「俺たちを裏切る気か、三日月」
「…裏切ろうというわけではない。ただ、俺は…もう骨喰の折れるところを見たくないし、この手で折りたくもない。険悪になりたくもない」
「…そうか」
青年は白髪に隠れていない方の赤い瞳を細める。
「では、この時から君は敵だ。何処へなりといって好きにすればいい」
「…鶯丸」
「誰かを選ぶというのは、そういうことだ。お前もそう思うだろう?大包平」
「・・・」
デイリー任務はとりあえず一月免除されている。その代わり、と言ってはなんだが、本丸の正常化がツグミに任務として突きつけられている。もっとも、どうすればそれがなせるかという具体的な方策はないのだが。
ここ数日、三日月以外のこの本丸に前からいる刀剣との接触はない。興味がないのか、様子を見ているのか。ツグミと骨喰は離れを拠点として、母屋の外側の探検と整備を行った。そのおかげか、庭の空気は清浄なものになっている。母屋は邪気の発生源となるものがあるのでダメだが。
離れの縁側で、骨喰に膝枕をしてツグミは日向ぼっこをしていた。離れには悪意を持つものは足を踏み入れることができないという結界が張られていることもあってか、骨喰はうとうとしている。
「♪~」
手持ち無沙汰なのか、ツグミは髪と同色の猫を思わせる長い尻尾でリズムを取るようにたしたしと床を叩きながら、一人、穏やかに歌っていた。その尾は呪術と気まぐれの産物であり、彼女は気に入っているが特に意味はない。
曲が一つ終わって振り返り、ツグミは目を丸くする。
「おや、一体何の用だ?此処にいるということは、ドンパチやりに来たわけではないんだろうが」
「…結界を張っているにしたって、警戒心がなさすぎるんじゃないか?どうにかして入ってきた奴が何かしないとも限らんだろう」
「気遣ってくれてありがとう、と言うべきかな?まあ、君たちから見れば僕はか弱く脆い存在かもしれないが、大人しくやられるだけの人間ではないものでね」
「…別に気遣ったわけじゃない」
鶴丸はそう言ってツグミを睥睨する。
「君はいつまで此処にいるつもりだ。三日月を連れてさっさと出ていけばいいだろう。それとも、他に目当ての刀剣があるのか」
「いつまでも何も、今のところ他所に移る予定はない。選ぶ権限もないしな。俺は命じられた仕事をするだけだ」
「・・・」
「大体、目当ての刀剣って何だ。俺はバミ以外の刀に思うところはない…いや、三日月も一応思うところがあったとは言えるのか。きっかけだし」
「きっかけ?」
「俺が審神者というものを知ったきっかけであり、なろうと思ったきっかけ。自分の世界の中に篭って、一人で完結していた僕がその外側に目を向けようと思ったきっかけ」
「…流石天下五剣サマ、ってやつか」
「天下五剣?」
なにそれ、とツグミは首を傾げる。
「・・・」
その青年は真っ白の衣装に真っ白の髪、そして真っ赤な瞳をしていた。
「…一期一振、で合っているか?」
「ええ。吉光の作り出した唯一の太刀、一期一振です。あなたと違って最初から太刀として作られた刀ですよ、骨喰」
「俺に何か用か」
「用という程のものでもありませんよ」
一期は太刀を抜く。骨喰も反射的に己の太刀を抜く。
「戦いましょう」
にこりと、一期が笑う。骨喰は眉根を寄せる。骨喰の後ろにはツグミがいる。立ち回りによっては巻き込まれてしまうかもしれない。
「僕は手を出さない方がいいのかな。それとも、巻き込む前提?」
「どちらでもお好きなようにどうぞ。いずれにせよ私
「…こちらも積極的に命を取ろうというつもりはないがな」
障壁によって太刀が弾かれる。その金属質の音に骨喰は思わず振り返る。
「主?!」
「…おや、防がれてしまいましたか…」
そこにいたのは闇で染めたような漆黒の長い髪と赤い瞳をした青年だった。その衣装は手入れがされていないことを示すようにボロボロで返り血に染まっている。
「骨喰、余所見をしていると殺してしまうかもしれないよ」
「くっ…」
ツグミは青年を見上げて首を傾げる。
「僕に対して特に思うところはなさそうだけど、何故殺そうとするの?」
「争うものそれ自体が居なくなれば、この世から争いがなくなるでしょう…?」
