刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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ひと月ぐらい後


兎の見る月11

 

 

小狐丸の主の見舞いの付き添いをすることになった。どうやら、その審神者(号は桜花というらしい)は軍の所有する病院に入院しているようだ。現世側に存在する以上、刀剣を向かわせるには許可証が必要だが、そこで単独で行かせる程信用してないので付き添いとして一緒に行く次第である。

「薬研」

「任せてくれ、大将」

顕現を解いた左研の本体である短刀を懐にしまう。まあ、念のためというやつだ。何事も起こらないだろうとは思うのだが。

『大将の勘はよく当たるんだ、大将が注意しといた方がいいと思うならそうなんじゃないか』

「…かもな」

正直、自分が何に対して警戒すべきだと思ったのか、よくわかっていないのがどうもな。話を聞いてる限り、桜花さんは純粋に被害者といっていいだろうし、軍が信用できないといっても病院で何をするということもないだろう。…俺は何を危惧しているんだろう?

「…まあ、此処で考えていても時間の無駄か。しっかり隠蔽しててくれよ、薬研」

『わかった』

 

 

 

三日月とか鶴丸とかに同行したいと駄々をこねられたのを何とか躱し、小狐丸と二人で現世…陸軍基地、美濃支部へと降り立った。余談だが、審神者が現世と完全に繋がりを絶つと神隠しの危険性が上がるため時々現世に戻ることを推奨されているらしい。近藤殺す。

「とっとと目的地に向かうぞ、小狐丸」

「はい、主殿」

 

 

受付で尋ねたところ、桜花さんの病室は8号室で一人部屋だということだった。一応、状態そのものは安定している、とのこと。

病院はいやに静かだった。あるいは、防音設備がしっかりしているのかもしれない。

「此処が8号室のようだな。じゃあ、俺は向こうの休憩スペースにいるから、終わったら声をかけてくれ」

「入らないのですか?」

「俺は別に用事はないからな。まあ、暇つぶしのできるものは持ってきているから、桜花さんと病院に迷惑をかけない程度にゆっくりしてこい」

「…それでは、お言葉に甘えて」

…夕顔あたりと間違われては面倒だからな。

 

 

呪術の参考として西洋魔術の魔導書を読んでいると、薬研が念話で呼びかけてきた。

『…そういえば、大将は俺と右研の区別が付いてるみたいだが何でだ?一兄も時々間違えるのに』

俺は少し間を置いて念話で返す。

『いくつか、見分けるポイントがあるんだが、一番は匂いだな。まあ、最近は大分違いも薄れてきてはいるんだが…左研と右研は匂いが違う。だからすぐわかる。…区別が付きやすいように何か装身具でも作るか?イヤリングとか』

