刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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短刀が酒を飲む描写がある


兎の見る月10

 

 

まあ、酒が入った時点でこの惨状は割と予想ができていた。

うちで下戸なのは厚と鳴狐ぐらいだ。特に厚はコップ一杯で潰れて二日酔いになるので誰も飲ませないし本人も飲まないし酔っ払いには近付かない。鳴狐は一瓶も飲めば酔って眠ってしまう。

酔って困ったちゃんになるのはまず和泉守だ。酒乱のキス魔で徳利二つも飲めばすっかり酔っ払うし周りの奴に飲ませたがる。しかし次の日になれば酔ってる間のことは全然覚えてない上に翌日に全く酔いを持ち越さない。だから、自分でセーブしてくれないのである。一応、酔っても俺の言うことは聞いてくれるので俺にはそう害はないが。

次に鶴丸。自分でセーブしてる内は大丈夫だが、酔いが回ると絡み酒になる。主に被害を受けるのはくーと一期だが。そして本格的に酔いが回った後のことは覚えてないようだが、和泉守と違って二日酔いにはなるので自制してくれる。

くーはまあ、少なくとも弱くないが、鶴丸が酔うと巻き添え食らって潰される。一期は比較的強いしあしらうのが上手いので大体大丈夫だが、多分笑い上戸。というか、藤四郎兄弟は概ね笑い上戸らしい。薬研と平野と秋田は酒を飲むと常よりよく笑う。平野はあまり飲まないで付き合い程度なのでどの程度飲めるのかわからないが、薬研と秋田は大酒飲みだ。宴会に酒を持ち出すのは大抵この二人である。薬研は清酒かビールで、秋田は果実酒。まあ、日頃から飲むわけじゃなくて宴会の時だけなんで別にいいんじゃないだろうか。自分の適正量はわかっているようだし。

太郎と鶯丸は普通に酒に強いし静かに飲んでいるタイプだ。但し鶯丸は甘党らしいので自分からはあまり飲まない。小夜も嫌いではないようだがどちらかといえば甘党。蜻蛉切は飲むより皆の世話に回ることが多い。蛍と国俊は弱くないのだが、国俊がちゃんぽんに飲んで潰れて蛍が介抱する、というのが定番パターンになっている。

本日和泉守の酒乱被害にあったのは獅子王、歌仙、鳴狐、鯰尾、骨喰。四人立て続けに潰されて骨喰もそろそろ潰れるだろう。薬研、秋田、国俊が大酒飲みで盛り上がっているところに入っていった乱と前田が潰れて一期が部屋に寝かせにいった。五虎退は平野と小夜と厚のところに避難していたようだ。大太刀トリオは何か思うところでもあるのか三人で静かに飲んでいる。蜻蛉切とくーは世話役に回っているようだ。燭台切は既に酔いが回っているのか、泣きながら鶴丸に管を巻いている。多分その内潰れるだろう。小狐丸と鶯丸と三日月はこの惨状を肴にしているようだ。右研(移動してきた方の薬研。区別して呼ぶ時はそう呼ぶことにした。元からいる方は左研)はこの惨状に引き攣った顔をしているが。