「成程」
ツグミが納得したという顔をしたことに、青年は目を細める。
「反駁を…しないのですか…?」
「それを心情的に、個人的に受け入れられるかはともかく、"争いをなくす"という命題に対する答えの形としてはありだろう。その是非については俺には何とも言えないが」
「・・・」
「まあ、俺は死にたくはないから、その結論を受け入れることはできないけど」
ツグミが一歩足を引いて構えを取ったことで、その足首に付けられた飾りがしゃらりと音を立てた。
はっきり言って、ツグミに近接戦闘スキルはない。呪術によるサポートでバフやデバフ、ジャミングなど可能だが、まず圧倒的に戦闘経験がないのだ。まあ、経歴的にある方が不思議なのだが。故に、ツグミは近接戦闘を挑んだ時点で積むと言っていい。また、現在相対している二口の刀剣は明らかに祟り化しているため、浄化の必要がある。故に、ツグミの取る行動は、
「…逃げないのですね」
「残念ながら、腕っ節も逃げ足もてんでさっぱりなんだ、僕は。それに、バミを置いていけない」
ツグミは情報構造体で出来た棒を構える。彼女の身長より長いが、長物の柄という風でもない。
当然、彼女には棒術の心得もない。それでなくともまともに戦えば勝ち目はないのに、相手の練度は極めて高いときている。情報構造体は概念に実体を持たせたに等しいものであるため、普通の物質よりは強度もあるが、刀剣男士の斬撃にそう何度も耐えられるかはわからない。
だが、その場から逃げるという選択をツグミは選ばなかった。
「バミの傍が一番安全だと、バミが言っていたしな」
戦略的に、分断が拙いというのも、ある。
「…信頼を、しているのですね」
「自分の刀を信じないで、他に何信じるんだよ」
「・・・」
当然のことだというようにそう言ったツグミを見下ろし、青年は目を細める。
「(…こういうのは苦手なんだけどな)」
審神者が言葉に霊力を込めれば、それは言祝ぎにも呪いにもなる。そしてそれは、言霊と呼ばれる。
ツグミは青年をまっすぐに見上げる。
「あんたはこの世から争いがなくなって欲しいんだよな。それは"何で"だ?」
「…争いのなくなることを望むのは、おかしなことですか?」
「おかしいとは思わない。多分、いいことだと思う。でも、刀は武器だから、戦うためのものだろう?戦うことは本分の内なんじゃないのか?」
「…そう、ですね。刀を抜かず、争わずに和睦できればよいと、そう願っても、私は戦わねばならない。…この世は地獄、修羅の世界です…」
「んー…よくわからない。あんたは"何で"争いたくなかったの?」
「…何故?」
「生き物は戦うものだよ。それに、刀は戦うためのものだ。でも、刀を抜くべきではない、ということは、刀は抑止力として在っても振るわれるべきではない、ってことだよね。…でも、戦わなきゃならないと思ってるし、争いをなくすために争うものそれ自体をなくしてしまえばいいと思った、んだよね」
ツグミは首を傾げる。
「何のために、争いがなくなって欲しいの?誰に争いのない世界に生きて欲しいの?それとも、だぁれもいない世界に自分だけ残っていればいいの?」
「・・・」
青年の雰囲気が凍る。ツグミは目を逸らさない。
「"あんたは何で争いがなくなることを望んだんだ?"」
「…私、は」
青年は目を閉じる。考えるような間の後、伏し目がちに視線を逸らし、青年は呟いた。
「…私は、私の名の元になった前の主のように、なりたかったのです…。周りの者たちに、平穏に過ごしていただきたかったし…私も、生きとし生けるものと共に、平穏に過ごして、みたかった」
その瞳の片方が、青緑色に変化している。
「過去形って、今は違うの?諦めちゃった?」
「・・・」
青年は目を伏せる。
「あのね、ヒトは強く変わろうと思えばいつからでも変われるんだ。変わる気のある人はいくらでも変われるし、変わる気のない人はいつまでも変わらない。刀剣は違うの?」
「…あなたは、眩しいですね」
「ふぇ」
「…今の私たちには、あなたは。少し眩しすぎる」
青年は、困っているような、ほっとしているような表情を薄く浮かべる。
