刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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終わらない剣の箱庭3

 

 

「俺たちが実際どう戦っているかを見せるには、これが一番手っ取り早いからな」

ということで、第一部隊とこんのすけと小鳥と三日月で演習場にやってきた。戦い云々以前に、小鳥は人の多さで萎縮してしまったが。

「まずは受付に向かいましょう、主さま」

「う、うん…」

小鳥はこんのすけをぎゅっと抱え、三日月の袖を掴んでいる。

「僕たちの主なら、もう少し堂々としたらどうです?背が丸まっていますよ」

「…防御姿勢」

「ぬしさまは人の多いのに慣れていませんからねぇ」

「うむ…こりゃあかえって、三日月の同行は正解だったかもしれないな」

「まあ、こんのすけがいても一人じゃ心配かもね」

「主は弱いしな」

「…ごめんなさい」

「宗三、あまり威圧するな」

「お前が宗三を威圧してどうするのじゃ」

小狐丸が三日月の頭をはたく。

「ほら、主、深呼吸」

「ゆっくりでいいから」

蛍丸と鳴狐が小鳥を宥める。

 

 

なんとか受付を済ませ、一つ目の試合会場へ向かう。メンバーがメンバーなこともあって人目を引いている。こそこそ話すだけならともかく、揶揄や悪口のようなことを口にした者はもれなく太刀組に殺気を送られているが。ちなみに小鳥はいっぱいいっぱいのようで気付いていない。

元ブラックだけあって皆殺気が半端ない。

「ねぇ三日月、俺と隊員代わらない?」

「嫌だ」

三日月は完全に不機嫌になっている。聞こえた言葉が相当気に入らなかったらしい。

「いやいや、蛍丸は試合で相手をコテンパンにする役だろう。交代するなら俺たちだ」

「交代せんと言っておるだろう。小鳥(つま)を守るのは(おっと)の役目だ」

「君が血の気余ってそうだから交代すると言ってるんじゃないか」

「いずれにしても刃傷沙汰に持ち込まれては困るのですが…」

「にんじょうざた?」

「いや、気にしないでくれ。大丈夫だ」

 

 

 

演習上の模擬戦において、審神者は自陣後方の待機(セコンド)席にいる事になっている。また、試合会場には観客席があり、観戦する事が出来る。

「まず、刀装や式を使って索敵を行う。同時に、敵方の索敵の阻止もする」

今回は両陣営共に索敵に失敗したようだった。

「魚鱗陣は鶴翼陣に強く、鶴翼陣は横隊陣に強く、横隊陣は方陣に強く、方陣は雁行陣に強く、雁行陣は逆行人に強く、逆行陣は魚鱗陣に強い。…索敵に失敗した時の定石は、守りを固める(横隊陣か方陣)か、打って出る(魚鱗陣)というところかな」

「雁行陣がいい」

「そうか」

特に何を考えたという風でもなく小鳥は陣形指示を出す。模擬戦だし気負う事もないだろう、と彼らはその指示に従った。

互いが視認できる位置までくる。相手方は逆行陣、こちらの形勢有利だ。

「まずは遠戦、弓兵、銃兵、投石兵の刀装を装備したものがその数だけ攻撃を仕掛ける事ができる。この部隊でいえば、宗三と鳴狐が投石を一つずつ持っているからその二回だな」

相手方は部隊長が長谷部、残りは太刀と大太刀という構成になっている。長谷部の刀装は両方とも投石だったらしく、二撃飛んできたが。

「遠戦の後は接近しての白刃戦となる。普段の戦いやそれに準ずる演練では、皆が二度攻撃する程度の短い時間で全員倒し切らずとも決着をつけるが」

三日月は一度言葉を切り、口元に笑みを浮かべる。

「この模擬戦においては、どちらかが全滅するまで戦いを続けることができる。…まあ、途中で審神者が投了することもできるがな」

「…投了しなさそう」

「大抵は最後には真剣必殺祭りになるな」

この戦いにおいては、馬を実際に連れてくることはできないが、一種の刀装のようなものとしてその恩恵を受ける事は出来る。当然彼らも馬装備状態になっている。

一番にぶつかったのは、長谷部と宗三だった。長谷部の先制攻撃を宗三は軸を逸らして受け流す。

 

