刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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VS鶴丸


闇を裂く白刃6

 

 

「…俺には、君の考えがさっぱりわからない」

「わかる程の議論が君と僕の間にあったか?」

鶴丸はツグミの返事に眉をしかめる。

「そういうところだよ。そういうところが…気に入らない」

「他者を理解することはできない、というのが僕の持論だ。相互理解なんてただの勘違いだ。でも、相手をわかろうとすることは、必要なことだ」

「わかることはないのに、わかろうとすることは必要だと?」

「円周率の近似値を求めるようなものだ。アレは割り切れる数じゃないから、何百桁、何千何万何億と続いていくが、より正確な計算をしたければ、3じゃなく3,14、あるいは3,141592、と近似値を使うべきだ。まあ、数学じゃ面倒だからπで済まされることも多いんだが」

正確さの問題もあるし。

「…円周率?」

「円の周の長さを直径で割った数で…数学では色んなところで出てくる。俺は文系で数学はあんまりやってないから和解できてないし存在意義もよくわかってないが」

「自分がわかっていないものを例えに使うなよ…」

「よくわかっていないから例えに使うんだよ」

「…?」

「俺だって人間というものが理解できていない」

「君も人間だろう」

「なら、君は刀剣男士だから他の刀剣男士が理解できるのか?」

「…無理だ」

「だろう」

鶴丸は頭をかく。

「俺は禅問答がしたいわけじゃないんだが」

「じゃあ何の問答がしたいんだ」

ツグミはまっすぐに鶴丸を見る。

「そういえば、このまま朽ち果てさせれば、とか何とか言ってたが、君が刀解を望むのであれば、別に刀解するんだが」

「・・・」

鶴丸はツグミを見返す。

沈黙。

暫くして、鶴丸が言う。

「刀解してしまって、いいのか」

「それが君の望みであれば。…俺としては、君ともう一人を祟りのまま放っておく方が都合が悪い。再契約をするのであれ、刀解をするのであれ…"今のまま"は駄目なんだ」

「今のままではダメなのか」

「駄目だ」

沈黙。

「…君の望みは?」

「別に嫌々従ってくれなくていい」

「・・・」

「嫌なことは嫌だと言えばいい。君たちは人に従うしかできない物ではないんだから」

「…望みなんて、ない」

鶴丸はぷい、とそっぽを向いた。

「変化なんてしなくていい。このままゆっくりと朽ち果ててしまえばいいんだ。俺なんて、死んでしまえばいい」

「死にたいのか?」

「・・・」

「…否、死にたいわけではないのか」

ツグミは鶴丸の袖を引いて座るように促した。

「よく頑張ったな。もう、無理はしなくていい。何も責めなくていいんだ」

言霊のこもった言葉と共に、ツグミは鶴丸の頭をよしよしと撫でた。

「、」

「何もかも忘れて眠ってもいい、過去は過去として未来を見てもいい。どちらを選んでも俺は君を責めたりはしない」

優しく頭を撫でながら、言い聞かせるようにツグミは続ける。

「此処に存ることが苦痛であるのなら、還っていい。けれど、苦しいだけじゃない、何か良い思い出を残したいのであれば、俺もそれに協力しよう」

「…俺は」

鶴丸の瞳から雫が零れる。

「…俺は、主に、笑ってほしかったんだ」

ぽたりぽたりと雫が落ちる。

「主は結局最後まで俺たちのことを見なかったけれど、それでも俺は」

ぼろぼろと涙をこぼし、鶴丸は言葉を紡ぐ。

「刷り込みでも、主のことが好きだったんだ」

「そうか」

ツグミはただ優しく頭を撫でる。鶴丸はしゃくり上げながら泣いていた。

 

 

 

暫く泣いてすっきりしたのか、泣き止んだ鶴丸の瞳は金と赤のオッドアイ状態になっていた。

「…情けないところを見せた」

「なに、俺がそう仕向けたようなものだ。気にするな」

「逆に気にせざるを得ねぇ」

鶴丸が表情を引きつらせると、ツグミはくすりと笑った。

「それで、どうする。君が主に殉じたいというなら、別にそれでも構わないが」

「…長谷部じゃあるまいし、それは俺の柄じゃない」

「別に柄じゃないことを望んだっていいんだぞ。理想と現実が異なるのはよくあることだ」

「…君は俺に刀解を選ばせたいのか」

「どちらでもいい。ただ、俺は前任がどんな人間か知らないし、代わりを求められても困る」

「・・・」

「俺は前任とは別の人間だからな」

鶴丸は目を細めた。

「それに、鶴は一途だと言うだろう。同じく鶴の名を冠す君もそうかもしれないな、と」

「確かに俺は鶴だが、これでも平安の世からこの世にある古刀だ。持ち主の間を渡り歩くのには慣れている」

「慣れていることとそれを良しとすること、不満を持たないことは別の話だぞ。…それに、正直、わんわん泣きながら主への愛を語ってくれた後に再契約と言われてもな」

「過去形だったろうが」

「それまで自覚しないようにしていたくせに」

鶴丸はジト目になる。

「…君は、俺とは再契約したくないということか」

「別にそんなことは言ってない。…大体君ら、俺がどう思ってようと再契約しようと思えばできるだろう」

「・・・」

鶴丸とツグミは無言で見つめ合う。お互いの真意を探るような沈黙が流れる。

 

 