「…私は、きっと、もっと早く折れているべきだったのです」
ツグミが何か言おうとしたその時、一帯にまるで嵐のような斬撃が襲いかかる。咄嗟の防御が間に合わず、ツグミと骨喰はそろって壁に叩きつけられた。
「っ」
「くそっ…」
骨喰は戦線崩壊レベルの重傷、ツグミもぐったり気味だ。一期と青年も少なからずダメージを負っている。
「――流石に、まとめて壊れはせなんだか」
薙刀を手にした何かがそう言って哂う。
「岩融、殿…」
「死に損なったというなら、俺がきっちり狩ってやろうか、江雪左文字」
「とばっちりは勘弁してもらいたいものですな」
一期が苛立った様子で岩融を睨みつける。江雪はオッドアイになった瞳で岩融を見る。骨喰も岩融を睨みつけたが、傍らの主の様子に気付いて慌てる。
「主、主、大丈夫か?すぐ手入れ…いや、人間は手入れで怪我を治すことはできないんだったな。くっ、一体どうしたら…」
「…おち、つけ。俺は…まだ、いける」
ツグミの視界は明滅をしている。障壁によって斬撃そのもののダメージは防げたが、生じた衝撃は減退させることもできなかった。故に、ツグミの受けたダメージは壁に叩きつけられた衝撃だけになる。
ツグミは骨喰に触れて治癒霊力を流し込む。
「主、俺のことより自分のことを」
「黙ってろ」
痛みで集中を欠いているからか、霊力の統制が取れておらず、周囲にいくらか散ってしまっている。
「俺は、痛みはあるが死ぬほどじゃない」
「・・・」
ツグミは骨喰への応急手当を終えたところで意識を失った。
「主!」
「人の子とは脆いものだな、骨喰藤四郎」
「…殺す」
「大言壮語も甚だしいな。この練度差、覆せるだけのものはお前にあるまい。地力の差というやつだな」
黒い靄の中で金色が笑っている。骨喰はそれをきっと睨みつける。
「俺
骨喰は太刀を構え直す。周囲に散っていたツグミの霊力が骨喰に集まっていく。それは、いがぐりのような形をとって骨喰の周囲に浮き上がる。
「とっておきを見せてやる」
骨喰は岩融に向かって駆け出す。いがぐりも回転しながらそれに追従する。岩融は哂い、それを受け止める姿勢を見せた。骨喰は地を蹴って飛び上がる。岩融の視線がそれを追う。その時、いがぐりは骨喰を追って飛び上がらず、停止してビームを発射した。
「!」
「そしてこれがっ、必殺の剣!」
骨喰は砲撃で僅かに姿勢の崩れた岩融に斬りかかった。鮮血が散る。
「あぁん?何か刺さったか?」
「まだまだっ」
返す刀で薙刀の動きを止める。いがぐりが回転しながら突っ込んでくる。
「忘れられるというのは、寂しいものだな」
「っ」
「…おやめなさい」
骨喰に切りかかろうとした一期の刀を江雪が止める。
「邪魔をするおつもりですか、江雪殿」
「それ以上は、弱いものいじめのようなものでしょう…」
「・・・」
「…はは。天晴れだ、骨喰藤四郎。その意気や良し、久しぶりに楽しませてもらったぞ」
「・・・」
岩融は薙刀の構えを解いて笑う。骨喰は油断なく太刀を構えている。双方共にボロボロである。岩融のまとっていた邪気は七割程散っている。
「いやはや、特もついていないひよっこの身でこれまでとは、驚いたぞ」
「…錆の湧きかけた身で、よく言う」
岩融の露出した肌の一部を錆が侵食している。
「主を持たぬ刀剣がいずれ朽ちるは必定。何の不思議もあるまい」
「お前たちは、それでいいのか」
「江雪左文字ではないが、現世は地獄だ。鬼と化したこの身が消えれども条理に悖ることはすまい。…思うことは数多あれど、俺も全ての人間を憎んでおるわけではないしな」
岩融はツグミに目をやる。
「あの童子は、お前を大切に思っているのだな、骨喰藤四郎」
「…。だからどうした?」
「いや、主に愛されるのは刀剣として至上だと思ってな。深い意味はない」
「…主は、俺を慕ってはいても愛してはいない。幼いからな。良くも悪くも単純なんだ」
「重用されていることに、変わりはあるまい」
「主には俺しかいないからな」
沈黙。
「初日のあれは虚勢か?」
「主は引いたら引くんだから、押して押して、押しまくるしかないだろう」
そして押しに弱い。