『区別はつかなくてもいいが、大将特製の装身具は欲しいな。鶴丸の旦那たちも持ってないだろ?』

『あー…他のやつにも何か作ってやらないと不公平になるか』

まあ、それもありか。今度の休みにでも手芸店に行ってみるか。

『あ、言わなきゃ良かった』

『言わなきゃよかった、って薬研、お前なぁ…』

お茶目にしてもそれはどうなんだ。

「――お前が白梅か」

…帰りに何か菓子を土産に買っていった方がいいだろうか。三日月とか拗ねてるかもしれないし。

「おい」

菓子じゃ機嫌を直さないかもしれないが、まあ、何もないよりはマシだろう多分。基地近くの甘味を売ってる店を調べるのは…病院内ではやめておいた方がいいか。

「僕が尋ねているのだから何か返事をしたらどうだ」

『…大将、何か話しかけられてるみたいだが』

『厄介事の気配しかしないから無視する』

だって、知らない人に名前(というか号だけど)を知られてるとかキモいじゃん。

「答えろと言っている」

肩を掴まれ、渋々そちらを見る。何か、ボンボン臭のする青年が私を見下ろしていた。

「ふ、ふん…なかなかだな。霊力の質も申し分ない」

何こいつ失礼だな。

「喜べ、お前を僕の嫁として迎えてやる」

「『…は?』」

思わず薬研とハモってしまったが、何だこいつ。頭おかしいんだろうか。

「何処の没落した家かは知らないが、僕のような名門との縁は願ってもない僥倖だろう?寛大な僕はお前の家格など気にしないでやるから安心して嫁に来るがいい」

没落も何も、うちは昔から一般人だが。ていうか、名門って何だ。

「俺は何処にも嫁に行く予定はない。謹んでお断りする」

「お前の実家の援助だって望むのであれば…"俺"?」

「そもそも何故初対面のやつに家をどうこう言われた挙句結婚しなければならない。婚姻は好きな相手とするものだろう。少なくとも俺は名も知らぬ相手と縁を結ぶつもりはない」

「はっ…白梅というのだからお前は女だろう?!」

…。

「…さて」

男だと思ったら諦めてくれそうだな。意味ありげに笑っておこう。

「っ…」

「用はそれで終わりか。だったらあっちに行ってくれ。俺はお前に興味がない」

というか、そもそも俺は家族と俺の刀以外に興味がない。

「僕に興味がない?!僕は名門、土御門家の期待の星と言われる男だぞ?!」

「いや、知らねぇよ」

思わず素で返していたが、面白いなこいつ。嫌いじゃない。お付き合いはしたくないが。

「術者であれば常識だろう」

「僕は一般人だが」

「一般人?お前のようなものが一般の家に生まれるわけがないだろう」

どういう意味だ。

「そんなこと言われても俺の実家は全員一般人だぞ。僕が呪術を学んだのも審神者になってからだし」

神職がいるわけでもないしな。

「なん、だと…?」

「…嘘はついてなさそうだぞ。霊力の淀みもない」

青年の隣にいた布の塊みたいなのが言う。…いや、気配的に刀剣男士、かな?

「まあ、俺にもにわかには信じ難いが」

解せぬ。

『…正直俺っちも大将が一般人ってのは納得いかねぇ』

ブルータスお前もか。

「…お前がそう言うならそうなんだろうが…」

信じられないという顔をされても事実だ。

「大体、あんた何でいきなり初対面の相手に婚姻を申し込んでいるんだ。物事には順序というものがあるだろう」

激しく同意。いや、手順踏まれても断るだろうけど。

「そっ…そんなの、本人の前で言えるわけないだろう」

「「・・・」」

「お引き取り願えますか?」

「…あー、後日手紙か何か送るかもしれないが、邪険にしないでやってくれるか?」

「知らない人からのメールはすべからくゴミ箱か迷惑メールボックス行きになります」

面倒事は嫌いだしな。

「僕は黄貴、貴い黄色で黄貴だ。あるいはすー君でもいいぞ」

…つまり、審神者としての号が黄貴で本来の名前の頭文字がす、なんだろう、多分。呼ばないけど。

「…白梅です」

関わりたくないなあ。

「端末のアドレスを交換しよう」

「嫌です」

別にメリットないしな。

「…(涙目)」

「――無様だな、兄さん」

何か面倒そうなのが増えた。

「…青磁か」

「二兎を追うもの、ってやつか?余計な欲をかくからそうなるんだ」

兄弟喧嘩なら他所でやってくれねーかなー。

「女、お前の持つレア刀を俺に譲れ」

「…あ゙?」

何、こいつ近藤とか夕顔とかと同系統?…よし、呪おう。

「お前のような素人女は後方支援でもやっているのがお似合いだ。慎ましく仲良しごっこでもしているがいい」

「俺のもんを他人にやる理由はねぇな。そういうことは俺の刀を口説き落としてから言ってみろよ。まあ、まず無理だろうが」

一応、うちの子たちに好かれている自覚はある。引取り組は微妙っちゃ微妙だが。そもそもレアとかレアじゃないとかって線引きを付けることが気に食わない。

「そもそも、意思を持つ相手の意向を無視して物事を進めようという姿勢が気に食わん。刀剣を道具扱いするのは勝手だが、それならそれで最高のパフォーマンスを引き出してやれるよう考えるべきだろう」