「薬研は飲まないのか?」

「…俺っちは遠慮しておく。そういうお姫さんは飲まないのか?」

「俺はあまり酒が飲めないからな」

「お姫さんは酒が弱いのか」

「いや?弱いってことはないし、飲んで酔ったことも記憶がなくなったこともないが、飲めないんだ」

「…?」

「あーるじー」

「ん、どうした鶴丸」

…随分血色良くなってるし、これは酔いが回ってきてるな。

「この酒、秋田の勧めてくれたものなんだ。主も一緒に飲もうぜ」

「桃のリキュールか。いいね。ちょっと分けてもらおうかな」

「ちょっと?偶には君も遠慮せず飲んだらいいだろう。こんのすけのプログラムも組み直されたんだろう?」

「僕は酒を飲むより飲んで騒いでるやつを見てる方が好きなんだがな」

…。俺に絡みに来たのか。いやあ、驚きだな。

「そう言って君はいつも加わらないで一人でいるか、鶯丸か太郎とかと一緒にいるじゃないか」

そりゃ、安全だからな。…今日はそうもいかなさそうだが。

「君も偶には潔く酔っ払うべきだ。二日酔いになるまで飲めとは言わないが」

「…まあ、一度酒に酔ってみたいとは俺も思っているんだがな」

俺は酔う前に体調が悪くなるからなぁ。こればっかりは体質だからどうしようも

「んーっ」

「んっ」

…口移しで飲まされた…?!

「君が酔うまで飲ませてやろうか」

「その前にお前が潰れるだろ」

あるいは俺がダウンする。

「これは飲みやすいが度がきついという話だからな。あっはっは」

「あっはっは」

どうしたもんかな、これは。

「鶴丸の旦那、幾ら飲ませたいからって口移しはないだろ」

「どんな酒より主の霊力の方が心地よく酔わせてくれる。これは一種の飲み比べってやつだぜ薬研」

「勝手に人の霊力を肴にするな」

「いや、そいつはセクハラってやつだろ、旦那」

セクハラ…(唇に触れる)

「…お姫さんまさか口吸いは初めてとか」

「酔っ払い相手はノーカンだろ。カウントするなら和泉守にも前やられたし」

酒癖悪いからな。

「…主の初めては俺がいい」

「…実質初期刀は鶴丸だったしな」

おーよしよし。

「なのに、君は鶯丸ばっかり頼って」

「お前を頼ってないわけじゃない。だが、あいつはストッパーをしてくれるだろう」

「俺の方が強いだろう」

「ああ、鶴丸は強いな」

移動組は全体的に練度が高いからあれなんだが。

「君はそうやって適当に合わせておけばいいと思っているんだろう」

「そんなことはないぞ。俺は自分が同意できないことは言わない」

酔っ払い相手でもな。

「俺はもっと主に頼ってほしい」

「うーん」

今も結構頼ってると思うんだがなあ。

「君は俺たちになかなか本音をこぼしてくれないだろう」

「聞かれたくない相手もいたからな」

こんのすけを通じてあいつらにバレたら困ると思ってな。敵に弱みは見せないに限る。

「どんな相手からだって、俺が君を守る」

「…ありがとう、鶴丸」

そういう君だって、こういうことはシラフじゃ言わないだろうよ。

あ、くー、助けろ。首振るな。お前いっつも鶴丸に潰されてるだろ。

「んーっ」

キス魔は鶴丸じゃなくて和泉守だったはずなんだがな。

って、くーてめぇ何で写メってやがる。

「…っていうか、鶴丸、酒はそれくらいにしとかないと明日二日酔いになるんじゃないか」

「そうしたら君が看病してくれ。君の所為だからな」

「俺の所為なのか」

自己責任だろう。…って、何か寝る体勢に入ってるぞこいつ。

「鶴丸?」

「君の傍が、一番、おちつく…」

「そりゃあ光栄だ」

まあ、暫くは膝枕しておいてやろう。暫くしたら降ろすけどな」

「…国永を移動させるか?」

「いや、完全に寝付くまではこのままにしておこう。偶には甘やかしたっていいだろうし」

というか、お前何で写メ撮ってる。

「…まあ、国永がそうやっておおっぴらにあんたに甘えるのは珍しいからな」

何だかんだストレスもあったのかね。

秋田お薦めって桃リキュール、ちょっとだけちゃんと飲んでみるか。…うん、悪くないな。流石秋田。

「あまり飲み過ぎるなよ」

「和泉守じゃないんだから自分の適正量はわかってるよ」

というか、本格的に飲む気ないしな。多分後コップ一杯も飲んだら症状が出てくるんじゃないかな、多分。自分でリミットを減らすつもりはない。

「そういうくーは飲まないのか?君に絡みそうなのは両方潰れてるが」

「…酒は嫌いじゃないが、今日はそういう気分じゃない」

「そうか」

まあ、好きにするといい。

…あ、和泉守と小狐丸も潰れてる。国俊と蛍がいないのは潰れて部屋に引っ込んだのかな?