 

混戦となった白刃戦は意外な形で決着がついた。

「…勝った」

「…ははっ、随分鶴らしくなっただろう」

残ったのは、刀装こそ全壊だがほぼ無傷の鳴狐と、真剣必殺し重傷の鶴丸。他四振りは重傷、戦線崩壊状態になっている。相手方は全滅である。

「…蛍丸、混戦時は挙動に気をつけろと言っているだろう」

「だってまとめてやれそうだったし」

何があったのかと言えば、鶯丸と戦っていた一期一振と獅子王を蛍丸が鶯丸ごと斬り倒し、その蛍丸を石切丸が重傷に追い込んだが真剣必殺した鶯丸が石切丸を二連撃で倒したのである。その後二振りとも小狐丸と戦っていた太郎からの流れ弾(?)で戦線崩壊する事になった。

「…っていうか、普通の三日月ってあんなんなんだね。うちのってバグってるの?」

「…今更だろう。元より政府に本丸一つ無駄にしても封じられるようなものが尋常のもののはずがない」

 

 

 

「しかし、君は何故敵の布陣がわかったんだ?」

試合が終わり戦闘領域(バトルフィールド)から出されたことで全快絶好調に戻った鶴丸は小鳥に問いかけた。ちなみに現在位置は観客席である。

「わかってないよ?」

「えっ」

小鳥は首を傾げる。

「なんとなく、そうするのがいいかなって思っただけだもん」

「…主、兵法とかわかってないよね?」

「一応、こんのすけが用意したテキストは全部読んだよ」

「主さまも日々努力をしていらっしゃいますよ。発揮する機会がございませんでしたが」

「理論として知ってるのと、実際見て知ってるのは違うからねー」

まだ出陣先での指示を出すのは難しいかな、と小鳥は首をひねる。出陣先やメンバーの決定くらいは話しあいながらだが判断できるようになっている。遠征は必要なレベルと刀種が明記されているので問題ない。

「ふむ…じゃあその内、出陣の時同行するかい?実際その目で見て学べることもあるだろう」

「小鳥を危険に晒すことは許可できん。却下だ」

「何故君が答えるんだ」

「私も主さまが直接戦場に出るのはよろしくないと思います。…主さまはお身体があまり強くありませんし」

下手に清浄過ぎる場所でずっと過ごしていた為に、少し気が穢れたものに近付くだけで体調が悪くなるのである。ちなみに、本丸内では余程ヤバいのでない限り、浄化の力が勝るので大丈夫だ。正直、演習場でさえこんのすけが霊力を受け取って周囲の気を浄化し続けないと気分が悪くなるレベルである。戦場に出た場合などお察しというやつだ。

