明石は五月実装だからなあ 6-2クリアした時にさらっと来てたんだろう
「いつの間にやら、現在確認されている刀剣の全てが揃っておりますね、主さま」
こんのすけの言葉に小鳥は首を傾げる。
「どうでしょう、一度演習に参加してみるというのは!他の本丸と交流を持つのも良いですよ」
「…いかない」
小鳥はふい、とそっぽを向いた。
「何故ですか、主さま。他の本丸を知る事は、主さまにも刀剣男士にも良い経験となるはずですよ」
「知らない人が沢山いるところには行きたくない」
「え、えーと、そうです、友人同士示し合わせて刀剣を連れて会う場合にも演習場を使う事が多いのですよ。商業エリアは各所在との重なり具合が不安定ですからね」
「会いたい
「主さま…」
「…主、先輩方は主が元気かどうか心配しているんじゃないのかな。一度顔を見せに行っても良いんじゃないかと思うんだけど」
「…先輩迷惑しない?」
「伺いを立てて御覧。きっとすぐ返事が来るから」
歌仙に促され、小鳥は手紙を書く。
青嵐からの返事が来たのは約三時間後だった。内容は、明日の午後演習に参加するので、都合が合うなら是非会いたい、とのことだった。
「明日の午後」
「先輩殿の返事かい?」
「うん」
「何の話?」
「こんのすけが、演習に参加しないかと」
「演習?」
浦島が首を傾げる。
「余所の本丸の部隊と直接試合することができるんだよ。肉体的には経験は積めないようだけれどね」
「主さんそれに参加するの?誰連れてくんだ?」
「…浦島、希望を聞いてきてくれ。歌仙以外は考えていない。一部隊分と控えに一振りか二振り程度までだそうだ」
「いいぜ」
「…すごいメンバーだな」
「お久しぶりです、先輩」
「久しぶり、小鳥さん」
「健やかなようで何よりだ」
青嵐の三日月がよしよしと頭を撫でるので小鳥は目を細めた。小鳥の三日月が目を細める。小鳥の歌仙は青嵐の歌仙と言葉を交わしている。残りのメンバーは被っていない。青嵐が連れて来たのは燭台切、石切丸、獅子王、長谷部、蜂須賀。小鳥側は浦島、小狐丸、鶴丸、大倶利伽羅、一期、前田である。
「三日月宗近はいずれもぬしさまに馴れ馴れしいものばかりなのですか」
「契約者以外の人間を気にかけてはならん、という決まりはないだろう?」
「あまり余所の審神者にちょっかいをかけるのはよくないだろうけどね…前回よりは友好的な子たちの所に配属されたみたいで良かった。小鳥さん死ぬ気満々みたいだから心配してたんだ」
「・・・」
「心配をおかけして申し訳ありません」
小鳥は軽く首を傾げた。
「不思議と死なずにやってこられました」
「不思議と、じゃないよね?ね?」
「一応俺たちが君に危害を加えたことはないはずなんだがな?!」
「…顔を合わせる前は、力づくでも排除するつもりでいたものもいたのは確かですが」
一期が溜息をつく。
「そっちの鶴丸さんと一期君は元から本丸に居た刀ってことでいいのかな。…小鳥ちゃん、手がかかる子だろう?」
「いえ…手がかかるというより、その…」
「主君は基本的に天岩戸状態です。時々自分から散歩に出ていらっしゃる事もありますが」
「こっちから訪ねる分には拒まれたりしないけどなー」
「小鳥ちゃんは押しに弱いみたいだからぐいぐい押してった方がいいと思うよ」
「光忠、あんま無責任なこと言わない方がいいと思うぞ」
「けど、積極的に連れ出してあげないで改善するものじゃないだろう?少なくとも、放っておいても解決するものではないんじゃないかな」
「それは…わからないではないんだがな」
鶴丸は頭をかく。
「連れ出したら連れ出したで、少しでも目を離せば怪我するんじゃないかってくらい危うくてなあ」
「…物理的に捕まえておかないと鳥の声に誘われて迷子になりかねないからな」
「蝶々を追いかけて行ってしまいそうになった事もあったよ」
「花を辿ってフラフラ横道に入ってしまわれたこともあったな」
「…うわあ」
「手土産を以って主君の元を訪ねる方が安全ですね」