「主君、僕たちは先におやすみさせていただきますね」

「ああ、おやすみ、平野、小夜、厚、五虎退」

「…おやすみ」

「ああ、おやすみ、大将…」

「えっと、おやすみ、なさい…」

「薬研も眠くなったら先に休めばいい。今日は一度体調を崩してたわけだしな」

というか、後他に残ってる短刀が左研と秋田の酒飲みコンビだけだからな。他も大体静かに飲む人しか残ってないし、ドンチャン騒ぎはおしまいだ。

あ、粟田口を布団に片付けた一期が戻ってきた。

「おや、薬研はどちらもまだ起きているのか。あまり遅くならない内に寝るんだよ」

一期が頭を撫でると、右研は小さな声で、ああ、と返した。

「一期、これ秋田お薦めらしいんだけど、お前も飲む?」

「いただきましょう。…ところで、鶴丸殿は何故そこで寝ているのです?」

「偶にはいいだろ。あ、君も偶には甘える側に回ってもいいんだぞ」

「ははは、私が甘える側に回って良い相手というと…主か、鶯丸殿か鶴丸殿ですかな」

実年齢的に?

「一兄、落ち着いたならこっちで僕たちと一緒に飲みましょう」

「ああ、そうしよう」

()研も行ってくるといい。あの二人がこうして遅くまで残ってるのは一期と飲むためだからな」

もっとも、自分でセーブできない奴があそこに加わるとすぐ潰されるのだが…まあ、薬研なら大丈夫だろ、多分。

「…そうする。俺も混ぜてくれや、兄弟」

薬研を見送ったくーがぼそりと呟く。

「…あいつ、潰されるな」

「え、薬研が自分の酒量を間違うかな」

「あいつが湿っぽい酒を許すと思うか」

まあ、楽しく飲むもんだ、ってスタンスだからな、大体。でもだからって潰すか?

「…二日酔いにならない程度に手加減してくれるといいんだけどな」

「潰された奴は全滅になるんじゃないか」

「そうなったら明日は皆休みかな」

二日酔いにはビタミンと水分だっけ?後ハチミツバナナミルクスムージーとか。

「お疲れさん、蜻蛉切」

「いえ、この程度大したことではありません」

「後はもう自分で判断できるやつしか残ってないからお前も飲んだりしても大丈夫だぞ」

「酒は既にそこそこいただきましたので良いのです。…ところで、何故主は鶴丸殿を膝枕しておられるのですか?」

「まあ、偶にはな。何ならお前もその内やろうか?」

「え、いえ、私は…図体が大きい分、主への負担も大きいでしょうから」

「俺への遠慮はいらない。俺が先に言ったからな」

「しかし…」

「蜻蛉切が他のやつのフォローに回ってくれるから、いつも助かってるんだ。別に今すぐとも言ってないしな」

まず鶴丸をどかす必要もあるし。

「…嫌か?」

「いえ…。…では、丁度空いた時間が出来た時に、少しだけお願いいたします」

「おう」

蜻蛉切は相変わらず固いな。

「くー、何見てんの?…って」

今日の宴会中の写メか?主に燭台切と鶴丸みたいだが。

「弱みを握っておけば対抗できるだろう」

「お前のそういう妙なところでアグレッシブなとこ、嫌いじゃないわ」

 

 

くーが鶴丸を部屋に連れて行ったところで、三日月が徳利片手に私のところにやってきた。

「主、俺とも飲み比べをしないか?」

「比べられる程飲めん。君も別に下戸じゃあるまい」

「俺も挑発されて大人しく流すことはできんのでな」

「んー?」

挑発?誰が?