「…何だかお前たちがどうなるのか気になってきたなぁ」
目を覚ましたツグミはそこにいたものを見回して首を傾げる。
「え、何、僕が気絶してる間に和解したの?」
「和解はしていない。だが、皆手入れが必要な状態になっているからな」
「手入れすればいいの?…バミを優先していい?練度が低い分時間もかからないだろうし」
「まあ、それも当然だろうな」
岩融は朱と金のオッドアイになった瞳を細める。
「だが、俺たちを手入れしても良いのか?」
「俺加虐趣味ないし、傷ついてるやつ見て喜ぶ性癖はないからな。傷治したら直ちに襲いかかってくる、とかだと困るけど、痛かったり苦しかったり辛かったりすると冷静に考えられなくなるだろ。そういうの良くないと思う」
「よくない、か。ガハハハハ。童子は素直だな」
「童子、って、そりゃあんたたちから見れば赤ん坊程度の年かもしれないが、俺一応現代基準で成人してるんだからな。十二支2周り分は生きてるんだからな」
「(…主より、年上?…見えない)」
「…とりあえず、手入れ部屋に移動してはどうでしょうか」
まあ予想はついていたが、手入れ部屋は暫く使われた様子がなく、汚かった。
「…軽く掃除してからの方がいいかな?ちょっと水汲んでくる」
「…私も、同行します」
「主、単独行動は」
「今のあなたが行っても役に立ちませんよ。江雪殿に任せておきなさい」
「暫く入っていないとは思っていたが、此処まで荒れておったか。式神どもは無事かな?」
「どうでしょうなぁ。審神者殿次第なのではありませんか?」
骨喰はじろりと一期を睨む。一期は薄く笑みのような表情を浮かべている。今日相対した三人の内、彼だけは内心が全く伺えない。骨喰に刃を向けた動機が不鮮明なのだ。
「心配せずとも、積極的に人を害そうとするのは私たちくらいのものですよ」
「・・・」
「んぁ?…おー、何だっけ、確かトリだっけ?新しい審神者の」
「虎鶫或いは鵺鳥だ。そういうあんたは…えーと、でかいな」
「はは。俺は三名槍の一本、御手杵だ。あんたは俺をちゃんと活用してくれるのか?」
「善処する。…さんめーそー、って何だ?」
「…それ、聞くか?」
「知っておかなければ拙いことなら次に会う時までに調べておく」
「うーん、一応知ってて欲しいけど、知らなきゃ拙いってほどでもないかな。とりあえず、俺がそれなりに名の知れた槍だってわかっててくれればいいや」
「わかった」
「ところであんた、初期刀と一緒じゃないんだな。何かあったのか?」
「手入れするのに部屋が汚かったから、軽く掃除してからの方がいいかと思って。衛生的にもどうかと思うし」
「…んー、俺も手伝おうか?一応手は空いてるし」
「それは助かるけど…何で?」
「後で俺も軽く手入れしてくれないか?錆び付いちまったら困るからさ」
「手入れ待ちが既に四人いるからその後になるかもしれないけどいい?」
「ああ。俺は今すぐじゃなきゃやばいってほどじゃないしな」
「…御手杵殿」
「ん?どうした、江雪」
「…あなたは、審神者殿について、どう考えているのですか?」
「どう、って、審神者は審神者だろ?俺は、ちゃんと使ってくれるやつなら別に文句はないかな」
「・・・」
「そもそも俺たちは武器なんだ、使われなきゃ意味がないし、担い手を選べないのだって今更の話だろう?」
「…そう、かもしれませんね」
「それより、トラが言ってた手入れ待ちって江雪たちのことか?」
「…ええ、そうです」
「そうか。お互い錆びつかないよう気を付けなきゃな」
「・・・」
「うわあ、随分派手にやったんだな、お前ら」
「・・・」
うわあ、という顔をした骨喰を見て、岩融は苦笑する。
「ははは。そういうお前はどうしたのだ、御手杵。お前は確か、そう大した負傷はしていなかったと記憶しているが」
「自分で手入れするのと審神者にやってもらうのとじゃまた違うだろ?錆が沸くのは嫌だしさ」
「ぴ」
「どうした主?!」
「ば、ばみ、でっかいくもがいるぅ…」
「…蜘蛛ぐらい俺が追い払ってやるから大丈夫だ」
「おや、でかいという程でかくないではありませんか。一寸もありませんよ」
