審神者になって一年ぐらい経ってる NTR失敗ルート 途中で分岐
「…歌仙さん」
固い声で、縋るような視線を向けてきた主に、歌仙は安心させるように優しく微笑んだ。
「どうしたんだい、主」
「軍の方から、正式な文書で、命令が、きて…」
その声が震えていることに歌仙は酷い胸騒ぎを覚えた。
「…この本丸を、見習いに明け渡せって」
「…なんだって?」
「…人見知りの激しい主の本丸に見習いを研修に寄越したということからして、胡散臭いと思っていたんだ」
「…他の刀剣の様子がおかしいとは思っていたが…」
「本来の主が誰かを忘れて惑わされるなど、怠慢だな」
「あんなこむすめのどこがよいのやら…あるじさまのほうが、いろいろなめんですぐれているというのに」
歌仙から見て、確実に見習いに惑わされていないと断言できるのは、この三人。切国、長谷部、今剣だ。主は心労でダウンして歌仙の膝で休んでいる。
「…一応、最悪の事態に備えて、手を打っておこうと思うんだ。主を泣き寝入りさせたくはないしね」
「そうだな。主の所有物をあの女に触らせたくない」
「主を裏切るものが出るなら、俺はそいつを絶対に許さない」
「あるじさまをこまらせるひとは、ぎゃくにこまらせてやりましょう」
軍の方も本丸を明け渡せとは言っても彼女に審神者を辞めさせようというつもりではなかったらしく、こちらの要求は叶えられることになった。
1、新しい本丸を用意する
2、主の私物、所有物は持っていく
3、主についていくことを希望する刀は連れて行く
当然といえば当然の要求だ。2は何を何処までそう判断するか、ということでもあったが。
「手伝い札と…依頼札も半分あちらに送っておこう。もしかすると、鍛刀する必要もあるかもしれない」
「おふだもあるじさまのものですよねー。あるじさまはあまりつかいませんけど」
「それなら支給で回復する量以上の分の資材も主の所有物という扱いでいいんじゃないか」
「とりあえず残したくないものは全て送っておけばいいだろう」
「
「もっていきましょう。のこしておきたくありませんし。めざめさせていないぶんはただのものです」
「資料室に収まっているのは、大体主の私物だったね。主の私室のものは当然主のものだし」
「俺たちの私物も一応まとめておくべきじゃないか」
「そうだね、これが終わったらそれぞれ自分の私物をまとめてくるということで」
「…ひっこし、しないですむのがいちばんなんですけどね…」
歌仙と長谷部は一人部屋だが、今剣は三条部屋で切国は国広部屋である。
明け渡し期限とされた日。
別れを告げるために大広間に入った彼女は、当然のように上座に座っている見習いと、それを諫めない刀剣たちを見て、最後の溜息をついた。
「俺は本日付で新しい本丸へ映ることになった。…今日まで僕を手伝ってくれてありがとう。とても、嬉しかった」
「主が移るということは、当然僕も君と共に移っていいんだよね?」
「ああ。刀剣本人が望むのであれば、連れて行っていいそうだ」
「僕は当然主についていくよ。…主を裏切るなんて、雅じゃないからね」
「…俺も行く。俺は、あんたの刀だからな」
「俺は、主に最期までお供をすると約束いたしましたので」
「ぼくをおいていったらいやですよ、あるじさま」
「主君の一番の守刀である僕のことを忘れないでいただきたいですね」
「連れて行く刀の数に限りはあるのかい?ないのならば、私も共に行きたいのだけど」
「うむ。俺を喚んだのは間違いなく主だしな」
「おや、先を越されましたか。ぬしさま、小狐めの主は当然ぬしさまをおいて他にありません」
「…というか、寧ろ、主を変えようというものがこの本丸にいるのか?」
三日月がそう言ってにぃと笑う。それを合図にするかのように、刀剣たちは次々立ち上がる。
「はーっ、やっと茶番も終わりかー」
「…一時とはいえ、惑わされたってのが自分で腹立たしいけどね」
「主に愛されてる実感のない刀はうちにはいなかっただろうしな」
「どうだ、驚いたか」
「不安にさせてごめんね?主さん。俺も主さんが大好きだからね」
「主様、えっと、騙すようなことをして、ごめんなさい」
「主君、僕の演技、うまかったですか?」
蛍丸と五虎退と秋田が彼女にぎゅうぎゅう抱きつく。
「…俺は、ちゃんとお前たちを愛せていたか?主として相応しくあれていたのか?」
「当然です!」
「何言ってるの、そんなの当たり前でしょ」
「主様じゃなきゃ、嫌です」
「なぁ、刀は全員主についてくに決まってるのに何で本丸を移る必要があるんだ?別に移る意味とかなくね?」
「手狭になってきたから新しく更に大きなところに移る、ということかもしれないぞ。なぁ?」
「…此処は増築の仕方が滅茶苦茶でしたからね…」
「どうせだから部屋割りも変えちゃおうよ主。俺一人部屋がいいな」
刀剣たちを見て、見習いは呆然と呟く。
「…何で?」
「そんなこともわからないのか?主の元に来て最も日が浅い明石と三日月だって、此処に来て半年経ってる。主との相応の絆ってものがあるんだよ。…惑わされても正気に返るためのよすがもあったしな」
二週間やそこらでそれが覆されるわけないだろう、と鶴丸は哂う。