「主が眠ってしまえば歌仙に室を追い出されてしまうがな」
「小鳥ちゃんの歌仙君は小鳥ちゃんを世界の中心として生きているよねぇ」
ドロップでああなんだから、小鳥ちゃん自身に鍛刀された刀だったらどうなっていたんだろう。
「…初期刀じゃないらしいとは聞いていたが、鍛刀もしていないのか」
「小鳥ちゃん、政府から鍛刀を禁じられてるからね。あの歌仙君はうちの第三部隊がレべリングを兼ねて戦場に出た時に拾ってきた刀だよ」
「歌仙に任せると決めたのはうちの主だがな」
ふと、前田が辺りを見回した後険しい顔をする。
「主君の姿が見当たりません」
「えっ」
「また迷子か。そんな驚き求めてないぞ」
「近くにぬしさまの気を引きそうなものがないから油断しておった…!」
「寧ろ、気を引くものがなかったから飽きて散歩に行っちゃったんじゃないかな…」
「…そういえば今日は誰も手を繋いでいなかったな」
「こうしてはいられません。前田は主君を探しに行ってまいります!」
「前田、一振りで突っ走るんじゃない!」
「・・・」
鶴丸はそっと傍らの少女を見る。契約を結んでおらずともわかる、清浄な霊力を持った審神者だ。視力に問題があるのか、ぼうとした瞳は彼を見ない。
連れ出せと主に言われたから連れ出したが、正直こんな素直についてくるとは思わなかった。寧ろ、失敗すればいいと思っていた。主がよからぬことを考えている事だけは確かだったから。その小さな手から非力さは十分伝わってくる。いたいけな少女をだまくらかすのは、鶴丸の趣味ではない。
「…なあ君、おかしいとは思わないのか?俺が他の刀剣と別行動をするってのは」
「…何の用かは知らないが、用があるんだろう」
少女はこてりと首を傾げる。
「付き合う義理はないが、拒否しなければならない理由も特にない」
「え、お、おう」
などと言葉を交わしている内に、主に言われた場所についた。そこには、長谷部を連れた男がいた。周囲に他の人間の気配はない。
「御苦労だったな、鶴丸。もう戻っていいぞ」
「・・・」
鶴丸が手を放すと、少女は不思議そうにそちらを見た。
「はじめまして。早速だが、君を此処に連れてこさせたのは、取引がしたいと思ったからだ」
少女は男の言葉に反応しない。じっと鶴丸のいた方を見て首を傾げている。
「レア度4以上の刀剣一振りにつき百万でどうだ?」
少女はかくり、と首を傾げた後、元来た道を戻ろうとする。
「お、おい!」
慌てて鶴丸が引きとめると、少女はきょとんとして首を傾げた。
「用がないのであれば僕は戻る。あまり一人で歩き回ると歌仙が心配して煩い」
「主の話を聞いてやってくれないか」
「?」
少女は心底不思議そうな顔をして首を傾げた。
「先程から、主が君に提案をしていただろう」
「………ああ、あれは僕に対して言っていたのか。意味のわからないことを言っていたから、他の人間に話しかけているのが聞こえているだけかと」
「お前、俺を馬鹿にしているのか」
「何故だ?」
少女は平然と首を傾げる。
「此処には、お前以外いないだろう」
「そうか?」
あたりを見回し、少女は首を傾げる。
「そこにもう一人いる」
「こいつは俺の刀剣だ」
「へぇ」
少女は口角を吊り上げる。
「お前は自分の刀剣の前で刀剣を商品のように取り引きする話をするような人間なのか、へぇ」
楽しそうに笑って、少女は言う。
「命知らずだな。今に刺されるぞ。まあ俺の知った事ではないが」
男が激昂して長谷部に抜刀を命じる前に、少女は男の懐まで踏み込み、その首に扇子を突き付けていた。目にもとまらぬ速さで行われたそれに虚を突かれ、長谷部も鶴丸も男も固まる。
「俺は、あいつらが自ずから何処ぞへ行きたいと言えば止める気はないが、望まぬ所へ行かせる気はない。欲しければあいつらを直接口説くんだな」
そう言って、傲慢な支配者のように笑った後、少女は悠々と歩き去った。
「あ、主君。こんな所にいらっしゃったのですね、探しました」
「そうか」
