刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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自判If NTRネタ 
ある程度信頼関係が出来てて、刀も集まってる 一年は経ってないくらい
呪具とかはないver ちなみにいじめられてた時と全く同じ反応である
元々この時空、政府がブラックだから… 
慣習的に近侍≠部隊長になっているので、戦装束とも限らない 方言わからん



自己判断が必要な時

 

 

「…主が執務室から出てこなくなって三日が経ちました」

「ねぇ、何で主さん引きこもってるの?俺全く理由がわからないんだけど」

「食事はきちんと取ってくれているようだけど…」

「よりにもよって、何故大倶利伽羅を近侍に選んだのですか、主…」

嘆く長谷部に江雪がジト目を向ける。何故己ではないのか、と思っているのは彼だけではないのだ。

ここ数日で起こった変わったことといえば、ただ一つ。上の命令で見習いの研修をすることになったくらいである。そしてその見習いというのが、明らかに小鳥とは方向性が正反対の美少女だった。一日共に過ごし、翌日からこれである。ちなみにその日も近侍は大倶利伽羅だったし、以来見習いは好き勝手に遊んでいる。出陣遠征演練の指示自体は、とりあえずメンバーだけ近侍を通じて伝えられているのだが。

「…俺が近侍で何が悪い」

「大倶利伽羅、主はどのようなご様子なのだ、何故我らの前に姿を現してくださらない!」

長谷部に詰め寄られ、大倶利伽羅は面倒くさそうに溜息をついた。

「…主は、見習いに怯えている」

「見習いに…?…あの女を圧し切ればいいのか?そうすれば主は出ていらっしゃるのか?」

「落ち着け長谷部、そうやって急くのは雅じゃないよ」

「…ああいう女性が苦手だとおっしゃっているのを聞いた覚えはありますが、怯えているのですか」

「…おそらく、俺が席を外した時に何かあったんだろう」

具体的に何があったかまでは大倶利伽羅も把握していないらしい。

「…外面だけは良さそうに見えたけど」

「悪い子ではないのかと、思っていたのだけど…」

蛍丸と歌仙が眉を顰める。何度か、短刀たちなどが主が表に出てこないのを心配して御機嫌伺いに来た時があったが、その時見習いも同行してきていた。その時は特に何とも思わなかったが、小鳥が見習いに対して怯えているらしいと聞けば話が変わってくる。

「主は、見習い殿に関して、何とおっしゃっているのですか…?」

「…何も言わない。ただ、気配を察すると酷く怯えた様子になって狭いところに潜り込もうとする」

「「「・・・」」」

「何それ見たい」

「狭いところ、とは、具体的には…?」

「…文机の下、押入れ、戸袋、箪笥と壁の隙間…などだな」

大倶利伽羅は目を泳がせる。

「…雅じゃないね」

「主を脅かすものを斬るのも、俺の役目…」

「ねー倶利伽羅、など、って何を濁したの?」

「・・・」

大倶利伽羅は目をそらす。

「ねぇってば」

「・・・」

「・・・」

蛍丸が無言で鯉口を切る。暫く無言で見合った後、大倶利伽羅は溜息をついた。

「…俺の羽織だ」

その時刀剣たちに電流が走る。

「なにそれ羨ましい」

「…馴れ合うつもりはない」

「*主は除く?」

「違う」

「…あの主が、他人の羽織の中に、潜り込もうとした?」

「・・・」

「…ずるい」

「明らかに異常事態じゃないか」

 

 

 

「主様、一体どうしちゃったんでしょう…」

「…一番最初の時も近侍だった江雪さんと一緒に執務室にこもってましたけど…面会謝絶ではなかったですよね」

まあ、当時は彼らも小鳥に積極的に関わろうとはしていなかったのだが。

「…正直、原因なんて一つしか考えられないんじゃない?」

「「「・・・」」」

乱の言葉に、短刀たちは顔を見合わせる。

「…まあ、どう考えても、あの見習いが怪しいよね…」

「あの人、何をしにいらっしゃったのかわかりませんよね。主君が室に篭ってしまったとはいえ、審神者の仕事を学びに来たというなら、たくさんやるべきことがあると思いますが」

