刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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二週間経過


魔法の呪文がなくたって4

 

 

早朝。日の明けきらぬ中、本丸の庭を散歩していた鶴丸は、自分以外にも誰かがいる事に気付いた。玉砂利を踏む足音が、聞こえたのである。ゆったりとした歩調から、自分と同じく早朝の散歩と洒落こんでいるものだと思われた。誰だろうかと辺りを見回し、池の方に目をやって目を丸くする。

そこに居たのは、小鳥だった。ゆっくりとあたりを眺めながら、静かに歩いている。室にいつも籠っている彼女が一人で出歩いているところなど、初めて見るはずだ。

さて、どうしたものかと考えようとしてふと気付く。小鳥が迷いなく池に足を踏み出そうとしていることに。

「!止まれ、小鳥!」

「?」

呼ばれた事に反応して小鳥は振り返る。鶴丸は急いで駆け寄った。

「何をやってるんだ、君は」

「…あちらから鳥の声がした」

小鳥は池の向こうを指差す。

「…鳥を探すのはいいが、池を突っ切ろうとするのはどうなんだ」

言われて初めて、小鳥は目の前に池があることに気付いたようだった。ぼうとした目をしぱしぱさせている。

「…出歩く時には、足元に気を付けてくれ」

「これは深いのか?」

「…いや、おそらく膝に届かない程度ではあると思うが…池だからな、衛生的じゃないだろう」

「汚れたら洗えばいい」

「それはそうだがな…」

鶴丸は溜息をついた。小鳥は不思議そうにしている。

「…しかし、君が一人で出歩いているなんて珍しいな。何かあったのか?」

「…部屋に籠りきりは健康に悪いから、散歩くらいはしろと、医者に言われた」

「医者?」

「二週に一度、カウンセリングを受けることになっている」

テレビ電話だが、と小鳥は付け加えた。

「かうんせりんぐ、ねぇ…君はそういうのは素直に聞くんだな」

「納得できる意見であれば特に反発する理由はない」

「そうか。…池を渡るのであればこちらに橋があるぞ」

「……わかった」

視線が思いきり足元に向かった小鳥の手を取って引く。次は何かにぶつかるんじゃないかと鶴丸は思った。

 

 

「…そういえば、現代は眼鏡ってやつがあるだろう。それじゃどうにもならない視力なのか?」

「多少乱視は入っているがただの近眼だ。適切な度の眼鏡で十分矯正できる」

「じゃあ何で眼鏡をしないんだ」

「前使っていた眼鏡はなくした。それに眼鏡をかけてまで見たいものがない」

「…鳥は君が見える距離には近付けないんじゃないか?」

「鳥は囀るのを聞くものだろう」

「…そうだな」

 

 

結局、鶴丸は小鳥の手を引いて彼女を自室まで送り届けた。

「何処まで行っていたんだい、主」

「庭」

「…うん」

「鳥の声に誘われて池に突っ込もうとしていたぞ。一人で出歩かせちゃならないんじゃないか」

「…主、足元には気を付けてくれといつも言っているだろう」

「池があるとは思わなかった」

「思わぬところに思わぬものがあるかもしれないから気をつけようという話だよ…」

「気を付ける」

歌仙はやれやれ、と肩をすくめた。

 

 

 

「ってわけでまあ、朝から驚かされたよ」

「へぇ、小鳥ちゃん意外と早起きなんだね」

「いや、歌仙と少し話したんだが、今日は特別早起きだったみたいだぞ。いつも長く寝てる人間なんだそうだ」

「じゃあ、今回は色々特別だったんだね。…あ、倶利伽羅、ちょっとそっちのおたま取って」

「…そら」

「ありがと。…というか、ついでだから何か誘ってみても良かったんじゃない、朝餉とか」

「…小鳥は大変な偏食家だそうだが」

「好き嫌いをするのは、かっこよくないよね」

「…かっこよさは求めてないだろ、(そいつ)は…」

ぼそりと大倶利伽羅が呟くが光忠は気付かない。鶴丸は苦笑した。

「…まあ、誘える雰囲気であれば誘ってもいいかもしれないがな…」

「短刀の子たちとか、小鳥ちゃんのこと気にしてるだろ?できればどうにかしてあげたいよね」

「時間で解決するかどうかも怪しいくらいだからな」

小鳥は外を恐れているわけではない。外に興味を持っていないのだ。自分の内側だけで完結している。外に興味を持たない限り、何も変わらない。本人は、それでいいと思っているのかもしれないが。

「…変える気があるなら、自分で動くだろ。無理に変えさせようとするのは、自分の我儘だってことだけは自覚しておけ」

「倶利伽羅が慣れ合いを厭わなくなるような主なのに?」

「…逆だ」

「逆?」

「影響は受けてるが、きちんと顔を合わせていない。俺まで会わないことを選択すれば、それこそ会えなくなる」

「ってことは、廣光は小鳥に興味がないわけじゃないわけだな」

「…興味があるという程ではないが、一度も顔を合わせないで終わるのも流石に不本意だ」

刀剣にとって、そして付喪神にとって、持ち主(あるじ)というのは、人間というのは、無視できない存在であり、必要とされることは無上の喜びだ。人と同じような感情を持つ今は尚更である。

「顕現した時近くに審神者がいないというのはやはり、違和感が大きいのか」

「主の霊力が感じ取れるのはマシだが」

 

 

 

 

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