「一体何処へ行ってらっしゃったのですか?」
「わからん。煩いのは好かない」
「だからといって、主君一人で何処かへ行かれてしまうのは、前田は困ります」
「俺も困っていた」
小鳥は首を傾げる。
「此処は何処だ?」
「主君…」
小鳥につられてあたりを見回し、前田は表情を強張らせる。
「…何処なのでしょう」
二人揃って迷子だった。
『先輩、此処は何処ですか?』
「近くに何か目立つものは?」
『…柱時計があります。丸い』
「丸い時計…違うエリアまで移動してしまったかい?」
『わかりません。…あ、前田君が白い虎の像が見えると言ってます』
「白虎ってことは西エリアだな、わかった。迎えに行くまで移動しないように。いいね?」
『わかりました』
「小鳥さんは西エリアの広場周辺にいるみたいだ」
「♪~」
ベンチに座って足をぶらぶらさせながら歌を口ずさんでいる小鳥と前田を余所の一期が微笑ましげに見ている。二人とも周囲の目を全く意に介していない。
「♪~」
しっかり二人でパートわけして歌っている。普段からそうやって歌っているのだろうかと思える光景である。
「♪~」
二人で歌っている光景を目にした小鳥の一期は安堵と萌えで崩れ落ちた。
「…何か言い残すことはあるか、一期」
「私の弟と主の可愛らしさ、プライスレス…」
「俺だって、主さんと一緒に歌ったりするんだけどなぁ」
前田が一期に気付いて小鳥の袖を引く。
「あ、主君、一兄たちが来ましたよ」
小鳥は前田が指さす方を見て首を傾げた。小鳥の刀剣たちと、青嵐とその刀剣たちが歩み寄る。
「前田、一振りで行動してはダメだろう。今回はすぐ主と合流できたから良かったが…」
「主君とは必ず合流できる自信がありました」
「二人で迷子になっていては意味がないだろう…」
はあ、と溜息をついた一期の背を大倶利伽羅が労わるようにぽんぽん撫でた。小鳥は迷わず自分の歌仙の所に行って袖を引く。
「歌仙、喉が渇いた」
「先程売店を見かけたから何か飲み物を買い求めようか。希望はあるかい?」
「ストロベリーマンゴーフラペチーノ」
「…その組み合わせは雅じゃないね」
「赤の滲んだ白の間に黄色ちょんちょん」
「…ふぅん。じゃあ、マンゴーを入れたかき氷にイチゴのシロップをかけてもらおうか」
「うん」
「…君たち、他の刀剣を放置して行くんじゃない」
青嵐の歌仙が二人を呼びとめる。
「邪魔したら悪いかなって」
「適当な飲み物を買って戻ってきますよ」
「そういう問題じゃない…」
「俺も何か欲しいから同行しよう」
青嵐の三日月がにっこり笑ってそんな事を言って青嵐の歌仙に怒られた。
「それで、主は誰に連れ出されていたのかな」
「知らない鶴丸国永。主の人にレア4以上の刀一振り百万って言われた」
「それで是という審神者がいるとしたら嘆かわしいことこの上ないね。…そんなはした金で縁を売ろうなんて」
「別に売らないけど」
小鳥は首を傾げる。
「自殺志願者かな?」
「違いないね。通報でもしておくかい?主」
「誰かわからない」
「じゃあ、そういうことがあったとだけ、こんのすけにでも伝えておこう」
「うん」
小鳥と小鳥の歌仙が飲み物を買って戻ると、若干の混乱状態になっていた。
「おや、何かあったのかい?」
「君なあ…。…黙っていなくなるのはやめてくれないかい」
「先輩は気付いていたからいいかと思ってね」
青嵐の歌仙は小鳥が手にしている飲み物を見て、おや、という顔をする。
「…先程はかき氷がどうと話していなかったかい?」
「白ブドウスムージー」
「主はストロベリーフレーバーは好きではないですからね」
「アポロチョコとイチゴのかき氷は好き」
「・・・」
青嵐の歌仙は僅かに眉をひそめる。
「小鳥さん、自分の刀剣をあまり心配させたらダメだよ」
「…心配した?」
「先程はぐれたばかりだったしな」
「それはすまなかった」
小鳥は鶴丸をまっすぐ見上げる。
「ちょっと別行動したくらいで心配させるとは思わなかった」
