「問いに来た」
「…まあ、いずれ来るだろうと思っていた。俺は祟りだからな。審神者としても、いつまでも放置はできないだろう」
「まあ、俺としては祟りさえどうにかしてくれれば別に必ずしも再契約をしなくてもいいんだがな。…今のところ再契約せず祟りから復帰した例がないが」
互いに直接言葉を交わすのは初めてだが、誰何をしない。ツグミは思うところがあり、鶯丸は興味がない。そしてお互い相手が誰だかわかっている。
「選択肢には刀解も入っている。望むのであれば、だが」
「俺が刀解を望むと?」
「基本的には、再契約を望まない刀は刀解して本霊に還すこと、とされている。意思持つ相手である以上、それを無視して一方的に振り回すのはよろしくない」
「再契約せず現世に留まることは許されない、と」
「逆に聞くが、その場合何を望んで留まると言うんだ?未契約状態では本分が果たせまい。君は…否、君
「…ああ、確かに俺は人を憎んではいない。…だが、俺は人を信じることができない。
「(大包平って誰だ)…そんなこと言われてもな。俺は君たちがどんな経験をしてきたのかは知らないし、他人を信じる方法なんてものも知らん。共感できる気もしない」
ツグミはゆるりと小首を傾げる。
「同意や共感を求めるなら最低限情報を出してくれ。必ずできる保証などないが」
「・・・」
鶯丸の赤い瞳がツグミを捉える。
「…同意は求めていない」
「同意を求める言い方だったと思うが。それとも、否定を求めていたというのか?」
鶯丸は目を閉じる。
「…どうだろうな。確かに、否定されたかったのかもしれない。綺麗事の一つでも言って、俺の悩みが小さなことだとでも…」
「俺は綺麗事は言えても嘘はつけん。何があったかは知らんが、刀剣男士が人間不信になるというのは随分なことなんじゃないのか。…否、ある意味バミも人間不信みたいなもんか」
「・・・」
「他人から見てどうであれ、それが重大であるか否かは本人の主観にもよるだろう。君が重い悩みだと思うなら、それは重い悩みだ」
鶯丸はツグミを見る。ツグミは見返す。
「重い悩みか」
「他人から見てどうあれ、君の苦しみは君のもので、他のやつからは本当にはわからない。上がいようが下がいようが、君が苦しんでいることに変わりはない。君がそう思うのならそうなんだろう」
鶯丸はちらりと視線を横に動かす。
「…大包平もそう思うのか」
鶯丸は目を伏せる。
「…俺は、どうすればいい」
「好きにしろ。俺はできる限り希望を叶えるつもりではあるが…まあ、できることとできないことがあるからな」
「…お前は、俺に興味がないのだな」
「興味を持って欲しいのか?」
「・・・」
「"すぐに別れが来ると決まっているのなら、深く関わらない方がいい"」
ツグミは目を細める。鶯丸は立ち上がってゆっくりとツグミに歩み寄る。ツグミはそれをじっと見ている。鶯丸はすとん、とツグミの目の前に腰を下ろす。
「お前は、契約をすれば俺を見るのか?」
「…少なくとも、審神者として本丸を円滑に運営するために必要な分はそれぞれに気をかけるつもりはある」
ツグミは鶯丸をまっすぐに見る。
「
「…その面の下を見せてほしい」
「…何故だ?」
「見たいからだ」
「………わかった」
小さく溜息をついて、ツグミは面を外す。その視線は鶯丸の首のあたりを彷徨っている。
「…もういいか」
鶯丸はツグミの顔に手を触れ、己の方を向かせる。ツグミは僅かに動揺する。
「…あぁ、お前は主と同じようでいて全く違うのだな」
鶯丸は目を細め、鼻梁に口付けた。
「俺は古備前の鶯丸という」
「…虎鶫、あるいは鵺鳥だ。好きに呼べ」
パスがきちんと繋がり、鶯丸の色彩がその名に相応しいものへと変化した。
「では、俺は
鶯丸はそう言って微笑を浮かべる。ツグミは目を泳がせる。
「…面をつけていいか。落ち着かない」
「ああ、構わない」
そう答えながらも鶯丸はツグミの頬を撫でている。
「…鶯丸、俺は愛玩動物じゃないんだが」
「ささは小さくて柔らかいな」
話聞く気ねぇぞこいつ。
「…鶯丸」
ツグミは鶯丸の手を掴んで止める。鶯丸は少ししゅんとする。ツグミは目をそらした。
「…俺にも、羞恥心というものがある」
ツグミの頬はほんのり赤い。鶯丸は目を瞬かせた。
「…すまない」
「…いや」
ツグミは面をささっと付け直した。
「ささ」
鶯丸はツグミの手を取る。そして頬を摺り寄せた。
「俺たちを…この本丸の刀剣を可愛がってくれ」
「…善処する」
「別に小狐丸のように伽に誘いたいわけじゃない」