探索と掃除は続けているものの、相変わらずこんのすけは見つからないし、"誰か"と顔を合わせることもできていない。式神の顔見知りは増えたし、掃除の手伝いもしてくれる、良い子たちなのだが。
式神たちにとって食事は必ず要るものというわけではなく、嗜好品のようなものらしい。僕が作った料理をぺろりと平らげている誰か(三日前からは代わりに食糧庫に生鮮品を増やしてくれるようになった)はどうやら式神ではないらしい。
おそらく、何らかの刀剣男士なのではないかと思う。一応俺は引き継ぎという区分になるから、この本丸に一振りくらいは刀剣がいるはずなのだ。姿は見ていないが。
天守のある棟は一通り探索できたと思うし、もう片方の…恐らく居住用と思われる棟もざっと見て回った。居住棟はより酷いことになっている割合が大きかったように思う。しかし、誰にも会えていない。式神たちは人語を話せないものばかりなので、この本丸に来てから誰とも話していない事になる。式神たちに喋りかけたりはしたが。
刀剣はともかく、こんのすけの姿がないのは異常だし困るので、現世の方に連絡を取ろうとゲートまで来たわけだが。
「…ロックされてる?」
上位権限者からこのゲートは
つまり、俺はこの本丸に閉じ込められている、ということだ。
「…え、これどうすればいいんだ?こんのすけがいないと端末は現世に繋げられないってあったし…」
っていうか、上位権限者って誰だよ。この本丸の
「…もう一回統括システムをチェックしてみるか?それとも、いっそハッキングして…」
その時、背後から足音が聞こえた。俺は反射的に振り返る。
「…!」
「…まさか、これまで気付いておらなんだのか、童子」
蒼い、衣。短い黒髪。腰に佩いた太刀。
「お前は、この
刀剣男士だ。それも、俺が審神者になろうと思ったきっかけのあの
「…何故?」
ゆっくりと歩いてきたその人は、僕の目の前で立ち止まる。青い瞳、その中に浮かんだ弦月が俺を見おろす。
「俺が外に出ては困る、ということだろう。…前の審神者は気が狂ったので俺が
「ふ、ふぇえ」
「此処に送られてくる審神者の役割は、この
身が竦む。折角あの人に会えたのに。気圧されてるばかりじゃだめだ、俺は審神者になったんだから、毅然と立ち向かわないと。
「…俺は」
「ん?」
「俺は、童子じゃない。審神者としての号は小鳥。あんたは?」
「・・・」
その人は楽しそうにニィと笑う。
「俺は三日月宗近。三条宗近の太刀であり、天下五剣で最も美しいとも言うな」
「みかづきむねちか」
冷たい手が俺の頬に触れる。
「小鳥か。籠の鳥というわけだな、お前は」
「ならあんたは、水槽の月ってところか?」
三日月は目を丸くした後、口角を吊り上げてニィと笑った。
「俺はこの本丸の外に出ることもできる」
「!」
「…といっても、行ける場所は一つだけなのだがな」
「…ずるい」
「俺と同伴であればお前も行けんことはないぞ」
「何処?」
「妖横町…怪異の街だ。只人であるお前が一人で行けば拐されて戻ってこられなくなりかねんがな」
つまり、狭間の、人外の領域ということか。…さしあたって行きたいとは思わないな。
「…なら、必要がない内は行かなくていいか」
「…ほう。出掛けたいとは思わんと?」
「俺、元々出不精だから」
こうなると、こんのすけがいないのも意図されたものの可能性がある。…俺は騙されたのか。この状況が良いか悪いかで言えば勿論良くはないんだが、ちゃんと説明してほしかった。嘘で騙すんじゃなく、ちゃんと説明して辞令として言ってくれば良かったのだ。
「人恋しい、とは?」
「人の言葉を喋るのはあんたがいるじゃん」
「・・・」
三日月は目を瞬かせ、くすくすと笑う。
「ははは。俺がいれば十分と言うのか。まあ、そうだな。俺より美しい人も刀もそうそうおるまい」
いや、そういう意味じゃねぇんだけど。というか、別に俺は美醜の話はしてねぇぞ。自意識過剰だな、こいつ。