「はじめまして、主さん」
ニカッと笑った浦島を、小鳥の瞳は確かに捉えていた。きょとんとして、小鳥は微かに首を傾げる。
「…誰?」
「俺は浦島虎徹。…あー、蜂須賀兄ちゃんと長曽祢兄ちゃんのことは知ってる?」
「蜂須賀虎徹は知っている。ナガソネは知らない」
「そっか。俺は蜂須賀兄ちゃんたちの弟で、本物の虎徹なんだ」
「…虎徹は本物と名乗ることに拘りがあるのか」
「うーん…俺はそこまで気にしてないんだけど、虎徹は兄弟も多いけど贋作も多いんだ。血の繋がりがなくたって、兄弟が多いのはいいことだと、俺は思うんだけどね」
「…兄弟は、大切だ」
「主さんも兄弟がいるの?」
「妹弟がいる。…皆、僕よりしっかりしている」
「へー、ってことは、主さんはお姉さんなんだ」
「一番お姉ちゃんだ。…最近では末っ子と見られることもあるが」
「そうなんだ」
「…主が、興味を示した」
「流石浦島だな。主の心も動かすとは」
動揺した歌仙だったが、蜂須賀の言葉等で少し冷静さを取り戻す。
「…いや、浦島の人格は関係ないな、多分。長曽祢の方でも多分反応自体はするだろう」
「…何で長曽祢が出てくるんだ」
「その二振りが最近新しく存在が確認された刀剣男士だからだ。おそらく、最近見つかった二振り以外は一通り面識があったんだろう。…主は、好奇心がないわけじゃないからな」
あまり表出しないからわかりづらいが、鳥の声がしたからとそちらにふらふら行ってしまうものの好奇心が小さいわけがない。おそらく、、未知のものを知りたいという気持ち自体は喪っていないのだろう。
「主さん主さん俺と一緒に散歩しに行かない?」
「何故?」
「俺が主さんと出掛けたいから」
「…何故」
「部屋の中に籠りきりは体に良くないでしょ」
「…それはそうだが」
「本丸の庭でもいいし、逆に裏山でもいいから」
「裏山」
「主さんは行った事ないの?」
「本丸の外には出ていない」
「危ない場所じゃないし、俺が手を引くから。ね、行こう?」
「…わかった。少し、行ってみる。歌仙に伝えてくる」
端末の音楽を止め、立ち上がる。
「歌仙、散歩に出てくる」
「は?一人で行く気かい?」
「浦島に誘われた」
「俺に任せて、歌仙さん」
「いや、任せないよ。顕現して一週間も経っていない、特も付いていないひよっこ一振りに主を任せたりできないよ」
「戦場には行かない」
「主を戦場に出すなんて、それこそありえないよ。絶対怪我をするに決まってる」
「戦場じゃなくて裏山に散歩しに行くんだよ。…じゃあ、歌仙さんも一緒に行く?」
「………用事がある」
歌仙は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「…最低一振り、練度が30を越えている刀に同行を頼んでくれ。できれば、主の顕現した刀がいい」
「俺、そういうの見分けるの苦手なんだけどなー…まあ、探してみるよ。行こう、主さん」
「あ、大倶利伽羅さん、今から主さんと裏山に散歩に行くんだけど、大倶利伽羅さんも一緒に行かない?」
「…何故俺に声をかけるんだ」
「歌仙さんが俺一振りは心配だっていうからさぁ、誰か練度30以上のヒトを誘わなきゃいけないんだ。大倶利伽羅さんは確か60越えてるんでしょ?」
「・・・」
大倶利伽羅は小鳥を見る。小鳥はぼんやりとした目で視線を巡らせている。多分何も見えていない。
「…主、あんたは同行者が俺で構わないのか」
「構わない」
大倶利伽羅は龍の描かれている方の腕…左腕を小鳥に差し出す。
「大倶利伽羅だ」
「小鳥だ」
小鳥は小首を傾げた後その手を取った。小鳥を真ん中にして手を繋いでいる形になる。
裏山に踏み出して幾らも経たない内に、浦島は歌仙が小鳥の単独行動を咎めた意味を何となく把握した。端的に言えば、危いのである。両手を繋いでいなければフラフラ脇道に逸れて迷子になってしまいそうだ。刀剣に興味がなくとも山の獣には興味があるらしい。
「主さん、そっちは道じゃないよ」
「とんびの声がした」
「慣れない山道で道から外れるのは危ないよ。本丸の外なんだし」
「・・・」
「…他の場所にもいるかもしれないだろう」
「…わかった」
視覚が悪い分、小鳥は聴覚と嗅覚が優れているらしかった。敏感に音やにおいに反応している。
「…思ったより深かったね」
流石にあまり深入りするつもりはないのだが、小鳥は常と変わらない、表情の読み取れない顔で辺りを見回している。楽しんでいるのか退屈しているのかも定かではない。
「…道なりに行けば一時程で頂上まで行けると聞いているが」
「太刀基準で?」
「…太刀の前提だろうな」
裏山に好んで立ち入る刀は少ない。麓の辺りならばまた別なのだが。
「流石にそこまで長く散歩してたら主さんが疲れちゃうよね」
そもそも、登ったら降りなければならないのである。帰りの事も考えて進まなければならない。
「そろそろ戻る?」
「……戻る」
小鳥が頷いたので、それ以上登るのをやめて山を下り始める。小鳥は森を気にしているような素振りをずっとしている。