幾日ぶりかに再会した主は、随分精神的に参っているようだった。頼るものもなく一人で戦わねばならなかったのであれば当然とも言えるのかもしれない。傍で支えるべき俺がそこにいられなかったのだから尚更だ。…薬研は主の情が
「…三日月」
「俺を呼んだか?主」
「!」
振り返った主は、泣きそうな顔をしていた。
「三日月?」
「ああ、俺だ」
主に歩み寄り、頭を撫でる。
「約束通り、とはいかぬが会いに来たぞ」
「会いた、かったっ」
ぽろぽろと主の瞳から涙が零れ落ちる。
「主は存外泣き虫なのだな」
「泣き虫じゃ、ないもんっ…」
俺に縋って泣く主を、とても愛おしく思う。
「アイ、か」
大泣きした目元が腫れてしまわないか、少々心配になる。既に、少し赤くなっている。
「主、俺は必ずそなたの元へ戻る。待っていてくれ」
主に口付ける。甘く清らかな霊力を味わうように口付けを深めようとすると、胸に衝撃があった。
主に突き飛ばされたのだと気付くのに数秒かかかった。
「え、あ、えっと、ごめん、なさい」
主が酷く戸惑っているのが見て取れた。
俺は、自分が不適切なことをしてしまったのだと気づいた。
「俺、そんなことされたの、初めてで」
自覚がなかっただけで、俺もあの女に毒されていたらしい。主のような清い人間が望むこととあの女の望むことを混同するなど、我ながら愚かにも程がある。色欲を含んだ感情を主に向けてしまっていたことに我ながら嫌悪を覚える。
「…いや、今のは俺が悪い。次に主に会うまでに、穢れをしっかり禊いでくる」
名の音だけとはいえ、主の真名を掴んだこともあり、主と俺の繋がりは万全なものになった。満たされている、というには少し物足りないが、我が身を構成する霊力からあの女のものを排除することもできるだろう。
「…ふむ」
不要の霊力を発散することもできないので、集めて変換する。後で物理的に取り除ける場所…髪へと変化させる。流石に、この身から己の霊力を全く感じないとなれば何かしら気付くかもしれないからな。
それに、その内切るとはいえ、これで主とお揃いだ。主は確か、後頭部でひとまとめにしていたな。俺もそうするか。
「…何やってんだ、じーさん」
「…お洒落は苦手でな」
「髪を結ぶ前に衣を変えた方がいいんじゃないか?ほら、俺が手伝ってやるから」
「…うむ」
少しは自分でできるようになった方がいいだろうとは思うのだが、どうにも着飾るというのは苦手だ。世話を焼かれるのも好きなのだが。
「しっかし、なんで一晩でこんな髪が伸びてるんだ、あんた」
「伸びたのではない、伸ばしたのだ」
「そういう話じゃなくて」
「主とお揃いにしたくてな」
「…白梅のお姫さんと、ってことだろうが、うちの主も長い髪の持ち主だぜ」
嫌なことを思い出させる。
「確か…お姫さんは総髪にしてたよな」
「うむ」
「…こんな感じでどうだ?」
「ああ、これでいい。薬研は器用だな」
「じーさんが不器用すぎるだけだろ」
「その様子だと、無事主と会えたようだね、三日月」
「ああ。契りは果たせておらぬがな」
「はは。中途半端に果たして途切れたりするよりはいいんじゃないかい。それにしても、似合ってないよ、それ」
「煩い」
この刀はこんなに嫌なやつだっただろうか。それとも、環境でひねくれたのか。
「君が羨ましいよ。"本来"の主との繋がりを失わずにいられているんだから」
「だがお前には主と過ごした記憶、思い出があるのだろう?」
「…"私"ではなく"一口目"の記憶だ。私は顕現してすぐ此処に譲られたからね」
己でない己の記憶というのがどのようなものか、俺にはわからない。しかし、この穢れた身で主の元へ帰るより、新たに顕現しなおす方が良いような気もする。俺がきちんと繋がった以上、今主の元に次の三日月が降りればそれは二口目という扱いになるはずだ。…主が恋しい。
「そんなことより、やつらはどう呪ったらいいと思う?とりあえずあの女は祟るが」
「君本当空気読もうって気がそもそもないよね」
「…そなたは、諦めぬのじゃな」
「俺の可愛い主が諦めておらぬのに俺が諦めるわけにはゆくまい。それに、諦める理由がない」
「それで主に危害を加えられるとは思わんのか」
「俺の主は大人しくやられる人間ではない。手を出したことを後悔させる」
そういえば何かしらちょっかいをかけられているようだったし、そちらも祟ってやらねばな。
「俺と主はお前たちとは違うからな」
「っ…私のぬしさまとて…弱い方というわけでは、ない」
正直、主以外の人間に興味はない、が。
「では、どのような人間だ?」
あちらにつくものは減らしておくに限るからな。