「…君、自分の普段の所業を省みた上でそんな事言ってるのかい。その上で、此処にこうしてやってくるのは初めてのことなんだぞ。寧ろ心配しない理由がないだろう」
「分別の付かない子供ではないのだから自分の行動の責任くらいつけられる。いつも心配のしすぎだ」
「君は周りが見えていないだろう。思わぬことで怪我をしてもおかしくないじゃないか」
「転ぶ事を恐れれば出歩けない」
「それはそうかもしれないがな…」
「ま、まあ、鶴丸殿、先程はともかく、今は歌仙殿が共に行動していたようですから」
頭痛でもしているような顔をした鶴丸を一期が宥める。大倶利伽羅も少し困った顔をしている。
「さくらフラペチーノ」
小鳥は鶴丸にドリンクボトルを差し出す。鶴丸は反射的にそれを受け取った。
「アップルキャラメル、ミックスチョコ、パッションフルーツ、キャラメルマキアート、グリーングリーンティー、オレンジペコー」
「先輩方の好みはわからなかったので、抹茶フラペチーノを」
全員がドリンクを受け取る。数人釈然としない顔をしているが。ちなみに小鳥の歌仙の分はマンゴースムージーである。
「ところで主さん、此処って、模擬試合とかする所なんだろ?参加しないの?」
「そういえばそういう趣旨だった」
小鳥のとぼけた反応に何人かが完全に脱力した。
模擬試合で控えとして小鳥の傍に残ることになったのは歌仙と一期だった。小鳥はその視力では全く見えないこともあってか、試合の行われるフィールドに視線を向けてすらいない。セコンド席に座って、眠るように目を閉じている。
「ルール自体は演練とそう変わらないそうだけど…生身同士というのは、どうなるだろうね」
「相手の実力にもよるでしょう。鶴丸殿と倶利伽羅殿は半端な実力ではありませんし、前田もよく己を鍛えております」
「同僚の実力は僕も知っているよ」
歌仙は向かいの対戦相手を見ようとするように目を眇める。
「…さて、双方の士気は如何程かな」
「あちらの士気は然程でもない」
目を閉じたまま、小鳥が言う。
「後で何かしら因縁をつけてきそうだ。面倒くさい」
「いざという時は僕が手討ちにしてあげるよ」
「…歌仙殿、冗談にしてもそれはいかがなものか」
「いやだねぇ、僕が冗談でそんなことを言うと思うのかい?」
「えっ」
「多分頼まない」
「そうかい?残念だよ」
「いやいやいや、残念ではないでしょう」
「「刀は人を斬るものだよ」」
「…味方を斬るのはいかがなものか」
「味方であれば斬らない」
「僕がそんなに見境なしだと思うのかい?それは心外だな」
平然とそう言った二人に一期は頭痛がするような心地になった。毎度のことながら、微妙に話がかみ合っていないと言うか、認識に齟齬があるような気がするというか。
「いえ、そうではありませんが…」
試合は小鳥側のC勝利で終わった。といっても、戦線崩壊したのは最も練度の低い三日月一振りのみで、誉を取ったのは銃兵を装備していた前田だったのだが。
「主君、前田が誉です。ご覧いただけましたか?」
「何処をどう見れば良いのかはわからなかったが、前田が一期一振を斬り伏せたのと、三日月がへし切長谷部に斬り飛ばされたのは見た」
対戦相手のメンバーはレア4太刀+長谷部、光忠だった。
「うむ、不甲斐ない姿を見せたなあ」
ちなみに各メンバーの刀装は攻撃力偏重型遠距離対応装備である。
「まあ、練度の差というやつは中々ひっくり返せぬものじゃからのう」
「最近俺たちもすげー活躍できてるしな」
夜戦は脇差以下の刀の方が有利なのである。
小鳥と刀剣たちが雑談していると、対戦相手だった審神者の女性が自らの刀剣を連れてやってきた。女性は小鳥に詰め寄る。
「あなた、ちゃんと太刀も揃っているのに短刀を戦いに出すなんて、何を考えてるの?」
流石に詰め寄られて自分に言ってるとわからない小鳥ではないので、首を傾げて言う。
「実力が足りないのなら窘めろと言われてもわかるが。実力もやる気もあるのなら好きにさせればいいだろう」
