刀剣たちと過ごす日々   作:ペンギン隊長

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見習いちゃんがテンプレだった場合 一ヶ月経過 ここまで顔合わせてなかった


魔法の呪文はいらなかった

 

 

 

この本丸の刀剣は皆、彼女に魅了されたはずだった。心酔し、彼女に従うようになったはずだ。そのはずだったのだ。

その人が室に足を踏み入れた瞬間、刀剣たちの雰囲気が大きく変化した。

「別に、その判断が本心からのものなら、俺は咎めないさ」

気だるげに、着流し羽織姿で現れた審神者は近侍の歌仙を従え、ゆるく首を傾げて目を細めた。

「俺を見限ってその子につくというなら仕方ない。僕はそれを受け容れよう。己の意思で判断した事を咎める権利は俺には無いからな。良い主と言えるような人間ではないのも確かだし」

そう言った後、審神者は傍らの歌仙に目をやる。

「但しお前は裏切ったら許さない。俺を裏切るならお前を折っ(ころし)て俺も死ぬ」

「それは熱烈だね、主」

歌仙はくすくす笑って目を細めた。

「当然だろう。お前は僕のものだと自分で言った。それが嘘だったなら許す理由はないし。俺は自分のものに手を出されるのは嫌いだ。妙なちょっかいをかけたものごと殺す」

まごうことなきヤンデレだった。

「それで」

室に集められた刀剣を見回し、審神者は目を細めて口角を吊り上げる。

「見習いがこの本丸の審神者になって、俺は余所へ移る、という話だったか。良かろう。俺を見限って見習いにつくものが半数を越えているのなら、潔く俺は移ろうじゃないか。…だが、これがただの茶番だった時は、覚悟しておけよ?」

「主は機嫌が悪い。早急に答えを出してくれ。場合によっては僕の仕事も増える」

心底楽しそうに歌仙は顔を綻ばせている。対照的に、他の刀剣たちは蒼い顔をしていたり、挙動不審になったりしている。

「俺は、大将と別れるのは嫌だかんな!」

耐えられなくなったらしい後藤が涙目で審神者に飛びつく。それを見て、審神者は組んでいた腕を解いて後藤の頭を撫でる。

「全会一致で見習いにつく、というわけではないようだが、残りの内訳はどうなっているんだ?」

「前田は主君ガチ勢ですので、置いていかれるのであれば腹を切ります」

「何を言っているんだ前田?!」

一期が悲鳴のような叫びを上げる。

「歌仙殿ばかりずるいです。前田も主君と一蓮托生がいいです」

「一蓮托生って本当は善人しか使っちゃいけないんだぜ。地獄に蓮の花はないからな」

「主君も僕も悪人ではないので問題ありません」

前田につられるように短刀たちが審神者の方に集まってくる。

「僕も、主様と別れるのは嫌です…切腹するのも怖いですけど」

「前田のが一人で暴走してるだけですのでそこは真似しなくてもいいと思いますが…」

「大将、あんま物騒なこと言わないでくれよ、あんただってそういうのが好きってわけじゃないだろ?」

「好きじゃなくてもできる」

審神者はゆるく首を傾げる。

「このところ眠くて仕方ないのに良く眠れないんだ。それでやっと眠れたと思ったら不躾に起こされてこれだろう?俺、キレても許されると思うんだよね」

笑みを浮かべてはいるが。酷く腹を立てているのだと、判らずにはいられなかった。但し、この室に来てから、審神者は一度も彼女を見ていない。視線すら寄越していない。

「…ぬしさまは寝起きが酷いですからな」

「…今更だが、茶番だった時の覚悟って何だ?誰が罰を受けることになるんだ?」

「…やっぱ碌な事にならなかったじゃねぇか」

刀剣たちは皆さっと己の意向を示す様に彼女から離れる。彼女にかけられていた魅了は既に残滓すらない。主を見限って見習いにつく、というものはいなかった。

「…俺の目が正しければ、どうやら見習いにつくものが一振りもいないようだが、これは何の茶番だ?俺は何の為に睡眠の邪魔をされたんだ?んん?」

細められた目は、全く笑っていない。

「見習いとその上司の勇み足、というやつじゃないかな、主。前任から引き継いだ刀剣も、主の霊力で顕現した刀剣も、主より見習いを選ぶと思ったんだろう。…主が浄化体質だって、知らなかったのかな?」

ふふ、と歌仙は微笑う。

「引き継ぎはともかく、正真正銘、主の刀剣である僕たちが他の人間を主に選ぶわけがないのにね。僕たちにとって、主以上の主なんて存在しないんだから」

「ともかく、って何だよ二代目」

「一度主替えを承知した以上、二度目がないと言い切る事は出来ない、という話さ。少なくとも、人間の目からすればね」

「俺が再契約に踏み切ったのは主だから…小鳥が相手だったからだっての。それ言ったら、それまで引き継ぎに来た人間は皆追い返してきたって実績があったんだぜ」

「号で呼ばれるのも久々だな。偶にはそちらで呼んでもいいんだぞ」

「僕にとって主は主だからね…」

「こっちにも色々葛藤とかあるんだよ…」

 

 