「三日月のじーさんとかに粉かけようとしてる感じするしなー」

「つるまるにちょっかいをかけていやがられていましたよ。あるじではないくせに、いいどきょうです」

ひそひそ、ひそひそ。

短刀たちの中で意見のすり合わせと意思の統一が行われた。すなわち、見習いは敵である。

「だが、直接手出しするってのは自重しといた方がいいだろうな。大将が悪者にされちまったら困る」

「前の主様みたいに政府の人に連れてかれてそれっきり、とかね」

「主様に迷惑がかかってしまえば本末転倒というものですからね」

「そもそも、大将から見習いに関する指示がないもんなー」

そのことも、一つの不審な点であった。刀剣たちは皆、業務時間内にこなすべき仕事を毎日割り当てられている。勿論、非番であれば自由行動だが、非番である、という指示自体はあるのだ。見習い本人にも、刀剣にも、見習いの取るべき行動に関する指示がないのは妙である。

「けど、見習いさんは俺たちが主に見舞いに行った時一緒についてきたけん、そげん悪い人でもなかと思うとよ」

「…でもさ、それで逆に主様が姿を見せてくれなかった、って可能性もあるんじゃない?あの人、毎回ついてきてたし」

「そういえばそうですね。そこまで主君のこと心配してなさそうだったのに」

「…一度、あの人がついてこないようにして主君を訪ねた方が良いでしょうか」

「こっそり行く、っていうなら、何人かが代表して行く、って感じにするべきだろうけど…」

 

 

 

「…あんた、何処から入ってきたんだ」

「ははは、まあ、何処でもいいじゃないか」

ポットを取って戻ってきた大倶利伽羅は、小鳥を膝枕している鶴丸に気付いて僅かに眉をしかめた。

「ん?…ああ、いやな、主は俺が来た時には文机に突っ伏して眠りこけていてな。寝づらそうだったからこうして膝枕をな」

「・・・」

眼鏡を外した目元には、よく見ると隈ができている。良く眠れていない、ということだろう。

「…今の(そいつ)は、あまり役に立たないぞ」

「…まあそれは、あの様子を見れば察しはつくさ」

今も、小鳥は安らかに眠っているようには見えない。悪夢に魘されてはいないようだが、良い夢ではないのだろう。鶴丸はそっと小鳥の頭を撫でる。

「穢刀を恐れない主にも、恐ろしいものがあるのだろうな」

「・・・」

その時、執務室に近づいて来る足音がした。軽い、単独の足音。大倶利伽羅は眉根を寄せる。足音は、室の前で止まる。

「先輩、国永さん来てませんかぁ?」

鶴丸は身振り手振りで大倶利伽羅に自分が此処に居ることを伝えないでくれ、と示す。

「私、ちょっとふざけすぎちゃったみたいでぇ、怒らせてしまったみたいだから、仲直りしたいんですぅ」

「…国永は来ていない。他所を探せ」

「…そうですかぁ…じゃあ、もし来たら、私が謝りたがっていたって言っておいてくださいねぇ、廣光さん」

足音が再び去っていく。溜息をついた後、大倶利伽羅は鶴丸が僅かに蒼い顔をしていることに気づく。

「…どうした」

「い、いや、何でも…「っ…!」うぉっ?!」

勢いよく起き上がった小鳥が蒼白な顔で怯えたように辺りを見回す。大倶利伽羅がそれを宥める。

「…主、落ち着け。此処にあいつはいない。大丈夫だ」

「…だい、じょうぶ」

「大丈夫だ」

抱きしめて小鳥を落ち着かせている大倶利伽羅を見て、鶴丸は意外なものを見た、という顔をした。大倶利伽羅は視線で鶴丸に黙っていろ、と伝える。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ…」