「僕は主君のために戦う為に顕現したのですから、戦うことそのものを否定されては本末転倒になります。そもそも、余計なお世話です」
「一期は、それで納得しているの?!」
「…弟たちが傷つく事を快くは思いませんが、我が弟たちは飾られるだけの芸術品ではありませんし、本刃たちの意思を押し込めさせるのは違うでしょう。彼らにも、粟田口派、藤四郎の守刀としての誇りがあるのです。…適材適所という言葉もありますしね」
小鳥の一期は困ったような笑みを浮かべる。試合の始まる前に小鳥が口にしていたことが頭にあった。
「…見た目が幼いからといって、頼りにならないわけではないぞ」
大倶利伽羅がぼそりと言う。小狐丸がそれに頷く。
「私たちも練度の低い内はこちらが負かされることもよくありましたな」
「ははは。俺は今も兄上には偶に負かされるぞ」
「…今剣は別格だろう」
ちなみにカンストである。
「いまつる先輩は前田たちの目標です。蝶のように舞って敵大太刀を一刀のもとに葬り去る様は、とても華麗でした」
「ひらひら?」
「ひらり、ひゅんっです」
「(前田も)できる?」
「今は無理ですが、いずれは」
「(僕も)やりたい」
「主、君はそういう事に挑戦する前にまず自分の視力をどうにかしてくれ」
「主君はまず、刀の持ち方から覚えなければならない段階ですよね?」
「戦うのは向いてないからやらないけど、ひらりってやりたい」
「ううん…とりあえず、帰ったらいまつる先輩に相談してみましょう」
「主さんが挑戦するなら俺もやってみよっかなー。俺はあんまりひらひらしてる所ないけど」
「俺も加わりたいところだが…見目を気にする前に実力を磨けと兄上に言われそうだからなあ」
「お前は出陣はサボり気味だからな」
「
「・・・」
「君たち、一体何の相談をしているんだ…」
若干そわそわしている様子の大倶利伽羅の隣で小鳥の鶴丸は呆れた様な顔をしている。小鳥の一期は苦笑していた。女性が思いっきり表情を歪める。
「な…何よ、何よ、あなたたちは子供を戦わせることが正しいって言うの?」
「子供を戦わせてはならないと思うのなら、そもそも、短刀を子供の姿で顕現させなければいい」
「…は?」
「顕現した姿が子供に見えるだけで、短刀は"子供"ではない。少なくとも、僕の知るものはそうだ」
「これでも、過ごした時間そのものは一兄と誤差程度の違いしかありませんしね」
「…ああ、まあ、そうだね…」
付喪神にとって、人の一生は瞬く間の出来事だ。同一の人間に打たれた以上、その瞬く間の時の内でしか差は出来ない。…現存しないものなどはまた話が複雑になるのだが。
「大体、大人に見えないのは短刀だけじゃないだろう。蛍丸もそうだし、一部を除いた打刀と脇差、獅子王は
小鳥はかくりと首を傾げる。
「…子供に見える主にそう言われるとなあ」
「俺は十二支二回りは生きているぞ。とっくに成人年齢は過ぎている」
そもそも、公式に未成年審神者はいないことになっているが。
「そうさなあ、俺たちの感覚でいえば、まだ子供と思うのは幕末生まれの和泉守たちの方だなあ」
「それな」
「江戸生まれもぬしさまの感覚で言う
「ええっ、俺だってちゃんと酒とか飲めるぜ?長曽祢兄ちゃんは下戸だけど」
「酒なら前田だって自信がありますよ。一升だって余裕です」
「…
「人間とは違うんだし、自分で責任が取れるなら、飲みたいやつには飲ませておけばいいだろう。…無理に飲ませるのはダメだろうが」
そう言った後、小鳥は遠い目をしてぼそりと「時代と国で飲酒が合法になる年は違うし」と呟いた。ぶっちゃけ、前田が見た目通りでも合法になる状況というのもあったのである。身体的に問題にならない以上、咎める理由はない。審神者の心の問題である。
「お神酒ですから良いのです」
「末席とはいえ神だしな」
沈黙していた女性の刀剣の内、(正確には彼らの内ではぼそぼそ話していた)一期一振が口を開く。
「逆に、そちらの審神者殿は短刀を子供扱いするのは間違いだとのお考えということでよろしいですか」
