刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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お月様のいう通り5

 

 

 

ようやく配属先が決まったわけだが、主をなくした本丸の引継ぎだった。まあ、そんな気はしていた。でなければ此処までこじれる理由もないはずだ。…新しい本丸がよかったなあ(人見知り的な意味で)。

「今日から此処で過ごすのかー」

「先住の方がいるようですから、これまでより気楽とも限らないでしょうけどね」

それな。

「どのようなものがおったとして、主に危害は加えさせぬ」

「…何で危険な前提なんだよ。同僚として仲良くできるかもしれないじゃん」

「淀みきってはおらぬが、この本丸の空気は清浄ではない。前の審神者の性根が透けて見える」

三日月の言うことはよくわからない。確かに、あまり気持ちのよい場所だとは思わないけれど。

「あなたが新しく此処に配属された審神者の方ですか?」

「ああ。俺は白兎。よろしく」

「私はこんのすけと申します」

「えっと、一応、此処の刀剣についての話って聞けるかな」

「…おそらく、実際顔を合わせた方が早いのではないかと思われますが」

「まあ、それは俺もそう思うんだけどね」

一応、どういう様子かだけでも聞いとくべきかと思ったというか。

「…主に危害を加えるような刀剣であれば俺が折ってやるが」

「最初からそんな喧嘩腰にならなくてもいいだろ…」

好戦的過ぎて先が思いやられる。

「…今のところ、この本丸の刀剣が審神者に危害を加えた記録はありません」

…記録はない、ねぇ。

 

 

 