「んっ」

口移しされた。しかも清酒だこれ。

「ちょっ、三日月、俺清酒は好きくないんだけど」

「…何故だ」

「苦いのも辛いのも好みじゃないし。酔わない、楽しめない俺じゃなくて、ちゃんと楽しめる奴が飲むべきだろう」

ていうか、飲みたいと思えないんだよなあ。

「・・・」

あ、機嫌悪くなった。

「何だ、お前も酔ってるのか?…まあ、宴もたけなわ、後の祭り、宴の始末をする時間、ってな。実際、片付けをするのは朝になってからだろうが」

「俺が酔っている、と?」

「シラフであんなことされても困るなぁ」

酔っ払いも酔ってない人も酔ってない、って言うものだからなぁ。

「…では、そういうことにしておこう」

あ、こいつ言うほど酔ってねぇ。

「ところで、主の一番は俺だろう?」

「え、うーん…三日月は一番っていうよりも"特別"、かな」

お互いをよく知る前に引き離されたしな。

「特別、なぁ」

「だって俺は、君に会うために審神者になったんだ」

「!」

「だから、一番に君が応えてくれて、本当に驚いたし嬉しかったんだ。…俺のところに来てくれてありがとう、三日月」

よしよし、と頭を撫でると、三日月は戸惑ったのと照れているのが混ざっているような微笑い方をした。

「…俺にとっても、そなたは特別な存在だ」

主だから、かな。

「僕は、君のことがちゃんと知りたいな。好きなものとか、嫌いなものとか、何に興味があるとか、君の主観から見た世界のことが知りたい」

「うむ。じっくり語り合おう、という約束であったな」

そう言って、三日月は少し寂しそうな顔をした。

「だが、鶴や一期あたりから何ぞ聞いたりはしておらぬのか?」

「そりゃあ、"三日月宗近"という刀についての話は、多少教えてもらったよ。天下五剣とか、夫婦刀とか、厚が同じ美術館に収められてた時期があるとか。でも、僕が知りたいのは"三日月宗近"じゃなくて、()なんだ。…いや、贋作がどうとか、そういう話でもなくてね?君の思うことは、君に聞かなきゃわからないだろう。人から見てどう、とかじゃなくてさ」

言いたいこと、伝わったかな。どうだろう。

「…そなたは、妙なことを気にするのだな」

「妙、かな?だって、俺が会いたいと思ったのは"君"であって"三日月宗近"ではないんだ。君が名乗るまで、僕は三日月宗近という刀があることも知らなかったし」

というか、うちにいる刀剣で前から知ってたのなんて蜻蛉切だけだし。

「そりゃあ、三日月宗近って刀に興味がないわけじゃないけど」

「では、そなたは俺の何に興味を持ったのだ?」

「んー…俺ね、偶然審神者募集PR的な映像で、刀剣男士が演武をしてるのを見たんだ。それで"三日月宗近"が出ていて、他の刀剣とか全然目に入らなくて、彼は一体どんな人なんだろう、って興味が湧いたから審神者になったんだ。正直、霊感とかなかったから、本当に審神者になれるとは思ってなかったんだけどね」

どう興味を持ったかは言わないでおこう、うん。

「ふむ…つまり、一目惚れというやつか」

「いや、あくまで興味であってアレは惚れたわけじゃない」

…。…いや、でも、三日月の初対面に関して言えば、ある意味で…うーん。

「…まあ、俺も"俺"とはいえ、別の男に主が惚れたというのは気に食わぬから良いがな」

「…惚れた腫れたは俺にはよくわからん」

「…しかし、随分思い切ったのだな。審神者は気軽には現世に戻れんのだろう」

「それは審神者になってから知ったんだけどねー。…俺はずっと、自分の外側にあるもの、外に出て手を伸ばさないと届かないものには興味がなかったんだ。自分の腕の中にあるものだけで十分で、それもそう遠くない内に終わってしまうと思ってた。だから、君に興味を持って…外に出て、君たちに出会ったこと自体に後悔はないよ」