「うちの短刀は子供…否、"守られるべき存在"として扱われるのを好まない。その意を汲めば、一人前の武芸者として扱うことになる、というだけだ。子供扱いで満足なものもいるだろうから一概には言えない」
刀剣男士には個体差というものがある。同一の刀剣だからといって、同一の対応で喜ぶとも限らないのである。
「戦わせるのは可哀想と言う前に、戦いを忌避していると本人の口から聞いたのか?お前が勝手に色眼鏡で見ているだけではないか?…他者の心の裡など、本人に聞かずに知れるものではないぞ」
「・・・」
「…全くもってその通りだとは思うが、君に言えたことじゃないからな、主。俺たちに君に危害を加える意思はないと、何度言ったら信じてくれるんだ」
「危害を加えているつもりなく危害を加えてくるやつが一番性質が悪い。どうとでも解釈できる言葉は価値観と定義を共有しなければ齟齬が生まれるかもしれない」
「いやいやいや、危害は危害だろう。斬るとか殴るとか絞めるとか蹴るとか殺すとか」
「刃を向けるのが愛情表現の内という男士を知っている」
「うちにはそういう変態はいないからな」
「君たちの性癖は把握していない」
「いや、してないのが普通だろう。…だよな?」
「え、えーと…うちの主は、把握していらっしゃらないと、思いますが…」
「前回はせざるをえなかった」
「なにそれこわい」
「…前回?」
「うちの
「…主が変わるというのはどういう気分なんだ、鶴丸国永」
「前の主と今の主の人柄によるから参考になるもんじゃないぞ?鶴丸国永。俺は、今の主に…不満はないとは言わないが、少なくとも別の奴や前の奴と変えてほしいとは思わないね」
二振りの鶴丸が剣呑な視線を向けあう。小鳥は言いたいことを言ったら飽きたのか、前田と浦島の手を引いてベンチに座った。
「♪~」
三人揃って、端末から流れている歌を歌う。一期が現実逃避気味に私の弟と主は可愛いなー、などと言っている。
「愛らしいが、俺も仲間に入れてもらいたいなあ」
「黙れ音痴」
正確には、小鳥の三日月はリズム感が最悪なのである。音程はある程度練習すれば取れるくせに。
「主が飽きてしまったみたいだし、そろそろ帰るかい?もうすぐおやつの時間だしね」
「…光忠が今日のおやつはレモンシャーベットだと言っていたな。可能なら主も引っ張ってこいと言われている」
「ははは、主は酸味の強いものは苦手だから檸檬は好まないよ。本日のお使いは失敗だね、倶利伽羅」
「…どうだろうな」
江雪がぼそりと「この世は、地獄です…」と呟いた。
「レモンシャーベットかぁ…いいね」
「…まさか、作る気か?」
「酸味控え目のレシピ探してからの方が良いかもしれないけれどね。暑い季節に向けて、冷菓子のレパートリーは増やしておきたいよね」
「れもんしゃあべっととやらは、茶にあうのだろうか」
「…あんまり、あわないんじゃないでしょうか」
「…そうか」
鶯丸は少ししょぼんとした。
「♪~」
小鳥は目を伏せて楽しげに歌っている。前田はリズムを取るように足をぶらぶらさせているし、浦島はリズムに合わせて体を揺らしている。完全に、話はもう終わった、という態度である。
「…私を馬鹿にしているの?」
「余所は余所、うちはうち、という奴だよ。君の価値観を関係のない僕たちに押し付けないでくれ。不愉快だ」
「いまつる先輩、少しよろしいでしょうか」
「おや、前田のですか。何かありました…か」
前田の後ろにいた小鳥に気付き、今剣は目を見開く。
「…あるじさま?」
「はい、主君と、浦島殿も一緒です」
小鳥のぼうとした瞳が確かに己に向けられているのを感じ取り、今剣は固まる。そのまま数秒の沈黙の後、ふい、と瞳が逸らされた。
「…迷惑ならいい」
「主君、先輩はびっくりしているだけです。まだ迷惑と仰られてはいません」
「そうそう、主さんが自分から訪ねてくると思わなかっただけだって」
「そ、そうです。あるじさまがおのずからぼくをたずねてくるとはおもわなかったんです」