こんのすけに呼びかけてもらって、刀剣たちと広間で顔合わせをすることになった。…えっと、10…20?だめだ、直視できない。…お腹痛くなってきた。心因性のあれ。

「…主、気分が悪いのであれば俺が(あいつらを)斬ってやろうか?」

「お前いちいちそうやって物騒なこと言うのやめろって言ってんだろ?」

余計にお腹痛くなってきた…とりあえず、挨拶はさっさと終わらせよう、うん。

「…えっと、今日からこの本丸を引き継ぐことになった審神者の白兎だ。若輩者ではあるが、よろしく頼む」

…何この沈黙。うぅ、お腹痛い。

「私たちは新しい主を迎えるつもりはない」

「そうか。では主に近づくなよ。俺の主だからな」

「何即答してんだよお前」

…別に、すんなり認められると思っていたわけではないが。

「いいじゃありませんか、別に。あちらはあちら、こちらはこちらで動くということでしょう?」

「俺も、蛍と国行がいないなら別にどっちでもいいや」

「宗三と国俊まで…そんな家庭内別居みたいなの、ありなのか?」

「…ええと」

こんのすけも何か困惑してるぞ。何か駄目っぽいぞ。

「留まるつもりなのか」

「人間どもが配属先を決めるまで二月もかかったからな。またあれだけ待たされるとなればいっそ祟ってやりたくなる」

「…物騒なやつじゃな」

それな。

「…一応、円満な本丸運営を目指していただきたいのですが」

それがっできるなら俺もそうしたい。

「…その為には双方が歩み寄る必要があると思うんだが」

双方な。どっちかが我慢するとかじゃなくて。

「…難しそうですね」

「それな」

そもそも両方ともそうする気なさそうだからな…。

「ですが、此処が白兎様の腕の見せどころですよ」

「無茶言うな。僕に何か非があるというなら改善出来るかもしれんが、それ以前の話だろう。俺にそこまでのコミュニケーションスキルはない」

後多分うちの三人にもない。

「…三日月の要求を突っぱねきれたこともないし」

多分、これからも無理なんだろう。こいつ自分の意見を押し通すのうますぎ。

「白兎様が諦めてどうするのです」

「だって俺身内じゃない人間に好かれた事ないし、仲良くしようと思ってくれてない奴と仲良くする方法なんてわからないもん。あっちにその気がないなら無理」

「それはつまり、俺は身内扱いということだな?」

「(寧ろ人外でカウント外だったんだが)…うん」

「祝言は何時だ?」

「発想が飛躍しすぎだ。俺はお前とそういう関係になったつもりもなるつもりもない」

というか、何故そうなったんです。こわい。

「白兎は俺の(もの)だろう」

「うん…?」

「…人前で何、主に言わせようとしているんですか性悪爺」

「はっきり示しておくことが必要なこともあるだろう?籠の鳥(クルマサカオウム)にはわからぬか」

「「・・・」」

「なー大将、俺飽きたんだけど」

おなかいたい。

「…。…こんのすけ、後は頼んだ」

「えっ」

俺にはもうこの事態に収拾がつけられん。いっそ没交渉でいいと思うよ、うん。とりあえずトイレに行かせてくれ。

「大将、何処行くんだ?」

「ちょっと裏山で熊仕留めてくる(暗喩)」

「ここの裏山って熊がいるのか?」

「知らん」

「ふーん。じゃ、俺も熊狩りしにいく。(此処にいるより)楽しそうだし」

僕は君のその感性が心配です。

「…好きにしたらいいんじゃないか」

問題はその発言がそもそも比喩表現だということだがな。…まあ、何かしらいるだろ、多分。いなかったらいなかったで別にいいし。

 

 

 

国俊がある程度発言の意図をわかった上であの返答をしていた事についてどう思うべきなのかが俺にはわからない。

「大将あからさまに顔色悪いぜ。キツイんなら休んだ方がいいんじゃないか?」

「…いや、これは休んでよくなる類の不調じゃないから」

心労的なあれだしな。

「じゃあ、どうしたら良くなるんだ?」

「・・・」

どうだろうなあ。

 

 

トイレを済ませ、千早から動きやすい袴に着替え、裏山へ向かう。

「ハイキング気分で登れそうな裏山だな」

「そうかあ?」

まあ、以前の俺では無理だったかもしれないが。なんだかんだ、審神者になってから動くことが多くなり、体も鍛えられてきている。それに、呪術の中には身体能力や知覚の強化を行うタイプのものもある。

「季節は現世とあまり変わらないのかな?お花見とかってできるのかなぁ」

「その前に此処のやつらと仲良くならなきゃいけないんじゃねーの?」

「…うん」

それは、わかってるんだけどな。

「まあ、とりあえず何かいないか探ろうぜ。…とりあえず、聴覚かなあ?道はともかく、木の間は見通しが悪そうだ」

聴覚強化の術を行使する。猫や梟のように獲物の位置を聴覚で立体的に捉えるイメージ。目を閉じて集中すれば、様々な音が耳に入ってくる。風で草の揺れる音、鳥の声、虫の出す音、遠く水の勢いよく流れる音もする。何処かに滝でもあるのか。

何かしら四足の生き物が駆けているような音が聞こえる。

「…こっちだな」

目を開き、音のした方へ向かう。熊ではないかもしれないが、まあ別にいいだろう。

「あ、待ってくれよ大将」

 

 

途中小川を越えたりしつつ足音の主のところまでたどり着いた。そこにいたのは、立派な角をした牡鹿だった。

「…確か、鹿肉はもみじって呼ばれるんだよな」

由来は知らない。花札あたりだろうか?