自己暗示のように繰り返し、小鳥は落ち着きを取り戻す。

「…ごめん、くー、おれ、また…」

「くーはやめろ。あんたが本調子じゃないのもわかってる」

小鳥の頭を撫で、大倶利伽羅は眉根を寄せて鶴丸を見る。

「…国永、こいつの醜態は他のやつには話すなよ」

「え」

「わかってるって。十分驚かせてもらったし、少なくともこの件が終わるまでは共犯者だ」

「・・・」

「…しっかし、何で江雪じゃないのかと思ったが…江雪(モンペ)があれを見たら、ただ事じゃ済まないだろうからなぁ…」

大騒ぎになることは自明の理というやつである。江雪は小鳥をわかりにくく溺愛している。

「…いや、どっちかというと、倶利伽羅に頼んだのは、誰に塩対応してても不自然じゃないからだが」

小鳥は、自室と執務室に見習いを拒む結界を張った。そして、それを他の誰にも気付かれずに終わりたかった。正直、完全に敵か妖怪や幽霊のような扱いだが、小鳥からすればそんな感じである。

「…主は一体、何をそんなに怖がってるんだ?」

「それは…言えない。僕の、個人的な…本当に、個人的な、問題だし、本当は、恐れる方がおかしいくらい、だから」

小鳥の視線が彷徨う。酷く疲れている顔をしていた。鶴丸は静かに立ち上がって小鳥に歩み寄る。

「言えないと言われても、今の君はとても放置できないぞ。酷い顔色をしている。一人で抱え込むより、吐き出した方が楽になることもあるだろう」

小鳥は静かに首を振る。

「…鶴丸には、言えない。嫌なことを、思い出させる、かもしれない。折角、明るくなってきてくれたのに、こんなもの(・・・・・)、悪影響でしかない」

「…俺では駄目だというなら、誰になら話せるんだ?」

「国永」

言い募る鶴丸を大倶利伽羅は止めようとするが、遅かった。

「誰?誰に話せる?…無理だ。たった一言で世界は変わる。世界は脆い。僕にはわからない。違う、僕は知っている。私は無知だと僕は知っている。そうだ。わからない。知らない。忘れた。あの子が笑ってる。誰?僕じゃない。僕はおかしくない。変なことはしていない。おかしくない。おかしいのはあいつらで、可笑しいのはあいつらだけだ。僕はおかしくない。可笑しくない。わからない。何が可笑しい?可笑しいとは何だ。emotion?わからない。私は間違ってない。正しくなくとも間違ってもいない。人を傷つけ馬鹿にして笑うのはよくない。暴力には立ち向かわなければならない。自分から手を出してはいけない。間違いだった基準は捨てるしかない。全部全部忘れて、作り直さないと、正しいものを作り直さないと、違う違う違う、私は作り直した。今度は間違えいないはずだ。僕は間違ってない僕は間違ってない僕は間違ってない俺はちゃんとわかっている」

小鳥の吐く否定の言葉に呪いが反応している。浅い呼吸に喘鳴が混じり始める。

「!こんのすけ!!」

「何事ですか大倶利伽羅…!小鳥様!今すぐ処置をいたします」

小鳥は過呼吸と喘息の発作を起こしている。

「小鳥様、落ち着いて、ゆっくり呼吸をしてください。静かに深呼吸を。はい吸って…吐いて…」

 

 

こんのすけの処置により、小鳥の発作はなんとか収まった。現在は自室の方で布団に寝かせている。

「…すまん」

「…俺に謝られても困る。…俺もあまり他人のことは言えないしな」

「…小鳥様は三日前にも同様の発作を起こしておられましたからね」

「…主には一体何が起こったんだ?」

「心因性の過呼吸により、持病の喘息の発作が誘発されてしまったようですね。あまり今の小鳥様を動揺させないようにしてください。かなり精神的に不安定になっているようですので」