鶴丸はツグミの顎に手をかけ、食むように口付ける。

「!」

舌は入れていないが、触れるだけとは言えないキスに、ツグミはフリーズした。

「…ご馳走さん」

パスが正常に繋がれる。鶴丸の姿が、正反対の真っ白なものへと変化する。一拍遅れてツグミがフリーズから復帰して鶴丸の胸元を掴む。

「…申し開きは?」

「…小狐丸たちにはそういう反応してなかったよな?」

「うわきはよくないとおもう」

鶴丸は僅かに目を泳がせる。

「浮気に、なるのか?」

「ついさっき以下略」

「お、おう」

「で、申し開きは?」

「申し開きって言われても…」

鶴丸は視線をそらす。ツグミはじっと鶴丸を見ている。

「(黒のやつ、言い逃げやがったからな…)」

「…?」

ツグミはすっと目を細める。

「…他のやつも再契約して祟りじゃなくなったら雰囲気が変わったが、鶴丸はなんというか…違う、な?」

「・・・」

「…やり逃げか」

「!」

鶴丸の反応を見てツグミは半目になる。

「図星か」

「…ははは」

ツグミは鶴丸の胸元を掴んでいた手を離し、小さく溜息をついた。

本人(・・)でない者に聞いても不毛だな。…で、黒鶴と白鶴はどの程度記憶と人格を共有しているんだ?」

「え、うーん…性格とか好みとかはほとんど反対に近い、かな。記憶に関しては、俺には何とも言えない、かなぁ。少なくとも、俺は"全部"は持ってない。が。多分黒は大体持ってるんじゃないか」

「ふぅん…」

「…興味なし、ってか」

「いや、二重人格に実際に会うのは初めてだからな。どうするのが良いのか、と思っただけだ。…白鶴は黒鶴に勝手に再契約をされたのはいいのか?」

「…別に、君を主とすることに特に不満はない。…だが、その面の下は見てみたいな」

「好奇心で人が隠しているものをみようとするんじゃない。泣くぞ」

「そうなったら俺が骨喰に殺される気がするんだが」

「骨は拾ってやる」

「容赦がない」

 

 

「…いっそ、君に恋をしてしまった方が楽な気がするんだがなあ」

「手近なところで済ませようとするんじゃない。そもそも、恋はしようと思ってするものじゃないだろう」

「君は恋をしたことがあるのか?」

「…ない」

ツグミは視線を彷徨わせる。

「世には恋の歌が溢れているが。共感できたことがない。人を好きになるというのがどういうことか、俺にはよくわからない」

「…おなごはよく恋をするものだと言うが」

「全てのおなごが恋に生きると思ったら間違いだからな」

 

 

「俺は君を(ささべ)と呼ぼうかな」

「…まあ、別に好きにすればいい」

肩をすくめたツグミを、鶴丸はひょいと抱え込む。ツグミは目を丸くしたがされるがままになっている。

「雀は小さいな」

「君ら僕のこと小さい小さい言うけど、僕そんな強調される程小さいわけじゃ……いや、小さいか」

6つ下の妹より背も胸も小さいからな…。

「雀には妹が居るのか」

「妹と弟がいる。これでも長姉だからな。…お姉ちゃんとか呼ばれた覚えはないが」

「長姉なんだろう?」

「兄弟が多いから、上の妹以外は単純にお姉ちゃんと呼ぶと誰のことかわからないんだ。となると、名前にちゃん付けになる。弟も双子だから意地でも兄呼びはしないし」

「ふぅん…ってことはやっぱり俺が三日月の兄上呼びに違和感を覚えてもなんらおかしくないのか」

「?ああ、そういえば三日月は小狐丸を兄上と呼んでいたな」

「他の三条はあまり互いを兄弟扱いしないんだ。まあ、今剣と岩融以外はそもそも刀としての縁が薄いんだが」

「今剣?」

「三条の短刀だ。源義経の守刀だった」

「へぇ。ってことは、兄弟刀であると同時に主従の刀でもあったのか」

 

 

 

「久しいな、白鶴」

「久しいと言われる程顔を合わせていなかったか?…まあ、久しぶりだな、三日月」

「元気そうで何よりだが、お前鶫殿に何をしておるのだ」

ツグミは鶴丸の腕の中でウトウトしている。

「いや、雀から共有した知識に子供の寝かしつけ方があってな。つい」

「実践したのか」

「見ての通りだ」

三日月は歩み寄ってツグミを覗き込む。ツグミはこくりこくりと船を漕いでおり、自分の躯を抱え込むようにしている。

「…鶫殿は素直だな」

「…どうだろうなぁ。一口に素直と言っていい相手じゃない気がするぜ」

ゆらゆらとゆっくり躯を揺らしてやっている内に、ツグミはすっと寝入ってしまった。

「契約を結び直したとはいえ、警戒心がなさすぎるんじゃないかとは思うが、実際俺に何をする気があるわけでもないのは確かだからな」

などと言いつつ、鶴丸はツグミの面を留めている紐を、するりと解く。カタリ、と音を立てて面が落ちた。

「鶴」

「俺の心情が少し変わるだけだ。好奇心で見ようとするなとは言われたが」

くぅくぅと寝こけているツグミをそっと上向かせる。

「…秘密にしてくれ、三日月。俺は何を変える気もないんだ」

鶴丸は目を細め、面を拾い上げた。

 

 

 

 

 

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