「・・・」

「なんてね。ちょっとかっこつけすぎかな?」

…あー、アルコール回ってきたのかな。なんか、節々が痛い。どっかもたれたいな…。

「…主?」

「酒は、得意じゃないんだ。酔わないけど、飲めないから」

っていうか、何か思ってたより症状が出てる気がする。喘鳴、出てない、よな?発作が本格的に出る量は飲んでない、はずなんだが。

「…眠くなったのか?」

「…いや、特に眠くなったわけじゃ、ない」

「――大丈夫か、主」

「…これ以上飲まなければ問題ない」

薬飲むレベルでなければ、大人しくしていればその内治まるからな。

「だったら君はこれでお開きにして自室に戻るといい。戸は空いているが、大分酒気が部屋にこもっているからな」

「…そう、することにする」

…躯がだるい。

「おやすみ、鶯丸、三日月」

 

 

 

離れにある自室は静まり返っている。着替えるのもだるいが、このまま寝るわけにもいかないので単を残して全部脱ぐ。脱ぎっぱなしはよくないが今はその気力がない。

眠いわけでもないが。

「…今日は居待月だったか」

部屋の前の廊下に座り、戸にもたれかかる。暫くこのまま、庭を眺めていよう。

春の庭は桜が舞っている。遠く、夜の鳥の声と、春の虫の音が聞こえる。

「アイ」

「…三日月か」

眼鏡を外しているのでよくわからないが、笑ってはいないように思う。

「そのような薄着で、風邪を引くぞ」

「風邪を引く程、ぼーっとしているつもりはない」

それに、体温が上がっているのでそよ風が心地よいのだ。

「…主はどうしたのだ」

「んー…アルコールがね、体質に合わないみたいなんだよね。大体、コップ二杯ぐらいまでは大丈夫なんだけど」

「酔っているようでも、ないようだが」

「そりゃあ、酔ってないからね。リキュールとかは結構好きでね、以前に二瓶ぐらい飲んでもやっぱり酔ったりはしなかったんだけど…」

喘鳴は、出てないよな。

「けど?」

「持病の喘息の発作がね。その時は一晩大人しくしてたら大体治まったんだけど。…いや、あの時は次の日も少し息苦しかったかな。…それで、時々飲んで試してみた感じ、俺、アルコールにアレルギーでもあるみたいなんだよね」