「…そうだな」

「あまりにも小鳥様の状態が安定しない場合、審神者の任が解かれる可能性すらあります。それくらい、深刻なのですよ」

「…それは、笑えない冗談だな」

「冗談ではありません。こちらとしても小鳥様のように優秀な方に審神者をやめていただきたくはありませんが…潰れて(・・・)しまわれる方が困りますからね」

「っ…」

「…お前は、何故あいつが精神的に不安定になっているのか、知っているんじゃないか」

大倶利伽羅のほとんど断定形の問いに、こんのすけはゆらりと尾を揺らす。

「直接的な原因はあの見習いだろうが」

「…推測ですので、間違っている可能性もありますし、何より小鳥様のプライバシーに関する話になります」

「お前たちが知っている時点で今更だ。身辺調査でもして手に入れた情報だろう」

「…小鳥様はかなり特殊なケースと言えますからね。調べないという選択肢はございませんでした」

「特殊?…まあ確かに主の浄化能力は稀な資質だと思うが」

「そこではありません。小鳥様は、術師の家系の生まれではないのです。五代遡っても、全くいないのですよ」

「…は?主程の霊力の持ち主が一般の家に生まれるわけがないだろう」

「事実です。もしかすると、それ以上遡った先にいて、先祖返り、という可能性もなくはないのかもしれませんが…それよりも合理的な説があります」

「…なんだ」

「後天的に、高い霊力を持つようになった、ということですよ。その根拠になるものは、あなた方も見ているでしょう」

「…あの呪いと祝福か」

「小鳥様のご両親は霊力のほとんどない一般人ですが、ご兄弟はそれぞれに高い霊力と特殊な資質を持っておられます。審神者が務まる方は小鳥様含め三人、内一人は海軍の方に入られましたが」

「…周囲の者にまで影響が出る程の呪祝だった、と」

「幼少期にその影響を受けたということも大きいのでしょう。小鳥様の年子の妹にあたる方は、一般人にしては少し霊力が多い、という程度ですので」

「…それはつまり、あいつの受けた呪祝を分析して、後天的に高い霊力を持つ人間を増やそうと軍が企んでいる、ということか」

「そのようなことを考える人間はいない、とは申しません」

「いや待て、あれは絶対に人のかけたものじゃない。いずれかの神の手によるものだろう」

鶴丸が厳しい顔をする。

「人の手で再現できるものじゃないし、同様のものを望むのはその対象を神に捧げるのと殆ど同じだ。違うか?」

「小鳥様はそうでしょうね。しかし、その影響を受けただけに過ぎない妹弟様方はどうです?例えばそれが、孤児院などの多数の子供を一つ屋根の下で育てているところなら?」

「…!」

「…実際に、それを計画し実行に移すものがいても数年、数十年後になるでしょうし、小鳥様がそれに関わることもないでしょう。あなた方にも関係のないことです」

「・・・」

「…そうだな。それに、今聞きたいのはそんな話じゃない」

こんのすけは頷いて、ふるりと尾を振った。

「小鳥様はおよそ、10歳から15歳の頃、学校でいじめにあっていたようなのでございます。刑事事件になる程の深刻なものでこそありませんが…」

こんのすけはそこで一度言葉を切る。

「教師の評価などから推測される小鳥様の性格が14,5歳前後でガラッと変化してしまっているのですよ。ちなみに、そのいじめは女子生徒を中心に、男子生徒も時々加わっていたようです。完全に孤立していたというわけでもなさそうではあるのですが…」

「…あいつは、そのいじめのことが蘇って怯えている、と?」

「思春期の少女が周囲の人間から寄ってたかって己の人格を否定されて、何のトラウマも抱かない方がおかしいでしょうね。しかも、小鳥様の出身は片田舎と言っていい場所で、当然同年代の子供は皆お互い顔見知り…どころか、いじめが始まる前は、いじめっ子グループの生徒と小鳥様は教師から普通に仲良しグループとして認識されていたそうですからね」

