「そういえば、主って何で審神者になったの?あんまり、遡行軍とか興味なさそうだけど」
清光の問いに、白兎は少し考える素振りを見せ、言った。
「んー…なんていうか、会いたい人…刀剣男士がいてさ。名前も何も知らないんだけど。一度、映像で姿を見ただけだから」
「え、どんな刀?」
「えーっと…なんか、青くて、直衣みたいな服で、優雅で穏やかそうな感じの…太刀、かな?大人に見えたし」
「…三日月さん?」
「えー…?確かに、なんかサドっ気ありそうな気はしたけど、あんな髪の毛長くなかったと思うな。袖はひらひらしてたけど」
「…その映像とやらを改めて見てみればいいんじゃないか。記憶違い、ということもあるだろう」
近くにいた切国が口を挟む。白兎はそれもそうだね、と言って、端末を起動した。
「えーと…そうそう、これだ、これ。どっかの先輩の演練映像」
目当ての映像を見つけ、白兎はそれをスクリーンに再生させる。すぐに映像が始まり、12口の刀剣男士が画面の中で立ち回りを演じる。その中の一人、青衣の太刀が大写しになった場面で白兎は映像を一時停止させた。
「この人」
「…三日月さんだよね」
「…三日月だな」
「えっ」
白兎はまじまじと映像を見る。
「………確かに、衣装は同じだけど」
「呼んだか?」
「あ、三日月さん。これ、三日月さんだよね」
「うん?…ああ、これは"三日月宗近"だな」
白兎は映像と目の前の三日月を見比べる。
「………うぇえ」
「…それで、これがどうした?」
「主が審神者になろうと思ったきっかけ、だって」
「…ほう」
三日月はすっと目を細め、口元に薄く笑みを浮かべる。
「よきかな。主はまさに、俺に会うために審神者になったというわけだな。主、もっと俺に甘えてよいのだぞ?」
「別にそういう意味で会いたかったわけじゃないっての。純粋に好奇心!この人がどんな声でどんな風に喋る人なのかな、って思っただけ!」
「…主、それ、一歩間違えば恋の始まりだと思うんだけど」
「断じて恋じゃないから」
「うーん、俺も、"俺"とはいえ、俺ではないものに白兎が惚れるというのは気に入らんな」
「惚れてないから」
「そのように頬を染めて否定しても、照れ隠しにしか見えぬぞ」
「そういう意味で照れてるわけじゃないし」
白兎は自分の頬を押さえた。
「アイデンティファイ能力低いし映像も一度見ただけだったとはいえ髪の毛の長さが違うだけで全く気付かなかったし何時か会えたらいいなーとか思ってたとか茶番すぎるし本気で会いたいと思ってたのか疑わしすぎる。三日月は穏やかとはかけ離れてるけど」
「…随分熱烈だったんだな」
「後悔はしてないけどノリと勢いで動いたことは否めない」
白兎は目をそらす。
「…ちょっと裏山で滝に打たれてくる」
「えっ」
「白兎、水遊びをするにはまだ時期が早いぞ」
「水遊びじゃねぇもん」
「待て、一人で出かけるんじゃない」
「あ、俺もついていくよ主」
「俺も行くか」
「三日月はついてきちゃ駄目!」
「…あなや」
白兎は呪術で脚力を強化し、刀剣男士さえ引き離す勢いで駆けていく。その足は呪術の影響で地を駆けることに長けた獣のものへと変化している。つま先立ちの踏み込みで地面が抉れるレベルの全力疾走だ。裏山の滝の前までたどり着いたところで、白兎はゆっくり立ち止まり、息を整えながらしゃがみこんだ。
「はあ、はあ、はあ…」
心臓が早鐘を打っているのは、全力疾走のせいばかりではない。白兎は頭を振って、躊躇いなく滝に頭を突っ込んだ。
「…観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五薀皆空、度一切苦厄、舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色」
そのまま、歌うように節をつけて般若心経を唱え始める。
「般若心経!」
一回通り唱え終わり、白兎は滝から頭を出してぶるぶると頭を振った。そして、数m隣で滝に打たれていたらしい山伏に気がついた。
「白兎殿も修行であるか」
「今まさに修行不足を実感したところでござる」
「カッカッカッ。見事な読経であった」
「傷口をえぐらないでください」
白兎は苦悩するように頭を押さえる。
「発想が安直だった上に勢いで動きすぎた…速攻で繰り返してどうするよ、俺…」
「日々、是修行である。白兎殿も精進するが良い」
「そうする…」
白兎は溜息をついた後、再び滝に頭を突っ込む。
「あ、主、やっと追いついた…って、山伏も一緒だったんだ」
「…兄弟も滝に打たれに来ていたのか」
「おお。兄弟たちも共にどうであろう」
「…遠慮する」
「俺も流石にパス。っていうか、主、そんなことしたりして風邪引かない?大丈夫?」