあるんだ」
「何だ?」
照れたような、迷うような間の後、小夜は小鳥に問いかけた。
「…江雪兄様って、どんな人?」
「うーん…私の主観的な印象でいいか?」
「うん」
「貧乏くじ引くタイプ。頑固だけど、どうしても譲れないことでなければそこそこ折れてくれる。自分の内心をあんまり表に出さないから誤解されたり損したりするタイプ。面倒見は悪くないんだけど線引きがかっちりしてる」
それから、と少し考えて小鳥は続ける。
「生き物と、穏やかに甘いものと、平穏が好きだと思う。戦うのがすごく嫌い。でも、必要なら戦うし、戦わずに死ぬことはよしとしないタイプなんじゃないかな」
「…小鳥さんは、兄様をよく見ているんだね」
「なんだかんだ一番傍にいるからな。よく助けてくれているし」
小鳥は薄く笑みを浮かべる。
「江雪は別に小夜に悪感情は持ってないと思うから、話しかけても邪険にされたりはしないと思うよ」
「…でも、兄様は戦いが嫌いなんだよね」
「小夜は別に自分から争いを起こそうとする子ではないだろう?君はただ、共感しているだけだ。…いや、共感とも少し違うのかな」
「・・・」
「小夜が江雪は"兄弟だから"仲良くしなきゃいけない、と思っているのであれば、そうしなくてもいい。でも、あの意地っ張りと仲良くしたいと思うなら、是非そうしてやってくれ。隗より始めよ、ってやつだな」
「…よく意味がわからないんだけど」
「んー…僕、江雪が"青鬼"になってしまうんじゃないか、って不安なんだよね。どうも、必要以上に他の刀剣に挑発的なこと言ったりしてるみたいだし。和睦和睦言ってたくせに」
「…?」
「まあ僕もすんなり赤鬼役をする気はないけど、アホなことする前に引っ張ってでも引き止める人は多い方がいいしね」
「…つまり、江雪兄様は何か変なことを考えているの?」
「かもしれないし、私の考えすぎかもしれない。…別ベクトルって可能性もあるけど」
「…小鳥殿は私たちのしていることがごっこ遊びに過ぎないと思いますか」
「ちょっと何を聞かれてるのかよくわからないんだが…そうだなあ。こうあるべき、こうしなければならない、こうでなければならない、って己の気持ちに反することをやっているなら、それはごっこ遊びみたいなものなんじゃないか?本来の己とは違うものを
僅かに首を傾げ、困ったような顔をした小鳥の言葉に、一期は小さな声で「…そうですか」と返した。
「だがまあ、必ずしもそれが悪いってことはないんじゃないか。僕は嫌いじゃないぞ、ごっこ遊び。TRPGとか楽しいじゃないか。ままならない感じが」
「てぃーあーるぴーじー?」
「テーブルトークロールプレイングゲームの略で…卓上会話演劇遊戯、ってところかな?簡単に言うと、ルールをちゃんと決めてやるごっこ遊び。
余裕が出来たらまたやりたいなぁ、と小鳥は呟く。
「…なかなかに興味深そうな遊びですな」
「じゃあ、簡易的なの一回やってみるか?」
「えっ」
小鳥は六面ダイスを四つ取り出し、その内二つを一期に渡す。
「私がGMで一期がPL。行動判定はサイコロの出た目の合計がどちらが大きいかで決める。ただしピンゾロは
「え、あ、はい」
「シナリオはそうだな…あれにしよう。…君はとある学校の生徒だ。今日は君が日直当番で、日直の役目をこなし、日誌を書き終わった。窓の外を見ると既に夕焼けで赤くなっている。さて、どうする?」
「どうするか、ですか。…そうですな、遅くなって弟たちを心配させたらいけませんから、さっさと家に帰りますな」
「それじゃあ君は自分の鞄を持って下駄箱まで来た。そこで先生に声をかけられる」
「そろそろ下校時間だぞ。まだ残っていたのか」
「日直の仕事で遅くなっていまいました、と伝えます」
「そうか。…最近は通り魔が出没しているという話もあるから、気をつけて帰るんだぞ」
「先生はそう言って職員室の方に行くな。多分先生はまだ仕事があるんだろう。君は下駄箱で靴に履き替えて校舎を出る。…さて、学校から君の家までのルートを君は二つ知っている。少し時間がかかるが、大通りや人の通りが多い、商店街側の道。もう一つは、街灯が少なく、途中で墓地の横を通ることになるがかなり時間の短縮ができる近道だ。どちらの道を選ぶ?」
「そうですな…急がば回れ、とも言いますし、商店街の方へ向かいます。夕餉の買い物もしたいですし」
「(どういう家庭環境を想定してるんだこいつ)じゃあ、目当てのモノが買えたかどうか、サイコロを振って決めるか」
(2,4)(6,2)
「…それじゃあ、君は問題なく欲しいものが買えたな。買い物を終えた君は家路を急ぐ。商店街を抜けて暫くすると、人通りが減ってきた。その中で君は、誰かに尾行されているんじゃないか、という気がする」
「振り返ります」
「ぱっと見には、不審なものは見当たらない。注意して調べるならサイコロ判定だな」
「…何をされているのですか?」
「息抜きにちょっと遊んでただけだが。お前もやるか?」
「…書類を片付けなければならないのではありませんでしたか」
「え、あ、うーん」
小鳥は苦笑を浮かべた。
「悪い一期、中途半端になっちまうけど今日はこれで終わりでいいかな」
「いえ、なかなかに楽しかったですよ。また誘ってくだされ」
「ああ。次はちゃんとしたシステムでやりたいな」
「…なんか江雪拗ねてないか?」
「…そんなことはありません」
「…そうか」
「…少し、呆れているだけです」
「あはは…まあ、気分転換は大事だろ?」
「適度なものであれば、そうかもしれませんね」
小鳥はむぅ、と口を尖らせる。江雪はすっと目をそらした。
「…実質的に、睡眠時間を削ったようなものでしょう」
「これぐらいなら大して影響ないよ。どっちにしても日付が変わるまで起きてる気ないし」