「・・・」

「友と思っていた相手に否定されるというのは、幼心を傷つけるには十分すぎる出来事でしょう」

「…ちなみに、性格がガラッと変わった、というのは?」

「ざっくり言いますと、小鳥様は幼少期、外交的で感情豊かな方だったようなのです」

「人懐こく活発で、直情型。思ったことを口に出す前に一度考えてみましょう、と言われる子供、だったようですね」

「誰だそれは」

「幼少期の小鳥様です」

鶴丸から見ても、大倶利伽羅から見ても、現在の小鳥からそんな子供は想像できない。

「総合的ないえば、優秀な問題児だったようです。グループやクラスの中心になるタイプではなく、かと言って大人しく目立たないということもなく、勉学においては優秀。まあ、教師の印象に残るし手もかかるタイプですね」

「…頭が回るのは知ってるが」

「ちなみに高等学校では完全に存在をステルスしていたらしく、大した情報は出てきませんでした。勉学は変わらず優秀な成績を残していましたが、目立たない生徒だったようですね」

「…そっちはまだ、想像がつくが…」

「ただ、小鳥様の個人用端末、アドレス帳には家族のアドレスしか入っていないんですよね」

「待て、お前何故そんな事を知ってるんだ」

「機密の問題がございますので、現世とやり取りするためのアドレスは申請が必要となります。そちらは登録したアドレス以外とのやり取りができません」

こんのすけは平然と続ける。

「少なくとも、小鳥様は現世に頻繁にやり取りをする"友人"はいません」

「…だが、幼少期は人懐こい子だったと」

「そのようですね」

「…何があったか、あまり考えたくないな」

鶴丸はちらりと大倶利伽羅を見る。

「…いや、まあ、こんのすけの言った通りなんだろうが」

「…あいつが恐れているのは、俺たちが裏切る(・・・)こと…見習いがこの本丸の主になること、か」

「え」

「おそらくその辺りかと思われます。小鳥様にとっては、信頼していた相手がある日手の平を返して()に回るというのは現実にありうることであるようですので」

「……そういえば、"本当は恐れるのはおかしいことだ"と言っていたな。…一応、俺たちがそれを選ばないと理性ではわかっているということか」

「…見習いはあいつに何を言ったんだ」

「そこまでは私にはわかりませんが…正直、見習い様の研修先としてこの本丸が選ばれたことは不自然なことではあります。小鳥様は引っ込み思案ですし、実際このようなことになっていますし」

「あいつはどう考えても指導者向きじゃないからな」

「海軍からのスカウトも女の子は苦手だからと断られたそうですしね」

「そいつは初耳だな」

「配属先が決まるより前の話ですからね。…正直なところ、見習い様はこの本丸の乗っ取りを考えていると見ても間違いないかと。あの方はさる(中途半端に)有力な家の子女ですし」

