今回この本丸にやってくることになった六振りは全員が同一の本丸から来たわけではない。同一の本丸から来ているのは長谷部と大倶利伽羅、宗三と骨喰だけだ。つまり、四つの本丸から集められた刀ということになる。六振りを本丸の入り口で出迎えたのは鶴丸だった。
「早速だが主のところに案内しよう。…ちょっとばかり驚くかもしれないから、心しておいてくれ」
「おや、警告されるんですか。
「いや、多少なりとも心構えをしていないと、現実逃避でもされたら困るからな」
「…?」
「特に広光」
「・・・」
「♪~」
離れから聞こえてくる穏やかな歌声を辿って彼らはツグミのところに辿りついた。ツグミは歌い終わってから彼らに気付いてデバイスの音楽を止めて彼らを見た。
「あれ、まっすぐこっちに連れてきたの?てっきり、一通り回ってからにするかと思ったのに」
「君に会わせるのが一番だと思ってな。本丸を知るには主を見るのが一番だろう」
「いや、本丸を知ろうと思うなら刀剣を見るべきだろう。…まあ、いいか。僕はこの本丸の審神者の虎鶫あるいは鵺鳥だ。まあ、好きに呼んでくれ」
ツグミは穏やかに笑ってひらひらと手を振る。
「…ところで、
「本日の近侍は僕ですよ」
「骨喰と今剣とじゃんけんをして俺が勝っただけだ」
「バミとマノはお茶を入れに行ってるところだね」
ツグミの隣で義元が書類を整えており、反対隣には大倶利伽羅がツグミの膝枕で寝転がっている。
「…あなたは、刀を侍らせるのが好きなのですか」
「いや、別に」
「主は刀を侍らせているわけではありません。僕らが自主的に侍っているんです」
「刀が主の傍にいることを望む事の何がおかしい」
「敢えて言うなら、その台詞を君が言うのがおかしい」
「俺は主の傍が落ち着く」
「っ…」
「…あれは、大倶利伽羅でいいんだよな?兄弟刀というわけではなく」
「俺は大倶利伽羅広光、大太刀として顕現した」
「僕は義元左文字。今川義元の太刀です。磨り上げも、魔王の刻印も経ていない、ただの名刀ですよ」
「詳しい理屈は知らんが、現在ではなく過去の、磨り上げをされる前の彼らを顕現したことになっているらしい。バミたちも同じだな」
ツグミがそう言った丁度その時、入室の許可を求める声がかかる。ツグミが許可を出すと、四振りの刀が入ってきた。
「…おや、もう来ていたのですね。室の中が手狭ですね、これでは」
「縁側に出ればいいだけだろう。起きろ広光」
「…やはり俺は邪魔になりそうだから席を外した方が」
「一人でとんずらしようったって、そうはいかないからな」
戸惑っている様子の刀剣たちに今剣は微笑む。
「私は今剣。鞍馬寺に奉納された大太刀です。主様にはマノと呼ばれています」
「ぼくが、すごくおおきいです」
「義経公の守刀をしていた私ですね。後で義経公の話を聞かせてくれませんか?私には、短刀としての記憶はないので」
「…よしつねこうのこと、おぼえていないんですか」
「より正確には、義経公に出会うより前のあなたが、私なんですよ、今剣」
「そうですか…では、ぼくがよしつねこうのこと、たくさんはなしてあげますね」
短刀の今剣がえへんと胸を張った時、更に二振りの刀がやってきた。
「国重さん、僕はこれでも色々と忙しいんですが」
「なら尚更顔合わせはさっさと済ませておけ。お前はこじれそうだからな」
「こじれると思うなら後回しにしてもいいと思うんですけど」
「…小さい兄弟、問題の先送りは泥沼だ」
「あ、国広と長谷部」
堀川は和泉を見とめて僅かに表情を歪めた。
「脇差の僕が来たわけだし、和泉の相棒役はそっちにやってもらえばいいんじゃないかな。二刀開眼もできるわけだし」
「国広…」
「…ええと、打刀の僕、でいいのかな」
「ああ。堀川国広が堀川の地に住み着いてから打った打刀の内一振り、特に号のない堀川国広です。実戦刀として色んな人の手を渡ってきたけど、有名な人が主だったことはないかな。…といっても、江戸の初め頃で僕の記憶は途切れてるけどね」
「長谷部国重の太刀の一振りだ。特に号はない」
「号がない、だと?」
「信長公の手に渡った後、号を頂いたらしいが、俺にその記憶はないからな」
「・・・」
「ツグミの初期刀の骨喰藤四郎だ。薙刀から太刀に作り変えられた。火にまかれた記憶はない」
「…お前には過去の記憶があるのか」
「焼けた後の記憶はないがな。どちらがいいという事でもないだろう。結局俺には今にいたるまでの500年程の記憶はない」
「…だが、その前の兄弟や三日月と過ごした400年程の記憶があるんだろう」
「ああ。だが、500年ほどの間だって一振りで蔵にしまわれていたわけでもないだろう」
「・・・」
「芸術品扱いだったとはいえ、大切にされたことに変わりはないはずだ」