「…おれも、ちゃんと知りたくはあるんだけど」

「別に現状不自由はしていない。出陣先のことは部隊長に任せておけばいい」

「あなたは寧ろもっと僕たちのことを知る方が先だと思いますけど」

「え、あ、はい」

「ぬしさまは夜更かしもできませんしね」

一人寝もできないが。

「しかし、本丸に籠りきりでは主もつまらないだろう」

「だからって戦場に連れてくのはどうかと思うけど」

「んー…本丸に籠りきりでも、俺はそこまで苦痛ではないけど」

一年以上幽閉されていた以上、今更の話である。三日月と違い、小鳥は妖横町にも行っていない。

「かといって、自分から籠の中に収まっているのは酔狂極まりないですよ」

「安全なところに居てくれる方が安心だろう。まあ、小鳥に髪の一筋たりとも傷つければ俺が黙っておらんがな」

「だから何故あなたが答えるんですか」

などと雑談をしているところに、一人の女審神者が歩み寄る。ちなみに、先の一戦の対戦相手ではない。

「あなた一体何を考えているの」

全員スルーする。刀剣たちは態と無視をしているが、小鳥は自分が話しかけられているとは思っていない。

「…試合遅いね」

「そういえばそうだね。何かトラブルかな」

「そうだな。こりゃあ、先に次の試合の受付しとくべきだったか?」

「血の気が多過ぎですよ、鶴丸。練度の上がらない(経験値の得られない)戦いなど、一度で十分です」

「俺は嫌いじゃないけど?ああいう何の意味もない戦闘」

「…俺は、無意味な戦いはあまり好きではないな」

「此処の模擬戦は領域さえ出れば元に戻りますけれど、傷を負うのは愉快ではありませんね」

「…痛いのは平気だけど」

「ちょっと、何で無視するわけ?聞こえない振りなんていい度胸じゃない」

「そなた、先程はほとんど無傷だったじゃろうに」

「全く攻撃を受けなかったわけじゃない」

「鳴狐は奇襲が上手いからな。まるで暗殺者のようだったぞ」

「あー、そう思うと面頬って忍者っぽいよね」

「鳴狐は(お供がいないと)静かだからな」

「あなた!ちゃんと私の話を聞きなさいよ!」

前に仁王立ちして視界を遮った少女を見て、小鳥は困った顔をした。

「迷惑なので喧嘩は余所でしてくれませんか?」

「あんたに言ってるのよ、あんたに!」

「………僕?」

小鳥は困惑した。

「あなたに話しかけられる理由がさっぱり思い付かないんですが、人違いをしていませんか?初対面でしょう」

「さっきの模擬戦のことよ。あなたが蛍丸様に取らせた作戦、味方ごと斬らせるなんて」

「…そんなこと僕に言われても」

別に味方ごとぶった斬れなんて作戦は出していない。

「味方から斬られるなんて鶯丸様が可哀想でしょう」

「…ええと」

小鳥は三日月の袖を握って視線を彷徨わせる。

「それがどうしたというのです?無関係な癖にしゃしゃり出て、主に何が言いたいんですか」

「お前に憐れまれる筋合いはない」

「別に俺作戦だからやったわけじゃないけど」

「あなたのところ、ブラック本丸ってやつなんじゃないの」

「ブラック?」

「…ぬしさまがブラックならホワイトな本丸はありませんよ」

「ないない」

「酷い言いがかりだ」

「…青いなあ」

「契約を結んでいない性悪爺(三日月)に手篭めにされるようなやつがブラック運営なんてできるわけないだろう」

「鶴丸、手篭めって何?」

「言うに事欠いて何を言ってるんですか鶴丸国永」

「"夜の三日月"が散々君にやってたことだ」

「…あー」

ちなみに三日月とは現在も主従契約は結んでいない。

「据え膳は喰うものだろう」

「それは同意する」

「まあ、食うだろうな」

「…喰うじゃろうなぁ」

真顔で同意した鳥太刀と遠い目をした小狐丸に、宗三と蛍丸が冷たい視線を向ける。鳴狐は小鳥を太刀たちから引き離して己の膝に座らせた。

「主は僕が守る」

「俺も協力するよ鳴狐」

「いくら主が可愛くとも順序というものがあるでしょうに」

「俺はちゃんと小鳥が懐いてから手を出したぞ。夜這い文も出した」

「現代一般人が平安時代の求婚に詳しいわけがないでしょう」

「………そういえば、何か字が(崩し字的な意味で)綺麗過ぎて読めない直書はもらってた」

「伝わってないじゃないですか」

「あなや」

「まあ、崩し字は慣れないと読めないよなぁ」

少女がわなわなと肩を震わせている。