「…俺はあの見習いを主にするのは嫌だぞ」

「まあ下手をすると前任のようなブラックに戻りかねませんからね」

その時、軽い足音が複数、執務室へ近づいてくる。

「大将、調子はどうだ?ちゃんと元気にしてるか?」

「あの、今は見習いさんはいないので、少しでもお話しませんか?」

「あるじさまのすがたがずっとみられないのは、さびしいです」

「兄様たちも心配してるから、出てきてほしい…」

鶴丸と大倶利伽羅は顔を見合わせる。こんのすけがふるりと尾を振った。

「…間が悪かったな。あいつは今眠っている」

「ねむっている?あるじさまはおひるねをしているんですか?」

「…昼寝というか」

「大将に何かあったのか?」

「・・・」

その時、小鳥の私室に繋がる戸が開いて、小鳥がよろよろと入ってくる。

「…大事無い。このところ夜あまり眠れなくて居眠りしてしまっただけだ」

「主」

「まだ寝ていた方がいいんじゃないのか」

「あまり長く昼寝をすると夜余計に眠れなくなるからな。…心配をかけてすまない」

小鳥は文机の上に置かれていた眼鏡を手に取り、かけるとゆっくりと外戸に歩み寄る。そして、一拍置いて戸を開けた。

「厚、五虎退、今剣、小夜、他の子たちにも伝えておいてくれ。私のことは心配するな、と」

小鳥はそう言って五虎退の頭を撫でた。

「いや、明らかに調子悪そうに見えるぜ、大将。体調の悪い時はちゃんと休まなきゃ駄目なんだろ。大将が倒れたら駄目だし」

「主様、ご無理はなさらないでください」

「小鳥さん、顔色悪いよ」

「あれ、つるまるはこんなところにいたんですか」

「・・・」

小鳥は少し困ったような顔をする。

「とりあえずそこの四人は室に入ったらいいんじゃないか。立ち話ってのもなんだしな」

いつの間にか、こんのすけの姿はなく、内戸もきちんと閉められている。

「はーい。あるじさま、そこにすわってくださいねー」

「大将はもっと俺たちのことを頼ってくれていいんだからな」

「僕たちが頼りにならないと思うなら兄様たちでもいいから、頼って」

「僕たちも主様の刀ですから、主様のためなら、頑張りたい、です」

小鳥は文机の前に座る。最後に入った小夜が外戸を閉める。

「それで、僕は誰に復讐すればいいの?」

「…小夜、やるのなら血腥くないもので頼む」

「…わかった」

「待て、そこは止めるところだろう主!」

「なんか、一周回って腹立ってきた。発作起こしたのは私の自家中毒みたいなものだけど、そもそももう10年以上も前に終わったことをわざわざ思い出させてくれたのも、僕に余計なこと考えさせてくれたのもあの子だし、なにより俺あの子嫌い。俺のもんにちょっかいかけて盗ろうとするやつは嫌い。…こんな体たらくじゃお前たちに見放されても仕方ないけど」

「…ほっさとはなんのことですか、あるじさま」

「ああ、ちょっとさっき見習いの霊力でアレルギー起こして喘息の発作が出てしまってな。倶利伽羅たちが適切な処置をしてくれたから今は治まってるが」

「わかりました。ちょっとみならいを6-1につれていってころしてきますね」

「いや、研修中にあの子に何かあったら僕の監督責任になるから怪我はできる限りさせない方向で頼む」

「おいおい主…」

若干焦ったような顔をした鶴丸に、小鳥は目が笑っていない笑顔を返した。その視線が詳しい事実を話したらどうなるかわかっているな?と言っている。鶴丸はそっと目をそらした。

「主様、ご病気だったんですか?」

「アレルギーと季節の変わり目だけ気をつければ後は大体普通の人と変わらん。気にするな。そもそも、ここ数年は季節の変わり目に体調を崩すと呼吸が苦しくなる程度だったからな。最後に酷い発作で病院に担ぎ込まれたのは…8年ぐらい前だったかな。その時も二時間ぐらい点滴打たれて治まったし、大体根治はしないとはいえ治ってるから大丈夫だ」

ははは、と小鳥は笑う。

「適切な処置さえできてれば死ぬもんじゃないからな」

決意した目で短刀たちが立ち上がる。

「大将は、体を大事にして大人しくしててくれよな」

「ほかのこたちとそうだんして、さくをねってきますね」

「主様のご病気のこと、他の方たちにも伝えてきます」

「あまり大げさなことにしないでくれ、五虎退。体調を崩さない内は普通のやつと変わらないんだ。あまり病人扱いされたくない」

「発作の原因になるものを近づけなければ、主は大丈夫ってことだよね」

「まあ、そうなるな」

小鳥は少し困ったような、申し訳なさそうな微笑を浮かべた。

 

 

 

「…主」

「僕は嘘は言っていない」

「こんのすけは心因性の過呼吸がどうとか言ってたんだが」

「その過呼吸の原因は寝てるところに見習いの霊力を感じ取った上に唐突な恐怖心で頭が混乱してるところに色々フラッシュバックしたことだから、根本的にはあの子の霊力がきっかけだから間違ってない。それに…」