刀剣たちの士気が上がっている時に普段以上の力を発揮するのは、割と有名、寧ろ常識レベルの話だ。

「生意気な口を…」

「――お前たち、主殿に何をしておるのじゃ?」

「「「!」」」

「小狐丸、面会は終わったのか?」

「いえ…花瓶の水を替えようと出たところ、主殿にちょっかいをかけているものが見えましたので」

小狐丸はすっと目を細める。

「ぬしさまを待たせるわけにはいかぬゆえあまり時間はかけられぬが…人一人二人斬る程度、そう時間はかからぬな」

「…目敏いな」

「主殿に何かあれば三日月たちが煩いでしょうからね」

否定できない。

「…?」

「…ふん、練度はなかなかのようだな」

小狐丸は元々よその子だからなあ。

「いや、ガチで危ないから主は下がってよね」

「まさか、うちの主も対象か?」

「主殿にちょっかいをかけていたのであればそうじゃな」

「・・・」

「幸いにも此処は病院じゃ。怪我をしたところで死にはすまい?」

「「・・・」」

「小狐丸、ストップ」

「…なんです、主殿」

「いや、やはり俺が絡まれたんだから俺が対処するべきかと思って」

威嚇なら当てない方がいいか?

「穿て」

霊力塊が土御門(弟)の顔の横を髪を引き千切りながら撃ち抜く。

「話は仕舞いだ。世迷言を続けるようであれば直接当てる」

一応手加減したし建物は壊れてないな?

「っ…」

「物騒主従…」

「割合的には今のでも威嚇か」

「・・・」

「幸い、此処は病院だしな?」

「「(あ、これガチだ)主」」

「…ちっ。後悔しても知らないからな」

「…その内また会いにゆくからな」

「ノーセンキューだ」

四人が去ったところで小狐丸が言う。

「主殿も意外と好戦的でいらっしゃる」

「売られた喧嘩は買い叩く主義でな。自分から殴りに行く気はないが、殴りかかってきた相手に容赦をする気は毛頭ない」

「あれほどの霊力を込めた一撃を放っておいてよくおっしゃる」

「言うほど込めたつもりはないんだがな。一応、建物を壊さないための配慮はしていたし」

「・・・」

「…何だ」

「…いえ(そういえばそのようなことを鶴丸が言っておったな)」

何だその意味ありげな間は」

「…まあいいや。俺はちょっと外を散歩してくるから終わっていなかったらメールしてくれ」

「わかりました」

 

 

病院の外に出て端末をチェックしてみると、メールと不在着信が大量に入っていた。着信は鶴丸と三日月が交互になっている。

「…俺、病院の中じゃ通信できないってあいつらに言ったよな?」

『ああ、大将は言ってたな』

「…。…用件がよくわからないな。スルーしよう」

『・・・』

メールには一応さらっと目を通すが、緊急性のありそうなのはいない。菓子を買ってきて時間が余ったらにしよう。

 

 

「桜餅か」

春らしくて良さそうだな。もっとも、俺は食べたことがないのだが。

『歌仙の旦那の言ってた風流ってやつか。こういうのなら俺っちも大歓迎だぜ?』

『それは花より団子ってやつじゃねぇの』

いや、別にそれが悪いとは言わないが。

確か、桜餅って西と東じゃ別物なんだって話だったな。…どっちだかわからないが片方しか売ってないみたいだが。…とりあえず、一人一個分と、他の饅頭とかも買っていくか。

 

 

 

「主殿、こちらにおられましたか」

「ん、終わったのか、小狐丸」

「ええ。…それで、ぬしさまに関して、あなたと話したいことがあるのですが」

「何だ?長くなるようなら本丸に帰ってからにしたいんだが」

「此処ではいけませぬか」

「三日月と鶴丸からメールで早く帰って来いとせっつかれている」

メールを寄越してきたやつには一通り返信したが、あいつらには一つ一つには返信しないと決めた。キリがない。他のアプリでやれ。

「あの二人にも困ったものですね」

「…まあ、ある意味で仕方のない理由もあるがな」

三日月は離れ離れになっていたし、鶴丸は逆にすぐ傍にいる方が多かった。だから、どちらも私が近くにいないと不安になるのだろう。俺も薬研がいなきゃこの状況で此処にはいないだろうしな。

