「新しい主様は、どのような方なんですか?」
五虎退の問いに一期は困ったような笑みを浮かべた。
「…小鳥殿がどのような方なのかは、私にもよくわからないんだ」
「わからないんですか?」
「小鳥殿は自分からは室を出てこられないからね」
「…訪ねていったら、怒られますか?」
「…怒られは、しないだろうけれど」
歓迎されるということもないだろう。
「…小鳥殿はおそらく、用事もないのに己を訪ねるものなどいないと思っているからね」
五虎退と平野は顕現は解けたものの折れはしなかった短刀で、前田は新しく戦場で拾われてきた短刀だ。三振りとも、小鳥と直接顔を合わせていない。
「一兄は何と言っていましたか?」
「…一兄もよくわからないと言っていました。…訪ねても怒られはしないだろうと言ってましたけど…」
「では、前田は主君に会いに行ってまいります」
「待ちなさい前田の。急いては事をし損じるという言葉を知らないのですか」
「知っていますが、自ら動かねば変わらぬものというのもあります。前田の勘はずっと主君に会いに行くべきだと言っているのです」
「…怖い、人じゃないと、いいですけど…」
「前田の一振りで行かせるのは心配ですから、僕もついていきます」
小鳥の部屋の前には一筆箋の付けられた白梅の一枝が置かれていた。それに首を傾げつつ、前田は入室の許可を求める声をかける。しかし返事はない。少し待って、前田はそっとほんの少し戸を開けた。
「♪~」
少女の歌声がした。静かに静かに戸を開ける。短刀の兄らと同程度に見える小柄な少女が椅子に座って音楽に耳を傾け、口ずさんでいた。
音楽が途切れた時を見計らって、前田は声をかける。
「お初にお目にかかります、主君」
小鳥はぴくりとも反応しない。
「…主君?」
「♪~」
音楽を聞いて口ずさめる以上、耳が聞こえないというわけではないはずだ。つまり、意図的に無視をしているということになる。平野はむっとした。五虎退はおろおろしている。
「あの、主君」
前田が小鳥の目の前に立つと、小鳥はやっとその存在に気付いたかのように首を傾げた。
「前田藤四郎と申します。藤四郎の末席に名を連ねております」
「…小鳥だ」
ぼうとしたその瞳は、前田を捉えていない。
「主君は梅がお好きなのですか?」
「梅干しは少量なら好きだが丸ごとは食べられない」
「花が室の前に置かれていましたが」
「…朝から何か花の香はしていたな」
「一筆箋がついていましたが、主君への手紙では?」
「貰う心当たりがない」
五虎退は一期の濁した言葉を何となく理解した。小鳥は、自分が話かけられると思っていなかったから入室許可にも入ってからの呼びかけにも全く反応しなかったのだろう。己が話しかけられていると、思っていないから。
ああして、話しかけている相手が小鳥だと示せば反応を返してくれるが。
「主君は何故室に籠っておられるのですか?」
「出る用事がない。僕は望まれて此処にいるわけではないし、不快にさせるのならば顔は合わせない方がいい。痛いのは嫌いだ」
「…一兄たちは、主君に危害を加えたりはしないと思いますが」
「一期一振は子供にやさしい」
「一兄は優しいけれど厳しいところもあって、それにかっこいいです」
小鳥は小首を傾げる。
「
「短刀も小さくても刀だからな」
「はい」
「あの、鶴丸さん」
「ん?どうした、五虎退」
「主様の室の前に梅の枝を置いたのって、鶴丸さんですよね」
「…何故俺だと?」
「他にそういう事をしそうなヒトがいません。獅子王さんは未だ眠ったままですし」
ああいう事をするのは平安勢だろう。鎌倉以降の刀でもそういう風流なことをする者はいるかもしれないが、一筆箋に書かれていたのが和歌という時点で真似するのは難しいだろう。
「…いや、あまりびっくりさせるのは許さんと歌仙に釘を刺されていてな。とりあえず、小鳥が気付くまで続けてみようかと」
「主様は、花の存在には気付いていましたよ」
「…そうなのか?」
「ご自分に宛てたものだとはお思いもされなかったので触れなかったみたいです」
ちなみに、短刀に促されて手に取り、一筆箋に目を通して意味がわからんと首を傾げていた。現代人に和歌の読み解きは難度が高かったらしい。
「…そうか、話しかけられてることに気付かないんじゃ、その可能性もあったか。となると、もう少し考えた方がよかったか…」
「…普通に話しかけたら良いんじゃないでしょうか」
「それじゃあ面白味がないだろう。それに、小鳥が"外"に目を向けるようにならなきゃ意味がないからな」
「外…ですか?」
「今の小鳥はうちに籠ってるだろう。あれでは、躯より先に心が死んでしまう」
鶴丸はすっと目を伏せる。
「あの子がそうなったのが刀剣の所為だというなら、すくいあげるのも
鶴丸の寄越したのは「我がやどに盛りに咲ける梅の花 散るべくなりぬ見む人もがも」あたり