「…鶯丸だ」
「小狐丸と申します」
「平野藤四郎です」
「…鳴狐」
「俺は小鳥だよ」
送られてきた四振りの刀剣は小鳥と、その後ろで不機嫌そうにしている三日月を見る。
「おいおい、仲間に対して随分な態度じゃないか?三日月。刀が増えるのは歓迎すべき事だろう?」
「小鳥には俺一振りがいれば十分だ」
「単騎がけでどうにかなるのは最初の戦場くらいだろう、大太刀じゃないんだから」
「平野は一振りだけ小さいね」
「え、いえ…僕は短刀ですから、太刀の皆さまに比べれば小柄なのは仕方のない事だと思いますが」
「たんとう」
鸚鵡返しに繰り返した小鳥に何振りかが、ん?となる。
「…小鳥様は、短刀がわかりませんか?」
「んー…短い刀?」
間違いではないのだが。
「…叔父上…鳴狐は打刀、それ以外の皆さまは太刀です」
「んー…太刀は打刀より大きいの?」
「いえ、太刀と打刀の区別は長さではありません」
「…?」
小鳥はこてりと首を傾げる。
「…ちょっと待て、刀の区別なんてのは審神者の基礎知識だろう」
「って言われても、僕、刀の顕現させ方と手入れの仕方のざっくりくらいしか審神者になった時教わった覚えないよ。あと、呪術の基礎とか」
「・・・」
鶴丸は憐れむような視線を小鳥に向ける。本当に、小鳥は使い潰される予定だったのだろう。閉じた本丸に送り込まれ一年以上放置されていた時点で今更だが。
「…それでよく審神者としてやってこられましたね」
「だって、鶴丸とこんのすけが来るまで、俺の役目はこの本丸の維持だけだったもの」
小鳥がそう返して漸く、彼らはこの本丸の異質さに気付いたようだった。
「こなせぬのであればこなさずともよかろう。俺は困らぬ」
「こんのすけたちが困るよ」
「困らせておけばいい」
「困らせるの、よくないと思う」
(数日後)
「♪~」
小さな歌声を捉え、小狐丸はそちらへ向かう。表中庭の離れ家の中、朱格子の座敷牢の中に小鳥が歌っていた。
「…良い趣味をしておるのぅ」
格子の中に置かれた枷などを見つけ、小狐丸は呟く。この場所がどういう場所で用意したのが誰か、わかってしまった。ついでに三日月が小鳥を手篭めにしていることも察した。問題は小鳥がそれをどう捉えているのか、だが。
「…あれ、小狐丸(だっけ?)」
かくり、と小鳥は首を傾げる。
「ぬしさまは、何故そのような所におられるのです?」
「みかづきをまってるの」
「三日月を、ですか」
「おれ、みかづきがいないとねむれないから」
小狐丸は格子の中に歩み入る。
「…それは、三日月でなければなりませぬか?」
「…わからない。だって、みかづきしかいなかったもの」
「…では、今宵はこの小狐がぬしさまと共におりましょう」
「…いいのかな」
「ぬしさまが望んでくださるのなら、私はいくらでも」
「…じゃあ、今日は小狐丸と一緒に寝る」
小狐丸が床に横になると、小鳥はその腕の中に収まった。
「…おやすみなさい」
「…おやすみなさいませ、ぬしさま」
小鳥はすぐにすとん、と眠ってしまった。その無防備さに、小鳥の貞操観念は緩いのだろうか、と小狐丸は思う。あるいは、小狐丸はそういう意味で警戒するべき対象だと思っていないのか。
「…まあ、眠っている相手に何かしようとは思わんが」
いっそ潔いくらいに良い寝付きだった。寝物語に色々聞き出そうとも思っていたのだが。
夜目の利かない太刀とはいえ、この離れ家はよく月明が届く。元より灯りは点けられていなかったが、不都合はなかった。顔を出した三日月に、小狐丸はにんまりと笑ってみせた。
「…小狐丸、そこで何をしておる」
「ぬしさまが一人寝ができぬそうなので添い寝をしておる」
「・・・」
三日月の顔から表情が抜け落ちる。
「ぬしさまが眠っておる。あまり騒ぐなよ」
「俺の
「私は無理に押し入ってはおらぬぞ。ぬしさまは自分から私の腕の中においでになった」
「………そのような気は、しておった」
三日月は小鳥に歩み寄って頬を撫でる。
「…そなたはどうしても、"俺"を求めてはくれぬのだなぁ」
「兄弟刀の誼で一応忠告しておくが、望まぬものにまぐわいを強要しても嫌われるだけじゃぞ」
「…そんなことは知っておる。俺も前の主に迫られたことがあるからな。…だが、据え膳食わぬは男の恥と言うだろう」
「…まあ、言うな」
元々二人きりの本丸であったともいうし、ある意味で無理からぬ話ではあるのだろう。小狐丸も同じ状況になれば手を出すと思う。
「己のための生贄といっても良い、愛し子が、無防備に懐けばそれは据え膳にしか見えぬだろうなぁ」
「まぐわった後も、俺に嫌悪を向けることはせなんだしな」
「明らかに普通にまぐわうだけなら使わんものがあるようじゃが」
「はっはっは。うっかり暴れられて怪我をさせたりしてはならぬだろう?」
「抵抗される時点で嫌がられとるじゃろう」