「小鳥は、此処に俺と二人きりであることに不満はないのか?」
「何故?別に特に不満はないけど」
小鳥は目を瞬かせ、首を傾げる。
「鶯丸がいて、一人じゃないから寂しくないし、鶯丸のことは結構好きだよ」
「…そうか」
鶯丸は僅かにはにかんだ。
「俺も小鳥のことは気に入っている。叶う限り、此処で共に過ごしていたい。…大包平に会えないのは少し不満ではあるが」
「鶯丸はおおかねひらのことが大好きだよね」
「兄弟のようなものだからな」
ふっと笑って言う。
「まあ、本霊の元へ還ればいるはずだ。顕現している間に会えなくとも、まあどうという事もない」
鶯丸は愛しげに小鳥の頭を撫でた。
「君と共にいられるのは此処にいる間だけだからな」
「僕は本霊のところにはいかれないからね」
「それもあるが、本霊は"俺"だが俺じゃない。君に対する感情も変わってくるだろう」
「別に行きたいわけでもないけどね」
時折、鶯丸は小鳥を妖横町の方へ連れ出す。そんな時、小鳥は絶対に鶯丸から離れない。まるで、はぐれたら二度と会えなくなるのではないかと思っているかのように。鶯丸も、小鳥を妖横町で一人にするのは拙いだろうと思う。神に愛されるものが妖の気を引かないわけがない。庇護者がいなければ攫われてしまってもおかしくない。
「小鳥、あまり足元への注意を疎かにしていると転ぶぞ」
「だ、大丈夫だもん…」
小鳥は両手で鶯丸の左手を掴んで落ち着かなげにしている。
「そんなに不安そうな顔をしなくても、俺は君を置いていったりはしない」
付喪神から見れば、ほんの瞬きの間しか生きていないこの幼い人の子が、鶯丸は可愛くて仕方がない。伝わっているかは怪しいが、とても愛しく思っている。だから、これまでの審神者とは違う対応をしているのだ。
「茶屋で少し休もうか」
小鳥は鶯丸以外の刀剣を知らない。だから、町ですれ違った誰が妖で誰が刀剣かということもわからない。鶯丸はそれまでに顕現が確認されている刀剣は一通り面識があるが。まあ、なくとも同族かどうかはわかる。
「君は何が良い。みたらしか?」
「んー…みたらし」
団子で小鳥の気を引きつつ、鶯丸は目だけで店の外を確認する。その刀剣を避けて店に入ったことに、深い意味はない。あちらも、こちらに特に興味を持っていないだろう。だが、なんとなく小鳥を他の刀剣と会わせたくはなかった。刀剣が積極的に余所の審神者にちょっかいをかえることは少ないと知ってはいるが。
「鶯丸は?」
「俺か?…俺はそうだな、白玉善哉をいただこうか」
店の支払いは先払いということになっている。代金と引き換えに甘味を受け取り、口を付ける。甘い。
「気になる店はあったか?」
「うーん、特には」
小鳥は物欲に乏しい。店先のものを興味深そうに見はしても、特にそれを欲しがったりはしない。不足しているものがあればそれを求めることはあるが。
「君は細工物や何かを欲しがったりはしないな」
「…あんまり、手元に欲しいとは思わないかな。見てるだけで十分というか」
「おなごは着飾ることが好きなのかと思っていたが」
「好きな人もいるだろうけど、俺はあんまり」
少し考えて小鳥は言う。
「着飾るより、本を読んだり絵を描いたりする方がいいなあ」
「君は絵を描くのか」
「鶯丸の思ってるのとは違うと思うよ。アナログはあんまりやらないし、やるにしても筆じゃなくて色鉛筆とかだから」
「見てみたかったんだが」
絵具を扱っている店そのものはあったはずだ。色鉛筆があるかどうかはわからないが。
「それなら、鶯丸も一緒に描いてよ。俺も鶯丸の絵、見てみたい」
「俺は絵を描いた事なんてないんだが」
「鶯丸、器用だし、やり方覚えたら何でもちゃちゃっとできちゃいそう」
「買いかぶりだ」
「そうかなあ」
「…いつまで共にいられるのだろうな」
傍らでうたた寝をしている小鳥を眺めて鶯丸は呟く。小鳥に特に此処を脱しようという意思は見られない。現状を受け入れている。
だが、だからといって小鳥が此処からいなくならないとは限らない。小鳥の意思に拠らず小鳥が此処からいなくなる可能性もある。例えば、政府の意向だとか。
「…約束しよう、小鳥。俺の手の届くところにいる限り、誰も君に危害など加えさせない。俺の傍にいる限り、俺が君を守る」
一方的な約束。あるいは、誓い。契約を結んでいないくせに何をしているのだろうと鶯丸は自嘲するように笑う。けれど、契約を結ぶ気はない。そうしたらなんだか、関係が変わってしまいそうな気がするのだ。鶯丸は、小鳥との関係を変えたくはない。少なくとも、今は。
「愛しく思っているよ、小鳥」
鶯丸は眠る小鳥の額に口付けた。