「うん、江雪の字も最初は全く読めなかった」

現在は江雪が崩し具合を加減してくれるようになったのでなんとか読めるようになっている。

「ああ、兄様が小夜と手習いの様な事をしていたのはそれですか」

「…あいつは意外とマメだよな」

「保護すべきは刀剣ではなくあなたの方なのね」

「あ、お構いなく」

「んー?俺の小鳥(つま)に何をすると?」

「主っ」

「止めないで頂戴、清光。同じ女として、セクハラと言うのは生ぬるい状態に置かれている女性は放っておけないわ」

少女は小鳥の手を取る。

「周りに女性が一人もいなくて相談もできずに辛かったでしょう?今日から私が味方になるわ」

「結構です」

「え?」

「よく知らない相手に味方になると言われても信用できません。そもそも僕は助けを求めた覚えもないです。的外れな善意の押しつけは迷惑です」

小鳥の瞳から感情が消えている。

「僕のため、なんていってくるにんげんがいちばんしんようならない」

小鳥は目を細めた。刀剣たちが皆真顔になる。

皆、小鳥がそんな風に思っているなど…人間不信なのだと、欠片も思っていなかったのだ。寧ろ、人の善意を信じているお人好しの善人なのだと思っていた。

「…僕たちも、信じられない?」

小鳥は振り返って小首を傾げる。

「自分の為に動いているヒトを疑ったり信じたりする必要ってある?」

凍った空気の中で少女の清光が動く。自分の主を小鳥から引き離し、三日月たちに頭を下げる。

「お騒がせしました。…主、行くよ」

「…でも、清光」

「あれはどっちも主の手に負える相手じゃないから。これ以上余計なことしない」

納得のいかないという顔をしながら少女は清光に引きずられていった。

「おいで、小鳥」

三日月に手招かれ、小鳥は大人しくその腕に収まる。

「小鳥は俺の事も信じられんか?」

「…三日月がいなかったら俺は此処にいないよ」

「…そうか」

 

 

 

「…結局のところ、主は三日月をどう思っているんです?」

「んー…お昼の三日月は優しいから好きだよ?」

「…"夜の三日月"は」

「怒らせると怖い」

「・・・」

「・・・」

宗三が三日月にジト目を向ける。三日月は目を細めた。

「主の価値観が歪んでるのなんて今更の話だろう。君もまさか、まともな感性の持ち主だと思ってたわけじゃあるまい?」

「…ええ、まあ、そうでしょうね」

そしてそれが不都合だと彼らは思わない。結局のところ、皆自分勝手なのだ。小鳥が拒否という選択肢を失くしていても、取り戻させようとはしない。だって、己の望むことも拒否されたくないから。

 

 

小鳥と添い寝をする役(拒否されたり強引にしたりしない限りは性的に手を出す事も黙認されている)は脇差以上の刀が行う事になっている。小鳥を寝かしつけるには、小鳥より体の大きいものでないと上手くいかないのだ。短刀でも二人がかりで抱きしめれば寝付く事もあるが。

誰がやるかは立候補とじゃんけんで決めている。小鳥は習慣のように朱格子(とりかご)の中に収まってしまうが、自分から誰かを呼びはしない。眠れなくてもずっとただ籠の中で待っている。

誰もそれを変えさせようとはしない。良い顔をしないものはいるが、変えようとまではしない。だってそれは、三日月(かみ)三日月(かみ)のために整えた供物(いけにえ)なのだ。神格としての自覚があるものは、それを悪いと思わない。己も供物に手を出せるのなら尚更。

要するに、立候補するものは皆小鳥を気に入っているのである。しないものも愛で方が違うだけで小鳥に悪感情は持っていない。

 

 

「結局のところ、主は俺たちのことを信頼していないんだろう」

切国の諦観を含んだ目を見上げ、小鳥は首を傾げる。

「信頼ってそんなに必要なもの?俺は切国たちのこと好きだし、何かあれば守ってくれるとわかってるし、僕が本当に嫌な事はしないでくれるって知ってるよ。それじゃあいけないの?」

「なら、何故信じてはくれないんだ」

「だって、俺と君たちは同じものを見て同じことを思うわけじゃないじゃないか」

きょとんとした目で小鳥は言う。

「君たちは僕じゃないんだから、僕と同じだと信じるわけがないだろう?」

「(…?信頼とは、そういう意味だったか…?)」

 

 

 

 

 

 

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