「蜘蛛、嫌いだし、十分でかいぃ」
涙目になったツグミから漏れ出た霊力が何か、獣のような鳥のような異形を形作る。それは蜘蛛に威嚇するような仕草を見せている。
「…"鵺鳥"か」
「…虎鶫の異称、でしたね」
ツグミが蜘蛛はどんなに小さくても駄目だがゴキブリは平気だということが判明しつつ手入れ部屋の簡単な掃除が完了した。四人まで同時に手入れできる。
「よし、それじゃあ手入れを」
「虎鶫様、手入れをなさるのですか?でしたらこの手伝い札を!」
「わぁ」
空間跳躍してきたこんのすけを見てツグミは驚いた。バラバラと十枚ほどの札が落ちる。
「えっと、確かこれ使うと時間が短縮できるんだっけ」
「その通りでございます。…もっとも、使わない方がいいものもいるかもしれませんが」
「ガハハハハ。俺は練度が高いから一日かかってしまうからな」
「とりあえず手入れするよー」
式神さーん、とツグミが呼びかけると、式神たちがわらわらと湧いて出てきた。ツグミが触れて霊力を補給してやると、すぐ浄化され元気になる。
「お願いします」
式神たちは任せろ、と身振り手振りで示して、刀剣たちに近づいていく。
「バミ、刀」
「わかった」
ツグミは骨喰の太刀を受け取って自ら手入れを始める。他の刀剣たちは式神たちの手入れを受けている。ツグミの霊力制御がかなり甘いのか、溢れた霊力が浄化を伴って手入れ部屋の中に満ちていく。
「おー」
三十分程で骨喰の手入れが終わる。
「御手杵、手入れするんだよな?」
「おう。頼むぜ」
御手杵から槍を受け取り、ツグミは僅かによろける。
「と、コトラにはでかかったか」
「僕の小ささを強調するな」
骨喰がツグミを支えて御手杵を睨みつける。
「そんなことは見ればわかるだろう」
「いや、他のやつに本体渡すのも久しぶりだったからさ」
ははは、と御手杵は笑う。
「コトラはそういえば短刀とそう変わらないくらいの体格だよなぁ」
「…短刀男士に会ったことないから何とも言えないな」
「んー…蛍丸も同じくらいだぞ」
「いや、面識のないやつの名前を出されても困る」
などとやり取りしつつ、ツグミは御手杵の手入れを始める。軽傷とも言えない程度のダメージで、本人もさして気にしていないようだったが、かなり練度が高いからか、二三時間はかかるだろう。
「…やっぱり、俺たちは人の手を借りなきゃ駄目なんだなぁ」
御手杵は金色の瞳を細める。
「手伝い札使うな」
一回通り綺麗にした後、手伝い札に霊力を込める。それで瞬く間に傷が修復された。式神の手を借りて仕上げをして本体を御手杵に返す。
「これでどうだ」
「ばっちりだ。ありがとな」
「どういたしまして」
ツグミは御手杵を改めて見て、首を傾げる。
「あれ、何か色変わった?」
「んぁ?…あー、そういえば、俺も一応祟り化してたもんなぁ」
御手杵は鳶色の目を細め、先ほどまでより随分明るい茶色になった髪をかきあげる。
「へー、そうなんだー」
「主、そこはさらっと流しちゃいけない」
「別に敵意は向けられなかったからいいかなー、って」
「虎鶫様、油断は禁物でございます。何を隠そう、この御手杵が前任の審神者を直に殺せしめた刀剣なのですから」
「…へー」
「しょうがないだろ、あの主は俺たちをちゃんと使ってくれなかったんだから。鈍らの槍なんていよいよ存在意義がないだろ?」
「確かに、刃物は切れ味が大事だな」
「虎鶫様、同調してどうするのですか…」
「だって、間違ったこと言ってるのか?」
「どのような理由であろうと、殺すのはやりすぎでしょう」
「うん、殺すのはよくない」
「なら、どうすればよかったんだ?」
「それは…」
「うーん…殺さない程度に再起不能にして病院送りにするとか?」
「主」
「うーん、なかなか難しいこと言うな」
「俺は痛めつけられて命だけ助けられるぐらいならいっそひと思いに殺される方がいいけどなー。痛いのも苦しいのもやだし」
「ああ、躯が痛んでると上手く動けなくなるんだよなぁ。怪我してなくても、疲れると上手く動けなくなるし。人の躯って面倒だよな」
「うん、俺もそれはそう思う」
「何故意気投合しているんだ」
「虎鶫様…」
