配属前 三月~四月頃? 検非違使はそろそろ出現条件とか解明されている頃かな
「要するに、私はそこで死んでくればいいんですか?」
「死ななくていいからね!」
即答した青嵐に、小鳥は不思議そうな顔をした。
「引き継ぎ審神者の仕事は本丸の立て直しであって、死ぬ事ではないからね」
「一度失敗した者に成功を期待するんですか?」
「一度の失敗で見限る程人材潤沢じゃないよ、多分…それに、あの本丸はどう考えてもひよっこの新人にどうにかできる難度じゃなかったからね」
「…それってやっぱり死ぬの期待されてません?」
こてり、と小鳥は首を傾げる。小鳥の歌仙も隣で首をひねる。
「主の実力が過剰評価されたか、失敗を期待されたかの二択としか思えないのですが」
「………まあ、俺は上の思惑までは捉えきれていないかもしれないけれどね。小鳥さんは死ぬことよりは刀剣を全て刀解することを期待されたんじゃないかな。比較として、という話で、刀解よりは正常化、使いものになる状態にする事を期待していただろうとは思うけれど」
「正常化、ですか?」
「俺の本丸のように、刀剣たちを正しく審神者が従えている状態だね。…といっても、俺は引き継ぎではないけれど」
「………?」
小鳥は再び首を傾げる。以前の本丸の刀剣がこの本丸の刀剣のようになる様が想像できなかったらしい。
「審神者と刀剣男士の関係性にも色々あるから、必ずしも俺の本丸と同じような関係になる必要はないけれど、一定の信頼関係を築いて修正主義者と戦えるようになればいいんだ。場所によっては本当、軍隊みたいだったり、家族みたいだったり、悪友みたいだったりするから」
青嵐は具体例でも思い浮かべているのか、僅かに遠い目になっている。
「それから…」
「先輩方、主が頼りないのはわかるけれど、僕の事は少しは信用してくれてもよくありませんか」
「っていっても、君一人で彼女の面倒を見るのはやっぱり大変だろう?」
「同じ刀といえど、顕現したばかりのひよっこをそう易々と信用は出来ないよ。…刀剣は審神者の影響を受けるものだしね」
青嵐の歌仙は、小鳥の歌仙の隣で我関せずとうとうとしている小鳥と三日月を見て、僅かに秀眉を歪めた。
小鳥の精神は未だ回復の兆しがない。自分の殻の中に閉じこもったままなのである。しかし、配属先の辞令が出てしまった。…まあ、ずっとこの本丸で匿っていればいいというものでもないのは確かだが。
小鳥の歌仙は、戦場で拾ってきて保管されていた刀剣を小鳥に顕現させたものだ。故に、一から鍛刀されたものよりは小鳥の影響が薄くはあるだろう。皆無ではないのは明白だが。この歌仙、矢鱈と器用で先輩を立てるという事はわかっているが、人の話を聞かないのである。神経がやたら図太いともいう。
「普通の本丸では審神者と初期刀一対一の二人三脚から始めるんでしょう?実力に見合った所から始めていけばどうにかなりますよ」
「そうできないかもしれないからこうして僕たちが指導にあたっているんじゃないか」
「ま、まあ、歌仙君、落ち着いて」
小鳥がこてり、と小鳥の歌仙の膝に倒れ込む。春の陽気ですっかり眠くなってしまったらしい。すぅすぅと寝息を立てている小鳥に歌仙は自分の外套をかけてやった。小鳥に対する世話焼き
「先輩、主が眠ってしまったから、座学はこれくらいにしておいてもらっても良いですか?」
「・・・」
「まあ、お前が小鳥の信用を得られた分は僥倖ではあるだろうがな」
「僕は主の信用を得たわけではありませんよ。主は僕を己のもの、己の領域に干渉するものと認識しただけですから」
小鳥の歌仙は愛おしげに小鳥の頭を撫でる。
「そもそも、主は誰も必要としていません」
確信をもった言い方ではあるが、正式に契約を結んでいるが故にわかることもあるのだろう。
「小鳥は一人では何もできぬように思うが」
「先輩方が世話を焼くからですよ。主はその気になれば大体の事は出来ます」
甘やかされているので怠けているだけです、と歌仙は言う。そこに悪感情は見られない。三日月はふむ、と小首を傾げる。
「小鳥も世話をされるのが好きだということか」
「いえ、面倒だから流されているだけです」
「それはどう違う?」
「主は、自分の為にしてくれている、という認識がないんですよ」
「うむ…?」
「"自分が他者に興味がないのだから、他者も自分に興味がないだろう"と思っているんです。僕の事も自分に関心を持っている他者、ではなく、己の一部、思う通りには動かないかもしれない部分、程度の認識のようです」
「…己の一部、か」
「眼鏡や端末と同じです」