小鳥は目を伏せ、いや、と首を振った。

「ところで、こんのすけと一緒になって何やら人のこと好き勝手言ってたようだけど」

「…ははは」

「・・・」

「…あんたのとらうま、は本当にいじめとやらでいいのか?」

「…あれが、僕の人格思想に影響を及ぼしたことは否定しない。だがお前たちも僕のスタンスは知ってるだろう」

「…やられたらやり返す、だったか」

「暴力は暴力で返せるからいい。だが、陰口とかはやり返す方法がないだろう。だから女子は苦手なんだ」

「…君は意外と好戦的だよな」

「子供というのは飽きっぽいものだ。ただ怯えて縮こまるだけのものに五年も悪意を持続できるわけがないだろう。私が大人しくやられているだけの子供じゃなかったからそんな長丁場になったんだ。まあ、当時の私はそんなこと知ったこっちゃなかったが」

「・・・」

鶴丸が複雑そうな顔をする。

「憐れむな」

小鳥は鶴丸にデコピンする。

「自分が正しかったと言い切れないにしても、僕は間違ったことをしていたつもりはない。いじめはやるやつが全面的に悪いんだ。こっちにも原因となる問題行動があったのかもしれないが、それと実行するかはまた別の話だ。正当性の主張できないことを自分から始めた時点でギルティだ」

 

 

 

鶴丸が部屋を出て、小鳥と大倶利伽羅の二人になる。

「…あんた、わざとあんな言い方しただろう」

「どれのことだ?」

「短刀への説明と、国永に言った発作の原因だ」

「嘘は言ってないぞ」

「真実とも限らないということだろう」

小鳥はにぃ、と笑う。

「力押しでは駄目な相手には絡め手を使うもんだろう。君もまさか、俺が正々堂々の正攻法しか使わない人間だと思ってたわけじゃあるまい」

「…ここ数日、室に篭っていたのもそう(・・)なのか?」

「いや、それは普通に素だけど」

「・・・」

「あの子の霊力で色々思い出(フラッシュバック)して身が竦むのも事実だし…嘘は言ってない」

大倶利伽羅は溜息をつく。

「俺以外の刀を近侍にしていた方が良かったんじゃないか」

「俺が発作起こしてるの見たらテンパりそうなやつの方が多いだろう。苦しい時に騒がれるといっそ殺意が沸いてくる」

「……俺だって、あんたが苦しんでても平気なわけじゃないからな」

「別にお前がそんな冷血だと思ってるわけじゃない。…っていうか、正直、喘息は適切な処置なしで重篤な症状放置すると死ぬから」

「!」

「はいはいどうどう」

「馬扱いするな」

 

 

その時、すぱーん、と軽快な音を立てて廊下に面した障子戸が勢いよく開く。

「ぬしさまが倒れられたというのは誠ですか?!」

小鳥は一瞬、面倒な奴に見つかった、という顔をしたが、直ぐに困ったような微笑を浮かべる。

「小狐丸、そんな乱暴に戸を開けるものじゃないだろう。それに廊下は走るもんじゃない。自慢の毛並みも乱れてるぞ?」

「ぬしさまに大事があったと聞いて毛並みを気にしていられる程小狐めは薄情ではございません!ぬしさまに変事などあれば、私は…」

「はは、このところなんだか眠くて、居眠りしていたくらいだよ。倒れてはいない」

「…あまり顔色の宜しくないご様子ですが…食事はきちんと取っておられますか?室に篭もりきりではやはり体に悪うございますので、外に出て陽の光を浴びた方が良いのではないでしょうか」