「コトラは変わってるなぁ」
あはは、と御手杵は笑う。ツグミはそうか?と首を傾げた。
「霊力の清浄さと良き主であるか、心根がどうであるかは必ずしも相関するものではないが…少なくとも、あの童子は悪辣な人間ではないだろうなあ」
「主のような例もありますからな」
「…あの方は、また別でしょう。辛いことがあって人が変わったようになってしまうことは、ありえないことではないそうですし」
「…主は心を壊していたからな」
岩融は目を伏せる。
「しかし、鵺小鳥殿も、全く狂ったところのない人間というわけではなさそうですな。御手杵殿と話が合うようですし」
「厄介なことにな。骨喰藤四郎は童子が幼いと言っていたが、それで済ませてよいものかな」
「無邪気と行って差し支えない部分はあると思いますが」
「あの童子は愚かではない。だが、人として狂ってはおるのかもしれん」
「そういえば、名乗っていなかったな。俺は岩融。武蔵坊弁慶の薙刀よ」
「…江雪左文字と、申します」
「私は一期一振、藤四郎兄弟の長兄ですな」
岩融はわしわしとツグミの頭を撫でた。江雪はツグミの手を取る。一期はよしよしとツグミの頭を撫でた。ツグミが目を白黒させている間にパスが繋がれ、三人の姿が変化する。
「え、あ、はい」
「…お前たち、何のつもりだ」
「何か不都合でもあったか?」
「・・・」
骨喰はとても嫌そうな顔をしてツグミを抱き寄せた。
「バミ?」
「童子の初期刀は心が狭いなぁ」
「そんなの今更の話だと思うけど」
「主に何をするかわからん奴が主に近づくのを警戒して何が悪い」
「ははは。私は鵺小鳥殿にはそこまで興味はありませんよ」
「…(溜息)」
「がはははは。俺に童子を害す気持ちがあれば、童子はとうに死んでおろうな」
「…苦しい死に方はしたくないなあ」
「俺が主を死なせない」
「骨喰、鶫殿はどうしたのだ?」
三日月はツグミを膝枕している骨喰を見て目を丸くする。骨喰はそっとその手でツグミの半面を外した顔を隠した。
「随分消耗させてしまったらしいからな。休ませている」
「…何かあったのか」
「一期一振、江雪左文字、岩融の三刃と戦った」
「…よりによってその三人か。…いや、他のものは積極的に刃を合わせようというものはいないかもしれんが」
「…その後、御手杵を含めて手入れをしてツグミと契約を更新したがな」
「…よう折れなんだ」
「それは俺もそう思う」
骨喰は目を伏せる。
「…俺は弱い。もっと練度を上げなければ、守れない」
「…まあ、俺たちとお前では圧倒的に経験に差があるからな」
「…俺は顕現して一ヶ月経ってないからな」
「岩融は特に出陣した数も多く、練度が高い。生き残れたなら上々だ」
「…そういえば、あいつは錆が湧きかけていたが、宗近は大丈夫なのか?」
「ん?ああ…なに、俺もよく戦場には出たが、あいつ程には血を浴びてはおらんからな。…その内、手入れを受けた方がよくはあるのだろうが」
「だったら、後でちゃんと主の手入れを受けておけよ。よくわからない遠慮をしていないでな」
「俺を心配してくれるのか」
「あんたが俺たちの味方だって言うなら、万全でいてくれなきゃ困る。…俺たちはまだ弱いからな。あんたを頼りにしなきゃならなくなることもあると思う」
「…そうか」
三日月は微笑した。
ほん怖童話の青髭みたいな感じの三段階ブラック化した本丸 前前任も前任も死んでる 前任の初期刀は大倶利伽羅 前任は彼女にとって二口目である彼らを徹底的に否定した。初期刀を喪って耐えられなくなったのだろう。そして、初期刀と同じ刀でさえも受け入れられなかった
前任は引き継ぎした時点でJK(五年前)全部折ったのが三年前ぐらいで、死んだのは昨年ぐらい 大人になれなかった少女
錆は衝力以外のステを下げるバッドステータス
祟り化してるとは言っても人を憎んでるとも限らない 一部刀は僅かに一口目の所業を把握している
前任より寧ろ前任以降に来て引き継ぎ失敗した人たちの方が嫌われている 大体悪化させている
物としての意識の強い杵。己をちゃんと活用してくれないと判断して主を殺した。主殺しの堕ち分はあるけど邪気は薄め ある意味似てる