「・・・」

「他の子には内緒だよ。宴の最中に気にされちゃったら興冷めだから」

酒癖悪いのは和泉守と鶴丸ぐらいだし、私に無理に飲ませてくるようなのはいなかったしな。

「…すまぬ」

「ちょっとオーバーしたくらいなら、躯がだるくなるくらいですむし、一晩もすれば治まるから。そんなに気にしなくていいよ」

「俺の我儘でそなたを苦しませてしまった」

三日月が俺の隣に跪く。

「俺は、駄目な刀だな」

「これくらいなら、偶にあるから、そんな深刻な顔するなよ。俺がちゃんと酒量を管理できなかったのが悪い」

「…大人しくしていなければならない程度には、辛いのだろう。何故止めぬのだ」

「皆が酒を飲んで騒いでるのを見るのが好きなんだ。遠慮されたらつまらないだろう。俺が嫌がっても無理に飲ませてくるような子はいなかったしな」

まあ、他の子は潰すんだが。

「それに、俺だけ仲間外れにされたら寂しいじゃないか」

「・・・」

三日月は黙って俺の頭を撫でた。

「何?」

「いや、主は可愛らしいと思ってな」

「それは、褒められているのか?」

「当然だ」

三日月はひょいと私を抱き上げた。

「あまり風に当たっておると体が冷える。室に入ろう」

「うん…そろそろお休みの時間か」

そろそろ日付も変わる頃かな。別に運んでもらう必要はないけど、それを言うのは野暮ってやつか。

「共寝でもしようか」

「いいけど、あんまり夜更かしするのは良くないから、話をするのは明日かなあ」

というか、こいつ戦装束だけどこの状態で寝る気なんだろうか。絶対服しわくちゃになるぞ。

「…そうだな」

三日月は私を布団に降ろして装飾を外し直衣を脱いだ。そうして楽な格好になって同じ布団に入る。

「腕枕してやろうか」

「腕が痛くなるよ」

「構わぬ」

「ふふ、明日になって後悔しても知らないよ」

…しかし、流石に此処まで密着して刀剣と一緒に寝るのは初めてかもしれない。

 

 

 

 

朝(*寅の刻)自然と目が覚めた三日月は腕の中の主を見て頬を緩ませた。主の元に帰ってきたのだという実感が胸の中に広がる。主はぐっすり眠っているようだが。自由になる方の手で髪を撫で、額に口付けを落とす。

 

主の寝所で三日月を見つけ、一期はにっこりと笑っていない笑みを浮かべた。

「お覚悟を」

「一期一振か」

鼻先に振り下ろされた鞘に包まれたままの刀に、三日月は冷や汗が吹き出すのを感じる。

「…主が起きるぞ」

「主は少なくとも後半刻は目を覚まされません。決まった時間にならなければ起きられませんので」

「傍で騒ぎがあってもか」

「主の身に危険が迫らねば反応もありません」

一期の目は笑っていないが、その口元は確かに弧を描いている。

「怪我をすれば主が心配するでしょうから、大人しく引いていただきたいのですが」

「…嫌だ、と言ったら?」

「力づくの排除も仕方のないことですな」

 

 

「…うーん」

「おや、おはようございます、主」

「…おはよう、一期」

白梅は小さく欠伸をして首を傾げた。

「…仲良しだね?」

「そう見えますかな」

「違うの?」

こてん、と首を傾げて、また欠伸をする。

「…離せ、一期一振」

「嫌です」

「(朝から元気だなあ)」

三日月は己の骨がみしみしいってるのが聞こえるような気がする。

「そういえば、今回は起きてこられない奴ってどれぐらいいるの?」

「和泉守殿や薬研に潰されたもの、酷い酔い方をしていた者は概ね全滅ですな」

 

 

 

「情けないな…」

「雅じゃない…」

「まさか私が潰されるとは…」

「頭がガンガンする…」

唸っている二日酔い刀剣を見て、和泉守はからからと笑う。

「何だお前ら、しゃきっとしねぇなぁ」

「…誰の所為だと思っているんだい…」

恨めしそうに己を見る歌仙に和泉守はきょとんとした顔を返した。蜻蛉切は苦笑する。

「和泉守殿はいつも通りですな」

「おう」

 

 