「で、長くなるのか?」

「全て話せば長くなりますね。とりあえず、要点を二つ」

「何だ」

「近いうちに再びぬしさまの見舞いに来たい、ということと、ぬしさまの復帰の目処が全くついていない、ということです」

「そうか。見舞いは進捗を見て都合をつけよう。復帰の方は…何とも言えないな」

俺に何がどうできるということもないだろうしな。

「…主殿は私とぬしさまに興味がないのですな」

「…まあ、当然うちの子の方が優先順位は上だな。知人じゃないし、医学の心得があるわけでもないし。俺がお前の主にできることなどあるまい」

「いえ、全くない、ということはないのです」

あったとしてそうする必要があるか、という話でもあるがな。

「…一つ言っておくことがある」

「何でしょう」

「俺には女性恐怖症の気がある。気の強い女性とおかしくもないことでケラケラ笑う女に恐怖を感じる。そういうタイプなら直接顔を合わせたくないんだが」

「ぬしさまはどちらかといえば気弱で心優しい方です。…それを、あの女につけ込まれたのですが」

それ多分本質的にはしたたかなタイプ…いや、何でもない。

「…まあ、手を貸すこと自体に否やはないが、あくまで手助けだけだ。あまり期待はするなよ」

「…はい」

「それで、次回は主殿にぬしさまと会ってもらいたいのですが」

「…善処する」

 

 

「…で、次も今日みたいな感じでついてきゃいいのか?」

「そうなる…だろうな。窮屈な思いをさせてすまないな、薬研」

「ただの刀だった時と同じってだけだ。そう気にすんなよ、大将?」

「…ああ」

 

 

 

「主、何もされてないな?」

「君は一体何を想定して僕にそれを聞いているんだ」

三日月が確かめるように俺の頭やら肩やらを触るのを甘んじて受け入れる。まあセクハラっぽくないし。

「そこまでベタベタ触る必要はないだろう。君もちょっと嫌がったらどうだ」

「…言うほどのものは感じてないし」

「・・・」

「主は嫌だと思っておらぬのだからよかろう?」

言うてセクハラはアウトだからな?

「主が甘いからって調子に乗って妙なことをするようなら斬るぞ」

「いちいち大袈裟だな、お前は」

「君は何を心配しているんだ」

鶴丸は若干三日月を目の敵にしてるようなところがあるよなぁ。何かしら対抗意識みたいなものでもあるんだろうか。

「下心が透けてるんだよ、そいつは。主にはわからないのか?」

「そんなこと言われてもなぁ」

困って見上げると、三日月はにこりと微笑んだ。

「俺が主の嫌がることをするわけがあるまい?」

うん、まあ、嫌なことを無理に続けられた覚えはないな。

「どうだかな」

「正直、俺もそういう意味ではあまり三日月を信用していないぞ」

鶯丸までそんなこと言うのか。…何かやったのか?こいつ。

「理由は当然わかっているだろう」

「…二度はやらぬがな」

「二度目などあっては困る」

「何の話だ?」

おや、鶴丸は心当たりがないのか。…何だろう。

「…主が首を傾げているんだが」

「ある意味未遂だからな」

どういうことなの。

「失敗することはわかっていたから俺も止めたのだがな」

「あれは止めたとは言わんだろう」

「君たちは一体何をしていたんだ」

本当にな。

「他のやつは思いつきもしなかったぞ」

どういうことなの…。

 

 

 

 

 




審神者の号は基本的に男性は色+一字、女性は植物の名前や動物の名前など。
自分で決めたり師になった術師がお前はこれが似合いだって言った場合を除く
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