「…そうか」
まあ、確かにそうか、という顔を小鳥がしたので、三振りはほっとする。
「それで、一体何事ですか?」
「いまつる先輩の体捌きの話をしたら、主君が自分もやりたいと言い出しまして」
「…見たい、ではなく、やりたい、ですか」
「ひらり、ひゅんって」
小鳥はくるり、とその場で回った。
揃ってダンスをすることになった。とりあえず、暴れても大丈夫なところという事で、道場に移動している。
「…といっても、ぼくもくわしくはないのですが」
舞を覚えていそうなのは、小狐丸あたりですかねぇ、と今剣は呟く。
「神事に関わったことがある方も、わかるかもしれません」
「でも別に主さんは舞を覚えたいわけじゃないんだろ?あんまり細かいことは気にしなくてもいいんじゃないか?」
「♪~」
小鳥は真っ黒なマントをひらひらさせながらくるくる歌っている。
「随分と御機嫌みたいだが、何かあったのか?大将」
「御機嫌?よろしくない。一日分喋った。今日はもう楽しくない事はしない」
「そ、そうか…」
小鳥の瞳は何処か無機質で、感情を映していない。いつもの事といえばいつもの事だが。
「薬研も加わりますか?舞を通していまつる先輩に戦闘時の体捌きをご教授いただくんです」
「あー…俺は雅な事はよくわからんからなあ…」
結局、道場につくまでに短刀皆と蛍丸、加州、鯰尾が合流した。大所帯である。
「…主が、こういう所にいるのって珍しいよね。騒がしいのが苦手なのかと思ってた」
「うーん…でも、主さん、興味なければ余程煩いのも完全に無視できるみたいだから…」
マイペースというには異質になるが。
小鳥は短刀に混じってマントを翻して走ったりしている。呪術による身体強化の副作用か、周囲にちらちらと光の粉を振り撒いている。
「こうですよっ」
今剣は躍るようにステップを踏んで宙返りを決める。他の短刀たちは壁際からそれを観察したり、真似をしていたりする。
「ひらり、ひゅんっ」
小鳥はステップを踏んで跳躍し、回し蹴りを繰り出した。
「…主さんって、やれば割と何でもできちゃうんだね」
「器用な方、ですよねぇ…」
観察側に回っていた乱と五虎退が言葉を交わし合う。
「ところで、主君は何故やりたいと思ったんですか?」
「ひらひらしてるの、好き」
「成程…」
秋田が神妙な顔をする。
「粟田口の短刀でひらひらしているのは、前田のくらいですね」
「僕のスカートはひらひらに入らないの?」
「乱のは主君にスカートをじっと見てほしいんですか?」
「うっ…」
「乱は髪の毛が綺麗」
「え、あ、ありがとう…」
突然の思わぬ褒め言葉に乱は照れて髪を触る。
「あーるじ、俺はどう?」
加州が問うと小鳥は首を傾げる。
「加州の服、ひらっふわってなる?」
「こう?」
加州はその場でくるっとターンして見せる。コートとマフラーが控え目にふわりと揺れた。
「そのふわりも好き」
「へへ、ありがと」
加州は照れたようにはにかみ笑いを浮かべた。
「じゃあ、俺は…ひらひらするところはないですからダメですかね」
「鯰尾はしっぽがひらひらしてる」
「え?…あ、この髪の事ですか?」
「…なんだか、主様は猫さんみたいですね」
小鳥の言うひらひらは、猫がじゃれかかりそうなものでもある。
「猫じゃらし、嫌いじゃない」
「猫じゃらし…」
小鳥は手の中に猫用玩具のふわふわした猫じゃらしを取りだす。
「猫じゃらし」
ひらひらとそれを振る。五虎退の虎がそれをじっと見ている。
「…成程、ひらひらか」
「…三日月さん、自分の行動には自分で責任を持ってね?」
「…しかし、普段の視力ではよく見えていないはずだが…どうにかしているからあの反応なのか、よく見えない上でのあの反応なのか、どっちなんだ…?」
「歌仙殿に、挑戦する前に視力をどうにかしろと言われていましたから、何かしているのではないでしょうか。…眼鏡などは見えませんが」
「…身体強化呪術が使えるようだから、呪術で視力強化していても何ら不思議ではないからなあ」