「うー、頭いたぁい…」

「・・・」

「僕も頭が痛いです…」

「俺も頭いたーい…」

「胃がムカムカする…」

乱、右研、前田、鯰尾、骨喰の五人が布団に突っ伏している。

「えっと、兄さんたち、大丈夫、ですか?」

「二日酔いは本当にキツいからな…」

「無理は、良くない」

「鳴狐さん、俺らと同じく和泉守さんに潰されたのに何で元気なんですか」

「鳴狐はお酒はあまり強くないですけど、翌日には残らないのですよぅ」

「ちょっと黙ってて」

鯰尾たちが狐の高音でキンキンしてるのを見てとって鳴狐は狐の口を塞いだ。

「水分だけでも取った方が楽になりますよ」

「ハチミツバナナミルクジュースがいいそうですよ。二日酔いじゃなくても美味しいですし」

「まさか二日酔いする程弱いとは思わなかったんだ。悪いな、兄弟」

「これまでは酷く二日酔いをするのは厚と鶴丸殿と倶利伽羅殿くらいだったからね」

「国俊も偶に飲み過ぎてちょっと残ってることがあるけどな」

ピッチャー三つと人数分のコップの乗ったトレーを持ってきた一期が部屋の隅に置いてあったちゃぶ台にトレーを置いて弟たちの様子を見る。

「朝餉が食べられるものは食堂に取りに行くように。そちらの五人は…おにぎり程度でも難しいかな?」

「一兄、俺もバナナミルク飲みたいんだが」

「ああ、私たちにと用意されていた分はこちらに持ってきてしまったから、こちらで注いでいくか、此処で飲むかしなさい」

「わかった」

「その、ばななみるく、って、美味しいんですか?」

「ああ。うまいぜ」

「俺が初めて二日酔いになった時に大将が二日酔いがよくなるように、って色々調べて作ってくれたんだ。だから飲みやすいはずだぜ」

「宴の次の朝の定番になっていますね」

 

 

「大丈夫か?鶴丸」

「…ああ、少し頭が痛いが、それだけだ」

「そうか…」

白梅は二日酔いになったことは当然ないので、その辛さは顔色から推し量ることしかできない。

「とりあえずいつものハチミツバナナミルクジュースだ」

「おう…」

「朝餉は食べられそうか?軽めならいけるぐらい?」

「ああ、軽いものなら、なんとか…というか、他のやつの世話は焼かなくていいのか?」

「粟田口は一期たちが見るだろうし、他も蜻蛉切と和泉守とついでに大倶利伽羅が見てる。大体、二日酔いになったら俺の所為だから看病しろと言ったのは鶴丸だろう」

「えっ」

白梅はくすり、と笑う。白梅はそんな冗談を言うタイプではないと鶴丸は知っている。だから、本当に鶴丸はそんなことを言ったんだろう。

「大倶利伽羅と右研も見てたぞ」

「えっ、えっ」

「君には結構助けられてるし、甘やかして欲しければ甘やかすぞ」

白梅はにこりと笑う。

「いや、俺は君に甘やかされるより君を甘やかしたいんだが」

「そういうことは二日酔いを治してから言いたまえ」

「うっ」

 

 

「石切丸は酒が強い方なんだな」

「私はただ、無茶な飲み方はしなかっただけだよ」

「私たちは自分のペースで飲んでいましたからね」

「ぷはー、宴の次の朝はやっぱりこれだな」

「国俊はもうちょっと自分の酒量を考えて飲みなよ。お前また途中で潰れたんだから」

「でも蛍が部屋まで運んでくれたんだろ。いつもありがとな」

「わかってるなら気をつけてよね」

「もう毎度のことだから、学習する気がないんじゃないかな…」

「…朝餉を食べる気があるのならさっさとしたらどうだ」

「そういえば、今日は潰れてないんだな、大倶利伽羅は」

「大倶利伽羅は昨夜、飲まされずに済んだからな」

「・・・」

「じゃあ潰れてるのは鶴丸くらいってことか?」

「いや、和泉守に潰されたやつとかも駄目みたいだったな」

「彼の酒癖の悪さにも困ったものですね」

「いつも楽しそうに飲んでるけどね」

「あれを楽しそうだと言えるのはあなたと主くらいだと思いますよ」

「そういえば、主といえば」

石切丸は不貞腐れた様子で朝餉を取っている三日月を見る。

「三日月は主に夜這いしたのかい?」

「いかがわしいことはしておらぬ。主が望まぬからな」

「不貞腐れているようだから、手酷く拒まれたのかと思ったんだけど」

「主には拒まれておらぬ。朝から一期一振に関節技を極められた挙句主が鶴丸国永の所に行ってしまっただけだ」

「…あいつ、酔っ払いの戯言も流さない時があるからな」

「そういえば鶴丸はまた二日酔いになっているの?」

「ああ。いつもよりは軽そうだったがな」

 

 

 

 

 

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