「今日は買い物に行こう」
「買い物か」
「三日月の洋服とか」
「ああ、そういう話をしておったな」
基地からバスで三つ分行ったところにショッピングモールがあるそうなので、そこでいいものが手に入るんじゃないか、と思う。
「戦う時は戦装束だから仕方ないけど、日常はもっとラフな服でいいと思うんだよね」
「はは、一応内番着もあるのだがな」
「あの格好の三日月連れて出歩くの、戦装束より嫌なんだけど」
「あなや」
「作務衣が嫌いってわけじゃないけど、人前に出るための格好ではないと思うんだよね」
ラフ過ぎるというか。
「賑やかな場所だな」
「…うん、そうだね」
思ったより人が多い。はぐれないように気を付けないとなぁ…。
「…(おや)」
「えーと、あ、あそこに案内板がある。見に行こう」
「うむ」
店の名を見てもよくわからないが、一応何の店かは書かれているので判断はできる。まずは三日月の服を買いに紳士服エリアに向かうことにしよう。
「まずは何処へゆくのだ?」
「こっちの…紳士服エリアかな。ブランドとかはよくわからないけど」
「俺の衣か」
「ちゃんと自分で着られそうなやつ選んでもらってよ」
俺は服飾系センスはそんなにないからなぁ。
「そなたが選んではくれんのか?」
「お洒落はよくわからん。専門家に任せるべきだろう。三日月は大体何着ても似合うだろうし」
「…ふむ」
「まあ、とっとと買いに行こう」
「うむ」
白兎は少し不安そうに三日月の袖を掴んで、辺りを視線だけで見回している。手をつなぐのではなく、袖を掴むというあたりが彼女らしい。
「あ、この辺かな。…どの店が良さそう?」
「うむ…俺には、よくわからんなぁ」
「俺もよくわからない…」
店の外から一通り品揃えを眺める。
「…フォーマル過ぎない感じで、大人しめデザインの方が、いいかな?(チャラ系は何か嫌だ)」
「ふむ…つまり、何処だ?」
「うーん…そこ、かな?」
おそるおそる白兎は三日月の袖を引いて店の一つに入る。すぐに手空きの店員が声をかけた。
「どのような商品をお探しですか?」
「…えっと、この人に適当な服を見立てて欲しいんですけど」
白兎がビビったことを目敏く見て取り、三日月は目を細めた。店員は三日月を見て当然驚いた顔をした。
「これは責任重大ですね。サイズの方はわかりますか?」
「えーと…身長は一応180ぐらいなんだっけ?」
「さて…きちんと測ったわけではないからなぁ」
「えっと、ワンセット着ていって、着替えも二三セット欲しいです」
「では、選んだもののタグをお切りしますね」
「後…この人一人で着替えられないです」
「えっ」
「はは、手間をかける」
「ふむ…どうだ、白兎。俺はかっこいいか?」
「なんかすごくしゅっとしたね。着痩せするタイプ?」
「はっはっは」
洋装に着替えれば三日月の印象は随分変わった。
「…掴むところがない」
「衣を掴まずとも、手を繋げばよかろう」
「えっ…う、うん」
白兎は少し視線を彷徨わせた後、問う。
「そういえば三日月は髪の毛縛ったりとかはしないの?」
「…そなたは俺が自分で髪をまとめられると思うか?」
「ごめん愚問だった」
真顔で即答されて三日月は少し不満そうな顔をした。
「…男でも使える髪留めってどんなのだろう。…リボンは下の方で結ぶならともかく自分でできなさそうだし」
「俺はそなたと同じものでも良いぞ」
「…三日月俺より髪長いじゃん」
「はっはっは」
結局クリップタイプの大きめの髪留めを買ってそれで簡単にまとめることにした。
「…なんか、性別不明だな」
「はっはっは。それは主も同じであろう」
「いや、同じじゃないだろ…?」
「俺たちはどのような関係に見えているのだろうなぁ」
「えっ………兄弟、とか?」
「この状況はでぇとであろう?恋人同士に見えれば良いのだがなぁ」
「百歩譲ってデートというのは認めるが、恋人には見えないと思うんだがな。見た目に釣り合いが取れてない気がする」
「…釣り合い?」
三日月の声が明らかに不機嫌なものになる。
「だって一般的には恋人は同年代で作るものだろう。俺、成人に見られないことが多いし、三日月は…二十代後半くらいには見えるし、同年代には見えないんじゃないか」
「それぐらいの年の差なら普通だろう。おなごの方が男より幾分年下になるのはよくあることだ」
「お前それ何時の普通だ」
「さて」
三日月は繋いだ手を見る。
「白兎は、兄弟や友人がこのように手を繋いで歩くものと思うのか?」
「実際繋いでるじゃん」
「・・・」
三日月は小さく溜息をついた。
「何だよその反応」
「我が主殿はいけずで困る」
「いけずってなんだよ。実際別に恋愛関係じゃないじゃん。一応、えっと…主従?でしょ」
「つれないなあ、そなたは。俺はこんなにもそなたを恋い慕っているというのに」
「…冗談きついぜ(お前が見ているのは俺じゃないだろうに)」