「ところで主君、茶番だった時は覚悟しておけ、と仰っていましたが、具体的にどうなさるおつもりなのですか?」

前田の問いに小鳥はにこりと笑う。何振りかはそのまま気を逸らさせれば良かったのに余計な事を、と内心で悲鳴を上げている。

「そうだなあ。首謀者と賛同者或いは扇動者に心底後悔してもらいたいなあ、って。…人間が後悔するのって、どういう時だと思う?」

「そうですね…自分が間違えた事に気付いた時、でしょうか」

「僕はね、得たものより損害や苦痛や恐怖が上回った時だと思うんだよね。そうやって、後悔しても、喉元過ぎれば熱さを忘れちゃうのも人間だけど」

小鳥の手の中に、いつの間にかガラス質の美しい鳥が現れていた。

「そういえば前田、躯より先に精神を壊すとかなんとか言ってたけど、具体的には何をどうするつもりだったんだ?」

「死なない程度に斬って、死にそうになったら傷を治して、また死なない程度に斬る、の無限ループです!」

「うーん、それ、精神が死ぬかどうかは本人の性格にもよるんじゃないか?俺も似たようなことはされたが、廃人にはならなかったぞ?…いや、ループサイクルによるのかな。アイツら医学や回復呪術の心得がないものばかりだったから、自力での最低限の治療しかしなかったから回復までの休息時間があったし」

「前田は最低限の治療呪術(ファーストエイド)の心得がありますから、期間を置かずに回復させられると思います!」

「つまり拷問ってやつだな」

「そうとも言うかもしれません」

「そうとしか言わねえよ…」

薬研が深く溜息をつく。

「前田の、大将、まさかそんな事実際にやったりはしないよな?」

「うーん…前田は、それをする意味と価値があると思う?」

「そうですね…ちょっかいを捨て置けなかった皆にも非がないとは言えないと思うので、有限ループでいいと思います」

「そうだなあ、勘違いさせたならそういう原因があったんだろうし、それがなければ諦めて茶番はなかったかもしれないものな。それに、若者は同じ過ちを繰り返す可能性と同じくらい繰り返さない可能性もある。頭の凝り固まった老人(ロートル)と同じ扱いでは可哀想か」

小鳥はにっこり笑って見習いを指差す。

「俺が責任を持って全くの無傷、何処にも不具合のない全快まで治すから、4,5回のループで勘弁してやろう」

「ひっ」

「わかりました、前田も言い出しっぺの責任をもって九割殺しにしますね!」

「あっ、主ちゃん、本気で言って…る、よね、うん」

光忠は向けられた目を見て察した。庇えば自分がその分怒りを受け止めることになる、と。

「…ああ、でも態々此処でやることもないか。見てて楽しいものでもないだろうし。そうだな…一の丸の地下に石造りの部屋があるから、そこでやろう。歌仙、連れていくのを手伝ってくれ」

「おや、僕は運ぶだけでいいのかい?」

「歌仙は手加減があまりうまくないだろう?やりすぎて死んでしまえば、流石に蘇生は出来ないからね」

「まあ、確かに僕は文系故に力任せに攻めてしまう癖はあるけれどね…心外ではあるが、否定材料もないからね。今回は裏方に徹しよう」

歌仙が近付くと見習いは恐怖で失神した。

「おや、本格的に脅す前に気絶したか。これは手間が省けた」

小鳥はガラスの鳥を手に見習いに歩み寄り、気絶した彼女の傍にしゃがみこんだ。

「…本当は、実行に移す気はなかったってことかい?」

「トラウマレベルの恐怖を与えることが目的だから、方法は何でも良かったんだよ。…一ヶ月くらい悪夢に魘されて寝不足になればいい」

小鳥が息を吹き込むようにすると、鳥の腹が闇色に濁る。小鳥がそれを見習いの胸の上に置くと、溶けるように消えた。

「さて、後はこんのすけを通じて僕を起こしくさったやつだな。薄毛の呪いでも送りつけてやろうかな」

「主君、九割殺しは実行しなくても良いのですか?」

「嫌なやつだろうとどうでもいい奴だろうと、他者の苦痛を受けているのを見るのは快いものではないだろう?不快な思いをしてまでそうする価値は感じないな」

「そうですか…」

前田は神妙な顔をする。

「主君が望まぬことであれば、前田もしません」

小鳥はふああ、と欠伸をした。

「眠い。まあ、そういうことだから、目が覚めたら九割殺しループを既に実行した後という体で頼む。後は任せた」

ひらひらと手を振って小鳥は既にそれに興味をなくしたかのように自室に帰っていった。

「…主ちゃん怖い」

「…昔から、温厚なものほど怒らせるとヤバいと言うからな。主を怒らせたら恐ろしいことになるのは当然だろう」

「…本当に拷問されなくて、良かったです」

「…いや、見習いがあそこで気絶しなければ本当にやってたんじゃないか、大将は。冗談言ってる風じゃなかったし、本気だったから見習いも気絶する程恐怖を感じたんだろうし」

「ふ、ふぇえ…」

しかし、と鶯丸が神妙な顔をする。

「見習いの使った術は相当強力なものだったと思うのだが、それを同室に入るだけで解呪できる主が解呪出来なかった呪詛とは、一体どれほどのものだったのだろうな」

 

 

 

 

 




何故人を殺してはいけないのか、を理解できない審神者の刀剣は多分、仲間殺しとかも忌避感なくて堕ちない まともな価値観があるからこそ、堕ちる
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