「狩るのか?」

「まあ、当たって砕けろとも言うし」

角は記念に残すとして…何処を狙おうか。やっぱり頭だろうか?あまり威力を高め過ぎないようにして、打ち抜いたらどうだろう。

「穿て」

神速の霊力弾がビームのように飛び出して鹿の頭に刺さる。それは容易く貫通し、あたりに血霧が舞った。流石に頭が吹き飛んでなお生きていられる動物はいない。鹿は音を立てて地に倒れこんだ。

「…うーん、やっぱり威力を細かく調整するのは難しいな…」

「えー、一発かよー…」

「苦しめると不味くなるっていうぜ?」

細かい理屈は忘れたが。

鹿に駆け寄る。頭にこぶし大の穴があいている。

「確か、うまく血抜きしないと生臭くなるんだよな」

…どうすればいいんだろ。持ち帰って、わかるやつがいるかなあ。とりあえず三日月と宗三は駄目な気がするけど。

「とりあえず動脈切っとくか?」

…その発言でお前も知らんのがわかるわ。そして勝手に切ってるし。

「…魚の捌き方なら知ってるんだがなあ」

とりあえず、帰りに川の水で洗ってみるか。

その時、強化されたままだった聴覚が、何か大きな生物の接近を捉えた。

「!」

「どうした、大将…って」

熊が、こちらに向かってくるのが見えた。

「白兎は下がってろ!」

「国俊!」

国俊が短刀を手に熊に飛びかかる。刃が閃き、鮮血が飛び散る。

「ぶっとばーす!」

熊が大きな音を立てて地面に倒される。

「へへっ、どんなもんだい!」

「まだだっ」

国俊と熊の間に障壁を張る。咄嗟に張った薄いものとはいえ、障壁がガラスのような音を立てて割られた。

「!」

「熊ってのは、随分丈夫なんだな」

とはいえ、致命傷ではあるのではなかろうか。

「…もっと強くならねぇと」

「しっかり止めを刺したことを確認せずに気ぃ抜くな、ってとこだな」

 

 

「…しっかし、でかいな、熊。俺と同じくらいはあるんじゃね?」

「確か、ツキノワグマって言うんだよな。ほら、胸のところに三日月のじーさんがいる」

「おお、本当だ」

…そういや猟って時代によっては許可がいるんだよなあ。…まあ、いいや。此処も本丸の一部か少なくとも狭間の領域だろうから法律の適用外だろ。

「国俊、これ持って帰れそう?」

「うーん…正直、持ち上がるかわかんねぇな。蛍だったらいけるだろうけど」

「んー…とりあえず、引きずってでも途中にあった川のところまで行こう。解体するなら水場の方がいいだろうし」

「わかった。鹿は大将が持ってくのか?」

「ああ」

 

 

とりあえずドロドロになった熊と鹿を川の水で流す。…魚は腹を割いて流水で洗えば大抵臭みがマシになるもんだけど…熊とか鹿とかの内蔵って漢方で使われてたような。…うーん。

「勢いで狩猟なんてするもんじゃないな」

しかし、やっちまった以上、無駄にしたらなんねぇな。

「どっちか片方だったらよかったんじゃねぇの」

それな。

 

 

 

「白兎が席を外していることだし、お前たちの本音を聞かせてもらおうか。…もしくは斬る」

三日月はそう言って笑っていない笑みを浮かべて石切丸を見た。

「本音も何も、先ほど言ったとおりだけど?」

「そう要求するようになった理由があるはずだろう。…噂に聞くブラック本丸というやつか?」

「・・・」

「前の主を引きずって暗くなるのは勝手ですが、僕たちの主に余計なちょっかいを出さないでくださいよ。あの人、全然融通が利かないんですから」

「…三日月さんを喚んでるってことは優秀な審神者なんだろうけど、何故連れているのが三口なんだい?他から移ってきた、ということもなさそうだけど」

燭台切の問いに、宗三が答える。

「一口よりも二口、三口の方が死角が少なくなるから、だそうですよ。それ以上は本丸に配属されてない身では鍛刀の許可が降りなかったそうです。主の補助にも限界がありますからね」

「…それで三日月さんを引き当てるのは相当のことなんだろうけど…」

「…何か、勘違いされていませんか?」

「え?」

「主の初期刀はそこの性悪爺ですよ。かなり変則的ではあるようですけど」

「…初期刀って打刀なんじゃないのかい?」

だから(・・・)こじれたんですよ。僕たちが来た時点で一月程待たされてましたし」

「それだけ、俺と主の縁が強固に結ばれているということだな」

「祟り神との縁など、望んでいないと思いますけどねぇ、主は」

 

