ちなみに前任は悪感情を持たれていない
「俺がこの本丸を引き継ぐことになった新しい審神者だ。呼び名が必要であれば小鳥、と呼んでくれ」
それは、あからさまに怪しい風体をしていた。人なのか、人ではないのか。人なのだとしたら、その仮初の姿を何を思って決めたのか、理解に苦しむ。
短刀たちより小柄であろうその躯は浅葱色と白の二色で分かれており、おそらく鳥をもしているのであろう頭部には、山吹色の円錐が付いている。しかし、ずんぐりとした胴体に短い足、極めつけに手羽先のような羽と、およそ空を飛べる存在のようには思えない。もしもこのような生物が実在するのなら、それはさぞかし脆弱で魯鈍な生物なのだろう。外敵から身を守ることも逃げることもできなさそうだ。
小鳥と名乗ったそれは、感情の伺えない黒い瞳を俺たちの代表として前へ出ている刀剣に向けている。その美しさ、強さに魅せられているのか、それともまさか、何とも思っていないのか。考えていることが全く読めない。
「審神者という役目を果たすために最低限必要なことは学んできたが、前任者のことやお前たちのことは殆ど知らないので、必要なことは教えてくれると助かる」
くぐもった低い声はその外見に不似合いに感じる。ただ、不快ではない。くぐもったものではない、素の声を聞きたいと思う程度には。
「その前に」
「?!」
「あんたの素顔を見せて欲しいんだが」
こっそりと小鳥の後ろに回り込んでいた鶴丸が小鳥を抱き上げて楽しそうに笑う。見た目通り、簡単に抱き上げられる程度の重さしかないようだ。
「嫌だ。不特定多数に向けて顔を晒すなど御免こうむる。顔出しアウトだ」
「だが、驚かせても表情が見えんのはつまらんからなぁ」
お、この銀色のは確かチャックというやつだな。
やめろ、触るな。
小鳥はばたばたと腕を動かすが、大した抵抗になっていない。それどころか、月と狐が面白がってか鶴に加勢する。
「よし、俺が抱えていてやろう」
「あられもない姿になりそうでしたら、やめて差し上げた方がよろしいかもしれませんが」
「いや、ちゃんと中に着てるみたいだから大丈夫だろ」
「にゃっ、にゃああ?!」
皮を剥くように、小鳥の着物が脱がされる。中から現れたのは、やはり小柄な人間だった。二藍に染められた着物に包まれたその腕は、陽の光を浴びていないかのようにほのかに青白く、細い。鶴丸が頭の被り物を取ると、射干玉の長い黒髪がその背に広がる。
「隠すような醜い顔ではないではないか」
「う、うううう…」
意志の強そうな太い眉と目尻のつり上がった黒曜石の瞳がきゅっと顰められ、見る見る内に潤んでいく。ほんのりと朱に染まった頬に、透明な雫が染み込んでいく。噛み締められた口から、白く鋭い歯が覗いている。
年の頃はよくわからないが、全体的に儚げな印象のある少年である。体躯は華奢で、男らしさも女らしさも見て取ることができない。
「お、おお、すまんすまん、泣かせるつもりはなかったんだ」
「やだって、いった、のに」
「…そのように泣いておると目が溶けてしまうぞ」
三日月が小鳥の目元に口付けて涙を舐めとる。
「ぴぎゃあっ」
「おっと」
半分恐慌でも起こしたような状態になった小鳥は暴れて三日月の手を振り払って床に落ち、戸棚の中に逃げ込んだ。
「…こりゃあ驚いた」
「うむ…」
「そのようなことを言っておる場合か」
小狐丸が戸棚に駆け寄る。
「主様、そのように狭いところに篭られては体が痛くなってしまいますよ。出てきてくださいませ」
「む、無理…」
「何が無理なのだ?お前は今日から此処で暮らすことになるのだろう?情報は共有するべきではないかな」
「俺のことは放っておいてくれ…」
何処かで聞いたようなセリフである。
「放っておけ、と言われてもなぁ…」
放っておける状態でも相手でもない。
「天の岩戸のようだな」
「そうか?どっちかと言うと、借りてきた猫って感じじゃないか?」
「よく見えなかったけど、美人?」
「何やら、高位の霊に加護を与えられてるみたいだったな」
「とても儚げな容貌をしていたね」
「…貧弱の間違いじゃねぇの?」
「腕とか、簡単に折れちゃいそうだったよね」
「何で顔を隠されていたんでしょう」
「山姥切さんと似たような感じかもよ」
「あの方が、新しい主…」
「守ってあげたくなる感じの子だよね」
「…くだらないな」
刀剣たちが集まってくる。小鳥は小さく悲鳴のような声を上げて更に縮こまった。
「…主様は人見知りする方のようですね」
「何で引き継ぎで来たんだろうな…わからん」
「俺はアレが新しい主で不満はないぞ」
「それは俺もそうだが…人見知りなら、自分で喚んで少しずつ慣らしていく方が本人のためだろ?…何か特別な事情でもあるのかな」
「ふむ…まあ、