「・・・」

小鳥は困ったような顔をした。

「――小鳥、我が主よ。見習いに何ぞされたと聞いたが、誠か?」

「…あの子は、私に直接何をしたわけでもないよ」

三日月はひょい、と小鳥を抱き上げる。

「三日月?」

「主、少しじじいの散歩に付き合ってくれ」

「…お前、拒否を受け付ける気ないだろう」

「ははは」

「三日月…」

小狐丸が少し剣呑な視線を三日月に向ける。

「兄上も共にどうだ?」

「ぬしさまが体調を崩されたらどうするのじゃ」

「本丸の外にまで出る気はない」

(つるぎ)兄様(あにさま)の言葉を忘れたのか。見習いと鉢合わせでもしたらどうなる」

「主に見習いの霊力が届かぬようにすれば良いのではないか?」

小鳥の顔に、正直外に出たくない、と書いてあるのを読み取り、大倶利伽羅は溜息をついた。

「…あんたたち、そいつが発作を起こしたと聞いて来たんだろう。…そいつの持病の発作は、重篤なものにきちんと対応できなければ死ぬそうだぞ」

「あ、くーてめぇ余計なことを」

「…ほう」

「ぬしさま、それは誠ですか」

「………重篤な発作ってのはそうそう起きるもんじゃない。僕だって発作で死ぬかも、と思ったのなんて…10年以上前に一回あったかな、程度だし、何度も発作を短い期間に頻発させたりしなきゃそこまでの事にはならない(多分)。さっきのだって気管支拡張剤吸入して暫く安静にしてれば治まる程度の軽い発作だったし」

「だが、三日前にも起こしたところだろう」

「そんな急激に悪化することなんて余程ないっての。大体そうなったら死ぬような酷い症状になる以前の段階で現世の病院に入院させられるわ」

「…主、その三日目以前に発作を起こしたのは何時だ?」

「ん?すぐ病院に行かなきゃならんようなのは何時か記憶にないが、最終的に病院に行くことになったのは去年に季節の変わり目に体調崩して喘鳴が出た時くらいかな。発作という程のものではないが」

にこり、と三日月は笑う。

「よし、発作の原因(みならい)を本丸から排除することとしよう」

「何する気だお前」

「私たちにお任せください、ぬしさま。必ず以前のような穏やかな日々を取り戻しますので」

「…危害を加えたらダメだぞ。"お貴族サマ"に平民が手を出したら経緯はどうあれ平民の落ち度にされるんだから」

「…本丸内のことであれば犯人は明白だしな」

 

 

三日月が小鳥を抱えて一歩廊下に出た途端、小鳥の顔色が蒼白になる。小鳥は防御姿勢を取るようにぎゅっと自分自身を抱きしめる。

「…主?」

その呼吸は極浅い。動揺を示すように、眼球が激しく動いている。

「どうされました、ぬしさま」

「っ…っ…」

小鳥の呼吸に異音が混じっていることに気付いた大倶利伽羅が三日月の腕から小鳥を奪って室に戻す。

「おい、落ち着け。落ち着いてゆっくり呼吸をしろ」

「また発作ですか、小鳥様!」

「…わらいごえが、する」

小鳥は耳を押さえる。

「わたしは、おかしなことはしてない。おかしくない、なにもおかしくない。なのになんで、なにが、なにがおかしい。わからない、わたしはおかしくない。なんで」

「誰も笑っていない。落ち着け」

大倶利伽羅は小鳥の背をさすりながら呼びかける。こんのすけは吸入器の用意をする。

「こんのすけ、ぬしさまのために何ぞできることはあるか」

「小鳥様が落ち着かれなければ吸入器が使えませんので小鳥様を落ち着かせてください。どうしても落ち着かれない場合は点滴注射を行うことになります」

「わかった」

小鳥はすっかり怯えたような様子になっている。

「ぬしさま、落ち着いてこちらを見てください。ぬしさまに仇なすものは全てこの小狐めが斬り捨ててやりますので心配はいりません。ご安心ください」

小鳥は小狐丸の呼びかけにも答えず一人でぶつぶつ呟き続けている。三日月がゆっくりと歩み寄る。

「のいてくれ、兄上」

「なんじゃ三日月」

「疾く退け」

三日月は小狐丸を退かして小鳥の前にしゃがみこみ、小鳥の目の前で大きく手を打った。

「、」

虚を突かれて頭が真っ白になったのか、小鳥がフリーズする。

「すまぬ、主。浅薄だったらしい」

 

 

 

 

 

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