 

「…いくら何でも遅くないか?」

「…そうですねぇ。…もしかして、本当に熊を仕留めに行ってしまったんでしょうか。憚りかと思ったのですが」

「………昔は魚やら虫やら追っかけ回していたやんちゃな子供だったとは言っていたが、だからといって本気で熊を狩るだろうか」

「あの人ならありえないとも言い切れない気がしますけど。動物に例えるなら(かりをするけもの)でしょうし」

「…今から追いかけて間に合うと思うか?」

「無理でしょう。最悪、入れ違いになりますよ」

「・・・」

「国俊は同行しているでしょうし、大丈夫でしょう」

 

 

 

「「ただいまー」」

「白兎っ」

三日月も流石に、鹿と熊を担いで帰ってきた二人に面食らう。

「なー三日月のじーさんは熊と鹿の解体の仕方って知ってる?」

「魚ならわかるんだけど、山の獣の捌き方はわかんなくてさー。仕留めた以上、ちゃんと喰ってやるべきだとは思うんだけど」

「僕らが知るわけがないでしょう。マタギを主にしたことはありませんし」

「…だよなぁ」

「それより、寒中水泳でもしてきたんですか?随分濡れているようですが。まだ泳ぐには早い時期だと思いますよ」

「うん、ちょっと川で転んじゃってさー。あはは」

「あはは、じゃないでしょう。風邪を引かない内に着替えて…風呂で体を温めるくらいはしてきた方がいいのでは?風邪を引いたらいけませんし」

「んー、でも、これ、早めに処理した方がいいだろ?できれば美味しく食べてやりたいし」

「それなら僕たちの方で何とかしますから、あなたは自分のことをどうにかしてください。元々丈夫というわけではないのでしょう?」

「…わかった」

「俺も着替えてシャワー浴びてくる」

 

 

「…この傷、見たことのない形をしているけれど…」

「十中八九、主の攻撃呪術だと思いますよ。…といっても、霊力を圧縮して撃つ、という極単純な術でしょうけど」

「致命傷であるだろうこの傷以外、目立った外傷がない…一撃で仕留めたのだろうね」

歌仙は鹿を見聞して感心したようにそう言った後、包丁を突き立て、解体を始める。熊の方は燭台切、山伏、堀川が協力して解体を行っている。

 

 

 

「白兎様」

「こんのすけか。どうした?」

「…いえ、あなたの行動の意図がさっぱりわからなかったので聞きに来ただけですが」

「うーん…まさか本当に熊と遭遇するとは思わなかったよ」

「…そこで狩ろうとは普通思いませんよ」

「有言実行だよ」

「いえ、確かに熊を仕留めに行くと言って出て行かれましたが」

「あ、もしかして裏山って狩猟制限とかあるの?」

「ありませんが。…そういう話ではないのです。そもそも、話の途中で突然席を外すのというのは大人としてどうなのですか」

「それは…うん」

白兎は視線をさまよわせる。

「…俺、ああいうの苦手なんだよ。精神的ストレスで腹痛がしてくるというか」

「だからといって、あれは白兎様の印象が悪くなるだけでしょう」

「うん、なんかもう没交渉でいいかなって」

「よくありませんよ?!」

「だって、仲良くする気がない人と仲良くはできないだろう」

「・・・」

「僕は、そういう時の対処法が距離を取ることしか知らない」

「…必ずしも、それが悪いこととは言いませんが」

「良い傾向じゃないのは、わかっているんだけどね」

白兎は小さく溜息をついた。

「でも、変わる気のない人を他の人が変えようとしてもまず無理だし、双方に仲良くなる気がなければ仲良くはなれないよ」

 

 

 

 

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